執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 交通事故と重度心身障害者医療費助成制度
1 交通事故と重度心身障害者医療費助成制度
交通事故に遭い、重度の心身障害が残った場合、医療費の助成を受けることができる場合があります。
これを重度心身障害者医療費助成制度といいます。参照:新潟県の重度心身障害者医療費助成制度サイト
この制度の内容は自治体によって違います。
以下、新潟市の制度についてご説明します。
新潟市では、身体障害者手帳1から3級、療育手帳A,精神障害者保健福祉手帳1級の方は、医療費助成を受けることができます。
その場合の自己負担額は以下のとおりです。
・外来 月4回まで1日530円、5回目以降0円
・入院 1日1200円
・薬局 0円
・訪問看護 1日250円
・治療用装具 0円
これは保健診療についてのみ適用される制度であり、自由診療では適用されません。
申請時には、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳、健康保険証、印鑑、本人確認ができるものなどが必要となります。
この制度については自治体により違いがありますので、申請時には各自治体に予めお問い合わせいただけるとよいと思います。
同制度を利用したために、医療費がかからなかった分については損害賠償請求の対象とはなりません。
しかし、将来の医療費を請求する場合については、将来においても同制度が存続しているか、しているとして要件か支給額などが同一かどうかは定かではないため、同制度の利用を考慮しない損害賠償額の算定がなされます。
例えば、札幌地方裁判所平成28年3月30日判決は、以下のとおり、過去の医療費については同制度による助成額を控除した額を損害額としつつ、将来の医療費については同制度による助成額を控除しない扱いとしています。
「原告X1は,平成28年1月まで,国民健康保険法に基づく保険給付及び江別市重度心身障害者医療費助成条例に基づく助成を受け,入院に伴う医療費を支払っていないが,その後は,同様の保険給付等の存続が確実であるということはできないから,損害から控除すべき保険給付等は,当初の3年のものであるというべきである。」
このような扱いは、将来制度がどうなるか判然としないということを理由として福祉的給付全般について共通になされているものです。
交通事故で重い障害を負った場合については、重度心身障害者医療費助成制度の利用も含めてご検討されるとよいと思います。
そのために健康保険を使った方がよい場合も多いでしょう。
2 NASVAの介護料支払い
1 NASVAの介護料支払(交通事故)
NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)は交通事故被害者のために様々な活動をしています。
今回は、NASVAによる介護料の支払いについて御紹介します。
2 NASVAの介護料支給の要件
NASVAの介護料は、以下の方に支給されます。
Ⅰ 最重度
脳損傷がある場合
自力移動が不可能
自力摂食が不可能
失禁状態にある
意味のある発語が不可能
目をあけ、手を握れという簡単な命令にはかろうじて応ずることはあるものの、それ以上の意思疎通が不可能
脊髄損傷がある場合
自力移動不可能
自力摂食不可能
失禁状態
人工介添呼吸が必要
Ⅱ 常時要介護
後遺障害等級別表第一1級1号、2号
Ⅲ 随時要介護
後遺障害等級別表第一2級1号、2号
3 NASVAの介護料支給額
4 NASVAの介護料の手続
5 損害賠償金との関係
基本的には介護料は損害賠償額から引かれないという扱いでよろしいかと思われます。
例えば、名古屋地裁平成23年2月18日判決は以下のとおり述べています。
「独立行政法人自動車事故対策機構の介護料は,交通事故被害者に対する支援という社会福祉的な施策の一環として捉えられるべきものであり,損害の填補としての性質を有しないというべきであり,損害からの控除をすることは認められない。」
3 身体障害者手帳
1 交通事故と身体障害者手帳
交通事故により身体障害が生じた場合、身体障害者手帳の交付を受けることができる可能性があります。
この身体障害者手帳を受ける人は、障害の程度に応じ、1級から7級までの級別に分けられ、級により受けられるサービスが異なります。
例えば、上肢について言うと、両上肢の機能を全廃した場合、あるいは両上肢を手関節異常で欠く場合には1級に認定されます。
また、1上肢の機能の軽度の障害、一上肢の肩関節・肘関節又は手関節のうちいずれか一関節の機能の軽度の障害、一上肢の手指の機能の軽度の障害、ひとさし指を含めて一上肢の二指の機能の著しい障害、一上肢のなか指・薬指・及び小指を欠くもの、一上肢のなか指・薬指及び小指の機能を全廃したものに該当すると7級に認定されます。
2 手帳を所持している交通事故被害者が受けることのできるサービス
身体障害者手帳をもっている人は、障害者総合支援法に定める福祉サービスなどを受けることができます。
障害者総合支援法が定める福祉サービスには、居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、短期入所(ショートステイ)、療養介護、生活介護、施設入所支援(障害者支援施設での夜間ケアなど)、自立訓練(機能訓練・生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援(A型=雇用型、B型)、就労定着支援、自立生活援助、共同生活援助(グループホーム)、移動支援などがあります。
3 身体障害者手帳と損害賠償金との関係
交通事故による損害賠償金から障害者総合支援法にもとづく福祉サービスにより受給などした分を引くかどうかについては、裁判例において引かなくてもよいとの判断がなされているところです。
