非違行為、職場規律違反に対する解雇はどのような場合に有効となるのか?

労災、解雇問題

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 非違行為と解雇

労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」としています。参考:労働契約法

労働者に職務規律違反のような非違行為があった場合も、客観的に合理的な理由があり、社会的に相当な解雇でなければ、解雇は有効とはされません。

2以下の裁判例から明らかなとおり、解雇が有効かどうかは、

・非違行為の理由

・非違行為により重大な結果が生じたか

・解雇以前に使用者が懲戒等により対応していたか

・非違行為による社会的影響

が考慮され、判断されることになります。

2 非違行為と解雇についての裁判例

教員等の遅刻での解雇を無効とした裁判例

トラック運転手が積み荷を蹴飛ばす等したため解雇が有効とされた裁判例

座席につばを吐きかけたことを理由とする解雇が無効とされた裁判例

条例違反での逮捕による解雇が無効とされた裁判例

職場結婚を理由とする解雇の効力

教員等の遅刻での解雇を無効とした裁判例

大阪地裁令和4年12月26日判決は、教員が、

①平成29年4月から平成30年2月までの間、複数回にわたって遅刻をしたこと、

②教員会議での指示に反して他の教員の退職を特定の生徒に知らせたこと

を理由とする解雇について

①子どもや自身の体調不良といったやむを得ない理由のない遅刻をしたのは1回のみであり、その際も午前8時25分までには出勤しているから、授業の実施に支障を生じさせる態様のものではなかったこと、授業の実施に支障を生じさせる遅刻も12回あったが、これらはいずれも体調不良を理由とするものであった

②については、教員として求められる規律に反する行為であったといえるが、原告の行為によって当該生徒が退学したとの結果を生じたと認定することはできない

として、解雇無効としました。

業務に悪影響がある非違行為があったとしても、ある程度悪質な行為があったような場合でなければ解雇は有効とはなりません。

トラック運転手が積み荷を蹴飛ばす等したため解雇が有効とされた裁判例

東京高裁令和4年9月6日判決は、トラック運転手が、倉庫内にある積み荷を故意に崩して、叩きつけ、蹴飛ばすなど行為をしたという事例で、解雇を有効としました。

判決は、

・損害自体は比較的低額

・顧客から預かった商品を故意に損壊するものであり、それ自体顧客からの信用を失わせ、従業員にも悪影響を与えるものであった

・従来からトラック運転手が度々注意を受け、他の従業員に対する暴力行為や粗暴行為に及んで懲戒処分を受けていたこと

・従来の懲戒処分の際には、トラブルを起こした場合には厳しい処分となる可能性があるとの厳重注意を受けていたこと

との事情を踏まえ、解雇を有効としました。

ここでは、業務の本質的義務に故意に違反していること、従来から懲戒処分等がされてきたことが重視されていると言えます。

解雇は労働者に重大な影響を与える最後の手段です。

ですから、解雇の前に使用者が労働者を改善させるために注意や懲戒処分などを行ってきたかが重視されるのです。

座席につばを吐きかけたことを理由とする解雇が無効とされた裁判例

東京地裁令和5年8月9日判決は、労働者が、役員の座席付近に10回程度つばを吐きかける行為をしたことについて、解雇無効としました。

同判決は、

ⅰ 被害額が数万円程度であること

ⅱ 国内で新型コロナウイルス感染症が蔓延し、企業として感染防止対策を講じることが求められていた時期であり、この点について原告は非常識かつ無責任であるというほかないこと

ⅲ 警察が本件非違行為に関して事務所の実況見分を実施し、その際被告事務所内にいた従業員に対する事情聴取が行われていること

を踏まえ、ⅱ及びⅲから、本件非違行為は被告の企業秩序を損なうものであったと認めることはできるとしました。

しかし、

ⅰ 使用者側でつば吐き行為を止めるよう注意や警告を与えたことはなかったこと、

ⅱ 結果的に被告の役員及び従業員中に新型コロナウイルス感染症の罹患者が発生しなかったこと、

ⅲ 略式命令で罰金刑に処せられたことが取引先に知られていたわけでもないこと

から、使用者の企業秩序が損なわれた程度が大きいとまでは認め難く、前記財産的損害や被告代表者の事務支障を考慮してもなお「会社に重大な損害を与えた」とまで認めることはできないとして、解雇を無効としたのです。

同判決では、結果の軽微性や解雇に向けた指導等がないことが重視されています。

指導等があったのにそれに従わなかったということでなければ、改悛の可能性はあり、解雇までの必要性はないということです。

条例違反での逮捕による解雇が無効とされた裁判例

東京地裁平成27年2月18日判決は、18歳未満の女性と性行為をしたことで東京都青少年の健全な育成に関する条例違反として逮捕された教員の解雇を無効としています。参照:条例違反の教員の解雇を無効とした裁判例

同判決は、教員において、相手が18歳未満であるとの認識があった証拠がないとして解雇を無効としています。

逮捕等されたとしても、非違行為があったという証拠がなければ解雇は無効となります。

労働契約は労働者を全人格的に支配する契約ではありません。

ですから、職場外での労働者は基本使用者との関係では自由であり、職場外での事由による解雇は原則認められません。

職場外での犯罪行為が解雇理由となるのは、その罪状、報道の有無・程度、業務との関連性、社会から当該職種の労働者が期待される廉潔性等の観点から、職場秩序に悪影響を与えると言える場合に限られます。

職場結婚を理由とする解雇の効力 「夫婦共稼ぎはご遠慮いただく」不文律があっても解雇は無効

宮崎産業経営大学の教員同士の結婚に関し、雇止めがされたということで訴訟が提起されたことが報道されています。

職場結婚を理由とする解雇については、基本的には無効と言わなくてはならないでしょう。

神戸地裁昭和43年3月29日判決は、形式的には職場結婚を理由とする休職処分についての判決ですが、この休職処分は解雇としての側面も有していたようです。

同判決は、「職場結婚解雇の事由としたことは、配偶者の選択の自由に影響を及ぼし結婚の自由を制限することになるから、かかる事由が適法であるとされるためには、そこに合理的理由の存在することを必要とし、これを欠くときは当該解雇は無効であるとされるのは当然である。この点につき被告学校の職員の一部では職場結婚して夫婦が共に在職することは好ましくないと考えられていたことは前記二の(一)で認定したとおりであるにしても、しかしながらこれだけでは右合理性を肯定するには充分ではな」いとして解雇は無効であるとしました。

仮に職場結婚はだめだという慣行があったとしても、結婚の自由が優先すると考えざるを得ませんし、原則として職場結婚を理由とする解雇は無効であると言わなくてはならないでしょう。

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