執筆:弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属。2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
交通事故は弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にご相談ください。

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弁護士費用の一例は以下のとおりです(詳細は第1「弁護士費用」をご覧ください)。
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以下、交通事故について解説します。
目次
第18 交通事故の事故態様の悪質さ、事故後の悪質さで慰謝料は高くなるのか?
第1 交通事故の弁護士費用
交渉・訴訟とも着手金無料(ただし、特に困難な事件については5~30万円、弁護士特約に加入している場合にはその基準上の金額をいただくことがあります)
| 種類 | 支払い時期 | 基準 | |
|---|---|---|---|
| 相談料 | 相談時 | 無料 | |
| 着手金 | 受任時 | 交渉・訴訟とも着手金無料(ただし、特に困難な事件については5万5000円~33万円、弁護士特約に加入している場合にはその基準上の金額をいただくことがあります) | |
| 報酬金 | 解決後 | 増額分の13・2%(3,000万円を越える総額については9・9%) 加害者・保険会社側からの提示がない段階で受任した場合には、得られた金額の6・6%(回収金額の3,000万円を越える部分については5・5%) | |
| 例 | 保険会社からの提案がない段階で受任し、保険会社から1000万円入金があった場合、報酬66万円をいただきます。保険会社から50万円の提案があり、その後受任し、最終的に950万円入金があった場合、950万円-50万円=900万円の13・2%である118万8000円を報酬としていただきます。 | ||
第2 交通事故の被害に遭ったらすべきこと
交通事故の被害はそう遭うものではありませんので、慌てふためくことが多いでしょう。
しかし、以下の点には是非注意してください。
1 不用意な約束はしない
交通事故に遭った直後は興奮していて、痛みなどを感じないことが多くあります。
しかし、その後、痛みが出てくるというのはよくあります。
ですから、事故の場で、安易に、お金を請求しないなどの約束をしないようにしましょう。
そのような約束をすると、加害者がお金を出し渋る原因になりかねません。
2 加害者が誰か把握しておく
自動車のナンバーや免許証を写メで写すなどして証拠を押さえておきましょう。
3 警察・保険会社に連絡をする
警察を呼んで、事故状況を記録してもらうのは、その後の賠償請求にとって重要となる可能性があります。
保険金を請求するためには保険会社にすぐに連絡することも重要です。
4 証拠を押さえる
事故態様に争いがありそうであれば、目撃者の連絡先などを聞いておきましょう。
また、近隣の店舗の防犯カメラ、近くを通りかかったバスやタクシーのドライブレコーダーに事故状況が映っていた可能性がある場合、保存をお願いしましょう。
自分の車のドライブレコーダーも保存しておきましょう。
5 事故証明を取る
事故証明は交通事故における損害賠償の上で基礎となる書面です。
警察にお願いして、早期に取得しましょう。
6 とりあえず弁護士に相談
交通事故被害に遭ったときは、速やかに、さいとうゆたか法律事務所の弁護士にご相談ください。
初回相談料は無料です。
第3 交通事故と治療費

交通事故でケガ等をした場合、加害者に治療費等を請求できる可能性があります。
原則として治療費は症状固定までの分となりますが、それ以降の分を請求できることもあります。
特別室使用料・差額ベッド代を請求できる場合もあります。
接骨院や整骨院での施術費用は常に賠償の対象となるわけではないので、ご注意ください。
交通事故の治療が自由診療でなされ、医療機関が過大な治療費を請求した場合、治療費全額が賠償されないこともあります。
治療費についての記事もご覧ください。
通院の交通費も賠償の対象となります。
公共交通機関利用の場合は実費、自家用車ならキロ15円が通常です。
タクシーについては、足のケガなどにより公共交通機関に乗ることが困難、医師の指示等があった場合にのみ認められます。参照:タクシー代の賠償を否定した裁判例
第4 入院・通院に応じた慰謝料
目次
交通事故で通院・入院した場合の慰謝料額の基準
交通事故で通院・入院した場合の慰謝料額の基準
交通事故で入院・通院をした場合、入院・通院期間に応じた慰謝料が支払われることになります。
金額としては、一般的に赤本と呼ばれる本に記載された表に基づき算定されることになります(重傷の場合、青本という本に記載された表に基づき算定した方が有利となります)。
例えば、赤本で、1月通院した場合の慰謝料は、28万円、1月入院した場合は53万円となります。
青本の場合、1月通院した場合の慰謝料は16から29万円、1月入院した場合は60から32万円となりますが、特に症状が重い場合には2割増しもありうるとされています。
赤本や青本よりかなり高額な慰謝料を認めた事例としては大阪地裁令和4年7月26日判決があります。
