過労死の労災認定・公務災害認定と損害賠償責任 新潟県の弁護士齋藤裕は初回相談無料

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

新潟県で過労死・過労自殺でお悩みの方は、新潟市民病院医師過労死事件で実績のある弁護士齋藤裕にご相談ください。
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目次

1 過労と死亡等との因果関係について

2 長時間労働以外の過労死

3 過労死等と安全配慮義務違反

4 海外出張と過労死

5 過労死事件における労働時間の認定

6 過労死と過失相殺

7 歯科技工士の過労自殺

8 セールスドライバーの過労死

9 新潟で過労死のお悩みは弁護士齋藤裕へ

 

1 過労と死亡等との因果関係について

長時間労働等の過労があり、脳心臓疾患や精神疾患になった場合、さらにそれらで死亡した場合、業務起因性、つまり業務により災害が発生したとして労災として認められることがあります。

精神疾患については3ケ月で残業時間100時間等が目安となりますし、脳心臓疾患については1ケ月に残業時間100時間が目安となります。

労働時間については、移動時間は含まれないという扱いが一般的ですが、移動時間は過労死判断において考慮要素とはなります。

以上のとおり、労働時間が過労死認定の肝となります。

労働時間については、業務日誌、ログやセキュリティ記録も重要な資料となります。

2 長時間労働以外の過労死

長時間労働が過労死の主な原因ですが、それ以外でも、連続勤務、いじめ、パワハラ、ストレスの大きな業務があった場合に過労死が認められることはあります。

例えば、精神疾患については、

・事故や災害の体験

・仕事の失敗、過重な責任の発生等

・仕事の量、質

・役割・地位の変化等(京都地裁令和5年11月14日判決は、うつ病り患に関し、編集業務を行っていた者を掃除等の雑用が中心の業務に異動させたことについて、中程度の負荷があったとしています)

・パワーハラスメント

・対人関係

・セクシャルハラスメント

といった要素が考慮されます。

脳・心臓疾患については、

・勤務時間の不規則性

・移動

・心理的負荷(事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生等、仕事の質、役割・地位の変化等、パワーハラスメント、対人関係、セクシャルハラスメント)

・身体的負荷

・作業環境

といった要素が考慮されます。

3 過労死等と安全配慮義務違反

過労死等があった場合、使用者が労働者の安全に配慮しておらず、安全配慮義務違反があるとされる場合、使用者は損害賠償責任を負うことになります。

使用者がうつ病罹患について認識していなくても、長時間労働の事実を認識しうるのであれば、災害の結果を予見でき、安全配慮義務違反が成立します。

使用者の安全配慮義務の中核は、労働時間を把握し、労働時間を減少させる義務ということになります。

経営陣側の労働者に対しても使用者は安全配慮義務を負います。

安全配慮義務については、

過労死をめぐる裁判では、使用者において、労働者がうつ病に罹患したなどの情報を使用者に申告しなかったとして過失相殺が主張されることがあります。

しかし、労働者に申告を求めることは酷であり、過失相殺が認められることは多くはありません。

4 海外出張と過労死

労災保険において、過労を原因として脳・心臓血管疾患が発症した、あるいは精神疾患が発症したと言えるためには、強度の負荷がかかったといえる必要があります。

そして、海外出張は、時差による負荷、慣れない業務による負荷という要素があるため、強度の負荷を裏付ける事情となります。

この点、ベトナムに長期出張していた労働者が過労自殺した件についての平成30年6月13日判決は、以下のとおり述べて、海外出張は強度の負荷を与えるものとはならないとしました。

「亡Bは,本件発病の約3か月前である平成23年6月15日,本件会社大阪支社からC東京本社に出向して単身赴任し,引き続き,3回にわたりベトナムに長期出張しているところ,原告は,これらの一連の出来事が亡Bに強い心理的負荷を与え,本件疾病の原因となった旨主張する。」

