執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と症状固定後の治療費
1 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と症状固定後の治療費
1 症状固定後の治療費
交通事故による傷病のための治療費は賠償の対象となります。
しかし、これ以上治療しても症状がよくならないという症状固定以降の治療費は通常賠償の対象とはなりません。
他方、重度な後遺障害が残った場合を中心に、症状固定後の治療費の賠償が命じられることもあります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)についても症状固定後の治療費が認められることがあります。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と症状固定後の治療費
大阪地裁平成28年8月29日判決は、1級1号の四肢麻痺の被害者について症状固定後の治療費の賠償を認めました。
この被害者は、「左右の上下肢が「廃用」,体幹についても「座っていられない」とされ,身の回り動作能力は,すべてが「全面的に介助」とされた。認知・情緒・行動障害に関しては,「ふさぎ込む,気分が落ち込む」が「中等度/ときどき」であり,「疲れやすく,すぐ居眠りする」,「自発性低下,声かけが必要」,「感情の変動が激しく,気分が変わりやすい」及び「夜,寝つけない,眠れない」がいずれも「軽度/稀に」となっているほかは障害なしとされた。全般的活動及び適応状況は,四肢麻痺のため全面介助を要し,呼吸筋麻痺による換気不全があり,痰喀出困難のため気管切開部より痰吸引を要し,膀胱障害のため膀胱カテーテル留置中」という状態でした。
判決は、このような後遺障害を踏まえ、「原告X1は,症状固定後も,平成26年2月までの2年6か月余りの間,東香里病院に入院して治療を受けていたところ,原告X1の後遺障害の内容・程度等からすると,症状固定後の入院治療も必要かつ相当なものであったと認められる。」としました。
この他にも、脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の被害者について症状固定後の治療費の賠償を認めた裁判例は多くあります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)については終生医療の介入が必要となることが多いため、適切に症状固定後の治療費の賠償を行う必要があります。
また、特別室、個室利用料も認められることが多いことにも注意が必要です。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と付添看護費
1 交通事故と付添看護費
交通事故で入院した場合、親族が立ち会うことが多くあります。
しかし、現在では完全看護であり、親族が立ち会う必要がないとして、親族が立ち会ったことによる損害である付添看護費が認められないことがあります。
他方、重度の後遺障害の場合、親族が立ち会う必要性が認められ、付添看護費が認められることが多くあります。
以下、脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の場合についてみていきます。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と付添看護費
脊髄損傷で1級の後遺障害が残った被害者についての名古屋地裁平成5年8月27日判決は、以下のとおり述べ、親族の付添看護費の賠償を認めています。
「入院中から現在まで、一人では起立・歩行・体動がすべて困難で、胸部以下の知覚も脱失し、膀胱・直腸にも障害がある等の状態が継続しており、また、退院時までは呼吸管理のため咽喉部を切開してカニューレを入れていたほか、入院当初は、「殺してくれ。」等と叫ぶなど精神的に不安定な状態であった、②このため、右入院中も、付添人がついて、褥創防止に二、三時間毎に二人がかりで寝返りを打たせ、排尿・排便を始末するなどの看護をしており、(a)入院当初の約一か月は、近親者三名が、(b)平成二年八月二六日から一〇月三日までは、家政婦と近親者との二名が、(c)それ以外の時期は、近親者一名が、それぞれ常時原告X1に付き添って看護していた」
「右付添看護のため、家政婦費用として六八万二五七七円を、同じく付添のための近親者の通院交通費として八一万五二〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。また、原告X1には、前示入院期間四三九日間につき常時近親者一名の付添が必要であり、これに加えて、右(一)(a)の三〇日間更に二名の近親者の付添を要したものと認められるところ、その費用を一人一日当たり四五〇〇円と認めるのが相当である。この近親者付添看護の費用を計算すると、次のとおり二二四万五五〇〇円となるから、結局以上を合計すると、付添看護費用の総額は、三七四万三二七七円となる。」
大分地裁平成23年3月30日判決も、1日6000円の付添看護費を認めています(参照:付添看護費を認めた判決)。
このように、寝返りなどを援助するため、不穏状態を抑えるための親族の付添について付添看護費が認められています。
ただちに命にかかわる状況でなければ脊髄損傷であるということだけでは付添看護費用は認められにくいので、不穏抑制や寝返り援助など親族付添の必要性を的確に主張立証することがポイントとなります。
