自筆証書遺言と押印

相続問題

1 自筆証書遺言の要件

民法は以下のとおり定めます。

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

よって、自筆証書遺言が有効であるためには、遺言者自身が押印をすることが必要です。

そして、最高裁昭和39年5月12日判決は、以下のとおり、印影が本人の印鑑により押印された場合、本人が押印したことが推認されるとしています。

文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当であり、右推定がなされる結果、当該文書は、民訴三二六条にいう「本人又ハ其ノ代理人ノ(中略)捺印アルトキ」の要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるのである。

しかし、あくまでもこれは推認ですから、本人の印鑑による印影であっても、本人が押印したものではないと認定される場合もあります。

以下、どのような場合に本人が押印したものではないと認定されてきたか、裁判例を見てみます。

2 自筆証書遺言の印影を遺言者が顕出しなかったと判断された事例

東京地裁令和2年12月17日判決は、以下の事情があるとして、遺言者自身による押印がないとして、自筆証書遺言の効力を否定しました。

ⅰ 印鑑を遺言者の配偶者(遺言書上、全遺産を相続することになっている)が保管していたこと

ⅱ 遺言者が、第三者から押印しないようにアドバイスを受けていたこと(その時点で押印はされていない)、その日から3週間で遺言者が死亡したこと

ⅲ 遺言者が当該遺言書を保管していなかったこと

ⅳ 遺言者が死亡約1週間前に、当該遺言より前に作成された遺言が有効であることを前提とした発言をしていること

ⅴ 配偶者は、当該遺言書の前に作成された遺言書では相続人から廃除されることになっており、当該遺言書に押印する動機があること

このように、印鑑や遺言書の保管状況や遺言者以外が押印をする動機等から、自筆証書遺言の印影が遺言者によるものではないと認定されることもあります。

東京地裁令和2年9月23日判決は、以下のとおり述べ、自筆証書遺言という重要書類であるにも関わらず、三文判で押印していることから、遺言者が押印したものかどうか疑わしいとしています。

・遺言者は,遺言者の家以外の第三者も関わるような重要な契約書については実印又は銀行印のような印章を用い,子に対する貸付けのように,遺言者の家内部のことに関する書面については三文判のような印章を用いていたことがうかがえる。そして,遺言書は,原稿用紙に全文毛筆で記載するという体裁が取られていたこと,家の次期当主を定め,その者に全財産を相続させるというその内容であることなどからすれば,仮にこれを実際に遺言者が自書したのであれば,遺言者の相続人に向けられたものという意味では遺言者の家内部の文書であったとしても,遺言者においては自筆証書遺言としてその要式性が重要であることを十分に認識していたと考えられ,遺言者が,これについて,三文判のような印章を用いて押捺するというのは不自然と言わざるを得ない。
このように自筆証書遺言においては、遺言者が押印したこと自体が争われ、遺言書の効力が否定されることもあります。

ですから、高額な遺産があるような場合には、公正証書遺言が望ましいと言えます。

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