2ケ月連続で100時間超の時間外労働をしたこと等から公務起因性を認めた裁判例

さいとうゆたか弁護士

1 長時間労働で精神疾患の公務起因性を認めた裁判例

人事院「精神疾患等の公務災害の認定について」は、精神疾患発症前2ケ月でおおむね120時間以上の時間外労働をしていたときに強度の精神的負荷があるとしています。

また、1ケ月で概ね100時間以上の時間外労働をしており、過重な負荷となる業務に従事していたときは、やはり強度の精神的負荷があるとされます。

よって、これらの基準を満たす場合には精神疾患が公務災害として認められる可能性が高くなります。

必ずしも2ケ月で120時間以上の時間外労働をしていなくとも、業務の内容等によっては強度の精神的負荷が認められ、公務起因性が認められることもありということになります。

この点、神戸地裁平成25年6月25日判決は、2ケ月で100時間以上の時間外労働をしていたという事案で、精神疾患の公務起因性を肯定しています。

2ケ月で120時間に至らない時間外労働をしていた場合において、どのような事情があれば公務起因性が認められるのか、参考になると思われるので、ご紹介します。

同判決は、以下のとおり述べた上で、被災者に強い心理的負荷があったとしています。

「Aは,×××において,研修生という責任の軽い立場で職務を行い,時間外労働もほとんどない状況で,通常の公務員に比べ職務を軽減されているのと同様の状況であったところ,平成14年4月1日に本件異動となり,業務内容は,質・量ともに大きく増大して,Aに精神的負担を与えたこと,②Aの本来業務は,前任者のCによって完了している部分も多くあり,引継ぎも複数回丁寧に行われるなど,Cの支援があったものの,異動直後に1年で最も忙しい時期に直面した上,Aは福祉の専門知識が乏しかったことから,本来業務に対応すること自体が一定の負担となること,地域の名士ともいえる民生委員等への対応は,人間関係に気を遣うものであること,地域福祉係は実質的に一人一係の状態であり,上司や同僚から直接的な支援を受けることは望めなかったことから,本件異動後の本来業務はAにとって相当程度の精神的負担を与えるものであったと認められること,③地域福祉計画の策定については,上司に指示された内容と,社会福祉法や策定指針の在り方等で要求される計画の内容に重大な落差があることを認識した以降は,Aとしては同法の予定する内容の計画を策定することが自己に求められている業務であると受け止め,そのような一人では事実上不可能ともいえる業務を主担当として抱え,周囲の支援を受けられず,自らの専門知識も乏しく,参考にできる資料等も少ない中で,豊岡市として確定された方針に従って平成14年度中に策定しなければならない重圧を感じながら,例年でも多忙となる本来業務の合間を縫って,自分なりに勉強するなど努力をしても地域福祉計画の具体的なイメージがつかめず,具体的な策定業務に取り掛かれない状態に陥っていたものと考えられ,これに対する焦り,不安は,Aにとって相当強度のストレスを与えたと認められること,④Aの時間外労働時間は,×××の時に比べ著しく増大し,平成14年4月及び5月と連続して100時間を超過していた上,同年4月15日から同年5月4日まで20日間休みを取らずに連続勤務して,時間外労働がほとんど常態化しており,このこと自体もAにとって精神的不安となったことに加え,肉体的及び精神的疲労をとるための十分な休養も取れない状態であったことが認められる。」

つまり同判決は、時間外労働が2ケ月で100時間を超えていたことのほか

ⅰ 急に忙しい業務をやらされるようになった

ⅱ 異動直後に1年でもっとも忙しい時期に直面した

ⅲ 専門知識のない業務をやらされた

ⅳ 人間関係への配慮が必要だった

ⅴ 直接的支援がなかった

ⅵ 1人では事実上不可能と思われる業務を主担当として抱えていた

ⅶ 20日間連続勤務をした

などの事情を加味し、公務災害を認めました。

このように、時間外労働時間数では基準を満たさないとしても、その他の要素により公務起因性が認められることもありうるため、それらの要素の立証は重要となります。

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病院の事務職員の過労死についての記事
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