執筆者 新潟弁護士会所属 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 自筆証書遺言の効力
自筆証書遺言は自分だけで作成することができる気軽なものです。
自筆証書遺言については、民法968条が以下のとおり定めています。
「第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」
このように自筆証書遺言は、形式的要件を満たせば、他人の関与は不要ですし、気軽に作成できます。
しかし、形式不備、遺言能力、そもそも本人が書いたかをめぐって効力が争われることも多いです。
以下、遺言能力について解説します。
2 遺言能力はどうやって判断するのか?
東京地裁令和1年12月17日判決は、遺言能力について、「遺言当時,遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足る能力(遺言能力)が必要であるところ,遺言能力の有無については,遺言者の年齢,病状を含めた心身の状況及び健康状態とその推移,遺言時及びその前後の言動,遺言の内容等を総合考慮して判断すべきである。」としています。
裁判例もおおむねこのような基準で判断をしてきています。
東京地裁令和4年12月6日判決は、遺言能力について、
・遺言者はアルツハイマー型認知症にり患していたことは認められるものの、長谷川式認知症スケールの検査結果が18点であったというのであるから、当時の認知症の程度は軽度であったこと
・遺言の筆跡は、やや震えが見られるものの、文字は判読可能であること
・その後、遺言者が補助開始の審判を受けるにとどまっていること
から遺言能力を認めました。
東京地裁令和4年10月6日判決は、遺言能力について、
・平成31年1月当時においては、軽度の物忘れはあったものの、S状結腸癌の再発確認に関する検査の結果についての説明を理解し得る能力を有し、令和元年5月当時においても、家族の問題や自らの近況を的確に説明し得る能力を有していたものであり、認知機能の低下が指摘されたのは同年10月に至ってからであること、
・同年10月及び11月当時には、遺産分割調停の期日に自ら出頭するなど、一定の社会的行動をとることができていたこと
・本件遺言の内容は遺言者が有する一切の財産を特定の者に相続させるという単純なものであること
から遺言能力を認めました。
東京地裁平成30年1月30日判決は、「本件各遺言時点における亡B1のアルツハイマー型認知症の重症度につき検討するに,(1)の周辺症状の内容,頻度等に照らすと,亡B1の記憶力及び見当識は,遅くとも経過記録に記載された期間の終盤に当たる平成24年9月ないし10月頃には著しく低下していたものと推認できる。」として遺言能力を否定しています(アルツハイマー型認知症に罹患しているだけではなく、その重症度について判断していることに御注意ください)。
自筆証書遺言では、このような遺言能力をめぐる問題が発生しやすいです。
面倒であっても公証人を関与させる公正証書遺言の方が後日争われにくいので無難ですので、特に高額の遺産が問題となるときは公正証書遺言を選択すべきでしょう。
また、弁護士を関与させ、遺言能力があることを示す資料を残しておくとより良いです。
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