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交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 交通事故による休業損害

2 給与所得者の休業損害

3 自営業者の休業損害

4 家事従事者、無職者の休業損害

5    会社役員と休業損害

1 交通事故による休業損害

交通事故で傷害を負い、仕事ができなくなった場合、失われた給料の収入分等の休業損害の賠償がされることがあります。

後遺障害が残った場合、労働能力が喪失したことについて逸失利益の賠償がなされます。

これに対し、休業損害については、後遺障害が残る前、症状固定前の収入減少が対象となります。

客観的に業務はできる状態であっても、勤務先が安全確保の観点から休業させたような場合も休業損害の対象となります。

減収がなくとも休業損害は認められるか

交通事故により傷害を負い、仕事ができなくなり、収入が得られなくなると、休業損害が賠償される可能性があります。

最高裁平成7年10月24日判決は、休業したとしても給料が払われる場合には休業損害は発生しないとしており、これが原則です。

ただし、例外的な場合ではありますが、収入が減らない場合であっても休業損害の賠償が認められることはあります。

大阪地方裁判所平成25年12月3日判決は、以下のとおり述べ、休業による減収がないにも関わらず、休業損害を認めています。

「本来は休業等により減収が発生してもおかしくない状況において,本人や同僚の特段の努力によって減収を回避した場合には,一定の割合で休業損害の発生を認めるのが公平に資するものであるところ,原告は福祉施設の送迎運転手であり,その運転や車内管理を慎重に行う必要があったが,職務復帰後,特に車内管理について相当な問題が生じ,本人の努力や同乗していた同僚の努力や配慮によって弊害が相当程度カバーされていた状況が認められる。そうすると,原告については一定の範囲で休業損害に準ずる損害の発生を認めるべきであり,その割合は諸般の事情に照らして30%を相当とする。」

このように、従来得られていた収入の100パーセントではなく、30パーセントではありますが、事故前と同じ収入が得られていたにも関わらず、休業損害の賠償を認めています。

逸失利益については、実際に収入減となっていない場合でも、被害者の努力により収入が維持されているような場合には、損害賠償を認めている実情があります。

ですから、同判決は、逸失利益の場合と同様に考えているということができ、それなりに理解できる部分もあります。

しかし、減収がないのに休業損害を認める裁判例は少数にとどまります。

逸失利益の場合は、明確な労働能力喪失率が認定されるため逸失利益としてそれに相当する金額について賠償すべきという考慮が働きやすいのに対し、(後日決定される後遺障害等級・労働能力喪失率を超える)休業損害についてはそのような考慮が働きにくいという側面で差が出ているのかもしれません。

いずれにしても、かなり努力をして収入が維持されているような場合、収入減がなくとも休業損害の請求をするということ自体は積極的に検討されてよいと思います。

傷害を負っていないのに休業損害が認められる可能性

休業損害は、事故に起因して休業したと認められる関係があれば認められ、事故のために傷害を負う等していない人についても認められる余地はあります。

被害者が亡くなって葬儀等のために休業した場合、被害者が亡くなって遺族が悲しみのために休業した場合(1・2月)について休業損害を認めた事例もあります。

ただし、大阪地裁令和4年2月18日判決は、家事育児を平等に分担していた夫婦の一方が事故死し、約3ケ月半後に育児休業が明け職場復帰が予定されていたものの、他方配偶者の受けた精神的衝撃が大きかったこと、発達課題のある子も含めた3人の子を養育しなければならなかったことから、他方配偶者が職場復帰を延期したという事案について、「本件事故から,予定されていた職場復帰の時期までには約3か月半の期間があり一定の時間的猶予があったこと,損害賠償の問題については,早期に弁護士に委任することで負担を軽減することができること,一般に,配偶者のいない母親が小さな子ら3人を養育しつつ働いている者もいることからすると,原告X1が,予定されていた時期に職場復帰をすることは,決して容易ではないが不可能ではないと考えられる。」として休業損害を認めませんでした。ただし、そのような事情は慰謝料において考慮されています。

通院日と休業損害

治療で仕事を休んだ日についても休業損害を認めるのがおおむねの保険会社の扱いです。

大阪地裁平成30年3月23日判決は、午前中に受診する場合、午後1時までの出勤が困難であるとして、丸一日の休業損害を認めています。参照:治療のための休業損害を認めた裁判例