同判決は、約7か月入院し,通院期間は約18か月の事案です。
同判決は、「原告の傷害結果は,外傷性出血性ショック,十二指腸水平脚~空腸起始部縦断裂,膵鉤部損傷,穿孔性汎発性腹膜炎,L2(第2腰椎)破裂骨折,腰椎脱臼骨折,脊髄損傷といった重篤なものであり,原告は「歩いて9月に自宅に帰ることは難しい。今後は車椅子の生活になる。」という告知を受けた後も「昨日の話で目標(お誕生日に外泊する,8月の下旬に退院して9月1日から学校に行く)決めた。それまでに何を頑張らないといけないかな」などと懸命にリハビリテーションに取り組んで車椅子による日常生活動作を獲得したもので,その過程においては「歩きたい,車椅子で学校行きたくない(号泣)。周りに歩ける人ばっかりは嫌や,歩けん人の気持ちなんかわからんもん…学校で何言われるかわからんし…いじめる人もおるもん(号泣)。もう学校なんかいきたくないわぁ…(事故)相手のおじいちゃんなんて一生牢屋から出てきてほしくない(号泣)」などと弱音を漏らしたことがあるように,歩行できないこと等による多大な精神的苦痛を乗り越えてきたものであることに照らすと,原告X1の入通院治療に係る身体的・精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は402万円とするのが相当である」としています。
赤本であれば326万円程度、青本上限でも393万円になると思われますが、傷病の重篤さと精神的苦痛の大きさを踏まえ、高額の慰謝料を認めています。
入院や通院の慰謝料は現実の入院、通院期間に応じて算定されます。
しかし、入院、通院が一定期間見込まれていたものの、やむを得ない理由で入院、通院できなかった場合には、想定された入院、通院期間に応じた慰謝料が支払われます。
大分地裁平成21年4月16日判決は、交通事故で外傷性頚部症候群となり入院したものの、心筋炎となり、4日で外傷性頚部症候群の治療をやめた事例について、一般的に2ケ月の入院・通院を要した等として70万円の慰謝料を認めています。参照:実際の入院等期間によらず慰謝料を認めた判決
交通事故による長期間にわたる通院と慰謝料
通院慰謝料における通院期間基準と実通院日数基準
通院期間基準と実通院日数基準についての裁判例
通院慰謝料における通院期間基準と実通院日数基準
通常は通院期間・入院期間に応じて慰謝料額が決まりますが、通院が長期にわたる場合には実通院日数の3・5倍程度を算定基礎とする場合もあります。青本に記載されているとおり、1年以上にわたり通院頻度が極めて低く1ケ月に2から3回の程度にも達しない場合かどうかを基準とすべきと考えます。
通院期間基準と実通院日数基準についての裁判例
名古屋地裁令和4年9月14日判決は、右手関節TFCC損傷により約19ケ月通院、通院回数51回、4日間入院という事案で、160万円の慰謝料を認めました。
同判決は、「通院期間と比較すると通院頻度は少ない」ことを金額算定の理由としてあげています。
19ケ月通院なら赤本別表Ⅰで慰謝料172万となります。実通院日数×3・5の基準では178日となり、約116万となります。
同事案は、月あたり平均通院実日数が2・7日くらいであり、1ケ月に2から3回の程度という目安は満たさないものです。
そのため、裁判所は、通院期間基準と実通院日数基準との中間的な金額を定めたと考えられます。
那覇地方裁判所令和3年3月17日判決は、12ケ月間通院・実通院日数30日の事案で、「原告は,本件事故により左橈骨遠位端骨折の傷害を受け,これに対し観血的整復固定術を施行されたところ,当該施術部位の骨癒合が確認され術後抜釘術を受けたのは,本件事故から約10か月後の平成30年1月であるから,通院期間が長期に及んでいるとしても,上記治療経過に照らし実通院日数を慰謝料算定の目安とするのは相当ではない。」として実通院日数基準を採用しないとしています。
通院が長期化しても、治療経過によっては通院期間基準が適用されるということです。
通院したくとも通院できない場合の通院慰謝料
なお、通院したくても通院ができず、本来はもっと通院すべきなのに実通院日数が少なくなるような場合もありますが、通院できなかった事情によっては実通院日数×3・5の基準を使わない場合もあります。
例えば、受刑者の作業中の事故についての仙台高裁令和4年8月31日判決は、1年2ケ月の通院期間、実通院日数7日という事案において、受刑者として自由に刑務所外での通院を自由になしうる状況でなかった等として、実通院日数×3・5という基準での算定を否定しました。
ギプス固定と慰謝料
入院をしていない場合でも、ギプス固定中については入院と同じように慰謝料を算定することもあります。
他覚所見がないむち打ち
他覚所見のない頚椎捻挫については、一般の傷害より金額の低い算定表により計算をします。この基準では、通院1月で19万円、入院1月で35万円となります。打撲や挫創のような比較的軽度なケガについても、これに準じて計算されることがあります。その際、通院が長期にわたるようであると、実通院期間の3倍程度を慰謝料算定の基礎とすることが多いです。
交通事故の交渉は弁護士にお任せを
交通事故に関し保険会社が損害賠償額の提示を行う場合、ほとんどの場合にこの通院・入院をした場合の慰謝料がかなり安くなっていますので、注意が必要です。
一回は弁護士に相談してから対応、できれば弁護士に依頼をして対応した方がよいと思われます。