例えば、名古屋地裁平成29年10月17日判決は、以下のとおり、過去分・将来分含めて引かなくて良いとの判断を示しています。
「このように,Aに必要な介護費用は,現状,その大部分が公的給付によって賄われているが,障害者総合支援法に基づく公的給付は,障害者の福祉の増進を図ることを目的とするもので(同法1条参照),損害の補填を目的とするものではない。同法には,給付を行った市町村等による代位の規定も設けられていない。かえって,介護保険給付が障害者総合支援法に基づく給付に優先するとされ(同法7条),かつ,介護保険給付については,第三者から損害賠償を受けたときは,市町村は,その価額の限度において,保険給付を行う責を免れるとされている(介護保険法21条2項)。そうすると,将来にわたって,Aに対して現在と同水準の公的給付が維持されるという蓋然性までは認め難く,困難な将来予測の場面で,現状の公的給付を所与の前提として将来介護費を算定することは,相当ではない。したがって,同法に基づく公的給付は,既給付及び将来給付の分も含めて,損益相殺的調整を図るべきものではないと解するのが相当である。」
ですから、障害者総合支援法による支給分については考慮しないで損害賠償請求するという取扱いでよろしいかと思われます。
4 療育手帳
1 交通事故と療育手帳制度について
交通事故で精神機能などに障害が生じた場合、療育手帳の交付を受け、様々なメリットを受けることができることがあります。
この制度については自治体毎に違いがありますが、以下、新潟県療育手帳制度についてご説明します。
2 療育手帳制度の対象者
対象者は以下のとおりとされています。
障害程度A(重度)
1 知能指数がおおむね35以下で、日常生活において常時介助または監護を必要とする人
2 肢体不自由、盲、ろうあなどの障害(身体障害者手帳1級、2級または3級に該当するもの)を有し、知能指数がおおむね50以下であって、日常生活において常時介助または監護を必要とする人
障害程度B(その他)
A(重度)に該当しない人
3 療育手帳制度の手続
市福祉事務所、町村役場の福祉担当課に申請していただきます。
児童相談所または知的障害者更生相談所の面接判定を受けることになります。
4 療育手帳所持のメリット
療育手帳を持っていると、以下の手続において措置を受けやすくなるとされています。
・特別児童扶養手当
受給資格の認定の際、Aの表示があり、直近の判定などから2年以内の手帳の提示がある場合、必要な診断書の提出を省略して差し支えないとされています。
・心身障害者扶養共済
手帳所持者の障害証明は、市町村長がしてさしつかえないとされています。
・国税・地方税の諸控除・減免税
手帳を提示することにより、Aの表示のある手帳所持者は所得税、住民税とも特別障害者控除が適用されます。
Bの表示のある手帳所持者は障害者控除が適用されます。
その他、自動車税、軽自動車税又は自動車取得税の減免税に関し、県福祉事務所長または市社会福祉事務所長が証明を行う場合、Aの記載がある手帳によって障害認定をして差し支えないとされています。
・公営住宅の優先入居
手帳所持者について、県福祉事務所長又は市町村長が資格を証明してさしつかえないとされています。
・NHK受信料の免除
手帳所持者について、市町村長が資格を証明して差し支えないとされています。
・重度心身障害者医療助成事業
市町村長は手帳にAの記載があるかどうかにより障害の確認を行ないます。
・旅客鉄道株式会社等の旅客運賃割引
5 精神保健福祉手帳
1 交通事故と精神障害者保健福祉手帳
交通事故により精神機能に障害が生じることがままあります。
脳が損傷することにより記憶などが障害されることもあれば、うつ病になることもあります。
そのようなとき、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けると、様々なサービスを受けることができるようになりますので、取得をご検討いただけるとよいと思います。
2 障害等級
精神障害者保健福祉手帳においては3段階の障害等級に分類されます。
1級 精神障害であって日常生活の用を弁することを不可能ならしめる程度のもの
器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、そのうち一つ以上が高度のものが該当します。
2級 精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、そのうち一つ以上が中等度のものが該当します。
3級 精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活もしくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの
器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、いずれも軽度のものが該当します。
3 精神障害者保健福祉手帳所持により受けられるサービス
精神障害者保健福祉手帳を持っていることで、障害等級に応じて様々なサービスを受けることができます。
サービスは自治体によって違いますが、例えば長岡市では以下のサービスが受けられるようになります。
・自立支援医療(精神通院)の手続簡素化
・精神障害者医療費助成の手続簡素化
・重度障害者医療費助成制度の適用
・生活保護法の障害者加算
・タクシー利用券の交付・自動車燃料税の助成
・後期高齢者医療制度への早期加入
・国民健康保険料の減免
・税制上の優遇措置
・公共料金等の割引
・施設入館料及び使用料の免除・軽減
・日常生活用具(頭部保護帽)の給付
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