交通事故・逸失利益でどのくらいの生活費控除がなされるか?

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 交通事故・逸失利益と生活費控除

2 交通事故における逸失利益と生活費控除率

3 年収の高低、支出状況と生活費控除率

4 女性の生活費控除率

5 共稼ぎと生活費控除

6 離婚と生活費控除率

7 新潟で交通事故のお悩みは弁護士齋藤裕へ

1 交通事故・逸失利益と生活費控除

交通事故で死亡した場合、労働能力が失われ、収入を得られなくなります。
その損失を填補するのが逸失利益の損害賠償です。
死亡すると同時に生活費がかからなくなります。
そのため逸失利益から生活費を控除した額が賠償の対象となります。
これを生活費控除と言います。

2 交通事故における逸失利益と生活費控除率

この生活費控除率は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編) 2021」によると、
ⅰ 一家の支柱
被扶養者1人の場合         40パーセント
被扶養者2人以上の場合       30パーセント
ⅱ 女性(主婦、独身、幼児等を含む)  30パーセント
ⅲ 男性(独身、幼児等を含む)     50パーセント
Ⅳ 年金部分              通常より高い
とされています。

裁判例は、原則としてこの基準で動いています。

上記のほか、年少女性については45パーセントとする扱いが多いようです(例えば、宇都宮地裁令和2年6月3日判決は生後9か月の女児の生活費控除率を45パーセントとしています)。

札幌地裁平成6年2月6日判決は、妻と19歳、16歳の子どもがいる被害者について、子どもが早期に独立することが想定されるとして、生活費控除率を40パーセントとしています。参照:生活費控除率を40パーセントとした判決

男児の場合は50パーセントとされていますので、男児が不利に扱われている不均衡があるかのようです。しかし、男児の場合には男性の賃金センサスが基礎賃金、女児の場合には男女計の賃金センサスが基礎賃金とされます。ですから、結局女児の方が不利に扱われている実態があるように思われます。

3 年収の高低、支出状況と生活費控除率

例えば収入の高低、支出の状況により生活費控除率が修正されることがあります。

年金収入と生活費控除

年金に関し、宇都宮地裁令和2年4月16日判決は、女性について、生活費控除率5割としています。

大阪地裁令和2年2月20日判決は、女性について、生活費控除率を75パーセントとしています(年金77万円余)。

金沢地裁令和2年3月30日判決は、男性について、「亡Fが妻である原告X1及び子である原告X2と同居し,両下肢障害のある原告X2を介助していたとの家族関係,生活状況を総合すると,亡Fが受給する年金は,その大部分が生活費及び医療費等に充てられるものと推認されるから,生活費控除率は,70%とするのが相当である。」として生活費控除率を70パーセントとしています。

このように生活費控除率は、収入の高低、支出状況からして、手元にお金が残りにくい状況かどうかも考慮して決められます。

氷河期、低収入独身男性と生活費控除

独身男性については、高収入であることを前提に50%という高い生活費控除がされています。

しかし、氷河期世代の場合、低収入ということは大いにありえます。

その場合に50%という生活費控除をそのまま認めて良いのか、問題となりえます。

この点、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 下巻(講演録編) 2026(令和8年)」所収の講演録「現在の社会情勢と生活費控除」(早山眞一郎裁判官)は、「特に若年の被害者について、基礎収入に、賃金センサスの男性・中学卒の全年齢平均額を採用する場合(令和5年のものですと451万5900円となります)、生活費控除率50%を採用しますと、逸失利益がかなり低額にとどまり、女性が被害者の場合の、女性学歴計・全年齢平均(同じく399万6500円となります)を採用して30%の生活費控除率を用いた場合と比較すると、それよりも低額となって、いわば男女間格差の逆転現象が生じることになります」等として、「男性独身被害者について、基礎収入に賃金センサスの男性・高校卒の全年齢平均額を採用した場合には50%よりも低い生活費控除率を採用することを検討すべき」としています。

