うつ状態にある労働者に対する注意に関する安全配慮義務違反を認めた事例(労災)

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 うつ状態にある労働者に対する注意と安全配慮義務

仕事上、ある程度厳しい注意等はなされるものです。

それが社会通念を逸脱したものであれば違法となり、その結果鬱病等を発症すれば賠償責任が生じることもあります。

そして、うつ状態にある労働者に対しては、注意をするにしても通常の労働者に対する場合より慎重な対応が必要であることは当然です。

以下、うつ状態にある労働者に対して注意がなされ,自殺に至ったことについて安全配慮義務違反が認められた裁判例を概観します。

2 うつ状態にある労働者に対する注意についての仙台地裁令和2年7月1日判決

仙台地裁令和2年7月1日判決は、公立高校の教員が、先輩からの度重なる注意を受けたために鬱状態となっていたにも関わらず、先輩教員が注意を続けたことについて、校長による安全配慮義務違反を認めました。

まず、判決は、被災教員において、校長らは、先輩教員からの注意により鬱状態となっていたことを知っていたとします。

その上で、「一般的に,うつ状態の患者には自殺念慮がみられるところであるから,亡Dについてそのほかに自殺の兆候が見られなかったとしても,F教諭の注意により亡Dが教師として生きてゆく自信を喪失して悩んでいた従前からの相談内容を踏まえると,F教諭が亡Dに対する注意を再び行った場合には,未だ勤務経験2年余りにすぎない亡Dが教師として生きてゆく自信を再び喪失させるなどして亡Dがうつ状態を更に悪化させ,亡Dに対し自殺を動機付けるなど亡Dの生命又は心身の健康を損なうことになることは,G校長らにとって予見可能であったものと認めるのが相当である。」として、先輩教員によるさらなる注意が行われた場合、うつ状態が悪化する等が予見されたとしました。

そこで、判決は、校長らは、「F教諭に対し,亡Dのうつ状態の原因が教師として生きてゆく自信を喪失させるようなF教諭の度重なる注意にあることを自覚させ,未だ勤務経験2年余りにすぎない亡Dが教師として生きてゆく自信を喪失させないように,亡Dにこれ以上の注意をしないよう自制を促すとともに,亡Dの意向を聴取するなどして亡Dの精神状態に配慮した上で亡Dの意向に反しない限度で,F教諭が業務において亡Dに接触する機会を減らす措置を講じる義務を負っていた」としました。しかし、その義務が果たされず、注意が続き、被災教員のうつ病が悪化し、自殺に至ったとして、学校側の安全配慮義務違反が認められました。

このように、使用者側において、労働者においてうつ状態にあることを認識した場合には、それを悪化させる状況を取り除く義務を負うことになり、それに反し自殺等の結果が生じた場合には安全配慮義務違反として賠償義務を負う可能性があります。

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