3 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と将来介護費
1 交通事故と将来介護費
交通事故で重大な後遺障害が残り、介護が必要となった場合、将来介護費が賠償されることがあります。
特に脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)については高い確率で将来介護費の賠償が認められることになります。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と将来介護費
目次
1日1万6000円の将来介護費を認めた事例
1日1万6000円の将来介護費を認めた事例
大阪高裁平成16年6月10日判決は、両上肢麻痺等の被害者について、職業付添人による介護を前提に、日額1万6000円の介護費用の賠償を認めています。
このケースにおいては、被害者の妻が介護をしていましたが、それは経済的負担を考慮してのことでした。
そこで、判決は、「一審原告X1の状況は,後遺障害等級第1級と重篤であり,将来にわたって常時介護が必要であるが,一審原告X2は現在56歳であること,一審原告X2ができる限り自らが一審原告X1の介護をしようとしているのは経済的負担を考慮しているにすぎず,本来であれば,職業介護人による介護を利用したいと考えていることに照らせば,一審原告X2による介護と上記訪問看護,在宅介護サービス及びデイサービスの利用を併用することを前提に将来介護費用を算定するのは相当ではなく,職業介護人による介護を前提として,将来介護費用を算定するのが相当である。」「一審原告X1の将来介護費用としては,日額1万6000円を認めるのが相当である。」、「一審原告X1は,症状固定時において満59歳であり,平均余命は約22年であるから,そのライプニッツ係数は13.1630である。したがって,将来介護費用の現価は次のとおり7687万1920円となる。」
1日2万9000円の将来介護費を認めた事例
また、大阪地裁平成19年4月10日判決は、四肢麻痺等で1級の後遺障害が残った被害者について、体重90キログラムであることなどから、職業介護1・5人分2万1000円と妻8000円の計2万9000円、60歳以降は職業介護2人分日額2万8000円の将来介護費の賠償を認めました。
大阪地裁平成31年1月30日判決は、脊髄損傷による四肢麻痺(2級)の被害者について、当面は親族による介護費用1日6000円、親族が高齢となり介護が困難になった場合の職業介護人の介護費用として1日8000円を認めました。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)については、被害者の状況に応じて複数人分の介護費が認められたり、家族介護をしていても将来介護費として職業介護人分の費用が認められることもありますので、必要な介護の質・量などについての丁寧な主張立証が必要です。
1日1万円の将来介護費を認めた事例
名古屋地裁令和3年6月18日判決は、外傷性胸髄損傷による立位歩行不可,排尿便障害及び重度体幹下肢感覚障害等の1級1号に該当する重い後遺障害を抱えている被害者について、1日1万円の将来介護費を認めており、介護費用が比較的低廉となっています。
しかし、この事案では、被害者は、「更衣,摘便,入浴,食事等といった日常生活も,外出や稼働といった社会生活もほとんど1人でできている状態で,現在のところ1人暮らしをしてい」たものであり、そのような特殊性が介護費用に反映したものと考えられます。
横浜地裁令和2年1月9日判決も、当面は職業介護人による介護が必要と思われないものの、将来的には必要と思われる脊髄損傷(完全対麻痺、1級)の被害者について、日額1万円のみ介護費用の賠償を認めているところです。
4 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と将来の雑費
1 交通事故と将来の雑費
交通事故で入院を余儀なくされた場合、通常は1日1500円、特別の出費があればその金額について入院雑費として賠償されます。
その他、退院後や症状固定後についても、日々細々とした費用がかかることが想定できる場合、将来の雑費が賠償の対象となります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の場合には様々な器具や消耗品が必要となることが多く、将来の雑費が認められるケースが多いです。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と将来の雑費
日額5万円の雑費を認めた事例
東京地裁平成17年10月27日判決は、脊髄損傷による完全対麻痺の被害者について、「生涯にわたって,完全対麻痺に伴う神経因性膀胱炎により,人工的な導尿が必要であり,そのための用具代等の雑費は,1か月当たり5万円を下らないものと認められる。」とし、平均余命分の雑費として1105万0800円認めています。
1日4万7869円の雑費を認めた事例
大阪地裁平成28年8月29日判決は、別表第1の1級の四肢麻痺の被害者について、以下のとおり述べ、症状固定後について月額4万7869円、将来にわたり911万8953円の将来の雑費を認めました。
