執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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じん肺は様々な症状につながりうるものであり、それぞれ労災の適否が問題となります。
以下、解説します。
1 じん肺患者の間質性肺炎り患
1 長崎地裁令和3年6月21日判決について
長崎地裁令和3年6月21日判決は、じん肺患者が間質性肺炎に罹患し、それが原因で死亡した場合について、死亡について労災と認定しました。
間質性肺炎はじん肺患者に珍しくないものであり、参考価値が高いと思うので、以下、ご紹介します。
同判決は、じん肺患者であり、間質性肺炎に罹患した患者が間質性肺炎の悪化により死亡したため、遺族が労災請求をしたものの、労災として認定されなかったため、不支給決定を争って起こした訴訟についての判決です。
同判決は、じん肺患者の間質性肺炎がじん肺又は粉じん曝露に起因すると言えるためには(つまり、労災と認められるためには)
ⅰ じん肺患者の粉じん曝露歴や、じん肺、間質性肺炎についての診療経過等に照らして、医学的に相当の根拠をもって、間質性肺炎及びその増悪がじん肺又はその原因たる粉じん曝露に起因することの具体的可能性があると認められること
ⅱ かつ、これを否定する医学的根拠があるとは認められないこと
ⅲ 他原因疾患の具体的可能性があるとは認められないこと
との要件が必要であるとしました。
その上で、判決は、患者らが、炭坑、造船所、自動車整備工等として粉じんに曝露する職場で業務に従事してきたこと、担当医がじん肺が原因で間質性肺炎が増悪したと意見書を書いていること等を踏まえ、じん肺などが原因で間質性肺炎が悪化したと認定しました。
被告側は、じん肺に伴う間質性肺炎は慢性経過をたどるので急性増悪をした事例についてはじん肺が原因ではない等と主張しましたが、裁判所は、じん肺が原因で急性増悪を生ずる事例も報告されている等として、被告の主張を排斥しました。
同判決は、厳密な立証がない場合でも、じん肺患者に生じた間質性肺炎について労災と認定したものであり、今後の患者救済に資するものと考えられます。
2 じん肺と慢性呼吸器不全急性憎悪
1 死亡について業務起因性がある場合の取扱い
業務上の疾病により被災労働者が死亡した場合、遺族は遺族補償年金や葬祭料の請求をなしえます。
しかし、そもそも、その死亡の原因が業務上の疾病により生じたのかどうか、他の疾病が原因ではないか争われることもあります。
2 じん肺患者が慢性呼吸器不全急性増悪で死亡した場合の業務起因性
福岡高裁令和2年9月29日判決は、じん肺患者が慢性呼吸器不全急性増悪で死亡した事案について、死亡について業務起因性を肯定しました。
被災労働者はじん肺管理区分3ロの決定を受けていました。
被災労働者が慢性呼吸器不全急性増悪となったことについては、誤嚥性肺炎も寄与していると考えられる事例でした。
裁判所は、誤嚥性肺炎も死因となっていたことについて、
「長期間にわたる本件疾病は、嚥下力を含むAの全身状態を悪化させるものであり、さらに、本件疾病による易感染性をも考慮すれば、被災労働者に誤嚥性肺炎を繰り返し発症させ、重症化させ、難治性のものとしていたのは、本件疾病であったと考えられる。」
「本件疾病と誤嚥性肺炎とは、その発生機序も異なる別の疾病であるが、上記のような被災労働者の長期の療養過程における本件疾病と誤嚥性肺炎との関係に照らせば、被災労働者の直接死因である慢性呼吸器不全急性増悪(Ⅱ型)の相対的に有力な原因が何であるかを検討するに当たって、誤嚥性肺炎と本件疾病を切り離して検討するのは相当ではなく、これを本件疾病とは別の独立した死亡原因として位置付けるべきではない」
との判断を示しました。
つまり、誤嚥性肺炎も被災労働者の死亡に寄与しているものの、誤嚥性肺炎のベースにはじん肺があったため、誤嚥性肺炎とじん肺と合わせて業務起因性の判断を行うべきだとしています。
このように、死亡に影響を与えた疾病が業務上の疾病をベースとして生じている場合、業務上の疾病と死亡に影響をい与えた疾病を合わせて死亡の業務起因性を判断すべきとの判断手法は一般化できるものであり、死亡に複数原因が寄与しているケースにおいて労災認定を得られやすくするものとして評価できます。
3 じん肺患者と労災によるオフェブなど抗線維化薬投与
1 じん肺の病理
建設作業でアスベストに曝露されたり、トンネル現場で粉じんに曝露されたりすると、じん肺となる可能性があります。
じん肺は「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」であり、呼吸困難などの症状が出てきますし、続発性気管支炎等の合併症が生ずることもありま
す。
じん肺は肺の線維化が本態です。そしてこの線維化は死ぬまで続く不可逆的なものです。ですから、じん肺は悪くなることはあっても、良くなることはありません。
2 オフェブなど抗線維化薬の登場
しかし、最近、オフェブ、ピレスパなど、新しい抗線維化薬が登場し、線維化、つまりじん肺の進行を抑止することが期待されるに至っています。
じん肺は不可逆ですから、線維化を防止することは極めて重要です。
じん肺の線維化が進行する可能性がある場合において抗線維化薬を投与する療養上の必要性は顕著です。
3 労災保険でオフェブの費用を出してもらうことができるか
ところが、オフェブは極めて高価です。
そこで労災保険で薬剤代などを拠出できるかどうか重大な問題となります。
この点、じん肺法第二十三条は、「じん肺管理区分が管理四と決定された者及び合併症にかかつていると認められる者は、療養を要するものとする。」と定めています。参照:じん肺法
そのため、管理区分4であったり、合併症を発症しているじん肺患者については労災保険による支給がなされるものとされ、薬剤代などの支給がなされることになります。
問題は、管理区分3以下であり、合併症も生じていないじん肺患者です。
そのような患者でも、じん肺の進行を止めるため抗線維化薬の投与を受ける必要性は高いと思われます。
労災保険法では、業務を原因として病気となった労働者が、療養のために薬剤の投与を必要とするとき、労災保険から薬剤代を出すこととしています。
そうであれば、管理区分3以下で、合併症のないじん肺患者についても労災保険に薬剤代などの請求をなしうると解すべきです。
じん肺法の規定は、管理区分4、あるいは合併症のあるじん肺患者について、簡単に労災保険からの支給を認めるという趣旨の規定と考えるべきでしょう。
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弁護士齋藤裕は、25年間じん肺の裁判に関わり、また、アスベスト労災で逆転認定を勝ち取るなどしてきました。
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