将来介護費(交通事故)

交通事故

1 交通事故と将来介護費

交通事故で介護が必要となった場合、症状固定まではもとより、それ以降についても平均余命の間、将来介護費を認めることがあります。

職業付添人と親族による介護について将来介護費を認めた事例

例えば、大阪地裁平成31年1月30日判決は、四肢完全麻痺の被害者について、平均余命分について、親族による介護と職業介護人による介護とを分け、前者については1日6000円、後者については1日8000円を認めています。

実際にかかった価格から将来介護費を認めた事例

また、大阪地裁平成31年1月24日判決は、失見当識などの後遺障害の残った被害者について、以下のとおり述べて、実際に要した介護費用から将来介護費を算定し、その賠償を認めました。

平成21年5月30日から平成30年4月30日までの3258日間のうち入院していた102日間を除く3156日間に要した介護費は,合計3616万7168円であり,日額1万1459円となる。そして,症状固定時(平成21年5月29日)の原告の年齢が76歳であることに照らせば,以後,平均余命の約14年(平成21年簡易生命表によれば14.67年)につき同様の介護を要すると認められ,ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除すると(14年に対応する係数は9.8986),原告の将来介護費は,4140万1240円(11,459×365×9.8986)となる。

このように、現実に介護費用を払った実績があると、それが将来介護費の基準となることもあります。

1・5人分の将来介護費が認められた事例

一般的な介護費用に割増がされる場合もあります。

広島高裁令和3年9月10日判決は、

・被害者は,日常生活に介助を要する上,本件事故による負傷で生じた不規則なてんかん発作に備える必要があって,意識障害を伴わない複雑部分発作は月3ないし10回程度に及んでおり,特に年1ないし3回程度にはとどまるが,重積発作が発生したときには直ちに救命措置(気道確保等)を講じないと生命の危険があり,実際,重積発作でしばしば救急搬送されて入院していること,

・1人の介助者が救命措置を講じながら,救急車搬送の手配をすることは困難があること,

・医師も,控訴人Aにてんかんの重積発作が起こった場合,付添人一人が付きっ切りで救命処置を講じなければ命を落とす可能性があり,同時に救急搬送の手配をする余裕はなく,他に1名,救急搬送の手配をする者が必要である旨の意見を記載した回答書を作成していること,

・介護サービスを利用する際も介護スタッフから万が一の事態が生じた場合の不安を懸念する声が上がり,親族が不在である時,安全な場所への移動が難しい入浴時や外出時は,2人の態勢をとっており,関係行政当局もこれを容認していること

等複数の付添人を要する事情もある場合について、「近親者付添人については,1名による一般的な付添費用8000円の1.5倍に相当する1万2000円,職業付添人については,1名による一般的な付添費用2万円の1.5倍に相当する3万円と評価するのが相当である」として、1・5人分の介護費用を認めました。

介護保険給付分の控除

将来介護費の賠償を認める場合には、従来、介護保険給付があったとしても、将来介護費においては考慮されないのが通常です。

 

以上のように将来介護費については、認められる場合でも計算方法が区々です。

適正な賠償を受けるためには弁護士の対応が不可欠です。

なお、後遺障害のある被害者が死亡した場合の将来介護費もご参照ください。

2 3級以下の後遺障害の場合でも介護費用が認められるか

ところで、介護費用が賠償される事例の多くは1,2級の後遺障害が残った事例です。

しかし、3級以下の後遺障害であっても介護費用の賠償が認められる場合があります。

3級以下で介護費用の賠償が認められるのは、高次脳機能障害の事例がかなり多く、また、脊髄損傷や下肢の重度障害の事例も多くみられます。日常生活を送る上で他者の監視が必要である場合、排尿排便・食事・衣服着脱・入浴といった日常生活に支障がある場合に介護費用の賠償が認められやすいとされます。介護費用は1日2000~3000円の範囲内が多いです(以上、蛭川明彦裁判官「後遺障害等級3級以下に相当する後遺障害を有する者に係る介護費用及び家屋改造費について」赤本2007年版所収)。

 

東京地裁平成13年7月16日判決は、被害者が骨盤骨変形等により併合7級の後遺障害が認定された事案についての判決です。被害者には主に下肢の後遺障害が認定されています。

裁判所は、「原告は,1本杖又は両松葉杖を使用して歩行可能であり,室内では松葉杖を使用又は壁をつたって歩くなどして家事を行っているが,10分程度約200メートル歩くと下肢痛が発生し,片道5分以上の距離を往復する必要のある外出の際には車椅子を使用している。また,体重を右にかけるので右膝が痛み,左足関節の可動域が限られているので,かかとを着けずつま先で体重を支えるため左腰が痛む。」としています。

この事案について、支出実績などから、月3万1439円の職業付添人の費用の賠償を認めています。

 

東京地裁平成16年9月22日判決は、高次脳機能障害等で併合4級に認定された被害者についての判決です。

裁判所は、「原告は,地下鉄に乗るなど交通機関の利用はできないこと,火をつければ,消すのを忘れてしまう,洗濯物を洗濯機の中に入れたまま干すのを忘れてしまうなどの状態であることが認められる」としています。

その上で、常時監視は必要ないとしつつ、随時介護が必要だとして、1日あたり2000円の介護費用の賠償を認めています。

 

このように、3級以下であっても、後遺障害の内容や症状によっては介護費用の賠償が認められる場合もあるので注意が必要です。

3 介護施設入所の場合と居住費、食費、近親者付添費、入所一時金

介護施設入所の場合、介護施設に支払う費用が将来介護費の基準となります。

ここで問題となるのが、介護施設に入らなくても要する可能性のある居住費、食費です。

介護施設に入ることによりアパートを引き払い賃料がかからなくなった場合には居住費は賠償対象となりにくく、持ち家に住んでいた人の場合は賠償対象となりやすいと言えるでしょう(赤本下巻2021所収の齊藤恒久裁判官「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題」61頁)。世帯全体で考え、事故前後で居住費が増えるかどうかというのが一般的な基準となると思われます。

食費については、施設入所しなくても要するものであるとして損害とは認めにくいものの、胃ろうにおける栄養剤の費用については損害として認めた裁判例があります(赤本下巻2021所収の齊藤恒久裁判官「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題」61頁)。

近親者付添費については、施設スタッフが介護を行うことになるため、原則として認められないとされます(赤本下巻2021所収の齊藤恒久裁判官「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題」62頁)。被害者の不穏等のために付添が強く求められる場合には賠償を認めるべきではないかと思います。

入所一時金について、赤本下巻2021所収の齊藤恒久裁判官「重度後遺障害の将来介護費の算定に関する諸問題」62頁は、特養に入所できないような状況があり、入所一時金のある施設に入らざるを得ない場合に認められるとします。しかし、なぜ特養に入るか、入所一時金を要する施設に入るか、被害者の選択権が認められないのでしょうか。入所一時金も原則損害賠償の対象となることを認め、ただしそのうち住居費部分等については賠償として認めないという扱いが妥当と考えます。

4 将来介護費と中間利息控除

将来介護費については中間利息控除がされます。

中間利息控除

を参照してください。

5 新潟で交通事故のご相談は弁護士齋藤裕へ

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