執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 交通事故と過失相殺
交通事故の被害者は加害者に損害賠償請求できます。
その際に被害者側に過失がある場合、過失相殺として賠償額が減額されます。
この過失相殺について、加害者が複数いる場合、複雑な処理が必要となります。
以下、加害者が複数いる場合の過失相殺処理について説明します。
2 同時事故の場合と過失相殺
同時事故の場合の原則的な過失相殺の方法
同時に複数の加害者が関与した事故の場合、原則として絶対的過失相殺がなされます。
この絶対的過失割合による処理では、被害者の過失割合2割、加害者Aの過失5割、加害者Bの過失3割として、加害者AとBが被害者に対し、5+3=8割の損害について被害者に連帯して賠償する責任を負うということになります。
加害者Aが被害者の同居の親族等被害者側とみられる人の場合、被害者は加害者Bに対しては3割分しか請求できません。
ノーヘルメット、シートベルト不装着の場合の過失相殺の方法
同時に複数の加害者が関与した場合でも、被害者がノーヘルメットやシートベルト不装着だった場合の過失相殺については特殊な考慮が必要です。
それはこの場合、
この場合には相対的過失相殺説により過失相殺すべきという考え方もあります。
被害者を乗せていた加害者については、ヘルメットやシートベルト装着をさせる義務を負っていたものです。その意味で、被害者を乗せていない加害者とは立場が違うため、加害者の立場に応じた調整が必要だと考えられるからです。
相対的過失相殺では、被害者と加害者との関係毎に過失割合を設定します(被害者と加害者A(被害者を乗せていた者)との関係では2:5,被害者とそれ以外の加害者との関係では2:3といった感じです)。そして、損害額100万円とすると、加害者Aは100万×5/(2+5)=71万4286万円、加害者Bは100万×3/(2+3)=60万円の賠償義務を負います。そして、加害者AとBは、重なる60万円の限度で連帯責任を負います。
ただし、実際には相対的過失相殺は極めて煩雑であり、裁判例では絶対的過失相殺説が取られているようです。
相対的過失相殺説をとった裁判例としては岡山地裁平成18年2月14日判決などがあります。参照:相対的過失相殺説の判決
3 異時事故の場合と過失相殺
異時事故は、例えば、加害者Aが被害者を轢き、その後加害者Bも被害者を轢いたような場合です。
2つの事故が近接していて、第1の事故が第2の事故の原因となっているような場合は絶対的過失相殺により計算されます。
それ以外の場合には相対的過失相殺により計算されます。
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