「以上認定した事実によれば,C東京本社への出向及び本件ベトナム出張自体は,亡B自身が強く希望して実現されたものであり,その業務内容も,亡Bの従前の経験に合致したものであって,英語の点を含めて特段の困難性を有する業務はなかったと認められ,これらの点に,Cベトナムの支援体制(全行程への駐在員の同行又は同席等。),出張期間等の点(長期間継続的な滞在を前提とする海外駐在とは大きく異なるものであること)をも併せ鑑みると,転勤により職務及び生活環境に変化が生じ,それが海外での勤務を伴うものであるという点を踏まえたとしても,C東京本社への出向及び本件ベトナム出張について,客観的にみて,本件疾病を発病させる程度に強度な心理的負荷であったとは認められない。」

このように、新規性のある業務ではなかったこと、支援態勢が充実していたこと、自ら望んだ海外出張であったことを踏まえ、負荷が強いとは言えないとしました。

負荷自体は総合的に判断するものであり、結論の妥当性については何とも言えませんが、海外出張を本人が希望していたということを取り上げることには違和感は禁じ得ません。

出張を希望した以上、途中でもう行きたくないと言えない場合もあるでしょうし、希望していたかどうかという事情はあまり重視されるべき要素ではないと思います。

それでも、裁判所が現にそのような判断をする以上、労災の関係で海外出張の負荷を主張する場合には、出張するに至った経過、サポート体制、従来の業務との断絶などを主張立証すべきことになります。

5 過労死事件における労働時間の認定

過労をめぐる裁判においては労働時間の認定が肝となります。

目次

業務日誌による労働時間の認定

パソコンのログによる労働時間認定

業務日誌による労働時間の認定

その際、業務日誌などがあれば有力な認定資料となりますが、その信用性が争われることもありえます。

自動車販売会社において従業員が長時間労働のために脳梗塞を発症したという事案について、福岡地裁平成30年11月30日判決は、以下のとおり述べて、業務日誌の信用性を認め、それをもとに長時間労働を認定し、最終的には安全配慮義務違反を認め、会社及びその代表取締役に損害賠償を命じています。

この日誌は被災者の元同僚が作成したものです。

会社はこの日誌は事後的に作成されたものであるなどとして争っていました。

「P1の日誌は、本件労災申請に係る資料として、平成20年10月分から平成21年7月分までのものが提出されており、本件訴訟における証拠としても、これらの日誌が提出されているところ、P1は、上記期間においてこれらの日誌を使用していたものといえるから、これらの日誌が、事後的に統一性のある書き込みをすることができる状態で残存していたものとは考えがたい。また、上記のP1の日誌のうち平成20年10月分から平成21年1月分までのものは、旧版日誌であるところ・・・日誌の改定後は、旧版日誌は被告会社に残存していなかったものと認められるから、P1が、事後的に新しい旧版日誌を入手して、それに上記期間の業務等を書込んだものとも考えがたい」

「以上に加え、提出されているP1の日誌の分量及びほぼその全ての日について業務内容等の記載があることに照らすと、P1の日誌における各日の予定や結果の記載は、それぞれ対応する日又はその前後の日に記入されたものと認められるというべきである」

このように、日誌に毎日業務内容等についての記載がなされていることから、改変が困難(毎日の記録を後から捏造するのは手間がかかるし、矛盾が出てきやすいので)なものとして、日誌の信憑性が認められたものです。

その他、日誌の信憑性は、客観的な記録や他の記録との整合性などの要素により裏付けられます。

当該事案では、被災者以外の者が作成したという要素も意味を持ったのではないかと考えられます。

長時間労働の事案では、日誌のような重要証拠を確保できるか、そのために社内に協力者を確保できるかが重要ということになります。

パソコンのログによる労働時間認定

パソコンのログと労働時間の認定

きちんと労働時間管理されていない職場においてパソコンのログ記録は労働時間認定のための有力な資料となります。
しかし、記録を用いてどのように労働時間を認定するかについては裁判所によってもズレが生じます。
この点、東京高裁平成31年3月28日判決は、パソコンのログ記録をめぐり、一審と異なる労働時間認定をしています。
残業代請求や過労死の裁判において参考になると思われるため、ご紹介します。