ただし、専業主婦・専業主夫や半休を取ることができる場合には、通院時でも丸々休業損害を認めるのではなく、何割か分しか認めないことがありえます。

福岡地裁平成30年3月30日判決は、通院日について、6割についてのみ休業損害を認めています。参照:通院日について6割のみの休業損害を認めた裁判例

部分的な休業損害

完全に仕事ができない場合には給料や所得の100%が休業損害となります。

しかし、一部しか仕事ができない場合、給料などの一定割合についてのみ休業損害が認められることがありえます。

事故後全く就労しなかった場合でも、症状からしてある程度の就労ができたとされる場合には、部分的な休業損害しか認められないということになるわけです。

できるだけ大きい割合の休業損害を払わせるためには、その職業に応じて、交通事故により生じた症状がどの程度作業に影響するのか、具体的に主張立証することが重要です。

2 給与所得者の休業損害

給与所得者については、事故前の収入と比較して収入が減少した分について休業損害が認められます。

以下、給与所得者の休業損害に関し、重要な点について述べます。

目次

給与所得者の休業損害の基本的算定方法

残業代も休業損害の基礎となる

昇給分が休業損害で考慮されることもある

退職金と休業損害

有給休暇と休業損害

退職後の休業損害

傷害を理由に会社から就業を拒否された場合の休業損害

会社都合で欠勤した場合の休業損害(タクシー運転手)

会社都合で欠勤した場合の休業損害(フォークリフト運転手)

有給休暇取得と休業損害との関係

休業損害が一部しか認められない場合

給与所得者の休業損害の基本的算定方法

給与所得者の場合、休業損害は、過去3ケ月の平均収入をもとにすることが多いです。

ここでいう収入は、社会保険料、所得税、住民税などを引かない、総額の金額となります。

通勤手当は、出勤しない場合においては通勤も不要なので、休業損害の対象とならないことがありえます。

ただし、歩合が多く、年内変動の多い仕事の場合、より長い周期で平均をとったり、前年同時期の収入を基準に休業損害を算定することもありえます。

なお、休業により賞与が減額された場合についても会社から損害証明書を作ってもらい、請求します。

残業代も休業損害の基礎となる

残業代も基礎に休業損害が算定されます。

例えば、長崎地裁令和4年5月30日判決は、「本件事件前の収入に関し、原告は、平成19年4月から同年8月まで、別紙5記載のとおり時間外等割増賃金を得ていたところ、本件事件後、休業を余儀なくされ、復職後も従前どおり稼働することができず、再度、休職状態に陥っており、時間外等割増賃金額を得られなかったことが認められるから、令和元年12月の給与分までについては、本件事件による被害を受けなければ、時間外等割増賃金を得られた蓋然性を有すると認められる額について、休業損害が認められる。」として、残業代も休業損害の基礎収入に含まれることを明らかにしています。参照:残業代を含めて休業損害を算定した裁判例

なお、同判決は、事件前の残業代が繁忙期のものであったとし、実際には事件前の残業代より低めの金額で休業損害を算定しています。

昇給分が休業損害で考慮されることもある

事故時点後の昇給などが確実だったといえる場合には、昇給後の給与額を基準に休業損害が認められます。

退職金と休業損害

退職金に影響がある場合、その減額分を休業損害として認める事例もあります。

退職後の休業損害

退職したような場合、退職後についても休業損害が認められます。

傷害を理由に会社から就業を拒否された場合の休業損害

実際に仕事を休んだとしても、症状からして就労可能だった場合、休業損害が発生しないのが原則となります。

会社都合で欠勤した場合の休業損害(タクシー運転手)

しかし、大阪高裁平成15年11月19日判決は、医学的には就業可能となった後においても、会社都合で出勤できなかった場合について、休業損害を認めています。

同判決は、医学的には休業の理由がなかったとしつつ、以下のとおり述べます。

控訴人は,平成13年4月中旬頃,当時の勤務先会社に,タクシー乗車業務に復帰することを申し出たが,勤務先から中途半端は状態で復帰しないよう申し渡されて復職を断念した経過があると認められ,乗客の安全確保を最優先にすべきタクシー会社であってみれば,上記のような対応は,会社にとっても,控訴人にとっても,やむを得ないところであると考えられる。そして,平成13年4月は未だ抜釘前の状態であり,痛みも残存していたという先に認定した事実を併せ考えると,控訴人は,平成13年8月20日に後遺症診断を受けるまでは,就業することができなかったものであり,この間の労働能力喪失率は100パーセントであったと認めるのが相当である。

