被相続人の預貯金からおろした金をわけてくれない場合の対応(相続)

相続問題

1 被相続人の預貯金からお金をわけてくれない場合の対応(相続)

被相続人の預貯金を1人の相続人がおろして、そのまま保管し、ほかの相続人にわけてくれない場合、ほかの相続人はどのように対応したらよいでしょうか。

この点、徳島地裁平成30年10月18日判決は、不当利得返還請求として返還を求めればよいことを明確にしました。

同判決は、1人の相続人がおろしたお金を1人で保管していることについて以下のように述べています。

本件貯金は被相続人に帰属するところ被告は、遺産分割協議を経ることなく、全額を出金して原告に交付することなく独占していたものであるから、本件貯金に対する原告の準共有持ち分を不当に利得したものと認められる

なお、相続人は、法律で決まった法定相続人によりお金を取得する権利を有するのか、それに特別受益などを考慮して決められる具体的相続分により取得する権利を有するのかも問題となります。

この点、判決は、以下のとおり述べて、法定相続分によるべきことを明らかにしました。

具体的相続分はそれ自体を実体法上の権利関係であるということはできない上、被相続人の遺産(本件貯金や不動産を含む。)に係る遺産分割が未了であることに加え、被告において、遺産分割協議や審判を経るなどして、具体的総則分を前提に本件貯金の準共有関係の解消を図ること(被告の主張によれば、そもそも原告が本件貯金の準共有持ち分を有しない旨を確認すること)が可能であるにもかかわらず、そのような手続を取ることもなく、本件貯金の解約についてのみ原告の同意を取り付けてこれを全額領得しており、このために本件訴訟が提起されていることなどの経緯に照らすと、本件訴訟において侵害の有無を判断する基準となるべき相続分は、具体的相続分ではなく法定相続分であると解するのが相当である

つまり、特別受益などの主張をしたいのであれば、早期に遺産分割調停などをすべきであったということでしょう。

なお、被相続人死亡後の払い戻しケースについては、東京地裁令和3年9月28日判決も、相続人が法定相続分の不当利得返還請求権を有するとしているところです(同判決では、具体的相続分により計算すべきかどうかも問題となりましたが、判決は、具体的相続分は実体法上の権利関係にあたるものではないとして、具体的相続分ではなく、法定相続分により不当利得返還請求権の額が計算されるとしました)。

最高裁平成28年12月19日判決は、預貯金について、当然に相続分に応じて分割されるのではなく、遺産分割の調停や審判の中で取り扱われる問題だとしました。

徳島地裁の事例は、誰かが預貯金を一旦おろした場合の処理の問題であり、最高裁のように預貯金がそのままになっている場合とは異なる場面についての問題です。

徳島地裁判決は、最高裁平成28年12月19日判決に関わらず、一旦おろした預貯金については訴訟の対象として法定相続分に応じた請求をなしうることを明らかにした点に意義があります。

2 生前におろした場合

なお、生前に預貯金がおろされた場合についても、同様の結論となります。

東京地裁令和3年9月28日判決は、生前にある相続人が勝手におろしたお金についての不当利得返還請求権は、相続開始と同時に、法定相続分により、当然分割されたものだとして、おろされた金額のうち法定相続分に応じた金額について不当利得返還請求権が認められるとしています。

3 新潟で相続のご相談は弁護士齋藤裕へ

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