弁護士に依頼した場合、赤本基準の8から9割前後で解決する事例が多いと思います。
第5 入院付添費用・通院付添費用

近親者等が入院・通院に付き添った場合の費用を請求できる場合があります。
入院の場合は、被害者本人の病状の重さ等に応じて必要性が判断されます。
通院の場合は、被害者が歩けない場合、被害者が幼少である場合等に認められます。
入院付添費用・通院付添費用についての記事をご覧ください。
第6 後遺障害と損害賠償

交通事故の損害賠償においては、後遺障害がある場合とない場合、等級がどのくらいかで請求できる金額がかなり違ってきます。
等級に応じて後遺障害慰謝料を請求できます。後遺障害慰謝料の記事をご覧ください。
後遺障害のために家屋改造、自動車改造が必要となる場合の費用も一定程度で賠償されることがあります。
介護に必要な費用も賠償の対象となります。
第7 死亡と損害賠償

死亡による慰謝料
慰謝料とは精神的苦痛についての損害賠償のことです。
交通事故や労災事故で死亡やケガをした場合に発生します。
赤本という裁判所も基準としている本によると、一家の支柱が死亡した場合の慰謝料2800万円、母親・配偶者が志望した場合の慰謝料2500万円、その他の場合2000から2500万円が標準とされます。親族が固有に請求できる慰謝料もここに含まれます。
この枠内でも、年齢が若い人であれば慰謝料は高くなりがちであり、高齢者であれば低くなりがちです。加害者の悪質性によっても増額される場合があります。
例えば、仙台地裁平成22年10月22日判決は、被害者が2歳であったことを理由に2400万円の慰謝料を認めています。参照:二歳児について2400万円の死亡慰謝料を認めた判決
また、東京地裁平成20年8月26日判決は、34歳の大手監査法人職員の交通死亡事故について、以下のように被害者が結婚して子どもも設けようとしていた状況において亡くなった無念などを考慮し本人分の慰謝料3000万円を認定の上、妻200万、父母各100万、合計3400万の慰謝料を認めているところです。
「Aは,大学在学中の平成4年4月ころに短期大学在学中の原告X1といわゆるサークル活動を通じて知り合った後,上記のとおり平成14年8月に原告X1と婚姻をして,円満な家庭生活を送り,平成18年には子をもうけることを考えていたところであり,また,両親である原告X2及び原告X3との間においても,その唯一の子として十分な愛情を受けて育てられ,原告X1と婚姻をした後も良好な関係にあったことが認められ,これらの事情からうかがわれるAの無念の情については,これを察するに余りあるものというべきである。」
「これらの事情を勘案し,本件事故によりAが受けた精神的苦痛に対する慰謝料の金額としては,3000万円をもって相当と認める。」
一般的な慰謝料で納得できない場合には訴訟をすべきことになりますし、訴訟になった場合にはさまざまな増額要素を主張すべきことになります。
死亡による逸失利益
交通事故で死亡した場合、労働能力が失われますが、そのことについての逸失利益の損害賠償も認められます。
死亡逸失利益の基礎収入
被害者に収入があった場合、その収入をもとに、その収入が将来にわたり得られたはずだったのに、それが失われたとして逸失利益の計算をします。
若年で就労していない被害者や専業主婦・専業主夫については賃金センサスという平均収入についての統計、就労していない高齢者については年金をもとに計算がされます。
死亡逸失利益の就労可能年数
通常は67歳まで働くことができたという前提で逸失利益の計算をします。
高齢まで働く人の多い職種については、67歳を超えて働く前提で計算することがあります。
67歳までの年数が平均余命までの年数の半分を下まわる被害者については、平均余命までの年数の半分の年数働くという前提で計算をします。
年金の場合は平均余命までの期間収入があったものとして計算します。
死亡逸失利益の中間利息控除
本来は給料などは、将来にわたり支払われるものです。
それをある時点で先取りしてもらうため、被害者としては利息分について得をすると考えられます。
そのため、中間利息控除という計算をして、利息分についての減算をします。
死亡逸失利益の生活費控除
被害者が生存していた場合には、生活費がかかったはずですが、死亡により生活費がかからなくなります。
そのため生活費控除という計算も行い、生活費分を損害額から控除します。
この生活費控除は、被扶養者1名の場合40%、被扶養者2名以上の場合30%、女性の場合30%(上記に当たらない場合)、男性の場合50%(上記に当たらない場合)等とされます(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部 民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編) 2025(令和7年)197頁以下)。
死亡逸失利益の計算式
以上をまとめると、収入等から求められる基礎収入×67歳までの年収×生活費控除率に中間利息控除をした金額が死亡の逸失利益額となります。
交通事故における葬儀費用額
交通事故で被害者が亡くなられた場合、葬儀費用が賠償の対象となります。