このように、会社が休業を命じたことに合理性がある場合、医学的には就労可能であっても休業損害の請求が可能ということになります。

会社都合で欠勤した場合の休業損害(フォークリフト運転手)

大阪地裁令和3年11月26日判決も、以下のとおり述べ、局部的症状しかなく、医師からの休業指示がなかったという事例において、会社判断を理由に、休業損害を認めています。

原告の職種はフォークリフトのオペレーターであったところ,具体的な業務としてはフォークリフトの運転のほか,倉庫内における家電製品等の運搬であったというのであり,両上肢のしびれや筋力低下といった上記症状は,それらの業務に支障を生じさせるものということができる。そして,本件の証拠上,復職時点における正確な症状の程度は明らかではないが,原告は,復職後,従前の業務に復帰したのではなく事務作業に従事していたというのであり(なお,復職後の原告の給与は本給こそ事故前と大差がないものの付加給が大幅に減少していて,実際に業務の変更があったものと考えられる。),勤務先からも従前の業務に従事させるには耐えないと判断されていたと捉えることができ,従前の業務に復帰できない状態において復職しないことが不相当であるとまでいうことはできない。

会社が休業を命じたことが合理性がある場合、休業が事故と相当因果関係あるものと見られるということでしょう。

なお、会社が休業を命じたことに合理性がない場合、交通事故の加害者に対する賠償請求はできないものの、会社に対する給料請求ができる可能性が残ると考えられます。

有給休暇取得と休業損害との関係

交通事故で傷害を負い、そのため休業を余儀なくされた場合、休業損害があったとしてその賠償請求ができる可能性があります。

この点、休業の際に有給休暇を取得して給料が発生しても、その有給休暇は事故がなければ別の目的に使うことができたものですから、その給料分について休業損害の対象となることについてほぼ争いはありません。

有給休暇の損害賠償における計算方法

しかし、有給休暇による損害の算定が困難な場合もあり、その算定方法が問題となります。

東京地方裁判所平成18年10月11日判決は、交通事故による休業中に有給休暇を取得した場合の損害額について争いがある事案について、以下のとおりその計算方法について判断を示しています。

「平成13年の年収は969万1107円であることが認められるが,同年中の賞与の額は,本件証拠上,明らかではない。しかし,原告の平成11年から平成17年までの年収,月収及び賞与の推移は,本件証拠上,別紙原告の収入の推移表のとおりであると認められるところ,同表,平成12年に本件事故による欠勤がなかった場合の賞与支給額が278万6400円であること及び弁論の全趣旨によれば,平成13年の賞与支給合計額は,少なくとも230万円以上であったと推認される。
また,平成13年中の休日日数は124日であるから,前記ウと同様の考え方により,有給休暇1日当たりの金額は,(969万1107円-230万円)÷(365-124日)=3万0668円(円未満切捨て)となり,その0.5口分は,1万5334円となるので,1万5334円をもって相当な金額と認める。」

このとおり、判決は、年収から賞与を控除した額を、365日から休日日数で引いた額で割った金額を基準にして休業損害額を算定すべきことを示しています。

実際に有給休暇を取得した場合に得られる金額の算定として合理的であり、実務上参考になる裁判例かと思います。

休業により有給の権利が失われた場合と損害賠償

休業が長引くことにより有給の権利が失われた場合には、その失われた権利について損害賠償請求できる可能性があります(東京地裁平成16年8月25日判決)。

ただし、その分は慰謝料で考慮する裁判例もあります。

休業損害が一部しか認められない場合

交通事故でケガをして、まったく働くことができなくなった場合、事故前に得られていた収入分がそのまま休業損害となります。

しかし、現実には、まったく働くことができないわけではないものの、就労が相当程度限定されるという場合があり、そのような場合には元の収入の〇%分の休業損害が認められることになります。