パソコンのログ記録で過労死認定をした判決の内容

同判決は、当該労働者がログオフをしたとすると不自然な時間帯のログオフが多くないことなどを理由に、当該労働者のアカウントによるログオフがある場合について、以下のとおり述べ、その時刻を労働時間認定の根拠とします。
「少なくとも一審原告の出勤が認められる日に一審原告のアカウントによるログオフがある場合は、一審原告がログオフした可能性が高いということができるから、その前後の日の状況等をしんしゃくして、当日が一審原告の休日や早番であるなど、一審原告がログオフした可能性が乏しいことをうかがわせる状況がなければ、一審原告がログオフしたと推認するのが相当で、そのような推認ができる日においては、その時刻まで業務の必要性があったものと認めるのが相当である」

他方、同判決は、シャットダウンについては、以下のとおり述べ、シャットダウンのみでは労働時間認定はできないとしました。
「一審被告の他の従業員や上司がシャットダウンした可能性も否定できないし、一審原告のアカウントと異なり、そのログオン又はログオフまで業務を行っていたと推認しがたいから、シャットダウンログのみしかない場合・・・には、その時刻をもって一審原告の終業時刻を定めることはできず、他に終業時刻を認定するに足りる証拠がなければ、シフト表を始めとする他の指標を用いて就業時刻を認定するのが相当である」

このように、裁判所は、当該労働者が使用するパソコンのログオフなどの時刻と当該労働者の勤務時間帯の整合性、他の従業員がパソコンを操作する可能性などを考慮し、ログ記録からの労働時間認定を行っています。
このような認定方法は合理的と思われ、残業代請求や過労死の事件において大いに参考になるものと考えます。

6 過労死と過失相殺

労働災害を原因として損害賠償請求をする場合、使用者側から過失相殺の主張を受けることがあります。

長時間労働によるうつ病り患などの場合も、うつ病であることを職場に申告しなかったので過失相殺がなされるべきとの主張がありうるところですが、最高裁平成26年3月24日判決は、そのような過失相殺の主張を認めませんでした。

同判決は、業務の負担が重かったことを踏まえ、以下のとおりの判断を示しています。

「上記の業務の過程において,上告人が被上告人に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので,労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。」参照:うつ病労災で過失相殺をしなかった判例

つまり、うつ病などに関する情報を会社に申告することを求めるのは酷であること、使用者としては労働者の体調不良に十分な注意を払う義務があることなどを踏まえ、過失相殺を認めませんでした。

うつ病など精神疾患について会社には言いづらいという労働者の心理を踏まえれば極めて妥当な判断です。

基本的には、会社に精神疾患を申告しなかったという理由での過失相殺は認められるべきものではありません。

7 歯科技工士の過労自殺

福岡地裁平成31年4月16日判決は、歯科技工士が過労自殺した事案について歯科医院の賠償責任を認めています。

義務違反の判断について参考になると思われますので、ご紹介します。

同事案では、歯科技工士は、おおむね月145時間を超える時間外労働をしていました。

裁判所は、それを前提に、以下のとおり、歯科医院側に安全配慮義務違反を認めています。

「被告は,従業員の労働時間を客観的資料に基づいて把握しておらず,労働時間に関する聞き取りなど,労働時間を把握するための措置も特段講じていなかったのであるから,被告による労働管理は不十分であるというほかない。