ここでいう葬儀費用には、香典返しの費用は入りません(他方、香典は損益相殺の対象となりません)。香典返し費用について損害賠償の対象から外した裁判例としては、札幌地裁令和6年2月6日判決があります・参照:香典返し費用を損害賠償の対象から外した裁判例
葬儀費用として認められる賠償額は一般的には150万円が目安とされます。
たとえば、大阪地裁令和4年4月15日判決は、「葬儀費用(既払掛金を含む。)として150万円を超える支出を要したことが認められるけれども、葬儀費用のうち150万円を、本件不法行為と相当因果関係のある損害と認める。」として葬儀費用額が150万円を超える場合でも賠償額は150万円にとどまるとしています。
札幌地裁令和6年2月6日判決も150万円の限度で損害賠償を認めています。参照:150万円だけ葬儀費用の損害賠償を認めた判決
葬儀費用が150万を下回る場合にはその額が損害賠償の対象となります。
葬儀費用実費として71万0487円の損害賠償を認めた裁判例として、東京地裁令和6年3月22日判決があります。参照:150万円を下まわる葬儀費用の損害賠償を認めた裁判例
被害者の年齢と葬儀費用の損害賠償
150万円それ以上の賠償が認められることもあります。
34歳被害者について250万円の葬儀費用を認めた裁判例
例えば、東京地裁平成20年8月26日判決は、以下のとおり述べ、葬儀費用250万円の賠償を認めました。
「原告X1は,Aの葬儀等につき総額250万円を超える支出をし,また,原告X2及び原告X3も,Aの葬儀等につき40万円を超える支出をするとともに,墓地及び墓石の購入等につき400万円を超える支出をしたことが認められるところ,既に認定したAの身上や本件事故の態様等に照らし,Aの親族において墓地及び墓石の購入を含めたAの葬送等に関して十分に手厚く対応しようとしたことには無理からぬところがあることを考慮すると,賠償の対象として認められる範囲としては,250万円をもって相当というべきであり」
なお、同判決については、
・被害者が34歳であったこと
・被告がオートマチック車運転中にアクセルペダルを踏んだままギアを入れ替える操作をしたため被告車を急発進させて被害者に衝突させたもので,加害者の一方的な過失により発生したものである
との事情がありました。
以上によると、被害者が若年であったこと、加害者に一方的過失があったことが葬儀費用が高額になった根拠とされているようです。
逆縁被害者について180万円の葬儀費用を認めた裁判例
大津地裁令和3年11月11日判決も、「葬儀費用として242万7948円を支出していること(ただし,うち60万6528円は当日返戻品代であり,香典を損益相殺しないことから,損害には含まれない。)及び亡Bの死がいわゆる子が親に先立つ逆縁であったこと等から,180万円が本件事故との間に相当因果関係のある損害と認められる。」としており、被害者の年齢を理由に150万円超の葬儀費用を認めていると考えられます。
17歳被害者について150万円しか葬儀費用を認めなかった裁判例
他方、若年被害者についても、150万円を超える葬儀費用を認定しない裁判例もあります。
例えば、大分地裁令和6年3月1日判決は、被害者が17歳のケースで、「e の葬儀費用は247万87
62円と認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用として150万円を認める。」として150万円の葬儀費用しか認めていません。参照:17歳被害者の葬儀費用について判断した裁判例
ただし、同判決をみる限り、原告側において、葬儀費用が150万円を超える必然性について主張立証をしていないようにも思われ、そのような主張立証の不十分さのために葬儀費用が低額にとどまった可能性はあります。
被害者の社会的地位と葬儀費用の損害賠償
被害者の社会的地位も賠償額に影響します。
さいたま地裁平成24年1月31日判決は、以下のとおり述べた上で、葬儀費用250万円の支払いを命じています。
「亡Aは春の交通安全運動に際し交通安全協会役員として街頭指導活動に従事中に本件事故に遭ったものであり,そのためさいたま県警察は亡Aを警察協力殉職者として取り扱っていること,そのため原告X1としては亡Aについて恥ずかしからぬ葬儀を営む必要があったと推認されること,現実にも原告X1は亡Aの葬儀のために500万円を超える費用を支出していること,以上の事実が認められるから,亡Aの葬儀費用について,原告X1の損害として250万円を認めるのが相当である。」
同判決は、被害者の社会的地位などを踏まえ葬儀費用250万円を認定しているようです。
業務・公務遂行中の事故と葬儀費用賠償
松山地裁令和3年6月4日判決は、以下のとおり、被害者の死亡が公務災害であることを理由に、180万円の賠償を認めています。
「原告X1は,Aが死亡したことにより葬儀費用として212万0035円を負担したと認められる。このうち半額近くが粗供養に関する費用となっているが,Aの勤務先や本件が公務中の事故であったことなどに照らすと,多くの者が弔問に訪れたと推認されるのであって,これらの事情も踏まえると,本件においては,180万円の限度で本件事故と相当因果関係がある損害と認められる。」
その他、死亡場所と居住場所が離れていて2回葬儀を行う必要があった場合などに高額な葬儀費用が認められる傾向にあるようです。
仏壇、墓石費用、永代供養料、遺体搬送料、遺体処理料の損害賠償
仏壇、墓石費用、永代供養料等も損害賠償の対象たりえます。