例えば、東京地裁令和3年5月27日判決は、完全に休業をしていた期間についても、事故前収入の一部しか休業損害として認めませんでした。

同判決は、「原告が本件事故により負った傷害は,他覚的所見のない頚椎捻挫及び腰椎捻挫であるというべきである。したがって,原告は,症状の重い急性期には完全休業が必要であったとしても,症状の軽減とともに徐々に仕事への復帰が可能であったと認められる」、「これらに照らすと,本件事故後の一定の期間について,割合的に休業の必要を認めるのが相当であり,原告が休業を要した期間及び程度は,本件事故から1か月間を100%,2か月目を75%,3か月目を50%,4か月目を25%と認めるのが相当であり,その後の休業の必要性までは認められない。」としています。

つまり、同判決は、休業をしていても、その必要性が強くない場合には、一部しか休業損害を認めないとしているわけです。

ただし、職場によっては、100%の能力がないまま出勤すると、かえって危険であるなどの理由で、100%の能力がない状況では出勤できない場合もありえます。

ですから、稼働能力が限定的にしかない状況において、一部しか休業損害を認めないとの判断は現実に即していないと言うべき場合もあるでしょう。

3 自営業者の休業損害

自営業者についても、事故前の収入と比較して収入減少があった分について休業損害の対象となります。

自営業者については、確定申告書などをもとに事故前の収入を認定することが多いです。

この確定申告書の記載が実際より過少な場合、裁判所は中々確定申告書の記載を超える金額を前提とした休業損害を認めません。

しかし、確定申告書の記載を超える収入があったことを裏付ける証拠などがある場合には、確定申告書の記載を超える金額を前提とした休業損害が認められることもあります。

自営業者については確定申告書の所得金額を基礎として休業損害が算定されます。

それに休業中支出をせざるを得なかった経費分を足して計算をすることになります。

目次

1 固定経費と休業損害(交通事故)

2 事業再開後の減収と休業損害

3 廃業と休業損害(交通事故)

4 代替労働力と休業損害

5 赤字の自営業者と休業損害

1 固定経費と休業損害(交通事故)

自営業者が交通事故の被害に遭い、休業した場合、失った所得だけではなく、固定経費も休業損害として賠償の対象たりえます。

一般的に休業をすれば経費も発生しません。

しかし、事業の再開を予定している場合、固定経費は発生し続けるので、休業損害として損害賠償の対象となるのです。

無線使用料、自動車保険、貨物保険、車両代を固定経費として休業損害の対象とした裁判例

例えば、神戸地裁平成30年5月10日判決は、以下のとおり述べて、トレーラー運転手について、無線使用料、自動車保険、貨物保険、車両代を固定経費として休業損害の対象としました。

「原告は、海上コンテナを運搬するトレーラーの運転手としてFに勤務していたこと、原告の本件事故前3か月の収入は合計6万8840円であったこと、原告の同期間の固定経費(無線使用料、自動車保険、貨物保険、車両代)は合計87万9384円であり、これが売上高から控除されていたこと、原告は、平成25年7月11日から同年8月24日までの間、45日間休業したこと、原告は、その後、Fのアルバイト従業員となったことが認められる。そして、原告本人の供述によれば、原告の休業中の上記固定経費は、事業の維持・存続のために必要やむを得ないものであると認めるのが相当であり、休業損害として認めるのが相当である。」

損害保険料、修繕費、減価償却費、利子割引料、図書研修費を固定経費とした裁判例

大阪地裁平成30年3月23日判決は、以下のとおり、固定経費とそうではない経費について個別に検討をしており、何が固定経費として認められるべきものかを考える上で参考となります。

「原告が主張する固定費のうち,租税公課,通信費,消耗品費,支払手数料,諸会費については,費目の項目のみでは実態が不明であり,原告が業務を行わなくても支出を余儀なくされ,これを支出しなければ業務遂行ができなくなる性質のものであるか判断ができず,固定費であることの立証としては不十分である。」
「会議費について,原告は,喫茶店やレストランで話をするときの費用などを計上したものである旨述べているが(原告本人),そうした費用は,休業時にも支出しなければ事業継続が不可能になる費用とはいえず,固定費とはいえない。」
「修繕費は,事業で使用する車両の車検費であると説明されており(原告本人),固定費に含まれると認められる。下記の内訳にあげたその他の項目も,項目名からは,固定費に含まれると認められる。」

以上を踏まえ、損害保険料、修繕費、減価償却費、利子割引料、図書研修費のみを固定経費としました。

このように、固定経費かどうかは、保険料や修繕費のように費目名自体から固定経費といえるものもありますが、休業中でも継続的な支払いが必要であることを具体的に説明しないと固定経費とならないものもあるので注意が必要です。

