
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 交通事故における評価損について
交通事故で自動車が損傷し、修理をしても、評価の上では事故前より下がった状態となることがあります。
そのような価格下落分を評価損と言い、賠償の対象となることがあります。
修理をしても直せない部分がある場合の技術上の評価損、修理をしても直せない部分はないものの取引上の評価額が下がる取引上の評価損に大きく分けられます。
前者については評価損は認められやすいですが、後者については認められないケースも多くあります。
2 評価損がどのような場合に認められるか?
一般的には、評価損は、
ⅰ 高級車・外車について認められやすいが、国産の廉価な車については認められにくい
ⅱ 新車に近い自動車については認められやすいが、数年使用した自動車については認められにくい
ⅲ 修理費が大きい場合は認められやすいが、修理費が小さい場合は認められにくい
ⅳ 骨格部分に損傷が及ぶ場合は認められやすいが、そうでない場合は認められにくい
とされます。
これらの要素を総合して評価損が認められたり、認められなかったりします。
例えば、東京地裁令和4年3月25日判決は、「①原告車は平成29年4月に初度登録されたレクサスであり,本件事故までに約3年9か月が経過していたこと,②本件事故当時の原告車の走行距離が1万9037kmであったこと,③本件事故により原告車はフロントクロスメンバー及び左右のラジエータサポートが損傷し,いずれも取替えが必要とされ,本件事故による原告車の修理費用は230万7806円を要すること,④有限会社Bは,本件事故前の原告車の査定金額を650万円,本件事故による損傷の修理後の原告車の査定金額を400万円とする査定書を発行したこと,⑤社団法人Cは,修復歴の判断基準の骨格部位をラジエータコアサポート,クロスメンバー,サイドメンバー,インサイドパネル・ダッシュパネル,ピラー,ルーフ,センターフロアパネルフロアサイドメンバー,リヤフロアとしていることが,それぞれ認められる。」、「本件事故による原告の損傷及び修理の内容に加え,原告車の車種,初度登録から本件事故までの期間,本件事故までの走行距離等を考慮すれば,原告車を修理しても一定の評価額の低下は免れず,本件事故による評価損としては,修理費用230万8796円の5パーセントである11万5439円と認めるのが相当である。」として修理費の5%の評価損を認めています。
評価損は高級車でしか認められないわけではありません。例えば、大阪地裁令和2年3月10日判決は、以下のとおり述べて、軽自動車について評価損を認めています。同判決では、軽自動車であること等から評価損を否定することもありうるとしつつ、初度登録から4月での事故であることを踏まえ評価損を認めています。
「本件事故直後の原告車の状況は,フロントバンパー部及び右側前照灯部に割れ損や割れ損を伴う擦過痕が認められ,ボンネット部に擦過痕が認められた」
「原告車は,フロントホイールハウスロワメンバ及びフロントホイールハウスロワバックプレートに損傷が生じているが,その修理に必要とされる費用は8220円に過ぎない。本件事故による原告車の損傷は右前部であり,主として,バンパー及び右フロントヘッドライト付近である。」
「以上のとおり,原告車は,本件事故による損傷が内部骨格部位に及んでいることは否定できないとしても,その程度は軽微であるというほかなく,加えて,原告車は国産軽自動車であることも考慮すれば,評価損は発生しないともいい得る。」
「しかしながら,原告車は本件事故の約4か月前である平成28年11月に初度登録を受けたものであって,初度登録から本件事故までの期間は極めて短期間である。そうすると,本件事故が原告車の中古車市場における価格に影響を及ぼすことが全くないとはいえないから,評価損として,修理費用の5パーセントに相当する2万3500円を損害として認める。」
東京簡裁平成20年12月15日判決は、国産ワゴン、事故時登録から6ケ月、走行距離1万3000㎞、修理費77万円で、10万円の評価損を認めています(修理費の13%)。参照:評価損を認めた判決
なお、評価損としては、修理費の10から30%程度を認める事例が多いのですが、その範囲を上下に超える事例もあります。
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