人身傷害保険と損害賠償 どういう順番で請求したら損をしないのか?(交通事故)

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 人身傷害保険とは?

2 人身傷害保険から保険金を受け取った後の損害賠償請求額

3 損害賠償を受け取った後の人身傷害保険額

4 人身傷害保険による支払いかどうかはっきりしない場合の扱い

5 人身傷害保険金により素因減額分が補填されるか?

6 新潟で人身傷害保険についてお悩みの方は、弁護士齋藤裕にご相談ください。

 

1 人身傷害保険とは?

人身傷害保険は、自動車事故で傷害等を負った被害者が、契約した保険会社から約款に従った保険金の支払を受けることができるものです。

現在では、ほとんどの自動車保険に付保されています。

この契約の一番のメリットは、被害者に過失があった部分も含め支払いを受けることができることです。

しかし、この人身傷害保険については、加害者への損害賠償との関係が複雑で、これまで多くの裁判で争われてきました。

以下、現時点における判例などをもとに整理をします。

2 人身傷害保険から保険金を受け取った後の損害賠償請求額

被害者が人身傷害保険から保険金を受け取った後に損害賠償請求をする場合、被害者が請求できるのは、総損害額から人身傷害保険より払われた額を引いた額となります(過失相殺される部分より人身傷害保険から支払われる額が小さいとき、総損害額に過失相殺をした額)。

例えば、損害額1000万円、過失割合4割(400万円)、人身傷害保険の保険金500万円の場合、1000万円-500万円=500万円を加害者に請求できます。最終受取額は1000万円であり、総損害額と同額です。
損害額1000万円、過失割合6割(600万円)、人身傷害保険の保険金500万円の場合、1000万円×0・4(6割の過失相殺)=400万円を加害者に請求できます。最終受取額は900万円となります。

なお、人身傷害保険金を受け取った後で、人身傷害保険の保険会社が自賠責の請求をすることがあります。

この自賠責部分について、最高裁令和4年3月24日判決は、加害者が支払うべき賠償金から自賠責分は引かれないとの判断を示しています。参照:自賠責と損害賠償についての判例

3 損害賠償を受け取った後の人身傷害保険額

被害者が損害賠償を受け取った後で、人身傷害保険の請求をした場合の取り扱いは、訴訟で解決した場合と交渉で解決した場合とで異なる可能性があります。

訴訟で解決した場合、2と基本的には同じ最終受取額となります。

交渉で解決した場合、人身傷害保険の約款上の基準額をもとに算定することになり、訴訟で解決するより不利となる可能性があります。

よって、損害賠償請求を先行させるのであれば、訴訟で請求すべきことになります。

4 人身傷害保険による支払いかどうかはっきりしない場合の扱い

保険会社が被害者にお金を払う場合、それが人身傷害保険金なのか、自賠責保険金の立て替え払いか判然としない場合がありえます。

自賠責保険金の立て替えの場合、加害者に対する損害賠償金から全額控除されることになりますし、人身傷害保険金の場合2,3で述べたルール従うことになるので、どちらと考えるかで加害者から当座受け取る金額に違いが出てきます。

この点、最高裁令和5年10月16日判決は、以下のとおり、人身傷害保険金としての所定の支払いがあった場合には、特段の事情のない限り、人身傷害保険金と解するべきだとしています。

「本件約款によれば、人身傷害条項の適用対象となる事故によって生じた損害について参加人が保険金請求権者に支払う人身傷害保険金の額は、保険金請求権者が上記事故について自賠責保険から損害賠償額の支払を受けていないときには、上記損害賠償額を考慮することなく所定の基準に従って算定されるものとされている。このような約款が適用される自動車保険契約を締結した保険会社が、保険金請求権者に対し、人身傷害保険金として給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額を支払った場合には、保険金請求権者との間で、上記保険会社が保険金請求権者に対して自賠責保険からの損害賠償額の支払分を含めて一括して支払う旨の合意(以下「人傷一括払合意」という。)をしていたとしても、上記保険会社が支払った金員は、特段の事情のない限り、その全額について、上記保険契約に基づく人身傷害保険金として支払われたものというべきである。」

参照:人身傷害保険金についての判例

5 人身傷害保険金により素因減額分が補填されるか?

人身傷害保険と素因減額についての問題状況

人身傷害保険は、損害賠償においては過失相殺により支払われない分について補填する保険ということができます。

それでは、被害者の体質や既存の病気により損害が拡大したような場合に損害額が減額される素因減額による減額についても、過失相殺の場合と同様、人身傷害保険金により補填がなされるでしょうか?

人身傷害保険と素因減額についての判例

この点、最高裁令和7年7月4日判決は、素因減額分について人身傷害保険金では補填されない、つまり被害者は人身傷害保険金額と素因減額後の損害額の大きい方しか受け取ることができないとの判断を示しました。参照:素因減額と人身傷害保険の関係についての判例

同判決は、「本件約款中の人身傷害条項には、被保険者が自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病(既存の身体の障害又は疾病)の影響により、上記傷害が重大となった場合には、訴外保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の定め(本件限定支払条項)が置かれている。」ことを踏まえ、「人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為前から存在していた被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した事案について、裁判所が、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、上記疾患をしんしゃくし、その額を減額する場合において、上記疾患が本件限定支払条項にいう既存の身体の障害又は疾病に当たるときは、被害者に支払われた人身傷害保険金は、上記疾患による影響に係る部分を除いた損害を填補するものと解すべきである。」としています。

人身傷害保険と素因減額についてどう考えるべきか?どう対応すべきか?

素因減額の場合、交通事故による損害と見えるものも、そのうち素因により発生した部分については実質的には交通事故が原因ではないので、保険でカバーするのは不適切というのが素因減額分を控除して人身傷害保険金を支払う約款の背景にある考え方と思われます。

最高裁もそのような考え方の合理性を認めたということでしょう。

人身傷害保険金を減額できることと、被害者が人身傷害保険金+賠償金で受け取ることができる金額がいくらになるかという問題は別問題なので、最高裁の判断の妥当性には疑問があります。

いずれにせよ素因減額がされるような場合でも、損害賠償が先行する場合、裁判上損害額を確定した方が損害額が高く認定される可能性があり、有利となる傾向があることに違いはないでしょう。

6 新潟で人身傷害保険についてお悩みの方は、弁護士齋藤裕にご相談ください。

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