執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 整理解雇について
整理解雇については、労働者に責任がないことから、その効力は厳格に判断されます。
人員削減の必要性、整理解雇選択の必要性、被解雇者選定の合理性、手続きの妥当性の4要件ないし4要素を考慮して効力が判断されます。
人員削減の必要性については認められることが多く、整理解雇の効力が否定される場合の多くは、そのほかの要素が否定される場合です。
過去最高の業績中の整理解雇を認めた裁判例をご参照ください。
人員削減の必要性が肯定され、整理解雇の効力が肯定された裁判例
東京地裁令和5年5月29日判決は、クルーズ船運航に関わる会社による整理解雇について、人員削減の必要性を認め、結果として解雇を有効としました。参照:人員削減の必要性を認めた裁判例
同判決は、
ⅰ 被告会社がクルーズ船関連収入がぼぼ唯一の収入源であったこと、
ⅱ 新型コロナの影響でクルーズ船が全世界の運行を停止し、被告会社の売り上げもなくなったこと
ⅲ 本件解雇の時点で運行再開の見通しが立っていなかったこと
ⅳ 親会社から人員削減を指示されていたこと
等の状況から、人員削減の必要性を認め、解雇を有効としました。
これより経営に余裕がある事例でも人員削減の必要性は広く認められる傾向にあります。
手続きの妥当性が否定され、整理解雇の効力が否定された裁判例
東京地裁令和3年12月21日判決は、人員削減の必要性、整理解雇選択の必要性、被解雇者選定の合理性を認めつつ、手続きの妥当性を否定し、整理解雇の効力を否定しました。
すなわち、同判決は、「被告は,令和2年3月頃の時点で既に大部分の店舗経営から撤退する方針を決めていたにもかかわらず,原告に対し,本件解雇予告通知書を送付する直前に「近日中に重要な書類が届くので確認しなさい。」という趣旨のことを電話で伝えただけで,整理解雇の必要性や,その時期・規模・方法等について全く説明をしなかった。」として整理解雇の効力を否定したのです。
なお、同訴訟で使用者は、「被告は,資金ショートによる倒産回避のために事業停止をしなければならない高度の必要性があったことや,解雇対象となる労働者が全国に点在していたことから,説明会を開くことは現実的に不可能であり,その時間的余裕もなかった旨」主張しました。
しかし、判決は、「解雇は,労働者から生活の手段を奪うなど,その生活に深刻な影響を及ぼすものであるから,社会通念上相当と認められるものでなければならず,特に本件解雇のように労働者側には帰責性がないにもかかわらず,専ら使用者側の事情によって行われる整理解雇の場合には,使用者は,信義誠実の原則から(労働契約法3条4項参照),対象となる労働者に対し,整理解雇の必要性や,その時期・規模・方法等について十分に説明をしなければならず,労働組合等がなく,全労働者を対象とする説明会を開くこともできない場合であっても,個別の労働者との間で十分な説明・協議をする機会を設ける必要があるというべきである。」として、事業停止の高度の必要性があり、かつ、説明会開催が困難であっても、個別の労働者に対する説明をすべきであったとしています。
整理解雇の労働者に与えるダメージを考慮すると妥当というべきでしょう。
解雇回避努力を尽くしたとはいえないとされた裁判例
横浜地裁令和4年4月14日判決は、強制捜査を受け自主的な営業停止をしている間にされた整理解雇について、
・営業許可取消処分がされ、将来にわたって営業が不可能となることが確実と判断しうる状況にはなかったこと
・使用者には代表者からの借り入れ以外に借り入れもなく、所在地の土地建物には担保もふされていなかったこと
等から解雇回避努力をすべき状況があったのに、行わなかった等として整理解雇を無効としました。
整理解雇の労働者に与えるダメージを考えると、解雇回避努力を尽くさなくても整理解雇が有効とされるのは、会社経営が近いうちに不可能となることがかなり確実に予測されるような状況に限られると解するべきでしょう。
事業廃止と整理解雇についての裁判例
札幌地裁令和1年10月3日判決は、事業廃止による解雇について、整理解雇法理ではなく、ⅰ事業廃止の必要性とⅱ解雇手続の妥当性とで判断すべきとしています。参照:事業廃止と整理解雇についての判決