「原告X1の主張するマスクや紙おむつなどの物品の購入は,原告X1の病状が安定していたことなど被告らの主張する事情を考慮しても,必要かつ相当なものであったと認められ,症状固定前は日額1500円,症状固定後は原告X1が現実に支出した月額4万7869円を基礎として認めるのが相当である。」
「したがって,原告の主張に係る将来雑費911万8953円は,本件事故による損害として認められる。」
このように脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)については、生活を維持するために求められる器具や消耗品の賠償が認められることもありますし、平均余命までの分となるとそれなりの金額となるので、もれなく請求することが重要です。
将来の雑費を認めなかった裁判例
なお、横浜地裁平成28年8月29日判決のように、脊髄損傷の後遺障害が残った被害者についても将来の雑費を一切認めない裁判例もあります。消耗品等については領収書で口頭弁論終結時までの支出状況を明らかとするとともに、それと症状との関連性を適切に説明することが大事です。
5 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と介護用品代
1 交通事故と介護用品等
交通事故で重度の後遺障害が残った場合、介護用品の購入が必要となることがあります。
そのような場合には介護用品代が賠償の対象となることがあります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の場合でも介護用品が必要となることが多く、その賠償が認められることも多いです。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と介護用品代
目次
車いす代の賠償
車いす代の賠償
東京地裁平成10年3月25日判決は、以下のとおり述べ、胸椎損傷により下半身の機能を失った被害者について、車椅子代(4年毎の買い替え費用も含む)の賠償(労災からの支給は考慮せず)を認めています。
「 車いす代は二二万四三〇〇円である(甲第一四号証)ところ、原告は、一度目の買換えの際、一一万一二六四円の支出をしただけでそれを超える分は労災保険から給付を受けている。」
「しかしながら、労災保険から給付を受けられるか否か、あるいは、労災保険からの給付内容等は、将来において不確定なものであるから、将来の車いす代を算定する際には、労災保険からの給付を考慮すべきではない。」
「それゆえ、原告が車いすを購入した平成八年九月三〇日(ただし、このとき支出した金額は一一万一二六四円と確定しているから、この金額が損害となる。)から四年ごとに車いすを買い換える必要がある」
「すなわち、右車いすを買い換える平成一二年九月二九日(原告は、昭和四六年○月○日生まれであるから二九歳となる。)から原告の平均余命四八年の間に一二回車いすを買い換える必要があることになる。」
「したがって、将来の車いす代は、原告主張の一〇四万一〇三二円を下回らない。」
その他、さいたま地裁平成16年1月14日判決は、脊髄損傷の被害者について、介護ベッド代(10年毎の買い替え費用も)、屋内用・屋外用・屋外リハビリテーション用車いす(5年毎の買い替え費用も)の賠償を認めています。
将来の介護用品代の賠償額は補助金をもらわない前提で計算
これらの介護用品については、国の施策などにより補助がなされることがあります。
しかし、将来の費用については、その施策が続いているかどうか不明であるという理由で、施策によりなされた援助分を考慮しない金額での賠償が認められることに注意が必要です(後述の福島地裁判決も、介護用品のレンタル代について、健康保険から出された分を考慮しない算定をしています)。
同居家族が利用する介護用品代は減額
なお、介護用品の中には、脊髄損傷がなくとも必要となるものもあります。
同居家族も利用する物もあるでしょう。
そのような場合には、介護用品代の一定割合だけ賠償対象とすることになります。
この点、福島地裁平成30年9月11日判決は、「原告の後遺障害の状況からすれば,原告の介護用品として,別紙4・5に列挙される物品などを購入する必要があるが,その中には本件事故で負傷しなくとも使用するもの,加齢に伴い必要となるものも含まれている点に鑑みると,その約半分に相当する年間12万円の限度で損害と認めるのが相当である。そこで,介護用品の購入費用としては,112万7232円(=年間12万円×9.3936【平均余命までの13年ライプニッツ係数】)の限度で損害となる。」として、後遺障害がなくても利用するような介護用品の代金のうち、その半額について賠償を認めています。
6 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と家屋改造費用
1 交通事故と家屋改造費用
交通事故で重度の後遺障害が残った被害者が自宅で生活する際に家屋改造が必要である場合、その費用が賠償されることがあります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の場合、家屋改造を要する場合が多く、家屋改造の費用の賠償を認めた裁判例も多くあります。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と家屋改造費用
目次
532万円の家屋改造費を認めた事例
家族による利用があるとして家屋改造費の賠償額2割を減額した事例