葬儀費用には仏壇購入費用を含めつつ、計150万円だけ損害賠償を認めた裁判例があります(大阪地裁令和5年2月27日判決)。参照:仏壇購入費用も含めた葬儀費用のうち150万円の損害賠償を認めた裁判例
他方、大学三年生の被害者について、葬儀費用として葬儀代175万7342円,過去帳代9828円,法要費用2万8000円,葬儀のお布施20万円の合計199万5170円、墓石及び工事費用204万1200円,永代使用料55万4000円の損害賠償を認めた裁判例もあります(神戸地裁令和3年3月1日判決)。
このように裁判例は必ずしも一貫しているとは言えませんが、葬儀費用とは別に墓石費用等も請求はしておいた方がよいと思われます。
遺体搬送料、エンバーミングなどの遺体処理費用が損害賠償請求の対象となることもあります。
エンバーミング費用6万6000円を認めた裁判例として京都地裁平成28年11月29日判決があります。
第8 休業損害
目次
1 交通事故による休業損害
1 交通事故による休業損害
交通事故で傷害を負い、仕事ができなくなった場合、失われた給料の収入分等の休業損害の賠償がされることがあります。
後遺障害が残った場合、労働能力が喪失したことについて逸失利益の賠償がなされます。
これに対し、休業損害については、後遺障害が残る前、症状固定前の収入減少が対象となります。
客観的に業務はできる状態であっても、勤務先が安全確保の観点から休業させたような場合も休業損害の対象となります。
減収がなくとも休業損害は認められるか
交通事故により傷害を負い、仕事ができなくなり、収入が得られなくなると、休業損害が賠償される可能性があります。
最高裁平成7年10月24日判決は、休業したとしても給料が払われる場合には休業損害は発生しないとしており、これが原則です。
ただし、例外的な場合ではありますが、収入が減らない場合であっても休業損害の賠償が認められることはあります。
大阪地方裁判所平成25年12月3日判決は、以下のとおり述べ、休業による減収がないにも関わらず、休業損害を認めています。
「本来は休業等により減収が発生してもおかしくない状況において,本人や同僚の特段の努力によって減収を回避した場合には,一定の割合で休業損害の発生を認めるのが公平に資するものであるところ,原告は福祉施設の送迎運転手であり,その運転や車内管理を慎重に行う必要があったが,職務復帰後,特に車内管理について相当な問題が生じ,本人の努力や同乗していた同僚の努力や配慮によって弊害が相当程度カバーされていた状況が認められる。そうすると,原告については一定の範囲で休業損害に準ずる損害の発生を認めるべきであり,その割合は諸般の事情に照らして30%を相当とする。」
このように、従来得られていた収入の100パーセントではなく、30パーセントではありますが、事故前と同じ収入が得られていたにも関わらず、休業損害の賠償を認めています。
逸失利益については、実際に収入減となっていない場合でも、被害者の努力により収入が維持されているような場合には、損害賠償を認めている実情があります。
ですから、同判決は、逸失利益の場合と同様に考えているということができ、それなりに理解できる部分もあります。
しかし、減収がないのに休業損害を認める裁判例は少数にとどまります。
逸失利益の場合は、明確な労働能力喪失率が認定されるため逸失利益としてそれに相当する金額について賠償すべきという考慮が働きやすいのに対し、(後日決定される後遺障害等級・労働能力喪失率を超える)休業損害についてはそのような考慮が働きにくいという側面で差が出ているのかもしれません。
いずれにしても、かなり努力をして収入が維持されているような場合、収入減がなくとも休業損害の請求をするということ自体は積極的に検討されてよいと思います。
傷害を負っていないのに休業損害が認められる可能性
休業損害は、事故に起因して休業したと認められる関係があれば認められ、事故のために傷害を負う等していない人についても認められる余地はあります。
被害者が亡くなって葬儀等のために休業した場合、被害者が亡くなって遺族が悲しみのために休業した場合(1・2月)について休業損害を認めた事例もあります。
ただし、大阪地裁令和4年2月18日判決は、家事育児を平等に分担していた夫婦の一方が事故死し、約3ケ月半後に育児休業が明け職場復帰が予定されていたものの、他方配偶者の受けた精神的衝撃が大きかったこと、発達課題のある子も含めた3人の子を養育しなければならなかったことから、他方配偶者が職場復帰を延期したという事案について、「本件事故から,予定されていた職場復帰の時期までには約3か月半の期間があり一定の時間的猶予があったこと,損害賠償の問題については,早期に弁護士に委任することで負担を軽減することができること,一般に,配偶者のいない母親が小さな子ら3人を養育しつつ働いている者もいることからすると,原告X1が,予定されていた時期に職場復帰をすることは,決して容易ではないが不可能ではないと考えられる。」として休業損害を認めませんでした。ただし、そのような事情は慰謝料において考慮されています。
通院日と休業損害
治療で仕事を休んだ日についても休業損害を認めるのがおおむねの保険会社の扱いです。
大阪地裁平成30年3月23日判決は、午前中に受診する場合、午後1時までの出勤が困難であるとして、丸一日の休業損害を認めています。参照:治療のための休業損害を認めた裁判例