休業損害計算において固定経費を引く計算ができない場合

なお、収入の減少をもって休業損害としている場合は固定経費を考慮できますが、休業損害額を所得の減少として計算する場合、所得は売り上げ-経費であり、固定経費について考慮されていることになります。

よって、そのような休業損害の計算をする場合には、固定経費を引くことはできません。

東京地裁平成24年7月18日判決は、「本件事故後の所得の減少額を休業損害として認めれば,固定費の支出を経費として考慮し,その分だけ所得減少額も増加していることになるから,上記減少額に固定費を加算する必要はないというべきである」として、所得の減少額で休業損害の計算をする場合には固定経費を考慮しないとしています。

2 事業再開後の減収と休業損害

交通事故により仕事ができなくなった場合、休業期間中の収入減少について休業損害として賠償されることがあります。

通常は休業期間中についてのみ認められますが、自営の場合、事業再開後しばらくは収入が落ちることもありえます。

そこで、事業再開後の期間についても休業損害が認められることもあります。

例えば、名古屋地裁平成14年9月27日判決は、以下のとおり述べて、歯科医師が休診後診療の再開をした後も売上げが低迷したことについて、休診による患者数の減少が原因だとして事故と因果関係のある損害として認めました。

しかし、それ以外の要因も考えられるとして、原告主張金額の8割についてのみ賠償を認めました。

「原告の歯科医院の収入の減少は、本件事故による休診を原因とすると推認される。しかし、一般的に歯科医院経営における収入の減少にはさまざまな要因が考えられ、本件全証拠によっても、原告の歯科医院の収入の減少の全てが本件事故による休診を原因とすると認めるには足りず、そして、弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係があると認められる原告の収入の減少額は、原告が主張する324万2090円のうちの8割に相当する259万3672円であると認めるのが相当である。」

休業後、事業再開をしても売上げが伸び悩む場合、その原因を分析し、休業がその原因となっているような場合、事業再開後の期間について休業損害が認められることもありえますので、注意が必要となります。

なお、給与所得者についても、休業後職場復帰後の労働内容が変更し、給与が減少するような場合、同じく休業期間明けの休業損害というものが考えうることになります。

3 廃業と休業損害(交通事故)

交通事故による受傷で自営業者が廃業を余儀なくされる場合もありえます。

そのような場合に廃業に関して損害賠償が認められることもあります。

例えば、高松高等裁判所平成13年3月23日判決は、事故により廃業を余儀無くされたという事案において、開業費用の一定割合を賠償金として認めました。

まず、同判決は、事故の影響で廃業をしたとの認定をします。

廃業については、加害者側において事故前から事業が経済的に破綻していたとの主張がありましたが、裁判所は赤字ではなかったとして事故と廃業の因果関係を認めました。

その上で、以下のとおり、開業資金の約5割について賠償を認めました。

「被控訴人が開業時に支出した前記費用は,主に内外装工事費や取り外して搬出することが困難な諸設備の設置工事費用であること,賃貸借契約の内容からして,被控訴人が有益費償還請求権等を行使して前記投下資本の回収を図るのは困難と解されることのほか,開業時から廃業までの期間経過による内外装及び諸設備の劣化,陳腐化等の諸事情に照らすと,被控訴人が開業時に支出した前記費用564万6200円の約5割に相当する280万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。」

廃業をした場合でも労働能力がある範囲内においてどこかで稼動できたという言い分は可能です。

しかし、それでも自営をしていた事業に従事できなくなれば投資資金がムダにはなりますので、廃業の場合に投下資金の一定割合の賠償を認めるのは合理的と考えられます。

4 代替労働力と休業損害

交通事故で休業し、収入が減った場合、その分が休業損害として賠償の対象となることはよくあることです。

それとは別に、営業を継続するため、代替労働力を雇い入れることもあります。

そのような場合、代替労働力の雇い入れの費用などが休業損害として賠償の対象となることもあります。

代替労働力の費用を休業損害として認めたさいたま地裁越谷支部判決

さいたま地裁越谷支部平成28年5月26日判決は、以下のとおり述べて、被害者の休業に伴う代替労働力の費用について賠償の対象としています。

「原告は,水道設備業を1人で営む事業所得者であり,水道管等の取付け,水道設備等の漏水のチェック,修理,取替えなどを主な業務としている。」
「原告の収入金額は,平成22年は1315万5722円,本件各事故が発生した平成23年は1227万2635円であり,若干減少したものの,平成24年は1324万5261円,平成25年は1359万4888円と,本件各事故前の額を上回っている。一方,原告は,本件各事故による傷害によって,業務に支障が生じたことから,本件各事故後に代替労働力を使用しており,その費用は,平成23年から症状固定日である平成24年6月1日までで174万5400円であった。」

