過労死の労災認定・公務災害認定と損害賠償責任 新潟県の弁護士齋藤裕は初回相談無料

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

新潟県で過労死・過労自殺でお悩みの方は、新潟市民病院医師過労死事件で実績のある弁護士齋藤裕にご相談ください。
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目次

1 過労と死亡等との因果関係について

2 長時間労働以外の過労死

3 過労死等と安全配慮義務違反

4 海外出張と過労死

5 過労死事件における労働時間の認定

6 過労死と過失相殺・素因減額

7 歯科技工士の過労自殺

8 セールスドライバーの過労死

9 新潟で過労死のお悩みは弁護士齋藤裕へ

 

1 過労と死亡等との因果関係について

長時間労働等の過労があり、脳心臓疾患や精神疾患になった場合、さらにそれらで死亡した場合、業務起因性、つまり業務により災害が発生したとして労災として認められることがあります。

精神疾患については3ケ月で残業時間100時間等が目安となりますし、脳心臓疾患については1ケ月に残業時間100時間が目安となります。

労働時間については、移動時間は含まれないという扱いが一般的ですが、移動時間は過労死判断において考慮要素とはなります。

以上のとおり、労働時間が過労死認定の肝となります。

労働時間については、業務日誌、ログやセキュリティ記録も重要な資料となります。

2 長時間労働以外の過労死

長時間労働以外に過労死が認められる事情

長時間労働が過労死の主な原因ですが、それ以外でも、連続勤務、いじめ、パワハラ、ストレスの大きな業務があった場合に過労死が認められることはあります。

例えば、精神疾患については、

・事故や災害の体験

・仕事の失敗、過重な責任の発生等

・仕事の量、質

・役割・地位の変化等(京都地裁令和5年11月14日判決は、うつ病り患に関し、編集業務を行っていた者を掃除等の雑用が中心の業務に異動させたことについて、中程度の負荷があったとしています)

・パワーハラスメント

・対人関係

・セクシャルハラスメント

といった要素が考慮されます。

脳・心臓疾患については、

・勤務時間の不規則性

・移動

・心理的負荷(事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生等、仕事の質、役割・地位の変化等、パワーハラスメント、対人関係、セクシャルハラスメント)

・身体的負荷

・作業環境

といった要素が考慮されます。

長時間労働とそれ以外の事情の合わせ技による過労死認定

長時間労働だけでは過労死が認定されない場合でも、それ以外の事情との合わせ技により過労死認定がされることがあります。

厚生労働省労働基準局長による、令和5年9月1日「心理的負荷による精神障害の認定基準について」は、「業務による心理的負荷は、長時間労働だけでなく、仕事の失敗、過重な責任の発生、役割・地位の変化や対人関係等、様々な出来事及び出来事後の状況によっても生じることから、具体例等で示された時間外労働時間数に至らない場合にも、時間数のみにとらわれることなく、心理的負荷の強度を適切に判断する」としているところです。

そして、福岡地裁令和6年7月5日判決は、長時間労働だけでは認定基準の「中」に当たるに過ぎない事例について、以下のような不適切な態様での指示等があったと述べ、過労死を認めました。

・被災労働者の指導担当として、毎日被災労働者と直接顔を合わせ指導する中で、C統括ら上司が閲読する被災労働者の営業活動日報に、研修期間中の新入社員でありながら営業活動の量を増やすことや、相応の結果を出すことを求めるプレッシャーを与えるようなコメントを付していた

・指導担当が、時間外労働が増えていた被災労働者の状況に十分留意しないまま、営業活動日報において誤字脱字の指摘や否定的なコメントばかり記入するようになった

・被災労働者が営業活動日報の提出すらままならなくなったことを把握した後も同様であった

・被災労働者を「お前」などと呼び捨てにし、同僚などの面前で叱責したり、気合が足りないなどと前時代的な体育会系の指導をすることもあった

このように、長時間労働だけでは労災認定が難しい場合でも、その他の負荷を合わせて評価することで労災認定されることは十分ありうるので、適切に立証していくことが重要です。

過労死等と安全配慮義務違反

過労死の安全配慮義務について

過労死等があった場合、使用者が労働者の安全に配慮しておらず、安全配慮義務違反があるとされる場合、使用者は損害賠償責任を負うことになります。

使用者がうつ病罹患について認識していなくても、長時間労働の事実を認識しうるのであれば、災害の結果を予見でき、安全配慮義務違反が成立します。

使用者の安全配慮義務の中核は、労働時間を把握し、労働時間を減少させる義務ということになります。

最高裁令和7年3月7日判決は、警察官の過労自殺についての安全配慮義務について判断しています。参照:警察官の安全配慮義務違反についての判例

同判決は、被害者の上司らは、被害者が、「管内で連続窃盗事件が発生している中央交番の交番長を務めつつ、職場実習指導員に指名され、本件研修の参加者にも選出されたことを当然に把握している立場にあった」として、責任の重い仕事を任されていたことを認識しえたこと、勤務日誌を閲覧し、時間外勤務実績報告書の提出を受け、過重な長時間労働を認識しえたとします。

