執筆 新潟県弁護士会所属 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 判例タイムズによる信号機のない交差点での直進自動車同士の交通事故の過失割合(一時停止違反)
東京地裁民事交通訴訟研究会編・別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」104図によると、
・双方同程度の速度 規制なし側20 あり側80
・規制なし側のみ側減速せず 規制なし側30 あり側70
・規制あり側のみ減速せず 規制なし側10 あり側90
・規制あり側一時停止後進入 規制なし側40 あり側60
が基本とされています。
そして、どちらかに著しい過失があった場合10パーセント、重過失があった場合20パーセントの修正がなされます。
2 裁判例にみる過失割合
以下、1の基準を参考に、注目される裁判例を概観します。
名古屋地裁平成31年2月27日判決は、
・規制あり側に、車のエアコン操作に気を取られて脇見の状態となった,交差点内の安全を確認しないまま時速約50kmで交差点に進入
・規制なし側に、交差点における見通しは良好であり,交差点に進入する際の安全確認の懈怠程度はやや大きいところがある
という事例で、規制なし側対規制あり側の過失割合を15対85としました。
規制なし側の速度は不明ですが、速度規制あり側の速度が減速されていないことを踏まえると、10:90が基本となる事案のようにみえます。
そうであれば、規制なし側において、見通しがよいのに安全確認しなかったということで5パーセント修正されていると考えられます。
何を修正要素とするのか考える上で参考になる判断かと思います。
大阪地裁平成31年3月28日判決は、規制あり側が一時停止した後で事故が発生した事例についての判決です。
同判決は、「東西道路には一時停止規制があること,規制あり側車は一時停止線で一旦停止したものの,その地点では,規制なし側車を発見できず,規制なし車の発見した地点は,規制あり車を一時停止線から前進させた所であり,衝突の直前であったことなどの事情を考慮し,規制なし車の過失割合を30%,規制あり車の過失割合を70%とするのが相当である。」としています。
上記基準からすると、一時停止はしているので、40:60となってもよさそうです。
判決文から、規制あり側車からは、衝突の直前まで規制なし車を発見するのが難しかったようであり、結果回避が困難と言えそうです。そうであれば、なおさら、規制あり車側の過失を60⇒70に引き上げる必要もなかったように思われます。
いずれにせよ、規制あり側が一時停止した場合でも、常に40:60となるわけではないということでしょう。
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