いじめと学校側の法的責任 新潟県のいじめは弁護士齋藤裕にご相談ください

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

新潟県の学校事故は弁護士齋藤裕にお任せください

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学校でいじめがあった場合、被害者側から加害生徒側への賠償請求とは別途、学校側への賠償請求が認められる場合があります。

以下、説明します。

目次

1 いじめ防止義務

2 いじめの調査・対応義務

3 帰宅中のいじめと学校側の責任

4 集団によるいじめと共同不法行為

5 いじめによる自殺と損害賠償責任

6 新潟でいじめや学校事故のお悩みは弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)へ

 

1 いじめ防止義務

学校の教諭は、教育活動を行うにあたり、いじめその他の加害行為から生徒の心身の安全を守り、生徒に対し良好な学習環境を整備すべき義務を負います。

この義務に違反し、いじめが発生した場合、学校側は、被害者側に対し、賠償責任を負う可能性があります。

自殺の予見可能性があるのであれば、自殺についても賠償責任を負うことになります。

2 いじめの調査・対応義務

学校でいじめにかかる重大事態が発生した場合、教諭らは調査票等を用いた網羅的な調査・加害生徒への指導・被害者への支援を行う義務があります。

ここで、重大事態とは、生命、心身又は財産に(対する)重大な被害、 相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている状態がある事態を言います。

さいたま地裁令和3年12月15日判決は、

・教諭らが、被害者母から、被害者が部員らとのトラブルで投稿できなくなり、自傷行為及んだ旨を伝えられた

という状況のもとでは、

・教諭らは、重大事態の発生を認識し、加害生徒らの被害者に対する言動やその背景事情等について調査票を用いる等した網羅的な調査を行い、

・その結果に応じた適切な方法で、いじめを防止し、不登校を解消するため、加害者らへの指導や被害者への支援を行う

との義務を負っていた、しかしその義務が果たされなかったとの判断を示しました。

参照:いじめの調査義務についてのさいたま地裁判決

自死の可能性があったケースについては、福岡地裁令和3年1月22日判決は、「このようないじめ被害発見の端緒を捉えた甲教諭としては,直ちに本件自死未遂について校長や教頭に報告し,組織として,自死未遂の原因となった背景事情等に関する情報を教員間及び教員と保護者との間で共有し,相互に協力して,本生徒の学校生活や他の生徒との関わり等について,注意深く観察し,他の生徒等からも情報収集するなどして,本生徒に対するいじめやトラブルの有無等について調査し,その安全を確保すべき義務があった。」としており、調査・安全確保義務を認めています。参照:いじめの調査義務についての福岡地裁判決

いじめ発見の端緒があった場合には、重大事態ではないとしても、学校側にはいじめがあるかどうか調査する義務があるのであり、それに違反した場合には損害賠償の問題が生じます。

3 帰宅中のいじめと学校側の責任

さいたま地裁川越支部平成28年12月22日判決は、部活動後の帰宅中のいじめについて、学校側の損害賠償責任を認めています。

学校の外でのいじめについては、学校側の管理が届きにくいという考えもありうるところですが、それでも学校側の賠償責任を認めたことは参考になると考えられます。

同判決は、教員らは学外でのいじめについて知らなかったが、被害生徒がからかいの対象であることを知っており、他の生徒は学外でのいじめについて知っていたとの前提で、以下のとおり述べます。


「本件教員らが認識していた事実を前提に,周囲の生徒に事情を聞くなどの調査をすれば,容易に知り得た事実というべきである。そうであるとすると,本件中学校の教員らは,原告X1の暴力事件や原告X1の特性に加え,被告Y2が暴力傾向を危惧されていたことを考慮すれば,被告Y2をはじめとする周囲の生徒により,原告X1に対するからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件にまで発展する事態を予見し得たと評価できる。」
「原告X1と被告少年らは,いずれも同学年の野球部員であり,学校教育の場である校内や部活動中だけでなく,これと密接に関連する放課後や部活動終了後の帰宅までの間などの生活場面においても,行動を共にすることが多いものである。そうであるとすると,本件教員らは,学校教育の場のみならず,これと密接に関連する生活場面といえる部活動終了後帰宅までの間の生活場面においても,原告X1に対するからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件にまで発展する事態を予見し得たと認めるのが相当である。」

このように、被害生徒がからかいの対象となっていたこと、暴力を伴う事案にまで発展していたこと、暴力を伴う事件にまで発展することを学校側も予見できたこと、被害生徒と加害生徒が野球部員であるため帰宅までの生活場面において行動をともにする場面が多かったことを踏まえ、帰宅までの場面でからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件に発生する事態を予見しうるものとしました。