そこで、「(被害者)が客観的にみて精神疾患の発症をもたらし得るような過重な業務に従事していることを認識することができたというべきである。」、「(被害者)の業務を適切に調整するなど、その負担を軽減するための措置を講じなければ、被害者がその心身の健康を損なう事態となり、精神疾患を発症して自殺するに至る可能性があることを認識することができた」として、予見可能性を認めています。

それにも、上司らが、被害者の負担を軽減するための具体的な措置を講じていないとして安全配慮義務違反を認めているところです。

同判例においても、被害者が何らかのうつ病の症状を訴えていた等は問題とされておらず、純粋に過重な労働がなされていることを認識していたということだけで予見可能性を認めていることは注目すべきです。

以下、下級審の裁判例を検討し、どのような場合に長時間労働による過労死について安全配慮義務違反、損害賠償が認められるのか、みていきます。

目次

1 長時間労働についての予見可能性と安全配慮義務違反

2 労働時間を把握する義務違反と安全配慮義務違反

3 経営陣側の従業員の長時間労働による労災

4 サポートのないまま困難な仕事をさせたことが安全配慮義務違反とされた事例

 5 新潟で労災、過労死は弁護士齋藤裕へ

 

1 長時間労働についての予見可能性と安全配慮義務

長時間労働によりうつ病を発症し、自殺などした場合、労災決定が出されることになります。

どの程度の長時間労働で労災決定が出るかについては、心理的負荷による精神障害の認定基準をご参照ください。

さらに、使用者に損害賠償請求をする場合には、使用者に安全配慮義務違反が存在する必要があります。

この安全配慮義務違反については、使用者側に疾病などについての予見可能性の存在が必要となります。

そのため、長時間労働により労働者がうつ病などり患した場合、使用者側が、「うつ病にり患していることは認識できなかった」などと弁解をし、安全配慮義務違反の存在を争うことが多くあります。

実際、長時間労働があっても、安全配慮義務違反を否定した裁判例としては、東京地裁令和2年9月3日判決等があります。

しかし、多くの裁判例においては、長時間労働の認識があれば予見可能性を認めており、使用者側にうつ病のり患についての認識がないからといって安全配慮義務違反を否定することは多くはありません。

長時間労働の認識から安全配慮義務違反を認めた札幌高裁平成25年11月21日判決

例えば、札幌高裁平成25年11月21日判決は、自殺1ケ月前の時間外労働96時間の事例について以下のように述べます。

長時間労働等によって労働者が精神障害を発症し自殺に至った場合において,使用者が,長時間労働等の実態を認識し,又は認識し得る限り,使用者の予見可能性に欠けるところはないというべきであって,予見可能性の対象として,うつ病等の精神障害を発症していたことの具体的認識等を要するものではないと解するのが相当である。
被控訴人病院においては,職員の出退勤時刻を管理するためにタイムカードによる打刻が用いられていた。被控訴人に代わってAに対し業務上の指揮監督を行う権限を有するCは,臨床検査技師であるから超音波検査の習得が困難であることは把握していたし,本件自殺の1か月前,おおむねAとほぼ同時に退勤していた。このような事情からすると,被控訴人は,Aが時間外労働,時間外労働と同視されるべき本件自習をしていたことや,超音波検査についての習得状況などを認識し,あるいは容易に認識し得たと認められる。