「平成23年及び平成24年において,収入金額がほぼ維持されたのは,原告が,本件各事故後,それまでに使用しなかった代替労働力を使用したためであって,その費用は,平成23年から症状固定日である平成24年6月1日までで174万5400円であったところ,これは本件各事故による損害といえる。」

このように、同判決は、代替労働力の費用のみ休業損害として認めています。

代診費用について休業損害として認めた裁判例

また、東京地裁平成25年7月16日判決も、以下のとおり述べて、代診の費用を損害として認めています。

「原告は,D医師に対し,平成20年6月4日から同年10月16日まで,本件クリニックにおける診療業務の一部の担当を依頼し,その代診費用として合計90万円を支払ったと認められる。」
「原告は,本件事故の翌日から本件クリニックにおける診療業務に従事しているが,原告が本件事故により負った傷害の内容及び程度に照らすと,ネックカラーが外れた平成20年8月18日まではもちろん,その後の一定期間においても,原告にとって,痛み等を抱えつつ,本件クリニックを受診する種々の患者に個々に対応し,診察や検査を行うという業務に従事し続けることは,相当の困難と労苦を伴ったであろうことは,容易に推認することができる。」
「そうすると,平成20年6月から同年10月中旬までという本件事故から約4か月半の期間において,週1回程度(ほぼ木曜日),原告が自ら従事すべき診療業務の一部の代替を1回当たり5万円で他の医師に依頼し,本件クリニックの診療体制を維持することによりその収入の確保を図るということは,損害の拡大を防ぐという観点からも,なお相当性を有するものということができ,収入を確保するために余計に要した経費として,後記(9)の休業損害とは別に本件事故によって生じた損害であるということができる。」
「したがって,D医師に対する代診費用90万円の支払は,本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。」

なお、代替労働力を導入しても、収入減がある場合、代替労働力の費用と減収分が休業損害として認められます。

5名分の代替労働力の人件費を休業損害として認めた裁判例

代替労働については、必ずしも被害者と同じ人数分しか休業損害が認められないわけではありません。

被害者が仕事においてはたしている役割が大きい場合、複数人数の代替労働を入れる必要があったとして、複数人数分の人件費が休業損害として認められる可能性があります。

横浜地裁令和7年4月25日判決は、「原告Aは、海の家を経営しているところ、上記⑴の受傷及び捜査機関の取調べへの対応のため2か月間海の家での業務を休業しなければならなかったと認められる。そして、店の全体について目配りのできる経営者である原告Aの代替としてアルバイト従業員で対応するためには同時間帯に複数人を雇用する必要があり、原告Aの主張する日時において、5名を原告Aが休業していた間の補充として雇用する必要があったと認められるため、原告Aに生じた休業損害は37万5375円と認められる。」として、同時間帯に複数人を雇用する場合の人件費を休業損害として認めています。参照:代替労働力と休業損害についての裁判例

5 赤字の自営業者と休業損害

赤字の個人事業主が交通事故に遭い、赤字が拡大する場合がありえます。

そのような場合の休業損害の計算方法は必ずしも統一されていません。

横浜地裁平成26年12月26日判決は、以下のとおり述べ、所得の減少額のうち、7割を休業損害の基礎としています。

「本件事故前の所得金額については,原告は平成19年度に事業を開始したばかりであるから,同年度の所得金額と翌年(本件事故の前年)である平成20年度の所得金額の平均値を採用すべきところ,原告が事業を開始した平成19年度以降,休業期間(平成21年3月25日ないし平成22年4月9日)を含めた平成23年度(記録上窺える会計年度)までの所得は大幅な赤字傾向にあることは上記のとおりであるから,休業期間中の所得の減少は,専ら本件傷害による就労制限によるものではなく,原告の事業の経済効率の悪さ,社会・経済状況の変動及び同業者との競合等による受注減少という可能性も否定できない上,本件傷害が漸次回復することからすれば,原告の休業損害については,休業期間中の所得減少額のうち,7割の限度で本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。」

