執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 会社役員の逸失利益の特殊性
交通事故で後遺障害が残った場合、基礎収入をもとに喪失した労働能力分を算出し、それが逸失利益として賠償されます。
サラリーマンであれば給料をもとに基礎収入が算定されます。
しかし、会社役員については、その報酬には、労務の対価である部分だけではなく、実質的な配当等労務とは関係ない部分も含まれると考えられます。
そのため、逸失利益の計算において特殊な扱いがされ、報酬のうち労務対価部分だけを基礎収入として逸失利益が計算されることになります。
2 会社役員の逸失利益の裁判例
会社役員について役員報酬の7割を基礎収入として逸失利益を計算した裁判例
大阪地裁平成26年9月9日判決は、以下のとおり述べて、役員報酬の7割をもって基礎収入として逸失利益を算定しました。
同判決は、
ⅰ 原告の役員報酬は平成16年3月期から事故の頃までずっと定額であり,会社の収支によって乱高下している状況がないこと,
ⅱ 平成22年度の原告の役員報酬は休業日数に応じた形で減額されていること,
ⅲ 原告はBの代表取締役であり,決裁業務等をはじめとしてその職責は大きく,その業務に対して高額の対価が支払われても不自然であるとはいえないこと,
等の事情があり,これらは報酬における労務対価部分の比率を高く認める方向に働くものだとしました。
他方で,
ⅰ 平成23年度の役員報酬の減額の際には,原告だけでなく,Dもその担当していた分野の不振を原因として大きな減額を受けており,会社の最高責任者である原告が全くその影響を受けないとは考え難いこと,
ⅱ 原告はBの株主であるところ,Bでは株主配当が行われていないこと
ⅲ 原告の役員報酬は,治療中よりは休業が減ったはずである症状固定後も元の水準に戻ることはなく,かえって,平成25年4月以降は為替差損による損害を理由に月額150万円まで減額されており,原告の報酬金額は必ずしも提供労務量に比例して決められているわけではない状況も明らかになっていること
ⅳ 年額3360万円という金額
を労務対価部分を減少させる要素としてあげました。
結果として、「原告が提供する労務の質量と直接結びついていない部分が一定割合含まれているものと考えざるを得ず,上記の諸事情を総合的に考慮し,その収入の70%(月額196万円,年額2352万円)に限り,基礎収入として認めるのが相当である。」として、役員報酬の70パーセントを基礎収入としました。
このように、
労務対価部分を多く認める要素としては、
ⅰ 会社の収支により乱高下していないこと
ⅱ 休業日数に応じて減額されていること
ⅲ 職責の大きさ
労務対価部分を低くする要素としては、
ⅰ 業績不振により減額されうること
ⅱ 株主なのに配当がされていないこと
ⅲ 交通事故による休業明けも報酬が元に戻っていないこと
ⅳ 経営上の理由で減額されていること
ⅴ かなり高額の報酬であること
があげられています。
他の事件でも、おおむね上記の要素をもとに労務対価部分、ひいては逸失利益の基礎収入が算定されることになります。
役員報酬の8割をもとに逸失利益を算定した裁判例
名古屋高裁平成19年10月25日判決は、以下の事情をあげて、役員報酬の8割を基礎収入としています。
ⅰ 役員報酬は会社の損益の状況にほとんど影響されていないこと
ⅱ 少人数の同族会社であること
ⅲ 被害者は死亡当時すでに68歳であり,70歳で息子に経営を任せることを考えていたこと,
ⅳ 賃金センサス平成13年企業規模計・産業計・学歴計の65歳以上の男性の平均収入が年間409万4500円であったこと
同判決の特徴は、賃金センサスを考慮しているということです。
賃金センサスを超える部分については労務対価部分とはみられにくいということを言いたいのだと思われます。
役員報酬の3割程度の金額を基礎収入とした裁判例
東京地裁令和5年6月14日判決は、被害者が担当していた業務が明らかではなく、節税として法人が設立されたこともうかがわれる事案において、役員報酬の約3割(賃セと同額)をもって基礎収入としています。
役員が被害者となった事案で、いかに業務内容の立証が重要か、わかる事例かと思います。
3 新潟で交通事故のお悩みは弁護士齋藤裕へ
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