ただし、専業主婦・専業主夫や半休を取ることができる場合には、通院時でも丸々休業損害を認めるのではなく、何割か分しか認めないことがありえます。
福岡地裁平成30年3月30日判決は、通院日について、6割についてのみ休業損害を認めています。参照:通院日について6割のみの休業損害を認めた裁判例
部分的な休業損害
完全に仕事ができない場合には給料や所得の100%が休業損害となります。
しかし、一部しか仕事ができない場合、給料などの一定割合についてのみ休業損害が認められることがありえます。
事故後全く就労しなかった場合でも、症状からしてある程度の就労ができたとされる場合には、部分的な休業損害しか認められないということになるわけです。
できるだけ大きい割合の休業損害を払わせるためには、その職業に応じて、交通事故により生じた症状がどの程度作業に影響するのか、具体的に主張立証することが重要です。
2 給与所得者の休業損害
給与所得者については、事故前の収入と比較して収入が減少した分について休業損害が認められます。
以下、給与所得者の休業損害に関し、重要な点について述べます。
目次
給与所得者の休業損害の基本的算定方法
残業代も休業損害の基礎となる
給与所得者の休業損害の基本的算定方法
給与所得者の場合、休業損害は、過去3ケ月の平均収入をもとにすることが多いです。
ここでいう収入は、社会保険料、所得税、住民税などを引かない、総額の金額となります。
通勤手当は、出勤しない場合においては通勤も不要なので、休業損害の対象とならないことがありえます。
ただし、歩合が多く、年内変動の多い仕事の場合、より長い周期で平均をとったり、前年同時期の収入を基準に休業損害を算定することもありえます。
なお、休業により賞与が減額された場合についても会社から損害証明書を作ってもらい、請求します。
残業代も休業損害の基礎となる
残業代も基礎に休業損害が算定されます。
例えば、長崎地裁令和4年5月30日判決は、「本件事件前の収入に関し、原告は、平成19年4月から同年8月まで、別紙5記載のとおり時間外等割増賃金を得ていたところ、本件事件後、休業を余儀なくされ、復職後も従前どおり稼働することができず、再度、休職状態に陥っており、時間外等割増賃金額を得られなかったことが認められるから、令和元年12月の給与分までについては、本件事件による被害を受けなければ、時間外等割増賃金を得られた蓋然性を有すると認められる額について、休業損害が認められる。」として、残業代も休業損害の基礎収入に含まれることを明らかにしています。参照:残業代を含めて休業損害を算定した裁判例
なお、同判決は、事件前の残業代が繁忙期のものであったとし、実際には事件前の残業代より低めの金額で休業損害を算定しています。
昇給分が休業損害で考慮されることもある
事故時点後の昇給などが確実だったといえる場合には、昇給後の給与額を基準に休業損害が認められます。
退職金と休業損害
退職金に影響がある場合、その減額分を休業損害として認める事例もあります。
退職後の休業損害
退職したような場合、退職後についても休業損害が認められます。
傷害を理由に会社から就業を拒否された場合の休業損害
実際に仕事を休んだとしても、症状からして就労可能だった場合、休業損害が発生しないのが原則となります。
会社都合で欠勤した場合の休業損害(タクシー運転手)
しかし、大阪高裁平成15年11月19日判決は、医学的には就業可能となった後においても、会社都合で出勤できなかった場合について、休業損害を認めています。
同判決は、医学的には休業の理由がなかったとしつつ、以下のとおり述べます。
「控訴人は,平成13年4月中旬頃,当時の勤務先会社に,タクシー乗車業務に復帰することを申し出たが,勤務先から中途半端は状態で復帰しないよう申し渡されて復職を断念した経過があると認められ,乗客の安全確保を最優先にすべきタクシー会社であってみれば,上記のような対応は,会社にとっても,控訴人にとっても,やむを得ないところであると考えられる。そして,平成13年4月は未だ抜釘前の状態であり,痛みも残存していたという先に認定した事実を併せ考えると,控訴人は,平成13年8月20日に後遺症診断を受けるまでは,就業することができなかったものであり,この間の労働能力喪失率は100パーセントであったと認めるのが相当である。」
このように、会社が休業を命じたことに合理性がある場合、医学的には就労可能であっても休業損害の請求が可能ということになります。
会社都合で欠勤した場合の休業損害(フォークリフト運転手)
大阪地裁令和3年11月26日判決も、以下のとおり述べ、局部的症状しかなく、医師からの休業指示がなかったという事例において、会社判断を理由に、休業損害を認めています。
「原告の職種はフォークリフトのオペレーターであったところ,具体的な業務としてはフォークリフトの運転のほか,倉庫内における家電製品等の運搬であったというのであり,両上肢のしびれや筋力低下といった上記症状は,それらの業務に支障を生じさせるものということができる。そして,本件の証拠上,復職時点における正確な症状の程度は明らかではないが,原告は,復職後,従前の業務に復帰したのではなく事務作業に従事していたというのであり(なお,復職後の原告の給与は本給こそ事故前と大差がないものの付加給が大幅に減少していて,実際に業務の変更があったものと考えられる。),勤務先からも従前の業務に従事させるには耐えないと判断されていたと捉えることができ,従前の業務に復帰できない状態において復職しないことが不相当であるとまでいうことはできない。」