同講演録は、現実収入を基準とする場合についても、「女性の平均賃金額を採用し、生活費控除率30%を採用した場合に比べて、逸失利益が相当低額になりますから、被害者の年齢(若年かどうか)、遺族との経済的な関係性の有無によっては、50%よりも低い生活費控除率の採用が検討されるべき」ともしています。

生活費控除率という、各被害者の生活実態とは連動しない値で男女間差別が生じるのは不当ですから、低年収の独身男性被害者については50%を下回る生活費控除率を認めるべき場合もあると解すべきでしょう。

4 女性の生活費控除率

女性について高めの生活費控除率を認めるべきとの裁判例

生活費控除率は男女で大きく違っていますが、これは男性の方が高収入の場合が多く、そのため最終的な損害賠償額における均等性を確保するために生活費控除率を調整するという意味があると考えられます。そうであれば、収入が高い女性については男性と同様の生活費控除率とすべきとの考えもありえます。

山形地裁米沢支部平成18年11月24日判決は、北海道大学に入学した女性について、男性と女性の平均的収入の中間的収入をもとに逸失利益を計算しつつ、「生活費控除率については,基礎収入の認定につき,大卒男性の収入も考慮したこととの均衡から,40パーセントとするのが相当である。」として生活費控除率を一般女性より高めにしています。

京都地裁令和3年3月26日判決は、医療過誤についてですが、女性の逸失利益について、「その基礎収入としてFが死亡した時点(平成30年)における賃金センサス(男女計,学歴計,全年齢)の平均賃金(497万2000円)を用いた上,生活費控除率を45%とするのが合理的である。」としています。格別の理由も示されていないため、なぜこのような結論となったのか判然としない部分があります。しかし、基礎収入を通常より高めに認定するかわりに、生活費控除率を高めにしたと受け取ることも可能かと思います。

「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 下巻(講演録編) 2026(令和8年)」所収の講演録「現在の社会情勢と生活費控除」(早山眞一郎裁判官)は、「被害者女性が、男性の賃金センサスの学歴計・全年齢平均を上回る年収を得ている場合には、30%よりも高い生活費控除率が採用される傾向がうかがわれる」、「収入が同年代の男性に比較してそん色がない程度を超えて高額であることに加えて、その収入水準が就労可能年数を通じて維持される蓋然性が高い場合には、45%又は独身男性と同じ50%の生活費控除率が採用される傾向がある」としています。

高収入の女性の生活費控除率は30%とすべきとした裁判例

他方、女性であれば、収入が高くとも30パーセントで計算すべきとの考えもあります。

例えば、京都地裁令和3年2月17日判決は、基礎収入800万円の女性について、30パーセントの生活費控除を行っています。

5 共稼ぎと生活費控除

現在では、夫婦共稼ぎで、「一家の支柱」という存在を想定できないことが多くなっています。

共稼ぎの場合の生活費控除率についても特別な考慮が必要です。

例えば、東京地裁令和1年12月17日判決は、被扶養者のいない夫婦の夫について、妻にも一定の稼ぎがあることを踏まえ(夫婦双方800万円以上)、生活費控除率を45パーセントとしています(2の基準なら50パーセント)。これは収入のうち貯蓄等にまわる部分が妻に稼ぎがない場合より多いことを踏まえてのものといえるでしょう。

大阪地裁令和3年1月29日判決は、夫630万円,妻336万7760円の年収の場合に、夫の生活費控除率を40パーセントとしています。

共稼ぎの場合の方が生活費控除率が低くなる傾向はみられます。

ただし、収入額、夫婦の収入差によって確たる傾向まではみえないようです。

6 離婚と生活費控除率

例えば、夫婦が離婚し、元妻が子の養育をするようになった場合、元夫の生活費控除率はどうなるでしょうか?

東京地裁平成20年11月18日判決は、「亡Aは本件事故当時離婚し,子供らの養育はBが行っていたもので,亡Aが本件事故当時,子供らのために継続的に養育費を送金していたような事情も窺われないことからすると,50%とするのが相当である。」としています。

ここからすると、元夫が継続的に養育費を支払っていたような場合は30~40パーセント、そうでない場合は50パーセントの生活費控除率となると思われます。

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