被告は,平成25年頃,亡Dに対し,残業をした場合には,帰宅する際にGに連絡するよう指示したものの,同年8月までの間に,亡Dから,Gに対し連絡があったのは数回程度であり,同年9月以降,亡Dから連絡がなかったにもかかわらず,特段亡Dの労働時間を把握する措置を講じていなかったのであるから,これをもって,被告が,労働時間を把握するための措置を講じていたとはいえない。以上によれば,被告は,亡Dの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたというべきである。そして,長時間労働や過重な労働により,疲労やストレス等が過度に蓄積し,労働者が心身の健康を損ない,ときには自殺を招来する危険があることは,周知の事実である。そうすると,被告は,亡Dの労働時間を適正に管理しない結果,同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべ きである。」

裁判所は、以上のとおり、労働時間について適切に管理をしなかったことで安全配慮義務違反となると判断しているものです。

労働時間を適切に管理しなければ、労働時間を減少させる対策をすることもできませんし、労働時間の適切把握が長時間労働防止のための根本的な対策となります。

ですから、労働時間を適切に把握しなかったことを安全配慮義務違反ととらえる同判決の判断は極めて妥当というべきです。

なお、被告側は、歯科技工士が心療内科を受診していなかったこと、転職をしなかったことを歯科技工士側の過失として主張しています。

しかし、裁判所は、歯科技工士において自身の変調に気づいていなかった可能性があるなどとして、過失相殺の主張をすべて退けています。

穏当な判断というべきでしょう。

8 セールスドライバーの過労死

熊本地裁令和1年6月26日判決は、セールスドライバーの過労死を労災と認定しました。

参考になるものと思われますのでご紹介します。

このセールスドライバーはクモ膜下出血で死亡しました。

同判決は、被災労働者の発症前1ケ月の時間外相当時間は102時間、発症前1週間の時間外労働時間は41時間34分であるとしています。

また、セールスドライバーについて、同僚が年を取ったらできないくらい大変な仕事である、発症時期は繁忙期であると述べていることを踏まえ、判決は、「セールスドライバーの業務内容は、長時間の運転業務を伴う配達・集荷作業等といった一般的に肉体的・精神的負担が大きい業務と考えられる」として、労働時間以外の負荷も相当程度に過重であったとしました。

結果として、裁判所は、クモ膜下出血に業務起因性があるとして、労災と認定しました。

このように、セールスドライバーという職種について、一般的に肉体的・精神的負担が大きい業務として認定したことは、セールスドライバーにかかわるほかの労災事件においても影響を有すると考えられます。

なお、同判決では、上記の前提となる労働時間の認定の仕方についても参考になるものです。

被災労働者が所属していたセンターにおいて、昼休憩時間中の労働時間は平均44分でした。

そして、被災労働者の取扱い荷物量は、他のドライバーとほぼ同じでした。

そのため、裁判所は、被災労働者は、昼休憩時間中に、他の労働者と同様、44分は労働していたとみなしました。

その結果、上記の労働時間認定に至ったものです。

労働基準署長側は、証人において昼休憩中に被災労働者が働いていた様子がなかったと述べていたことを踏まえ、昼休憩中に被災労働者は労働していなかったと主張しましたが、裁判所は前記のところを踏まえ、労働基準監督署長側の主張を排斥しました。

このように、平均的な労働時間と平均的な業務量から該当する被災労働者の労働時間を割り出す手法はセールスドライバー以外の労働者についても適用可能であり、参考になる手法と考えます。

また、このようにある程度客観的な手法により労働時間が推認される場合に、労働環境が適切だったと証言する動機のある証人よりも客観的な手法により推認される労働時間の方が信用できるとしたのは極めて妥当な判断だったと言えるでしょう。

9 新潟で過労死のお悩みは弁護士齋藤裕へ

労災についての一般的な記事

労災と損害賠償についての記事

労災保険についての記事

当職が担当したANAクラウンプラザホテル新潟過労労災事件についての記事

新潟市民病院医師過労死事件勝訴

もご参照ください。

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弁護士費用はこちらの記事をご参照ください。

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