このように、長時間労働によるうつ病り患及びその後の自殺の事案について、長時間労働等の認識から予見可能性を認定しています。

労働時間がそれほど長時間でない場合に安全配慮義務違反を否定した奈良地裁令和4年5月31日判決

なお、安全配慮義務の前提となる予見可能性が認められるためには、ある程度以上の長時間労働が必要となります。

例えば、奈良地裁令和4年5月31日判決は、以下のとおり述べ、時間外労働30~60時間の場合、それだけでうつ病発症を予見できたとは言えないとしています。

平成26年10月から平成27年2月にかけての亡Dの時間外勤務の時間をみると、1か月当たり60時間を超える月もあったものの、30時間程度の月も見られ、亡Dがうつ病に罹患する前の6か月間において、過重な長時間業務がうつ病の発症を予見できる程度に常態化していたとまではいえない。そして、被告は、平成27年3月から同年4月にかけて、亡Dの業務量が過酷なほどに増加したことは認識していたものと認められるが、亡Dは精神科医院に通院を要するほどの心身の不調を明確に上司らに訴えたとは認められず、亡Dの業務の進捗状況にも問題がなかったこと等からすると、この頃に、上司らが亡Dの勤務態度等から精神疾患の発症を疑ってしかるべき状況にあったとは認められない。
そうすると、亡Dがうつ病に罹患したことについて、被告に国家賠償法1条1項の適用上違法と評価され、又は民法415条に当たると認められる安全配慮義務違反があったとはいえない。

長時間労働の認識可能性がなかったとして安全配慮義務違反を否定した東京地裁令和2年9月3日判決

長時間労働があっても、使用者側にその認識可能性がなければ、予見可能性はありませんし、安全配慮義務違反もないことになるでしょう。

東京地裁令和2年9月3日判決は、以下のとおり述べ、自己申告による労働時間等を理由に、予見可能性、ひいては安全配慮義務違反も否定しています。

「亡Bは,平成26年5月中旬以降,継続的に月80時間以上の時間外労働を行っており,同年5月下旬から同年6月下旬までにかけては,月100時間程度の時間外労働を行ったものであるが,亡Bは,上記期間中,被告Y2が直接確認する勤務状況表には,始業時刻はおおむね午前9時,終業時刻はおおむね午後5時45分,遅くとも午後9時半である旨,実態と異なる記載をしていたことが認められる。このほか,亡Bにおいて,被告Y2をCC欄に入れて,夜間や早朝にメールを送信することが何度かあったことが認められるが,メールの送信は,退勤後に自宅等から行うことも可能であったから,夜間や早朝にメールが送信されたことから,(被告Y2において)直ちにそうした時間帯に亡Bが出勤している事実を知り得たとはいえない。上記当時,立川支店,とりわけ亡Bが担当するH金庫関連の業務量が減少しており,本件全証拠によっても,同人の業務について,客観的に長時間の時間外労働が必要であったとは認められないことをも考慮すると,被告Y2が,亡Bの長時間労働を認識し,又は認識し得たとは認められない。」

しかし、同判決は、使用者においては自己申告ではなく客観的な手法で労働時間を把握する義務があることを軽視したものであり、妥当とは言えません。

使用者側の、長時間残業を知らなかったとの弁解を安易に認めるべきではありません。

2 労働時間を把握する義務違反と安全配慮義務違反

過労死を防止する第一歩は、労働時間などの労働実態を把握することです。

厚生労働省も、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準を公表しています。

これがなされないと対策のうちようがありません。

ですから、労働時間把握義務違反が安全配慮義務違反とされ、損害賠償請求の対象となることがありえます。

勤務実態を把握する義務を果たさないことが安全配慮義務違反とされた裁判例1

神戸地裁平成25年6月12日判決は、そのような労働実態把握の必要性を直視し、以下のとおり、比較的具体的に使用者としてどのようにして労働実態を把握すべきか示しています。

平成17年ないし平成18年当時,Dの労働時間は長時間に及んでいたところ,Dの直属の上司であったKは・・・Dの時間管理表(申請書)の記載が実態と異なることを認識し,また,Dが長時間の所定外労働を行っていると聞いていたというのであり,さらに,認定事実によれば,平成17年10月末ころには,Dの様子がおかしいことをOから聞いていたというのであるから,Dや検査プロジェクト室の他の従業員から勤務実態について聴き取りを行う,Dが送信したメールの送信時刻を確認する,Dのパソコンのログ記録を確認するなどの方法によって,Dの勤務実態を把握し,長時間にわたっていたDの労働時間を短縮するための措置を講ずべき義務があったというべきである。

このように、裁判所は、使用者には、メールの送信時間やパソコンのログ記録を確認するなどして過重労働について確認すべき義務があったとしました。

その上で、同判決は、以下のとおり述べ、かかる義務は果たされていないとしました。

しかるに,Kは,Dの勤務実態や業務の詳細について把握する措置を取ることなく,漫然と「早く帰れよ。」「土日は休みなさい。」などと言うのみで,検査員確保業務について積極的に助言をしたり負荷軽減措置を取ったりすることはなく,中期計画等の策定についても,Dに進捗状況を問いかけることをせず,本件自殺の後に初めて中期計画が策定されていないことを知ったというのであり,OからDの様子がおかしいと聞いた際にも,Dに対し「大丈夫か。」と声をかけたのみで,それ以上の対応をしなかった(認定事実)というのであるから,前記各義務を果たしていたとは認められない。

