交通事故・逸失利益と生活費控除

1 交通事故・逸失利益と生活費控除

交通事故で死亡した場合、労働能力が失われ、収入を得られなくなります。
その損失を填補するのが逸失利益の損害賠償です。
死亡すると同時に生活費がかからなくなります。
そのため逸失利益から生活費を控除した額が賠償の対象となります。
これを生活費控除と言います。

2 生活費控除率

この生活費控除率は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編) 2021」によると、
ⅰ 一家の支柱
被扶養者1人の場合         40パーセント
被扶養者2人以上の場合       30パーセント
ⅱ 女性(主婦、独身、幼児等を含む)  30パーセント
ⅲ 男性(独身、幼児等を含む)     50パーセント
Ⅳ 年金部分              通常より高い
とされています。

裁判例は、原則としてこの基準で動いています。

上記のほか、年少女性については45パーセントとする扱いが多いようです。

3 年収の高低と生活費控除率

ただし、例えば収入がかなり高い人について生活費控除率50パーセントとするのは合理性を欠くと思われますし、常にこの基準で判断しないといけないわけではないでしょう。

例えば、東京地裁令和1年12月17日判決は、妻が被扶養者ではない夫について、妻にも一定の稼ぎがあることを踏まえ、生活費控除率を45パーセントとしています(上記基準なら50パーセント)。これは収入のうち貯蓄等にまわる部分が妻に稼ぎがない場合より多いことを踏まえてのものといえるでしょう。

年金に関し、宇都宮地裁令和2年4月16日判決は、女性について、生活費控除率5割としています。大阪地裁令和2年2月20日判決は、女性について、生活費控除率を75パーセントとしています(年金77万円余)。金沢地裁令和2年3月30日判決は、男性について、「亡Fが妻である原告X1及び子である原告X2と同居し,両下肢障害のある原告X2を介助していたとの家族関係,生活状況を総合すると,亡Fが受給する年金は,その大部分が生活費及び医療費等に充てられるものと推認されるから,生活費控除率は,70%とするのが相当である。」として生活費控除率を70パーセントとしています。

このように生活費控除率は、年金のように比較的最低限度の生活費に近い収入しかないかどうかだけではなく、支出が多く手元にお金が残りにくい状況かどうかも考慮して決められます。

生活費控除率は男女で大きく違っていますが、これは男性の方が高収入の場合が多く、そのため最終的な損害賠償額における均等性を確保するために生活費控除率を調整するという意味があると考えられます。そうであれば、収入が高い女性については男性と同様の生活費控除率とすべきとの考えもありえます。山形地裁米沢支部平成18年11月24日判決は、北海道大学に入学した女性について、男性と女性の平均的収入の中間的収入をもとに逸失利益を計算しつつ、「生活費控除率については,基礎収入の認定につき,大卒男性の収入も考慮したこととの均衡から,40パーセントとするのが相当である。」として生活費控除率を一般女性より高めにしています。他方、女性であれば、収入が高くとも30パーセントで計算すべきとの考えもあります。

4 離婚と生活費控除率

例えば、夫婦が離婚し、元妻が子の養育をするようになった場合、元夫の生活費控除率はどうなるでしょうか?

東京地裁平成20年11月18日判決は、「亡Aは本件事故当時離婚し,子供らの養育はBが行っていたもので,亡Aが本件事故当時,子供らのために継続的に養育費を送金していたような事情も窺われないことからすると,50%とするのが相当である。」としています。

ここからすると、元夫が継続的に養育費を支払っていたような場合は30~40パーセント、そうでない場合は50パーセントの生活費控除率となると思われます。

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