執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
交通事故でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。
1 休業損害の計算の仕方
交通事故で就労できなくなった場合、その期間について休業損害が発生します。
この休業損害の計算方法について、保険会社は事故前3か月の収入÷歴日数を基礎収入とすることがあります(3か月がカレンダー上90日間あれば、÷90)。
他方、休業損害が就労しえなかったことについての補償である以上、3か月分の収入÷労働日数を基礎収入とすべきとも考えられます(3か月で70日働いていたら、÷70)。
後者の方が被害者には有利になります。
果たしてこのような扱いは妥当でしょうか?
2 休業損害の計算の仕方についての裁判例
静岡地裁平成29年2月10日判決は、以下のとおり述べ、事故前3か月の収入を暦日数で割って、基礎日額を算定すべきとしています。
そして、そこに休日を除いた休業日数を乗じています。
「休業損害は,本件事故による受傷によって休業したことによる収入減であるから,事故前3か月の給与収入を暦日数で除して1日当たりの基礎収入を求め,これに休業日数を乗じて算定すべきである。これに反する原告及び被告の主張は採用することができない。
(ア) 事故前3か月間の給与収入 78万1350円(争いがない。)
(イ) 暦日数 92日
(ウ) 一日当たりの収入 8493円
781,350÷92≒8,493
(エ) 休業日数 255日(争いがない。)
(オ) 休業損害額 216万5715円
8,493×255=2,165,715」
横浜地裁平成25年11月28日判決も、以下のとおり述べ、事故前3か月の給与日数を暦日数で除して基礎収入を算定すべきとしています。
しかし、同判決は、事故前3か月の給与日数を就労日数で除するやり方を否定はしていません。
また、基礎日数に休日も含めた休業日数を乗じています。
休業損害は、次のとおり算定される。
ア 休業期間
60日(甲11)+91日(甲12)+274日(平成20年7月1日から平成21年3月31日まで)=425日
イ 収入日額
原告の休業期間には休日等も含まれているから、被告の主張するとおり暦日による平均給与額を採用することとし、本件事故前3か月の支給金額合計を90日で除する。
(48万5700円+30万9586円)÷90日=8837円
ウ 休業損害
8837円×425日=375万5725円
ただし、上記(3)の傷病手当金の法定給付額207万5020円は、損害の填補として控除されることになる。
論理的には、事故前3か月収入÷暦日数の場合は基礎収入×休日も含めた休業日数、事故前3か月収入÷就労日数の場合は基礎収入×休日を除いた休業日数となるはずであり、静岡地裁判決には論理性が欠如していると思われます。この点、赤本2018下巻所収の武富一晃裁判官「給与所得者の休業損害を算定する上での問題点」は、静岡地裁判決のような計算方法では、損害額が「過少」になるとしているところです。
ただし、保険会社が静岡地裁のような主張をすることもあります。
被害者としては、ⅰ 事故前3か月収入÷暦日数の場合は基礎収入×休日も含めた休業日数、あるいは、ⅱ 事故前3か月収入÷就労日数の場合は基礎収入×休日を除いた休業日数との主張をすべきことになるでしょう。
なお、これらの計算方法について、赤本2018下巻所収の武富一晃裁判官「給与所得者の休業損害を算定する上での問題点」は、
a 長期間継続的に休業する場合、どちらの計算方法でも大きな差は出ないのでどちらを採用してもいい、
b 正職員が就労しつつたまに休業する場合で休業損害証明書等の証拠がでている場合はⅱの計算方法が妥当(休業損害証明書がない場合には、事故前収入÷暦日数×休業日数)
c アルバイトや日雇いが就労しつつたまに休業する場合は、ⅱの計算方法が妥当。ただし、勤務日が定まっていない場合には、事故前収入÷暦日数×休業日数
としています。事故前収入÷暦日数×休業日数という計算方法は理論的には疑問ですが、武富裁判官の挙げるような事例では現実的に他の計算が困難であり、やむをえない場合もあるでしょう。
3 新潟で交通事故のご相談は弁護士齋藤裕へ
交通事故でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。
もご参照ください。
さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。