早く帰るように指示していたという主張は過労死の事件で使用者側からよく出されるものですが、大量の仕事をかかえている労働者にそのようなことを言っても気休めにもなりません。

きちんと労働実態を把握し、負担を軽減する措置をとらない限り安全配慮義務を尽くしたことにはなりません。

同判決は、過労死裁判において使用者が果たすべき義務について明確に示しており、今後他の裁判所においても参考にすべきものと考えます。

勤務実態を把握する義務を果たさないことが安全配慮義務違反とされた裁判例2

富山地裁令和5年7月5日判決は、公立学校教員が過重労働によるクモ膜下出血で死亡した事案について、学校側に勤務実態を把握する義務違反があったとしました。

同判決は、教務部の作成する教科担当の週当たりの持ち時間数の一覧表、本件中学校における部活動時間の取り決めや特殊勤務実績簿等、各種連絡文書によって、校長において、勤務実態をある程度認識しうるとしました。その上で、校長は、当該教員「が量的にも質的にも過重な業務に従事しており、心身の健康を損ねるおそれがあることを客観的に認識し得たといえるから、その業務の遂行状況や労働時間等を把握し、必要に応じてこれを是正すべき義務を負っていたものと認められる。」としています。

なお、学校側は、当該教員の発症前に欠勤等はなく、健康状態の不安に関する申告等もなかったことから、校長は、本件発症を具体的に予見することはできなかった旨主張しました。

しかし、裁判所は、校長において、当該教員が量的にも質的にも過重な業務に従事していることを認識し得たものであり、過重な長時間に及ぶ労働が労働者の心身の健康を損なうおそれがあることは広く知られていることに照らせば、当該教員の心身の健康が損なわれるおそれがあることは予見可能であったといえるから、本件発症そのものを具体的に予見していなかったとしても義務を免れるものではないとしています。

裁判所は、過重労働が明らかなケースでは、管理職において具体的な症状を認識しなかったからといって予見可能性を否定しない傾向にあります。

労働時間を把握しなかったことについて安全配慮義務違反を否定した事例

他方、熊本地裁令和3年7月21日判決は、PCのログ、ICカードの履歴によって労働時間を把握する体制を構築していなかったことは安全配慮義務違反とならないとしています。

同判決は、会社の代表取締役及び労務担当取締役は、労働時間管理に係る体制を適正に構築・運用すべき義務を負っているとします。

しかし、同判決は、具体的な事案において、労働時間管理についての義務違反は認められないとしました。

この事案では、自己申告による労働時間把握をベースとしつつ、

・従業員は各部室店に置かれた時間外管理表に退行時刻を記入し、各部室店の課長代理以上の役席者が従業員の退行時刻を確認して捺印した上、所属長が時間外管理表の記載と時間外管理システム上で申請・報告された時間が整合することを確認する

・各部室店の最終退行者は退行点検引継簿にも最終退行時刻を記載し、所属長は同記載と時間外管理システム上で申請・報告された時間が整合することを確認する

とされていました。

このように、PCログの確認等以外に、客観的な労働条件把握システムが採用されていたことから、安全配慮義務違反が否定されました。

3 経営陣側の従業員の長時間労働による労災

経営陣側であった労働者の長時間労働による労災と安全配慮義務

福岡地裁平成30年11月30日判決は、一時役員をしていたこともあるとされる従業員(自動車販売会社勤務)が長時間労働により心筋梗塞を発症した事案に関するものです。

そのため、会社側からは、被災労働者は経営陣側であった、よって会社としては被災労働者側に対し安全配慮義務を追っていなかったとの主張がなされています。

この点、判決は、以下のとおり述べ、会社に安全配慮義務違反があったことを認定しています。

「安全配慮義務は雇用契約の信義側上の付随義務として一般的に認められるべきものであるから、原告が被告会社の従業員であった以上、過去に監査役又は取締役に就任していたとしても、そのことから直ちに被告会社が原告に対する安全配慮義務を負わないことになるものではない」

被告会社は、被災労働者が、決算報告会や四半期報告会に出席していたことなどから、経営陣側であったと主張しています。

しかし、判決は、以下のとおり述べ、それは経営陣側であることを示す事情ではないとしました。

「これらの会議は、被告会社の経営状況や部門別の業績について検討を行うものであるといえ、原告が、本件店舗の店長という立場で出席していたとしても不自然ではないから、これらの会議に出席していたことから、直ちに原告が経営側の立場にいたということはできない」

