執筆 新潟県弁護士会所属 弁護士齋藤裕(2019年新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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頸椎後方固定術は、刺入部位を間違えると、脊髄損傷等の重大な後遺障害に結び付く危険性があり、そのような事故が発生した場合には医師側に賠償責任が発生する可能性があります。参照:頸椎後方固定術の合併症の論文
以下、解説します。
1 頸椎後方固定術の際の医療過誤についての大阪地裁令和4年9月13日判決
大阪地裁令和4年9月13日判決は、頸椎後方固定術によりスクリューの刺入をしたところ、四肢の高度麻痺が生じた患者の相続人が医療機関に損害賠償請求をした事件についての判決です。
裁判所は、「外側塊スクリューは、一般的には外側塊の中央を刺入ポイントとするところ、第一手術でC4とC5に挿入されたスクリューは、いずれも明らか挿入ポイントが内側で、かつ挿入角度も明らかに内側に向いていて、大きな逸脱であり、基本手技に従っていないと評価される」等として、医師側においてスクリューの挿入ポイント等を誤っており、注意義務違反があるとしました。
このように、基本手技に従わない手術を行い、その結果、障害等が生じた場合、注意義務違反が認められます。
2 頸椎後方固定術に関する医療過誤についての福岡地裁令和3年3月4日判決
福岡地裁令和3年3月4日判決は、頸椎後方固定術を受けた結果、四肢麻痺等の障害が残った患者が医療機関側に賠償請求をした訴訟の判決です。
裁判所は、手術の適応がなかったとの主張、手技上の過失があったとの主張を排斥しました。
他方、裁判所は、医師側に説明義務違反を認めました。
具体的には、「同意書には,神経に障害が生じるおそれがある旨記載があり,医師は,その説明はしたが,より具体的に,呼吸器麻痺により人工呼吸器をつける可能性があることについては説明しなかったことが認められる」、「その理由について,B医師は,本件手術の際に脊髄損傷により呼吸器麻痺が実際に発生するリスクは高くないことから,原告を必要以上に不安にさせないために言わなかったと述べる」、「Brooks法は古典的でシンプルな比較的安全性の高い術式であり,一般に呼吸器麻痺が実際に起こる可能性は高くないといえそうではあるものの,人工呼吸器を装着しなければならないという事態に陥ることは原告の今後の人生に大きな影響を及ぼすことであるのだから,たとえ可能性が低いとしても,リスクがある以上は,手術を受けるか否かを決めるにあたって,または,その手術を受ける際の「覚悟」の形成のために必要な情報であり,説明をする必要性はなくならないというべきである。」、「したがって,医師が,本件手術の説明の際に,呼吸器麻痺により人工呼吸器が必要となる可能性があることにつき説明をしなかった点について,説明義務違反があったというべきである。」との判断を示しました。
このように、頸椎後固定術のもたらす危険性の大きさを踏まえると、具体的な後遺障害についてまで説明をする義務が存在すると考えられます。
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