執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 1か月単位の変形労働時間制
労働基準法では、週40時間・1日8時間の法定労働時間を定めています。
しかし、使用者が、労使協定や就業規則等により、1か月以内の一定期間を平均し1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合には、法定労働時間の規制が及ばないとされることがあります。
これを1か月単位の変形労働時間制と言います。
しかし、1か月単位の変形労働時間制については厳しい要件がもうけられているため、無効とされることが多くあります。
以下、1か月単位の変形労働時間制の要件について解説します。
2 1か月単位の変形労働時間制の要件
1か月単位の変形労働時間制の要件は以下のとおりです。
ⅰ 労使協定や就業規則等で定めること
ⅱ 1か月以内の単位期間を、期間の起算日を明らかにして特定すること
ⅲ 単位期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えないよう単位期間内の所定労働時間を定めること
ⅳ 単位期間内のどの週・日に法定労働時間を何時間超えるか特定すること、各週・各日の労働時間を特定すること
ⅴ 労使協定や就業規則で、毎労働日の始業・終業時間を特定すること。それができないときは、始業・終業時間等についての基本事項を定めた上、1か月毎等に勤務割表で毎労働日の労働時間を特定すること
3 1か月単位の変形労働時間制を無効とした裁判例
1か月単位の変形労働時間制を無効とした裁判例としては以下のものがあります。
令和1年7月24日判決は、「同就業規則においては,勤務パターンごとの始業終業時刻,勤務パターンの組み合わせ,勤務割表(シフト表)の作成手続及び周知手続が全く定められておらず,原告らの実際の勤務時間はシフト表(甲7)により定められていたこと」等として、変形労働時間制の効力を認めませんでした。
これはⅴの基本事項を定めなかったということになります。
ⅴに関する裁判例としては、大阪地裁平成31年2月28日判決もあります。
同判決は、「標準的な始業・終業時刻について「ただし,業務の都合その他やむを得ない事情により,これらを繰り上げ,または繰り下げることがある。」と規定されているが,業務の都合によって使用者が任意に労働時間を変更できるような制度は,適法な変形労働時間制とは解し難いこと」として1か月単位の変形労働時間制の効力を否定しました。
このように、始業時刻・終業時刻の特定は厳密になされる必要があり、曖昧にした場合には要件を満たさないとされることがあります。
変形労働時間制が無効とされる場合、ⅴの要件を欠くことによる場合が多いようです。
ⅲに関するものとしては、1週間あたりの労働時間が40時間を超えたことを理由として変形労働時間制を無効とした大阪地裁令和2年9月3日判決、長崎地裁令和3年2月26日判決があります。
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