その他、給与の前借などをしていたという事情もありましたが、社内の手続に沿ってなされていただけであり、経営陣にいることを示すものではないとされました。

名目的取締役の長時間労働と安全配慮義務

また、東京高裁令和4年3月10日判決は、経営に関与しておらず、役員報酬もらっていない名目的取締役についても安全配慮義務は減免されないとの判断を示しています。

むしろ、同判決は、「代表取締役の業務執行は代表取締役として一般に要求されている水準の善良な管理者の注意を尽くして行われるべきであって、多忙や別の仕事への従事又は他の者に任せていた等の個人的な事情によって直ちに注意義務が軽減されるものではない」とした上、まったく被害者の労働時間を把握していなかったことは悪意・重過失を裏付ける事情となるとまで指摘しているところです。

経営陣の長時間労働と安全配慮義務についてのまとめ

以上のとおり、現時点で労働者である者については、過去に経営陣に属していた、あるいは現に経営陣に属しているとしても、原則的には安全配慮義務違反は認められます。

また、実質的に安全配慮を尽くすべき立場(経営陣)にいた者に対する安全配慮義務違反が免除される余地はありますが、枢要な会議に出席していたというだけでは経営陣にいたとの認定はされにくいことになります。

4 サポートのないまま困難な仕事をさせたことが安全配慮義務違反とされた事例

徳島地裁平成25年7月18日判決は、設計業務に従事していた労働者がうつ病のため自殺した事件について、会社が十分なサポートもないなま困難な仕事を労働者にさせたとして、会社側に安全配慮義務違反を認めています。

同判決は、以下のとおり述べます。

「Cは,一郎が会社2に赴任する前から単身赴任に伴う家庭生活上の不安をもらし,赴任後も,一郎の言動から異様な印象を受けることがあったというのであるから,本件出向に伴う精神的な負担がかかっていることを十分認識しあるいは認識できたものであり,そのような状態で強い仕事の負荷をかけた場合,うつ病に罹患する危険があることは,予見可能であったというべきである。そして,会社2において,一郎はUFSの開発をリードすることが期待されていたものの,一郎は会社2に初めて出向し,UFSも初めて扱う機械であり,会社2においてその構造等を知る技術者もおらず,会社2に出向してきたばかりで会社2のCADにも不慣れであったのであるから,UFSの改良等を一郎に指示する場合,十分な余裕をもって,サポート体制等を事前に準備した上でする必要があったが,Cは,一郎一人に対し,著しく困難な納期を設定した上で12等の改良を命じ,一郎のうつ病を発症させたものであるから,会社2は,労働契約上の安全配慮義務に違反したというべきである。」

このように、同判決は、もともと労働者において家庭生活上の不安もあり異様な言動をしていたこと、労働者は出向してきたばかりで不慣れなので開発業務に従事させる場合にはサポート体制等を事前に準備すべきであったのにしなかったこと、困難な納期での業務をさせたこと、そのためうつ病り患に至ったことなどから、会社に安全配慮義務違反を認めました。

徳島地裁判決自体は、開発業務に関わる労働者についてのものですが、サポートもなく困難な業務に従事させられるという事態は他の業種の労働者にもありうるところかと思います。

ですから、同判決は、幅広い業種について安全配慮義務の内容を明らかにした意義があると思われます。

4 海外出張と過労死

労災保険において、過労を原因として脳・心臓血管疾患が発症した、あるいは精神疾患が発症したと言えるためには、強度の負荷がかかったといえる必要があります。

そして、海外出張は、時差による負荷、慣れない業務による負荷という要素があるため、強度の負荷を裏付ける事情となります。

この点、ベトナムに長期出張していた労働者が過労自殺した件についての平成30年6月13日判決は、以下のとおり述べて、海外出張は強度の負荷を与えるものとはならないとしました。

「C東京本社への出向及び本件ベトナム出張自体は,亡B自身が強く希望して実現されたものであり,その業務内容も,亡Bの従前の経験に合致したものであって,英語の点を含めて特段の困難性を有する業務はなかったと認められ,これらの点に,Cベトナムの支援体制(全行程への駐在員の同行又は同席等。),出張期間等の点(長期間継続的な滞在を前提とする海外駐在とは大きく異なるものであること)をも併せ鑑みると,転勤により職務及び生活環境に変化が生じ,それが海外での勤務を伴うものであるという点を踏まえたとしても,C東京本社への出向及び本件ベトナム出張について,客観的にみて,本件疾病を発病させる程度に強度な心理的負荷であったとは認められない。」