その他、賃金センサスを参考に算定する事例もあります。

また、休業損害を認定せず、慰謝料算定の上で考慮すべきとする裁判例もあります。

4 家事従事者、無職者の休業損害

会社役員の休業損害

会社役員については、報酬のうち、労務提供の対価部分を基準として休業損害の計算をすることになります。

対価部分については、現場仕事を実際にしているかどうか、報酬額がどの程度かなどにより決まってきます。

家事従事者、主婦・主夫の休業損害

家事従事者の休業損害の計算方法

家事従事者については、賃金センサスという統計を基準として休業損害が算定されることになります。

例えば、大津地裁令和7年1月17日判決は、77歳の専業主婦について、基礎収入は日額8116円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳~の平均賃金296万2200円÷365日)をもとに、家事労働ができなかった日について休業損害を認定しています。参照:主婦の休業損害を認定した裁判例

高齢主婦・主夫の休業損害

高齢主婦・主夫については、その年齢層の賃金センサスをもとに休業損害を計算することが多いです。

例えば、,京都地裁令和3年11月9日判決は、67歳主婦の休業損害について、賃金センサスのうち、学歴計・女性65歳から69歳平均賃金を基準に算定をしています。参照:高齢の主婦についての休業損害を認定した裁判例

兼業主婦・主夫の休業損害

パートなどに従事している主婦については、パート収入と賃金センサスの数値と大きい方を基準に休業損害の計算がされることになります。

函館地裁令和6年5月8日判決は、「兼業主婦の基礎収入を算定にするに当たっては、就労による収
入と前記平均賃金の高い方を採用するのが相当」として、高い方の賃金センサスの数値を前提に休業損害の算定をしています。参照:兼業主婦の休業損害を認定した裁判例

一部しか家事ができなかった場合の休業損害

主婦・主夫については、家事労働の対価がないので、一部しか家事ができなかった場合の評価が困難ではあります。

裁判所は、ある程度家事ができたと思われる状況では、賃金センサス上の平均収入の一定割合が失われたという形で休業損害を認めます。

例えば、,東京地裁令和4年1月27日判決は、「負傷の程度が腕の骨折であることを踏まえても,すべての通院日に家事労働が全くできない状態であったのかという点については疑問を差し挟む余地が
ある」として、通院日における労働能力喪失率は通院日全体を通じて70%とするのが相当である。」としています。参照:割合的な休業損害の認定をした裁判例

無職者の休業損害

無職であった人でも、事故がなかった場合の就労の可能性があったようなときには休業損害が認められることがありえます。

休職活動中であったかどうかが重要な要素となります。

5 会社役員と休業損害

交通事故で会社勤めの人がケガをし、やむをえず欠勤した場合、基本的には減収分が休業損害として賠償の対象となります。

しかし、会社役員が受け取っている役員報酬については、その一部が労務の対価ではなく、実質的には配当などの意味を持つことがあります。

そのため、必ずしも役員報酬全額について休業損害が認められるわけではありません。

収入の一部についてのみ休業損害を認めた事例

労務対価部分を80%とした裁判例

例えば、大阪高裁平成30年11月22日判決は、「控訴人会社は本件事故当時,正規従業員3名,アルバイト従業員2名を雇用していたことが認められ,小規模ではあるものの会社組織を採用している以上,役員報酬には労務提供の対価とは評価できない部分が存するといえる。そして,控訴人会社の業務内容,想定される従業員の給料額などを考慮すると労務対価部分は80%とするのが相当である。」として、労務対価部分を80%と認定しています。なお、会社は建築請負業であり、被害者は営業や現場作業に従事していました。

賃金センサスを用いて労務対価部分を計算した裁判例

労務対価部分の割合を認定する証拠がない場合、賃金センサスを用いて算定することもあります。

例えば、横浜地裁平成30年3月9日判決は、「給与収入の中には,労務提供の対価に相当する部分と利益配当の実質を持つ部分とがあることが想定されるところ,これらを明確に区別して把握し得る証拠資料がないことからすると,上記給与収入額に基づいて原告の休業損害額を算定することは相当とはいえない。そこで,原告については,労務提供の対価に相当する収入として,少なくとも,本件事故当時の原告の年齢(36歳)に対応した賃金センサス男性学歴計35~39歳の年収額である533万5000円程度の収入があったものと認め,同金額に基づいて休業損害額を算定することとする。」としているところです。