会社が休業を命じたことが合理性がある場合、休業が事故と相当因果関係あるものと見られるということでしょう。
なお、会社が休業を命じたことに合理性がない場合、交通事故の加害者に対する賠償請求はできないものの、会社に対する給料請求ができる可能性が残ると考えられます。
有給休暇取得と休業損害との関係
交通事故で傷害を負い、そのため休業を余儀なくされた場合、休業損害があったとしてその賠償請求ができる可能性があります。
この点、休業の際に有給休暇を取得して給料が発生しても、その有給休暇は事故がなければ別の目的に使うことができたものですから、その給料分について休業損害の対象となることについてほぼ争いはありません。
有給休暇の損害賠償における計算方法
しかし、有給休暇による損害の算定が困難な場合もあり、その算定方法が問題となります。
東京地方裁判所平成18年10月11日判決は、交通事故による休業中に有給休暇を取得した場合の損害額について争いがある事案について、以下のとおりその計算方法について判断を示しています。
「平成13年の年収は969万1107円であることが認められるが,同年中の賞与の額は,本件証拠上,明らかではない。しかし,原告の平成11年から平成17年までの年収,月収及び賞与の推移は,本件証拠上,別紙原告の収入の推移表のとおりであると認められるところ,同表,平成12年に本件事故による欠勤がなかった場合の賞与支給額が278万6400円であること及び弁論の全趣旨によれば,平成13年の賞与支給合計額は,少なくとも230万円以上であったと推認される。
また,平成13年中の休日日数は124日であるから,前記ウと同様の考え方により,有給休暇1日当たりの金額は,(969万1107円-230万円)÷(365-124日)=3万0668円(円未満切捨て)となり,その0.5口分は,1万5334円となるので,1万5334円をもって相当な金額と認める。」
このとおり、判決は、年収から賞与を控除した額を、365日から休日日数で引いた額で割った金額を基準にして休業損害額を算定すべきことを示しています。
実際に有給休暇を取得した場合に得られる金額の算定として合理的であり、実務上参考になる裁判例かと思います。
休業により有給の権利が失われた場合と損害賠償
休業が長引くことにより有給の権利が失われた場合には、その失われた権利について損害賠償請求できる可能性があります(東京地裁平成16年8月25日判決)。
ただし、その分は慰謝料で考慮する裁判例もあります。
休業損害が一部しか認められない場合
交通事故でケガをして、まったく働くことができなくなった場合、事故前に得られていた収入分がそのまま休業損害となります。
しかし、現実には、まったく働くことができないわけではないものの、就労が相当程度限定されるという場合があり、そのような場合には元の収入の〇%分の休業損害が認められることになります。
例えば、東京地裁令和3年5月27日判決は、完全に休業をしていた期間についても、事故前収入の一部しか休業損害として認めませんでした。
同判決は、「原告が本件事故により負った傷害は,他覚的所見のない頚椎捻挫及び腰椎捻挫であるというべきである。したがって,原告は,症状の重い急性期には完全休業が必要であったとしても,症状の軽減とともに徐々に仕事への復帰が可能であったと認められる」、「これらに照らすと,本件事故後の一定の期間について,割合的に休業の必要を認めるのが相当であり,原告が休業を要した期間及び程度は,本件事故から1か月間を100%,2か月目を75%,3か月目を50%,4か月目を25%と認めるのが相当であり,その後の休業の必要性までは認められない。」としています。
つまり、同判決は、休業をしていても、その必要性が強くない場合には、一部しか休業損害を認めないとしているわけです。
ただし、職場によっては、100%の能力がないまま出勤すると、かえって危険であるなどの理由で、100%の能力がない状況では出勤できない場合もありえます。
ですから、稼働能力が限定的にしかない状況において、一部しか休業損害を認めないとの判断は現実に即していないと言うべき場合もあるでしょう。
3 自営業者の休業損害
自営業者についても、事故前の収入と比較して収入減少があった分について休業損害の対象となります。
自営業者については、確定申告書などをもとに事故前の収入を認定することが多いです。
この確定申告書の記載が実際より過少な場合、裁判所は中々確定申告書の記載を超える金額を前提とした休業損害を認めません。
しかし、確定申告書の記載を超える収入があったことを裏付ける証拠などがある場合には、確定申告書の記載を超える金額を前提とした休業損害が認められることもあります。
自営業者については確定申告書の所得金額を基礎として休業損害が算定されます。
それに休業中支出をせざるを得なかった経費分を足して計算をすることになります。
目次
1 固定経費と休業損害(交通事故)
1 固定経費と休業損害(交通事故)
自営業者が交通事故の被害に遭い、休業した場合、失った所得だけではなく、固定経費も休業損害として賠償の対象たりえます。
一般的に休業をすれば経費も発生しません。
