執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 交通事故と年少女子の逸失利益
交通事故で収入を得る力を失った損害=逸失利益は、事故当時の現実の収入をもとに算定されるのが通常です。
しかし、おおむね30歳未満の被害者については、将来の収入が不確定である(未就労者については基礎となる現実の収入がない)ことから、賃金センサスという、賃金の統計における平均値をもとに逸失利益を算定することが通常です。
ところで、現実社会では、男性の平均収入の方が女性の平均収入より高くなっています。
よって、交通事故による損害賠償においても、30歳未満の被害者で、賃金センサスをもとに逸失利益を計算する場合、男性と女性とで金額が違うということが起こり得ます。
しかし、このように男女を異にする扱いが常になされるものではなく、年少女子(特に義務教育を受けている年少女子)については男女共通の平均賃金をもとに算定するという扱いが多くみられます。
2 年少女子の逸失利益についての裁判例
以下、年少女子の逸失利益についての裁判例をご紹介します。
11歳女児について女性の平均賃金を基準として逸失利益を計算した裁判例
東京高裁平成13年10月16日判決は、以下のとおり、死亡時11歳の女児について、女性の平均賃金を基準として逸失利益計算することを肯定しています。
「以上のとおり、賃金センサスに示されている男女間の賃金格差は、現実の賃金の実態を反映したものであり、この格差が近い将来に解消するとは認められない。
そうすると、上記格差が解消することを前提に、女子年少者について、賃金センサスによる全労働者の平均賃金を基礎収入として逸失利益の額を算定し、不法行為者にその損害賠償をさせることは、現段階においては、できる限り蓋然性のある額を算定することにより不法行為者と被害者の双方にとって公平な結果を実現しようという前記の考えに照らして、必ずしも合理的な損害賠償額の算定方法ではないといわざるをえない。」
3~5歳までの女児について全労働者の平均賃金を基準として逸失利益を計算した裁判例
さいたま地裁平成20年5月30日判決は、「若年女子の基礎収入の算出においては,現在では女性の社会進出が進み,女子であっても男子並みの収入を得る可能性が十分に期待されることから,女子労働者計の賃金センサスではなく,全労働者計の賃金センサスによるのも可能というべきである。」として、全労働者計の賃金センサスで逸失利益を計算しました。参照:3~5歳までの女児の逸失利益について判断した裁判例
義務教育までの女子について、男女共通の平均収入を前提に逸失利益を計算すべきとした裁判例
しかし、東京高裁平成13年8月20日判決は、以下のとおり述べ、義務教育までの女子について、男女共通の平均収入を前提に逸失利益を計算すべきとしています。このような考え方が現在の主流といえます。
「したがって、高等学校卒業までか、少なくとも義務教育を修了するまでの女子年少者については、逸失利益算定の基礎収入として賃金センサスの女子労働者の平均賃金を用いることは合理性を欠くものといわざるを得ず、男女を併せた善労働者の平均賃金を用いるのが合理的と考えられるのであって、このように解しても、逸失利益を過大に認定することにはならないものというベきである。」
12歳女子について男女計学歴計全年齢平均賃金をもとに逸失利益を計算した裁判例
近年では、大阪地裁令和4年7月26日判決が以下のとおり述べ、12歳女子について、男女計学歴計全年齢平均賃金をもとに逸失利益を算定すべきとしました。
「被告は,女子全年齢平均賃金を基礎収入とするべき旨主張するが,年少者について事故による後遺障害がなかった場合にどのような学歴を重ね,就労することになったかを適確に予想することは極めて困難である上,女性の社会進出が一層進むことも想定され,現在の男女間の賃金格差が現状のまま将来において固定化し続けるものとは直ちにいえないことによれば,原告X1が将来において得る蓋然性のあった収入額が女子全年齢平均賃金額にとどまるものとするのは相当でな」い
12歳女子について全労働者平均賃金をもとに逸失利益を算定した事例としては、京都地裁平成21年(ワ)1260号事件判決もあります。参照:年少女子の逸失利益について算定した裁判例
高校3年生について女子の平均賃金をもとに逸失利益を計算した裁判例
義務教育後の女子については、京都地裁令和1年10月24日判決が、以下のとおり、女子の平均賃金を基準に算定をしています。
「高校3年生の女子であり,現在,大学生であること,原告は,本件事故により傷害を受け,その後遺障害につき障害等級13級の認定を受けたことなどからすると,原告の後遺障害による逸失利益は,次のとおり,601万7343円と認められる。計算式:457万2300円(基礎収入,平成28年の賃金センサス,女性の大学・大学院卒,全年齢計」)
しかし、男女共同参画の進展に伴い、今後は義務教育以降の若年女性(就職後も含む)についても男女共通の平均賃金で逸失利益が計算されるようにすべきと考えます。
3 年少女子の生活費控除についての裁判例
交通事故における生活費控除率とは?
死亡交通事故の場合、被害者が生存していたら要したはずの生活費がかからなくなります。
そのため、死亡事故の逸失利益を計算する場合、一定の割合の生活費控除というものを行います。l
一般的には、一家の支柱40%、一家の支柱でない女性30%、一家の支柱でない男性50%などとされます。
生活費控除率における男女差と年少女子における生活費控除率
この生活費控除の差が20%あることで、女性の方が逸失利益計算の上で、男性より20%有利になるとも考えられます。
この差については、30歳未満女性について基礎収入が低くなりがちなのを補正する意味があるとも言えそうです。
そうだとすると、年少女子について、男女計の平均賃金をもとに逸失利益計算をする場合、生活費控除はどうすべきでしょうか?
裁判例としては、30%、40%、45%の裁判例がありますが、45%の裁判例がやや多いようです。
これは、30%を基準とした場合、年少男児に比べ、逸失利益が高くなるという逆転現象が生ずることを考慮したということでしょう。
年少女子の生活費控除率についての裁判例
この点、大阪高裁平成13年9月26日判決は、「女性も男性並みに働き、かつ、男性と同等に扱われる社会的基盤が形成されつつあることは否定し難い事実である。こうした社会状況等の変化を前提にすると、女性がそうした社会に参画し、男性並みに稼働し、全労働者の平均賃金程度の収入を上げるためには、従前とは異なり、それ相応の生活費の増加が見込まれることは明らかで、その程度・割合も男性並みに考えたうえ逸失利益を算定するのが、やはり損害の公平な分担という制度本来の趣旨に合致すると解される。」として、女性の働き方が男性と同じようになるという観点で45%の生活費控除率を定めています。
この点は、むしろ、30歳未満については男女の基礎収入を男女計平均賃金に統一し、かつ、生活費控除についても理由のない男女差別はやめる(男女とも30%に統一する)ことで解決すべきものと思います。
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