被害生徒と加害生徒が同じ野球部員であるという特殊性はあるものの、学校での人間関係が学校外まで延長しうる実態を踏まえた裁判例として、参考となる裁判例かと思います。

4 集団によるいじめと共同不法行為

1 集団によるいじめ

いじめは必ずしも、明確な計画に基づいて行われるものではありません。

そのため、集団によるいじめにおいて(いじめは集団でおこなわれることが圧倒的に多いわけですが)、それが共同で行われたものといえるかどうか評価が困難な場合もあります。

この点、福島地裁平成31年2月19日判決は、私立高校の柔道部におけるいじめにより被害者がうつ状態となったという事件について、加害生徒らによる共同不法行為があったとの認定をしており、参考になると思われるため、ご紹介します。

2 集団によるいじめについての福島地裁平成31年2月19日判決の内容

まず、同判決は、以下のとおりいじめ行為を認定しています。

「『ころす』や『死ね』などの過激な表現が用いられたメッセージを送信したり、原告の母親の再婚前の姓をからかうような呼び方をしたり、上半身裸の原告をからかう内容の動画等をインターネット上に公開したりするものなど、一般的に被害者に恐怖感や嫌悪感を抱かせるもの、人格を否定するものである上、原告も実際に恐怖や嫌悪を感じていたことに加え、上記のような言動が単発ではなく1年半以上にわたって継続的かつ執拗に行われていたことに鑑みれば、原告と被告らが同じ柔道部の仲間であったこと等の関係性を考慮しても、被告らによる上記一連の言動は、悪ふざけの限度を超えたいじめ行為に該当するものであり、不法行為を構成する違法なものというべきである」

そのうえで、同判決は、いじめについて、以下のとおり述べ、共同不法行為であったとし、損害について連帯して賠償すべきものとしました。

「被告らは、必ずしもすべての行為を共に行っているわけではないが、被告らはいずれも柔道部に所属し、他の被告のいじめ行為に対して原告が抵抗できないでいる状況を相互に認識した上で、そのような状況を踏まえて自らも原告に対するいじめ行為に加担していたことからすれば、被告らは、一連のいじめ行為を共同して行っていたものと認めるのが相当である」

このように、他の生徒がいじめをしている状況を踏まえつつ、自らもいじめをしていることをもって、いじめの共同不法行為が成立するとしています。

明確な意思が形成されるわけではない集団いじめの特質に照らし、妥当な結論と思われます。

5 いじめによる自殺と損害賠償責任

1 自殺といじめとの因果関係

従来、いじめ自殺をめぐる裁判において、いじめ自体の法的責任を認めつつ、自殺についての因果関係を認めず、いじめ自殺についての法的責任は認めないというものが多い傾向にありました。

しかし、大津中学生いじめ自殺事件をめぐる大阪高裁令和2年2月27日判決は、いじめにより自殺することは一般的知見として確立しているとして、いじめと自殺の相当因果関係を認め、自殺による損害についても法的責任を認めています。参照:いじめ自殺の賠償責任を認めた判決

今後のいじめをめぐる裁判に影響を及ぼす可能性があると思われるため、ご紹介します。

2 大津中学生いじめ自殺事件大阪高裁判決内容

同判決は、以下のとおり述べ、自殺はいじめにより通常生ずべきとしました。

「本件各いじめ行為は、行われた期間が1ケ月程度と比較的短期間ではあるものの、亡Dを負傷させるような暴力行為や極めて陰湿・悪質な嫌がらせ行為を含むものである上、上記の間、頻回に行われたものであり、その態様、頻度等は、亡Dをして自殺者に共通の心理とされる孤立感、無価値観を抱かせるとともに、控訴人らとの関係から離脱することが容易ではないとの無力感、閉塞感を抱かせるうえで十分なほどに悪質・陰湿かつ執拗なものであったといえることに加え、その行為当時、いじめによりその被害者が自殺に至る可能性があることについて学術的にも一般的知見として確立し、いじめによる児童生徒の自殺に関連する報道等は決して珍しいものではなく、いじめによってその被害生徒が自殺することもあり得ることは社会一般に広く認知されており、行政の側でもその対策を模索し、平成25年にはいじめ防止対策推進法の成立にまで至っているという経緯をも併せ考慮すれば、本件各いじめ行為を受けた中学2年生の生徒が自殺に及ぶことは、本件各いじめ行為の当時、何ら意外なことではなく、むしろ、社会通念に照らしても、一般的にありうることというべきであり、亡Dの自殺に係る損害は、本件各いじめ行為により通常生ずべき損害に当たるものということができ、控訴人らの本件各いじめ行為と亡Dの自殺に係る損害との間には相当因果関係あるものと認められる」

ここでは、一定の悪質性をもったいじめ行為が前提とされており、すべてのいじめ行為について自殺との因果関係があるとしているわけではないと思われます。

しかし、それでも、いじめ自殺に関する知見の深まりを踏まえ、明らかにいじめ自殺について法的責任を認める際のハードルを引き下げていると思われます。

同判決は、学校側の責任を問う場合も含め、被害者がいじめ自殺の責任を問うことを容易にするという側面を持つと思います。

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