事業廃止の必要性があれば人員削減及び整理解雇の必要性も認められるし、事業廃止であれば全従業員が対象となるので、被解雇者選定の合理性を検討する必要もないということです。
しかし、事業廃止が行われる場合でも、事業廃止に向けたプロセスの過程で一部の労働者だけが解雇される事態もあります。
ですから、一概に事業廃止の場合に整理解雇法理が適用されないとまでは言えないでしょう。
2 外資系企業による整理解雇
外資系企業による大量解雇が度々話題となっています。
これまでも多くの外資系企業による整理解雇がなされ、裁判で争われてきました。
私も外資系企業による解雇事件の裁判の経験がありますが、少なくとも本社は日本の解雇法制を一顧だにしない姿勢であり、かなり特殊な対応でした。
1 外資系企業による整理解雇についての学説
通常、整理解雇については、
ⅰ 人員削減の必要性、
ⅱ 人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性
ⅲ 被解雇者選定の妥当性
ⅳ 手続きの妥当性
の4要素ないし4要件によりその有効性が判断されるべきとされてきました。
この点、整理解雇の要件を示した最高裁判決をご参照ください。
外資系企業による整理解雇については、一定の修正がなされるべきとの指摘もあります。
菅野和夫著「労働法 第12版」799頁は、外資系企業の中には、「転職市場の存在を前提に、部門や職種の専門代を重視した厳格な定員管理を行い、職務と成果に応じた高レベルの賃金・処遇制度を採用しているものが多」い、「このような企業が景気変動や構造変化に対応する際には、内部労働市場の雇用調整手法を動員して解雇を回避しようとするよりも、不要となった職務に就く従業員に対して『パッケージ』と称される退職条件の提案を行いつつ転職を促し、これに応じなければ整理解雇を実施することになりやすい」とし、このような企業による整理解雇については、4要素説に照らした判断となりつつも、その雇用・処遇の仕組みの違いを考慮に入れる必要があるとしています。
2 外資系企業による整理解雇についての裁判例
東京地裁令和3年12月13日判決は、外資系企業による整理解雇について、企業側が、外資企業において整理解雇法理が妥当しない旨主張したのに対し、「本件解雇の有効性の判断において,雇用慣行等を背景とした原被告間の労働契約の内容を踏まえるべきことと上記諸要素を考慮すべきことは何ら矛盾するものではなく,上記判断枠組み自体を否定すべき理由はないというべきである。」としました。
そして、最終的には、「本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であるとは認められない。」として整理解雇を有効としました。
整理解雇法理が外資企業にも妥当するとしつつ、外資企業であるが故にその適用が多少緩やかになるかの判断です。
外資系企業による整理解雇については、このように整理解雇法理を緩やかに解する裁判例が複数あります。
他方、日本企業による整理解雇と区別をしているように見えない裁判例も多くあります。
例えば、東京地裁平成24年4月20日判決は、解雇回避努力について、「被告は,被告が外国資本企業であることから,国内資本企業よりも競争力が必要であり,要求すべき解雇回避努力の水準は低い旨主張するが,国内資本,外国資本のいずれの企業も競争力を必要としているから,かかる主張は失当である。」としていますが、妥当と言うべきでしょう。
東京地裁平成13年12月19日判決は、人選基準が53歳以上の者とされていたケースで、「我が国の労働市場の実情からすれば再就職が事実上非常に困難な年齢であるといえるから,本件の事実関係の下においては,早期退職の代償となるべき経済的利益や再就職支援なしに上記年齢を解雇基準とすることは,解雇後の被用者及びその家族の生活に対する配慮を欠く結果になる」として、人選基準の合理性を日本における現状をもとに判断すべきとしています。
少なくとも日本は未だに雇用流動性が高いとは言えませんし、日本で解雇を行う以上、厳格に、日本での実情に沿った形で整理解雇法理を適用するべきだと考えます。
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