家族による利用がありうるとして家屋改造費の損害賠償額の3割を減額した事例
532万円の家屋改造費を認めた事例
名古屋地裁平成29年12月19日判決は、両下肢に障害を残し,杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であり,中等度の対麻痺があり、後遺症等級7級とされた被害者について、以下のとおり532万8330円の家屋改造費用の賠償を認めています。
「ユニットバスについては,証拠・・・によれば,原告が車椅子で浴室に入り,車椅子から浴槽に入るために特に必要な仕様であったことが認められるから,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」
「水洗便器,水洗カウンター(自動水洗タイプ)及びトイレの人感センサー付き照明器具については,その必要性を認めるに足りる的確な証拠はないから,標準仕様の範囲内で,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。そして,標準仕様における金額は,水洗便器12万円,手洗いカウンター(手洗い,タオル掛け等)5万円,トイレの照明器具5000円である」
「庇(自宅外部のアルミ庇及び玄関横の小庇)については,証拠・・・によれば,原告は,自宅の玄関から駐車場まで車椅子ないし杖を用いて移動しているところ,雨が降っている場合,傘を差すことができないため,濡れてしまうことが認められるから,庇を設置する必要性が認められる。したがって,庇の費用合計43万円は,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」
家族による利用があるとして家屋改造費の賠償額2割を減額した事例
なお、脊髄損傷において家族改造費用を認めた裁判例の中には、家族も利便を受けるとして賠償額を減額するものも多くあります。
大阪地裁平成10年6月29日判決は、第五頸椎以下完全麻痺等の被害者について、ホームエレベーターや水平トランスファーシステム設置費用の賠償を認めつつ、ホームエレベーターは他の家族の利便にも資するとして8割分のみの賠償を認めました。
「原告花子の介護のためには、原告花子の後遺障害の内容からみて、現在の住居(市営住宅の一一階、床面積五八・二〇平方メートルの三DK)では不適であり、新たに購入する居宅においては、自宅内を車椅子で移動できるようにホームエレベータを設置し、入浴、排便等が容易に行えるように水平トランスファーシステムを設置する必要があること、及び右工事には合計八八二万円の支出を要することが認められる。」
「ただし、ホームエレベーターの設置については他の家族の利便と生活向上にもつながるものであるから、右設置代金の八割をもって本件事故と相当因果関係を有する損害と認める。」
家族による利用がありうるとして家屋改造費の損害賠償額の3割を減額した事例
また、四肢麻痺の被害者についての東京地裁平成16年5月31日判決は、バリアフリー化工事の費用の賠償を認めつつ、被害者において体温調整ができないと判断すべき根拠がないことから床暖房等の費用について相当性を認めがたいことや家族も利便性を享受することを根拠に請求額の7割についてのみ賠償を認めました。
「原告Aの体温調節機能に障害があることを認めるに足りる証拠はないから,床暖房工事(39万5200円)及びエアコン工事(10万円)については相当性を認め難いこと,家族が利便を享受する面もないわけではないことその他諸般の事情を考慮し,請求額の7割(778万6679円。小数点以下切捨て。)をもって相当と解する。」
このように、脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)について家屋改造費用の賠償は認められることが多いものの、家屋改造は家族の利便性も高めるとして全額の賠償までは認められないケースが多くなっています。
7 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と自動車改造費用
1 交通事故と自動車改造費用
交通事故で重度の後遺障害が残った被害者が自動車で移動するにはその自動車を改造しなければならないことがあります。
そのような場合、改造費用の賠償が認められることがあります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の被害者については、自動車で移動するについて自動車の改造が必要となることが多く、自動車の改造費用の賠償を認めた裁判例も多く存在します。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と自動車改造費用
自動車改造費用を認めた裁判例
四肢麻痺の被害者の自動車改造費用に関する東京地裁平成11年7月29日判決は、以下のとおり述べ、自動車へのリフト等架装代及び8年毎の買い替え費用として443万6700円の賠償を認めています。
「自動車改造のためのリフト等架装代は一五〇万円と認められ、平均余命期間の五六年間につき、八年ごとの買替えの必要性を認め、これにより算定すると、以下のとおり、四四三万六七〇〇円となる。
一五〇万円(既払分)+一五〇万円(改造費)×(〇・六七六八+〇・四五八一+〇・三一〇〇+〇・二〇九八+〇・一四二〇+〇・〇九六一+〇・〇六五〇)(ライプニッツ係数)=四四三万六七〇〇円」
