後遺障害の逸失利益と定期金賠償(交通事故)

交通事故

1 後遺障害の逸失利益と定期金賠償

民事訴訟法117条は、裁判所において定期金賠償(一括ではなく、一定期間にわたり定期的に一定額を支払う方法による賠償)による損害賠償を命じることがありうることを示しています。

この定期金賠償については、将来介護費用について認められることについて異論はありません。

他方、後遺障害逸失利益について定期金賠償を命ずることができるかどうか、必ずしも考えが固まっていなかったところです。

 

2 後遺障害の逸失利益について定期金賠償を認めた最高裁判決

後遺障害の逸失利益について定期金賠償を認めた最高裁判決

この点、札幌高裁平成30年6月29日判決は、後遺障害逸失利益について定期金賠償を命じました。

同判決は、以下のように述べて、後遺障害逸失利益について定期金賠償を命ずることができるとしています。

令和2年7月9日、最高裁第一小法廷もこの結論を是認しました。

同判決は、

ⅰ 被害者が後遺障害による逸失利益について定期金賠償を求めている場合に、

ⅱ 被害者の損害の原状回復と損害の公平な分担という理念に照らして相当と言えるのであれば、

後遺障害の逸失利益の賠償について定期金賠償を命ずることができるとしています。

そして、当該事案について、

ⅰ 被害者が4歳

ⅱ 労働能力を全部喪失

という事情があるため、後遺障害の逸失利益の定期金賠償を命ずることができるとされました。

なお、同判決は、「後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるにあたっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しない」としています。

ですから、仮に被害者が早く亡くなったとしても、通常は就労終期とされる67歳まで定期金賠償が払い続けられることになります。

最高裁判決後の裁判例

今後、後遺障害の逸失利益の定期金賠償については認められるという傾向が顕著になると思われます。

重大事故における後遺障害逸失利益は多額となりやすく、若年者について一括払いがなされる場合には中間利息控除により大幅減額となりえます。

そのような意味で、若年者が被害者の事故を中心に、後遺障害逸失利益について定期金賠償を求めることも積極的に検討されるべきでしょう。

 

なお、31歳の被害者が遷延性意識障害等(後遺障害等級1級)になったという事案について、岐阜地裁令和2年12月23日判決は、

交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について,定期金の方式による賠償を求めている場合においては,上記の不法行為制度の目的及び理念に照らして相当と認められるときに,同逸失利益を定期金の方式による賠償の対象とすべきといえ,そうでない場合には,一時金の方式による賠償を命じるべきものと解される。
被害者は,本件事故による後遺症状について症状固定と診断された当時31歳であった。その後遺障害の内容は頭部外傷後遷延性意識障害及び四肢体幹運動障害であって,後遺障害等級は1級1号と認定され,労働能力喪失率は100%であると認められる。すなわち,被害者の後遺障害及び労働能力喪失の程度が,将来,さらに重篤化し,その点から原告X1に生じる逸失利益の額がより大きくなることは考え難い状態にある。他方,その症状が改善することも稀にはあり得ると考えられるが,被害者自身が将来の介護費用を一時金の方式による賠償を求めていることからすれば,その状態が将来的に変動する可能性がないことを前提においていると考えざるを得ない。
被害者が将来において得られる収入の見込みについていえば,被害者は,Fを自ら経営していく前提で基礎収入を算定し,労働能力喪失期間を考慮することを求めているのであり,従前の就労状況からしても被害者がFを経営していく蓋然性が高いものと考えられる。そうすると,上記のとおり被害者の労働能力喪失の程度が将来的に軽減されることは想定されていないため,損害が現実化した時点で,実際に被害者がFを経営し現実に収入を得ていることは想定できず,結局,将来の現実の収入が現時点で算定する収入を上回る事態が生じることを想定し得ない。
そうすると,本件については,後遺障害による逸失利益について,一時金の形で損害を評価した場合に,将来における事情の変更により,現時点において算定された損害額と現実の損害額に大きなかい離が生じ被害者に不利益が生じる事態を具体的に想定することは困難であり,上記の不法行為制度の目的及び理念に照らして,定期金の方式による賠償を命じるのが相当と認められる場合には当たらないというべきである。

したがって,逸失利益についても一時金の方式により賠償額を算定すべきである。

このように、一時金とした場合と定期金とした場合とで、被害者の利害に大きな違いがないとして、被害者の求める定期金賠償を認めませんでした。

札幌地裁令和2年12月28日判決も、以下のように、被害者が成人していることなどを理由に定期金賠償を認めませんでした。

原告は本件事故当時23歳と比較的若年であって就労可能期間が長期間(現時点から約40年間)に及ぶものであることに加え,高次脳機能障害という後遺障害の性質にも鑑みると,同就労可能期間中に,逸失利益算定の基礎となる事情に変更が生じる可能性があることは否定できない。もっとも,原告は既に成人しており,本件事故後4年以上が経過していることからすると,上記1(1)アの高次脳機能障害の程度が今後大きく変化することは考え難い。また,上記1(1)アの高次脳機能障害の内容及び労働能力喪失の程度を前提とすると,賃金水準等の変化があったとしても,それが逸失利益に与える影響は限定的である(そもそも現在の日本のような成熟社会においては長期間が経過したとしても賃金水準が大幅に上昇するとは考え難い上,賃金水準が一定程度上昇したとしても,原告の逸失利益に対しては当該上昇率の35%の範囲で影響が及ぶにとどまる。)。これらの事情に鑑みると,算定された損害額と将来において現実化する損害の額との間に大きな乖離が生じる可能性は高いとはいえず,当該乖離が生じる場合に民事訴訟法117条によってその是正を図ることができるようにすることが強く要請されるものとはいい難い。
さらに,上記1(1)を前提とすると,高次脳機能障害等の後遺障害が存在しても,なお原告は自らの労働によって相当程度の収入を得ることが可能であって,将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるべき必要性も高いとはいえない。
以上によれば,本件においては,不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして逸失利益定期金賠償の対象とするのが相当であるとまでは認められない。

このように、最高裁判決後も、成人が被害者の事案について、後遺障害の逸失利益の定期金賠償について、下級審は否定的な判断をしています。

しかし、限度のない国債の発行や円安ドル高等の要因でインフレが進む可能性もあり、下級審のような限定的な態度が妥当かどうかについては疑問があります。

3 新潟で交通事故のご相談は弁護士齋藤裕へ

交通事故でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。

交通事故についての一般的な記事
逸失利益(後遺障害)についての一般的な記事

逸失利益(死亡)についての一般的な記事

弁護士費用はこちらの記事

もご参照ください。

さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です