交通事故で塗装が必要なとき、全面塗装分の賠償が認められるのか?

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 全面塗装か部分塗装か

交通事故で自動車が損傷し、塗装が必要である場合、全面塗装費用と部分塗装費用のどちらが損害額となるか、争いとなることがあります。

一部分の損傷であれば部分塗装でもよさそうですが、塗装部分と塗装されない部分の差異があるため全面塗装の費用が賠償されるべきだと主張されることが多いです。

この点、部分塗装だと塗装の違いが目立つような特殊な場合について全面塗装の費用の賠償が認められるものの、原則的には部分塗装の費用が認められるにとどまります。

2 全面塗装の費用の賠償を認めた裁判例

この点、東京地裁平成25年3月6日判決は、以下のとおり述べて、キャンディー・フレーク塗装という特殊性を踏まえ、部分塗装だと塗装したところとそれ以外に目に見える差異が生ずるとして、全面塗装分の賠償を認めました。

「被告は,外観上の一体性を完全に回復するための作業及び費用は加害行為と相当因果関係を有する損害には含まれない旨主張する。しかし,前述したキャンディー・フレーク塗装の特質にかんがみれば,部分塗装による補修が一般的であることの一事をもって,本件事故と原告車の損傷の補修に要する全面塗装との相当因果関係を否定することはできない。」

神戸地裁平成13年3月21日判決も、以下のとおり述べ、自動車が高級車であること、特殊塗装であるため部分塗装だと色の違いが目立つこと、そうなると自動車の評価も下がることを理由として、全面塗装の費用について賠償を命じました。

「原告は、本件車両はメルセデスベンツ五〇〇SLのオープンカーであり、塗装修理については特殊塗装のため破損箇所だけの部分塗装では色合わせが困難なことから、全塗装が必要となる旨主張し、被告は、本件事故による被害車両の損傷部位は前面部分のみであることに鑑みれば、部分塗装で足り、これを超える部分の塗装費用は本件事故と相当因果関係を欠くものである旨主張する。」
「本件車両がメルセデスベンツ五〇〇SLのオープンカーであり、ベンツの中でも特に高級車であるといわれているものであることは前記認定のとおりである。本件車両は、特殊塗装のため破損箇所だけの部分塗装では色合わせが困難であり、機能的には部分塗装で十分であるとしても、部分塗装であれば部分塗装したこと、すなわち事故車であることが時とともに一目瞭然となり、車両価値がそれだけ低下することが認められるから、全塗装が必要であると認めるのが相当である。」

このように全面塗装の費用の賠償を求めるためには塗装の特殊性の主張立証が重要であることが明らかです。

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