このように、新規性のある業務ではなかったこと、支援態勢が充実していたこと、自ら望んだ海外出張であったことを踏まえ、負荷が強いとは言えないとしました。

負荷自体は総合的に判断するものであり、結論の妥当性については何とも言えませんが、海外出張を本人が希望していたということを取り上げることには違和感は禁じ得ません。

出張を希望した以上、途中でもう行きたくないと言えない場合もあるでしょうし、希望していたかどうかという事情はあまり重視されるべき要素ではないと思います。

それでも、裁判所が現にそのような判断をする以上、労災の関係で海外出張の負荷を主張する場合には、出張するに至った経過、サポート体制、従来の業務との断絶などを主張立証すべきことになります。

5 過労死事件における労働時間の認定

過労をめぐる裁判においては労働時間の認定が肝となります。

目次

業務日誌による労働時間の認定

パソコンのログによる労働時間認定

ログオフ時間か終業時間の平均で終業時間を認定すべきとした裁判例

過労死と休憩時間の認定

 

業務日誌による労働時間の認定

その際、業務日誌などがあれば有力な認定資料となりますが、その信用性が争われることもありえます。

自動車販売会社において従業員が長時間労働のために脳梗塞を発症したという事案について、福岡地裁平成30年11月30日判決は、以下のとおり述べて、業務日誌の信用性を認め、それをもとに長時間労働を認定し、最終的には安全配慮義務違反を認め、会社及びその代表取締役に損害賠償を命じています。

この日誌は被災者の元同僚が作成したものです。

会社はこの日誌は事後的に作成されたものであるなどとして争っていました。

「P1の日誌は、本件労災申請に係る資料として、平成20年10月分から平成21年7月分までのものが提出されており、本件訴訟における証拠としても、これらの日誌が提出されているところ、P1は、上記期間においてこれらの日誌を使用していたものといえるから、これらの日誌が、事後的に統一性のある書き込みをすることができる状態で残存していたものとは考えがたい。また、上記のP1の日誌のうち平成20年10月分から平成21年1月分までのものは、旧版日誌であるところ・・・日誌の改定後は、旧版日誌は被告会社に残存していなかったものと認められるから、P1が、事後的に新しい旧版日誌を入手して、それに上記期間の業務等を書込んだものとも考えがたい」

「以上に加え、提出されているP1の日誌の分量及びほぼその全ての日について業務内容等の記載があることに照らすと、P1の日誌における各日の予定や結果の記載は、それぞれ対応する日又はその前後の日に記入されたものと認められるというべきである」

このように、日誌に毎日業務内容等についての記載がなされていることから、改変が困難(毎日の記録を後から捏造するのは手間がかかるし、矛盾が出てきやすいので)なものとして、日誌の信憑性が認められたものです。

その他、日誌の信憑性は、客観的な記録や他の記録との整合性などの要素により裏付けられます。

当該事案では、被災者以外の者が作成したという要素も意味を持ったのではないかと考えられます。

長時間労働の事案では、日誌のような重要証拠を確保できるか、そのために社内に協力者を確保できるかが重要ということになります。

パソコンのログによる労働時間認定

パソコンのログと労働時間の認定

きちんと労働時間管理されていない職場においてパソコンのログ記録は労働時間認定のための有力な資料となります。
しかし、記録を用いてどのように労働時間を認定するかについては裁判所によってもズレが生じます。
この点、東京高裁平成31年3月28日判決は、パソコンのログ記録をめぐり、一審と異なる労働時間認定をしています。
残業代請求や過労死の裁判において参考になると思われるため、ご紹介します。

シャットダウン記録だけで退勤時間を認定できないとした判決

同判決は、当該労働者がログオフをしたとすると不自然な時間帯のログオフが多くないことなどを理由に、当該労働者のアカウントによるログオフがある場合について、以下のとおり述べ、その時刻を労働時間認定の根拠とします。
「少なくとも一審原告の出勤が認められる日に一審原告のアカウントによるログオフがある場合は、一審原告がログオフした可能性が高いということができるから、その前後の日の状況等をしんしゃくして、当日が一審原告の休日や早番であるなど、一審原告がログオフした可能性が乏しいことをうかがわせる状況がなければ、一審原告がログオフしたと推認するのが相当で、そのような推認ができる日においては、その時刻まで業務の必要性があったものと認めるのが相当である」