横浜地裁令和2年1月9日判決は、以下のとおり、被害者がアクセル・ブレーキを操作できないために改造が必要となる場合において、改造費用28万円、81歳までの6回の買い替えの費用の賠償を認めました。
「完全対麻痺のために足で自動車のアクセル・ブレーキを操作できないというのであり,移動に利用する自動車の改造が必要と認められるところ,その改造に必要な部品代やメーカーでの取付けのための陸送費は合計28万円であり,耐用年数は5年(平均余命の81歳までに6回の購入・買換えが必要)であると認められる。」
このように、脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)の被害者については、自動車改造費用(あるいは福祉車両と一般車両との差額)及びその買い替え費用の賠償を請求できる可能性があることになります。
新規車両購入費用の賠償
四肢麻痺の被害者の福祉車両購入費に関する東京地裁平成16年5月31日判決は、以下のとおり述べ、福祉車両と一般車両の差額95万円を6年毎支出するという前提での賠償を認めました。
「原告Aが車椅子に乗車した状態で乗降できる福祉車両購入費と同型の一般車両購入費との差額は,おおむね95万円ないし100万円である。税法上の耐用年数等を参照すると,原告Aは6年ごとに,少なくとも95万円を支出する必要性があるというべきである。原告Aは,症状固定時45歳であったところ,平成14年簡易生命表によれば,45歳女性の平均余命は41.31年であるから,将来分として6年ごとに合計6回の支出を要すると認められる。そうすると,車両改造費は次の計算式により,231万0780円となる(小数点以下切捨て)。
(計算式)950,000×(0.7462+0.5568+0.4155+0.31+0.2313+0.1726)≒2,310,780」
このように車いす等に対応した新規車両購入の賠償が認められる場合もあります。
ただし、新たに車両を購入するまでの必要はなく、従来ある車両に対する改造費のみが認められるという場合もあります。
神戸地方裁判所平成27年9月3日判決は、「写真撮影報告書には,日産キューブの助手席に置いた車椅子によりサイドミラーが見えにくい状況が撮影された写真があるが,これのみでは同車両の車椅子用の改造がおよそ不可能または困難であるということはできず,同車両の構造上,車椅子用の改造に支障があるため,同車両とは別途,車両購入が必要であったことを認めることはできない。したがって,車両費及び将来の買換費用は,本件事故と相当因果関係がある損害であると認めることはできない。」として、新規車両購入費用の賠償を否定しました。
車いす等に対応した新規車両購入費用の賠償を求めるためには、従来車両の改造では不十分であることを主張立証する必要があります。
8 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と後遺症慰謝料
1 交通事故と後遺症慰謝料
交通事故で後遺障害が残った場合、その等級に応じた慰謝料が払われることが一般です。
1級に認定されると2800万円が目安となります。
他方、被害者の年齢等によっては、目安を超える慰謝料が認められることもあります。
脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)についても2800万円を超える慰謝料が払われることがあります。
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と後遺症慰謝料
東京地裁平成13年7月31日判決は、第五胸髄以下完全麻痺の被害者について、後遺症慰謝料として本人分3000万円、父母各250万円、計3500万円を認めました。
被害者は、「交通事故当時A大学家政学部食物栄養学科管理栄養士専攻に在学中であり、平成一1年3月に上記大学を卒業した後は管理栄養士として働くことが決まっていた」ものであり、交通事故により、「脊髄損傷による体幹・両下肢機能障害(第5胸髄以下完全麻痺)、門歯折損、左肩関節可動域制限、膀胱直腸機能障害、及び下肢、背部、両胸部醜状障害の後遺障害が残存」しました。
このような状況を踏まえ、判決は、本人については、「本件交通事故により、原告X1は上記四に記載したとおりの極めて重篤な傷害を負い、希望していた職種に就くことも不可能となった。このように、自身には全く落ち度がないにもかかわらず、若くして事故後の生活設計の全てを台無しにされた原告X1の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、金3000万円を下らない。」、父母については、「原告X1は本件交通事故により極めて重篤な傷害を負い、しかも極めて重大な後遺障害を負っているところ、原告の両親は、一人息子である原告が被告の一方的な過失による交通事故により負傷し、その結果希望していた職業に就くことも出来なくなったことにより深刻な精神的苦痛を受けた。原告の両親である原告X2及び原告X3の上記精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、各金250万円を下らない。」として高額な慰謝料を認定しました。
後遺障害の程度・内容も重要ですが、若年者の場合、後遺障害をかかえて生きていく期間が長いため、慰謝料額が高くなる傾向がみてとれると思われます。
