執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会所属、2023年度日弁連副会長)
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1 非接触事故と傷害との因果関係
道路交通において、非接触であっても、加害車両の動きに被害者が反応し、傷害を負うことはありうるところです。
しかし、非接触の場合、事故と傷害との因果関係の存否が曖昧となりがちです。
以下、非接触事故のうち、どのような場合に事故と傷害との因果関係が認められ、傷害の結果について賠償責任が生ずるのか、見ていきます。
2 非接触事故と傷害の結果の因果関係についての裁判例
非接触事故と傷害の結果の因果関係については、大きく、
ⅰ 被害者の転倒や急ブレーキ等の動作自体が事故と因果関係を有するか、
ⅱ ⅰの被害者の動きが傷害の結果をもたらすようなものか、
という2点から検討される必要があります。
ⅰについて、大阪地裁平成29年11月14日判決は、以下の要素をあげ、自動車を避けようとしてバイクが転倒した事故について、加害者の動きと転倒との間に因果関係を認めました。
・被害者は事故までの間に不審な動きを見せていなかった
・加害者の動き以外に被害者が転倒をする原因が見当たらなかった
・被害者はその現場での運転に慣れていたこと
・被害者に事故歴がなかったこと
加害者の運転以外に、被害者が転倒や急ブレーキをする要因がなかったかどうかが大きな考慮要素となります。
その他、当然、加害者・被害者の双方の動き、位置関係等から、被害者が転倒や急ブレーキをすることが通常想定されるような状況だったかどうかが問われることになります。
ⅱについて、大阪地裁平成30年11月14日判決は、衝突を避けるために急ブレーキを踏んだため傷害の結果が生じたと主張された事例について、以下のとおり述べ、非接触事故と傷害の結果との間に因果関係がないとしました。
「本件事故における原告X1の制動措置による同原告に対する衝撃ないし影響が大きなものではなかったことに加え,本件事故直後に受診したA病院においては,腰椎捻挫,左膝関節捻挫,両足関節捻挫と診断されてはいるものの,制動措置を講じたことによって何故上記のような傷害を負ったのか明らかではなく,これを裏付ける所見は一切認められていないこと,同病院の医師も,原告X1の訴える症状は自覚症状のみであって本件事故との関連性は不明であると判断していること,原告X1は,その後は同病院には通院しておらず,整骨院に通院した事実がうかがわれるものの,その間の症状経過は一切不明であることからすると,本件事故により原告X1が上記診断のとおりの傷害を負ったとすることについては大きな疑問があるといわざるを得ない。」
このように、
・想定される衝撃の大きさ
・当該衝撃から傷害に至る機序について説明可能かどうか
・治療経過(定期的に医療機関に通院しているか)
が大きな判断要素となります。
この辺は接触事故と大差ない考慮要素ということになります。
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