他方、同判決は、シャットダウンについては、以下のとおり述べ、シャットダウンのみでは労働時間認定はできないとしました。
「一審被告の他の従業員や上司がシャットダウンした可能性も否定できないし、一審原告のアカウントと異なり、そのログオン又はログオフまで業務を行っていたと推認しがたいから、シャットダウンログのみしかない場合・・・には、その時刻をもって一審原告の終業時刻を定めることはできず、他に終業時刻を認定するに足りる証拠がなければ、シフト表を始めとする他の指標を用いて就業時刻を認定するのが相当である」

このように、裁判所は、当該労働者が使用するパソコンのログオフなどの時刻と当該労働者の勤務時間帯の整合性、他の従業員がパソコンを操作する可能性などを考慮し、ログ記録からの労働時間認定を行っています。
このような認定方法は合理的と思われ、残業代請求や過労死の事件において大いに参考になるものと考えます。

ログオフ時間か終業時間の平均で終業時間を認定すべきとした裁判例

宮崎地裁令和6年5月15日判決は、ログオフ記録がある場合、「他の従業員が使用してログオフ操作をすることは考え難い」として、ログオフ時間=退勤時間としています。

他方、ログオフ記録がない場合、終業時刻の平均である時間をもって退勤時間としています。

上記東京高裁判決は、ログオフ記録がない場合、シフト表等を用いるべきとしていますが、平均である時間の方がより実態に近づく可能性があり、妥当な算定方法だ考えます。

過労死と休憩時間の認定

過労死事件では、休憩時間を所定どおりにとることができなかったというケースが多くあります。

しかし、休憩時間については、出勤・退勤よりも、それを示す証拠が乏しく、所定どおり休憩を取得していたとされるケースが多いです。

例えば、宮崎地裁令和6年5月15日判決では、所定どおりの休憩がとれなかったとの主張があったものの、1時間程度の休憩をとっていたという認定がされています。

休憩時間については、休憩時間も1人で客対応をしていたなどの特別の事情を主張立証するのが重要です。

6 過労死と過失相殺・素因減額

労働災害を原因として損害賠償請求をする場合、使用者側から過失相殺・素因減額の主張を受けることがあります。

うつ病であることを申告しなかったことと過失相殺

長時間労働によるうつ病り患などの場合も、うつ病であることを職場に申告しなかったので過失相殺がなされるべきとの主張がありうるところですが、最高裁平成26年3月24日判決は、そのような過失相殺の主張を認めませんでした。

同判決は、業務の負担が重かったことを踏まえ、以下のとおりの判断を示しています。

「上記の業務の過程において,上告人が被上告人に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので,労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。」参照:うつ病労災で過失相殺をしなかった判例

つまり、うつ病などに関する情報を会社に申告することを求めるのは酷であること、使用者としては労働者の体調不良に十分な注意を払う義務があることなどを踏まえ、過失相殺を認めませんでした。

うつ病など精神疾患について会社には言いづらいという労働者の心理を踏まえれば極めて妥当な判断です。

基本的には、会社に精神疾患を申告しなかったという理由での過失相殺は認められるべきものではありません。

几帳面な性格と素因減額

過労死をめぐる裁判では、使用者において、労働者がうつ病に罹患したなどの情報を使用者に申告しなかったとして過失相殺が主張されることがあります。

しかし、労働者に申告を求めることは酷であり、過失相殺が認められることは多くはありません。

また、生真面目な性格の人がうつ病などになる傾向があるとの指摘もありますが、そのような性格が減額の要素とされることもあまりありません。

奈良地裁令和4年5月31日判決は、「被害者のまじめで几帳面な性格が、労働者の個性の多様さを逸脱するものでないことは上記のとおりであるし、被害者の仕事の取り組み方によって、自ら不要な業務を増やしていたとも評価できないのであるから、本件において、賠償額を決定するに際し、被告が主張する事情によって、過失相殺や素因減額を行うことは相当ではない。」としているところです。参照:過労死と過失相殺・素因減額についての裁判例

ブルガダ症候群と素因減額

ブルガダ症候群は、「12誘導心電図のV1からV2(V3)誘導における特徴的なST上昇と心室細動(VF)を主徴とする症候群」です。参照:国立循環器病研究センターサイト

心停止・心室細動につながると考えられています。

宮崎地裁令和6年5月15日判決は、ブルガダ症候群にり患していた労働者が心停止により死亡したことについて、使用者に損害賠償を認めつつ、2割の素因減額を認めています。