9 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と入院慰謝料
目次
1 交通事故と入院慰謝料
1 交通事故と入院慰謝料
交通事故で入院を要する場合、入院期間に応じた慰謝料が支払われます。
「交通事故損害額算定基準ー実務運用と解説ー2020」(いわゆる青本)では、以下のとおりです
1月 32から60
2月 63から117
3月 92から171
4月 115から214
5月 135から252
6月 153から284
7月 168から312
8月 181から336
9月 191から356
10月 200から372
11月 207から385
12月 212から395
13月 217から403
14月 221から408
15月 225から413
そして、脊髄損傷があるような場合、この上限の2割程度まで基準額を増額してよいとされます。
「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2020」(いわゆる赤本)では、以下のとおりです。
1月 53
2月 101
3月 145
4月 184
5月 217
6月 244
7月 266
8月 284
9月 297
10月 306
11月 314
12月 321
13月 328
14月 334
15月 340
そして、傷害の程度により金額を20から30%程度増額するとされています。
それでは、脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)については、どのような基準で慰謝料が算定されているでしょうか?
2 脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)と入院慰謝料
脊髄損傷被害者が345日入院した事例についての神戸地裁平成27年9月3日判決は、以下のとおり述べ、405万円の入院慰謝料を認定しています。
「原告X1の受傷の内容・程度,入院日数に加えて,上記争いのない事実のとおり,被告は,本件事故後,現場に警察が到着する前に倒れた原告X1を残したまま事故現場を離れ,加害車両のすり替えを行い,同乗者の存在を隠し,臨場した警察官に虚偽の申告をしたことが認められ,このような被告の本件事故後の行為は悪質であることを考慮すると,入院慰謝料は,405万円を認めるのが相当である。」
このケースでは、赤本の上限より20から30パーセント増額、青本の上限より数パーセントの増額をしています。
ただし、加害者の悪質さがどの程度反映しているのかは不明です。
脊髄損傷被害者が257日入院した事例についての東京地裁平成22年9月30日判決は、「本件事故による傷害の内容、入院期間、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、入院慰謝料は350万円が相当であると認められる。」として請求額と同額の350万円の慰謝料を認めました。
これは赤本の2割増し、青本上限の数%増しとなります。
脊髄損傷被害者が約8月入院したケースについての大阪地裁平成15年7月4日判決は、228万円を相当としました。これは赤本基準よりも低いものです。
脊髄損傷被害者が約13月入院したケースについての名古屋地裁平成11年7月19日判決は、慰謝料を288万としました。これも赤本基準より低いものです。
以上、脊髄損傷被害者についてはむしろ赤本基準より低い慰謝料額しか認められない事例もあります。
しかし、重大な傷害であり、入院中も自由が大きく制約される脊髄損傷の被害者については、最低でも東京地裁平成22年9月30日判決レベル、つまり赤本2割増し程度を目指すべきでしょうし、自由度の制限の大きさなどを立証して青本上限2割増しも目標にすべきものと考えます。
10 新潟で脊髄損傷(四肢麻痺、両下肢麻痺)(交通事故)のお悩みは弁護士齋藤裕へ
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交渉・訴訟とも着手金無料(ただし、特に困難な事件については5~30万円、弁護士特約に加入している場合にはその基準上の金額をいただくことがあります)
種類 | 支払い時期 | 基準 | |
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相談料 | 相談時 | 無料 | |
着手金 | 受任時 | 交渉・訴訟とも着手金無料(ただし、特に困難な事件については5万5000円~33万円、弁護士特約に加入している場合にはその基準上の金額をいただくことがあります) | |
報酬金 | 解決後 | 増額分の13・2%(3,000万円を越える総額については9・9%) 加害者・保険会社側からの提示がない段階で受任した場合には、得られた金額の6・6%(回収金額の3,000万円を越える部分については5・5%) |
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例 | 保険会社からの提案がない段階で受任し、保険会社から1000万円入金があった場合、報酬66万円をいただきます。保険会社から50万円の提案があり、その後受任し、最終的に950万円入金があった場合、950万円-50万円=900万円の13・2%である118万8000円を報酬としていただきます。 |
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