収入の全部について休業損害を認めた事例

しかし、1人会社であること、役員が業務を全部やっていたなどの事情があれば、役員報酬全額分について休業損害として認められることもあります。

役員報酬とほぼ同額をもとに休業損害を算定した裁判例

例えば、東京地裁平成28年11月17日判決は、以下のとおり述べ、役員報酬360万円のところ、ほぼそれに匹敵する345万9400円を休業損害の対象として考慮すべきとしました。

原告は,Eから役員報酬として360万円(月額30万円)の支払を受けていたのであり,その基礎収入は同額とすべきである旨の主張をする。
しかしながら,Eは,原告らの自宅を本店所在地とする一人会社であり,代表取締役であるAが,印刷機器の販売等を行っていたこと,これに対し,原告は,家事労働に従事しつつ,その経理事務等を手伝っていたにすぎないこと,② 監査役であるGは,本件事故当時,Eの経理事務等を手伝い,月額8万円の支払を受けていたことが認められ,かかる事実に照らすと,原告の役員報酬のうち労務提供の対価に相当する部分(原告の基礎収入)は345万9400円(平成22年賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金)とするのが相当である。

1人会社について賃金センサスをもとに休業損害を認定した裁判例

ここでは、1人会社であることなどを踏まえ、賃金センサスを基準として休業損害額が定められています。

千葉地裁平成6年2月22日判決は、以下のとおり述べ、役員において肉体労働に従事することが多かったことなどから、役員報酬全額を休業損害の基礎となるものとしました。

反訴原告X1が建物解体工事・建材卸業等を主たる営業目的とする反訴原告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがなく、乙第一五、第一六号証、第一八、第一九号証及び反訴原告X1本人尋問の結果によれば、反訴原告会社は、平成二年二月二六日の臨時社員総会で、同年一月以降の反訴原告X1の役員報酬を月額金一〇〇万円とすることを議決し、反訴原告X1は、役員報酬として、同年一月から同年五月までに合計金五〇〇万円の支給を受けたが、本件事故後、職務を遂行することができなかったため、同年六月から同年一一月までの六か月分合計金六〇〇万円の支給を受けなかったこと、反訴原告会社は反訴原告X1の個人会社であり、同反訴原告の職務内容も、受注の際の見積りのほか、ダンプ・重機の運転及び土砂・廃材等の積み降ろし等の肉体労働が多く、右役員報酬はその全額が労務提供の対価と見るべきであり、税務上も給与所得として取り扱われていることが認められる。そうすると、本件事故と相当因果関係のある反訴原告X1の休業損害は、同年六月から同年八月までの三か月分の右役員報酬合計金三〇〇万円であると認めるべきである。

従業員16人の会社で報酬全額を労務提供の対価として認めた裁判例

福井地裁平成27年4月13日判決は、従業員16名の会社でもう1人とともに基幹業務を担い、売り上げの3分の2について受注していた代表取締役について、報酬額全額が労務提供の対価だとしました。参照:役員報酬全額を労務提供の対価とした判決

このように、会社役員の交通事故については、会社や勤務の実態などにより休業損害額がかわってくることがあります。

それらの適切な主張立証が重要となります。

交通事故で会社が被った損害について賠償請求できるか?

従業員がいないか、ごく少数の会社で、役員と会社が経済的に一体をなすような場合、役員が休業し、それにも関わらず会社が役員報酬を支払い続けた場合、役員報酬のうち、労務対価部分については会社が加害者に賠償請求できる可能性があります。

さいたま地裁令和3年5月28日判決は、「被害者が個人事業として営んでいた土木建築業を平成26年6月1日,法人成りしたものであり,被害者が株式を全部保有している。被害者が役員を務める会社は,平成27年11月以降の従業員数が3ないし5名(うち2名は被害者の子)という小規模な同族会社であり,被害者が役員を務める会社の事業に不可欠な重機(ユンボ)の運転免許を有するのは被害者だけであることなどからしても,被害者はその役員を務める会社において他者により代替できない地位にあり,両者は経済的に一体である。」と判断し、会社が被害者が休業しても労務対価部分(8割)も含めて役員報酬を払い続けたとして、会社から加害者に対する役員報酬の8割分の賠償請求を認めました。

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