同事件では、そもそも、労働者がブルガダ症候群にり患していたため、過労と心停止との因果関係も争われていました。

しかし、裁判所は、過度の緊張等がブルガダ症候群の原因となりうることを前提に、因果関係は認めました。

しかし、ブルガダ症候群にり患していたことから、2割の素因減額を行ったものです。

このように、素因自体が過労の結果である可能性がある場合、控えめな割合の素因減額となります。

7 歯科技工士の過労自殺

福岡地裁平成31年4月16日判決は、歯科技工士が過労自殺した事案について歯科医院の賠償責任を認めています。

義務違反の判断について参考になると思われますので、ご紹介します。

同事案では、歯科技工士は、おおむね月145時間を超える時間外労働をしていました。

裁判所は、それを前提に、以下のとおり、歯科医院側に安全配慮義務違反を認めています。

「被告は,従業員の労働時間を客観的資料に基づいて把握しておらず,労働時間に関する聞き取りなど,労働時間を把握するための措置も特段講じていなかったのであるから,被告による労働管理は不十分であるというほかない。

被告は,平成25年頃,亡Dに対し,残業をした場合には,帰宅する際にGに連絡するよう指示したものの,同年8月までの間に,亡Dから,Gに対し連絡があったのは数回程度であり,同年9月以降,亡Dから連絡がなかったにもかかわらず,特段亡Dの労働時間を把握する措置を講じていなかったのであるから,これをもって,被告が,労働時間を把握するための措置を講じていたとはいえない。以上によれば,被告は,亡Dの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたというべきである。そして,長時間労働や過重な労働により,疲労やストレス等が過度に蓄積し,労働者が心身の健康を損ない,ときには自殺を招来する危険があることは,周知の事実である。そうすると,被告は,亡Dの労働時間を適正に管理しない結果,同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべ きである。」

裁判所は、以上のとおり、労働時間について適切に管理をしなかったことで安全配慮義務違反となると判断しているものです。

労働時間を適切に管理しなければ、労働時間を減少させる対策をすることもできませんし、労働時間の適切把握が長時間労働防止のための根本的な対策となります。

ですから、労働時間を適切に把握しなかったことを安全配慮義務違反ととらえる同判決の判断は極めて妥当というべきです。

なお、被告側は、歯科技工士が心療内科を受診していなかったこと、転職をしなかったことを歯科技工士側の過失として主張しています。

しかし、裁判所は、歯科技工士において自身の変調に気づいていなかった可能性があるなどとして、過失相殺の主張をすべて退けています。

穏当な判断というべきでしょう。

8 セールスドライバーの過労死

熊本地裁令和1年6月26日判決は、セールスドライバーの過労死を労災と認定しました。

参考になるものと思われますのでご紹介します。

このセールスドライバーはクモ膜下出血で死亡しました。

同判決は、被災労働者の発症前1ケ月の時間外相当時間は102時間、発症前1週間の時間外労働時間は41時間34分であるとしています。

また、セールスドライバーについて、同僚が年を取ったらできないくらい大変な仕事である、発症時期は繁忙期であると述べていることを踏まえ、判決は、「セールスドライバーの業務内容は、長時間の運転業務を伴う配達・集荷作業等といった一般的に肉体的・精神的負担が大きい業務と考えられる」として、労働時間以外の負荷も相当程度に過重であったとしました。

結果として、裁判所は、クモ膜下出血に業務起因性があるとして、労災と認定しました。

このように、セールスドライバーという職種について、一般的に肉体的・精神的負担が大きい業務として認定したことは、セールスドライバーにかかわるほかの労災事件においても影響を有すると考えられます。

なお、同判決では、上記の前提となる労働時間の認定の仕方についても参考になるものです。

被災労働者が所属していたセンターにおいて、昼休憩時間中の労働時間は平均44分でした。

そして、被災労働者の取扱い荷物量は、他のドライバーとほぼ同じでした。

そのため、裁判所は、被災労働者は、昼休憩時間中に、他の労働者と同様、44分は労働していたとみなしました。

その結果、上記の労働時間認定に至ったものです。

労働基準署長側は、証人において昼休憩中に被災労働者が働いていた様子がなかったと述べていたことを踏まえ、昼休憩中に被災労働者は労働していなかったと主張しましたが、裁判所は前記のところを踏まえ、労働基準監督署長側の主張を排斥しました。

このように、平均的な労働時間と平均的な業務量から該当する被災労働者の労働時間を割り出す手法はセールスドライバー以外の労働者についても適用可能であり、参考になる手法と考えます。

また、このようにある程度客観的な手法により労働時間が推認される場合に、労働環境が適切だったと証言する動機のある証人よりも客観的な手法により推認される労働時間の方が信用できるとしたのは極めて妥当な判断だったと言えるでしょう。

9 新潟で過労死のお悩みは弁護士齋藤裕へ

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