執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 過労死と高血圧
過重な長時間労働は脳心臓疾患のリスクを高めます。
他方、高血圧も脳心臓疾患のリスクを高めます。
高血圧等の素因なく、長時間労働で脳疾患となり、過労死等した場合、労災保険や損害賠償の判断は比較的容易です。
しかし、高血圧等の素因があった労働者が長時間労働をし、その結果脳心臓血管にり患し過労死等した場合、高血圧と過労という2つの要素をどう考慮するかについて難しい問題が生じます。
2 過労死と高血圧についての裁判例(5割の素因減額をした事例)
この点、横浜地裁令和2年3月27日判決は、高血圧の労働者に長時間労働により脳出血が生じ、死亡したケースについて以下のような判断をしています。
まず、同判決は、以下のとおり、発症前6か月において80~100時間の時間外労働があったとして、脳出血と長時間労働との間に因果関係を認めます。
「発症前6か月間についてみると,労働時間以外の負荷要因は特にみられないものの,発症前4か月間における時間外労働時間の平均が1か月当たり80時間を超えており,労働密度が特に低いといった状況は認められない。さらに,発症前2か月間における時間外労働時間の平均が1か月当たり98時間とほぼ100時間に近くに及んでおり,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事していたと認められる。したがって,本件脳出血は業務上の疾病に該当すると考えられる。」
そして、会社が、「時間外労働を制限するなどの方法によって業務の負担を軽減する義務を負っていた」のに果たさなかったとして、安全配慮義務違反も認めます。
しかし、「被災労働者については,被告会社の実施する健康診断において,平成13年5月以降,継続して高血圧を指摘されて産業医との面談が行われたにもかかわらず,少なくとも平成19年以降に病院を受診せず,会社関係者に対して病院を受診しているなどと虚偽の事実を述べ,また,家族に対しても健康診断の結果を伝えずに高血圧が徐々に増悪したこと,脳出血の危険因子である飲酒を本件脳出血の発症時点まで継続していた」として、7割の素因減額、つまり損害額の7割カットを行いました。なお、血圧は、210/120等と計測されています。
これに対し、控訴審の東京高裁令和3年1月21日判決は、横浜地裁判決と同様、因果関係と安全配慮義務違反を認めつつ、7割の減額分を5割にしています。
これについて、東京高裁は、「会社としては自らの健康状態を十分に省みることなくその職責を果たそうとする職務に熱心な労働者が存在することも考慮した職場環境を構築すべきであるから、被災労働者による業務遂行方法に健康管理の観点から見て相当ではない点があったとしても、これを過失相殺の類推適用の考慮要素として過大評価すべきではない」と述べています。
職務熱心な労働者の特性をとらえた判断であり、極めて穏当かと存じます。
このように、高血圧の素因がある場合、長時間労働と脳心臓疾患との間に因果関係が認められても、素因減額で損害額が減額される場合があることに注意すべきでしょう。
3 過労による脳内出血と高血圧についての裁判例(1割の素因減額)
大阪地裁令和7年3月24日判決は、高血圧の素因を持っていた労働者が、過労により脳内出血を発症した事案について、使用者に損害賠償を命じましたが、1割のみ素因減額をしました。参照:過労による脳内出血についての裁判例
同判決は、
ⅰ 発症前1か月の時間外労働時間数は80時間28分、発症前6か月間の平均時間外労働時間は81時間35分であることが認められ、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及
び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和3年9月14日付け基発0914第1号厚生労働省労働基準局長通達)に照らして、業務と発症との関連性が強いと判断できる、
ⅱ 被災労働者が、上記期間、店長として、通常業務のほか、改装工事や改装後の新規開店に向けた準備等の業務に従事していたこと
を踏まえ、労働者の脳内出血は、業務により、その自然経過を超えて著しく増悪して発症したものと認められるとして、過労と脳内出血との因果関係を認めました。
また、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であるところ、被告は、漫然と、上記のとおりの業務に原告を従事させ、時間外労働をさせており、原告の心身の健康を損なうことがないよう措置を講じるなど被告が上記義務を尽くしていたといえる事情はないから、被告は上記義務に違反していると認められる。」として使用者の安全配慮義務違反も認めています。
労働者は163/112の高血圧でした。
使用者側は、労働者が高血圧なのに通院もしないで、飲酒をしていたことから、過失相殺すべきと主張していました。
しかし、判決は、通院義務はないし、飲酒量も多くなかったとして、労働者の過失を認めませんでした。
ただし、高血圧により1割の素因減額をしています。
横浜地裁・東京高裁の事例より血圧が低いこと、通院をしていないのにしているとウソをつくような状況がなかったことから素因減額割合に差が出たものと思われます。
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