執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 交通事故による醜状障害の認定基準
1 交通事故による醜状障害の認定基準
交通事故で見た目が悪くなるような傷跡が残った場合、醜状障害として賠償の対象となりえます。
等級は以下のとおりです。
外貌に著しい醜状を残すもの 7級
外貌に相当程度の醜状を残すもの 9級
外貌に醜状を残すもの 12級
上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 14級
下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 14級
外貌とは、頭部、顔面、首のように、上肢及び下肢以外の日常露出する部分です。
2 外貌における著しい醜状とは?
外貌における「著しい醜状を残すもの」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
ⅰ 頭部では、指を除く掌の大きさ以上の瘢痕または頭蓋骨の掌大以上の欠損
ⅱ 顔面では、鶏卵大面以上の瘢痕または10円銅貨大以上の組織陥没
ⅲ 首では、掌大以上の瘢痕
なお、人目につく程度以上との要件は、他の等級の場合でも、問題となりますが、東京地裁令和4年2月22日判決は、以下のとおり述べ、髪で隠れるような場所であっても人目につく程度との要件を満たすとしています。
「本件線状痕は,4本の白色線状痕で構成されており,前記(3)のとおり,縦方向の線状痕は長さ3cm以上のものが2本あるほか,横方向にも相当程度の長さ(H意見書では2.8cm)の線状痕があり,相応に広範囲に及んでいるといえる。」
「そして,いずれの線状痕も僅かに隆起している上,横方向の線状痕は比較的幅が広く,縦方向の線状痕は,幅は狭いものの,より白色に近く,周囲の肌と同化しているとはいえないのであり,いずれも,日常生活で受ける光によって相応に目立つものといえる。」
「以上に加え,本件線状痕が,髪の生え際にあるようなものではなく,目や鼻ほどではないものの,他人の視線が集まりやすい顔面部に存することにも照らすと,本件線状痕は人目につく程度以上のものというべきである。」
3 外貌における相当程度の醜状とは?
外貌における「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。
4 外貌における醜状とは?
外貌における「醜状」とは、原則として次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものです。
ⅰ 頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
ⅱ 顔面部では、10円銅貨以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕
ⅲ 首では、鶏卵大面以上の瘢痕
眉毛や頭髪などに隠れる部分は、人目につかないので、醜状としては扱われません。
顔面神経麻痺により口の歪みが生じた場合、単なる醜状として扱われます。
頭蓋骨の掌以上の欠損により、頭部の陥没が認められる場合で、それによる脳の圧迫により神経症状がある場合は、外貌の醜状障害にかかる等級と神経障害にかかる等級を比較し、重い方の等級で認定されることになります。
眼瞼、耳介、鼻の欠損障害については、これらの欠損障害について定められている等級と、外貌の醜状について定められている等級と、比較し、重い方の等級により認定されることになります。
2個以上の瘢痕または線状痕が隣接などしている場合には、それらの大きさなどを合わせ等級認定することになります。
醜状障害については、その等級に応じた慰謝料が支払われます。
直ちに等級に応じた逸失利益が認められるわけではありませんが、被害者の職業や年齢などにより、収入の減少結びつくとされれば逸失利益の賠償が認められることになります。
5 醜状について後遺障害等級が認定されない場合
上記の基準を満たさない場合でも、慰謝料の上で考慮されることがあります。
福岡地裁令和5年4月27日判決は、「原告の瘢痕については、消失に至っていないことは先のとおりであるものの、経時的に色調が薄まっており、現在、原告の顔面部に10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕が残存していると認めることはできない。この点、上記瘢痕の大きさ等についての基準を充足することは、後遺障害慰謝料を認めるために不可欠とまでは解されないものの、原告の瘢痕については、その色調等に照らして、外貌の醜状として後遺障害に該当するものとは認められ」ないとして、色調を理由に醜状が後遺障害認定の要件を満たさないとします。
しかし、その上で、「もっとも、上記のとおり、原告が顔面に瘢痕が残存したことによる精神的苦痛については、通院慰謝料において考慮するのが相当である。」としています。
京都地裁平成29年10月31日判決も、露出面以外での10㎠の傷について、水着を着れば露出するとして、後遺障害慰謝料において考慮すべきとしています。参照:後遺障害等級のつかない醜状障害について慰謝料を認めた裁判例
ですから、多少後遺障害認定の要件に欠ける醜状障害であっても、慰謝料の主張をすることが大事です。
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