しかし、事業の再開を予定している場合、固定経費は発生し続けるので、休業損害として損害賠償の対象となるのです。
無線使用料、自動車保険、貨物保険、車両代を固定経費として休業損害の対象とした裁判例
例えば、神戸地裁平成30年5月10日判決は、以下のとおり述べて、トレーラー運転手について、無線使用料、自動車保険、貨物保険、車両代を固定経費として休業損害の対象としました。
「原告は、海上コンテナを運搬するトレーラーの運転手としてFに勤務していたこと、原告の本件事故前3か月の収入は合計6万8840円であったこと、原告の同期間の固定経費(無線使用料、自動車保険、貨物保険、車両代)は合計87万9384円であり、これが売上高から控除されていたこと、原告は、平成25年7月11日から同年8月24日までの間、45日間休業したこと、原告は、その後、Fのアルバイト従業員となったことが認められる。そして、原告本人の供述によれば、原告の休業中の上記固定経費は、事業の維持・存続のために必要やむを得ないものであると認めるのが相当であり、休業損害として認めるのが相当である。」
損害保険料、修繕費、減価償却費、利子割引料、図書研修費を固定経費とした裁判例
大阪地裁平成30年3月23日判決は、以下のとおり、固定経費とそうではない経費について個別に検討をしており、何が固定経費として認められるべきものかを考える上で参考となります。
「原告が主張する固定費のうち,租税公課,通信費,消耗品費,支払手数料,諸会費については,費目の項目のみでは実態が不明であり,原告が業務を行わなくても支出を余儀なくされ,これを支出しなければ業務遂行ができなくなる性質のものであるか判断ができず,固定費であることの立証としては不十分である。」
「会議費について,原告は,喫茶店やレストランで話をするときの費用などを計上したものである旨述べているが(原告本人),そうした費用は,休業時にも支出しなければ事業継続が不可能になる費用とはいえず,固定費とはいえない。」
「修繕費は,事業で使用する車両の車検費であると説明されており(原告本人),固定費に含まれると認められる。下記の内訳にあげたその他の項目も,項目名からは,固定費に含まれると認められる。」
以上を踏まえ、損害保険料、修繕費、減価償却費、利子割引料、図書研修費のみを固定経費としました。
このように、固定経費かどうかは、保険料や修繕費のように費目名自体から固定経費といえるものもありますが、休業中でも継続的な支払いが必要であることを具体的に説明しないと固定経費とならないものもあるので注意が必要です。
休業損害計算において固定経費を引く計算ができない場合
なお、収入の減少をもって休業損害としている場合は固定経費を考慮できますが、休業損害額を所得の減少として計算する場合、所得は売り上げ-経費であり、固定経費について考慮されていることになります。
よって、そのような休業損害の計算をする場合には、固定経費を引くことはできません。
東京地裁平成24年7月18日判決は、「本件事故後の所得の減少額を休業損害として認めれば,固定費の支出を経費として考慮し,その分だけ所得減少額も増加していることになるから,上記減少額に固定費を加算する必要はないというべきである」として、所得の減少額で休業損害の計算をする場合には固定経費を考慮しないとしています。
2 事業再開後の減収と休業損害
交通事故により仕事ができなくなった場合、休業期間中の収入減少について休業損害として賠償されることがあります。
通常は休業期間中についてのみ認められますが、自営の場合、事業再開後しばらくは収入が落ちることもありえます。
そこで、事業再開後の期間についても休業損害が認められることもあります。
例えば、名古屋地裁平成14年9月27日判決は、以下のとおり述べて、歯科医師が休診後診療の再開をした後も売上げが低迷したことについて、休診による患者数の減少が原因だとして事故と因果関係のある損害として認めました。
しかし、それ以外の要因も考えられるとして、原告主張金額の8割についてのみ賠償を認めました。
「原告の歯科医院の収入の減少は、本件事故による休診を原因とすると推認される。しかし、一般的に歯科医院経営における収入の減少にはさまざまな要因が考えられ、本件全証拠によっても、原告の歯科医院の収入の減少の全てが本件事故による休診を原因とすると認めるには足りず、そして、弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係があると認められる原告の収入の減少額は、原告が主張する324万2090円のうちの8割に相当する259万3672円であると認めるのが相当である。」
休業後、事業再開をしても売上げが伸び悩む場合、その原因を分析し、休業がその原因となっているような場合、事業再開後の期間について休業損害が認められることもありえますので、注意が必要となります。
なお、給与所得者についても、休業後職場復帰後の労働内容が変更し、給与が減少するような場合、同じく休業期間明けの休業損害というものが考えうることになります。
3 廃業と休業損害(交通事故)
交通事故による受傷で自営業者が廃業を余儀なくされる場合もありえます。
そのような場合に廃業に関して損害賠償が認められることもあります。
例えば、高松高等裁判所平成13年3月23日判決は、事故により廃業を余儀無くされたという事案において、開業費用の一定割合を賠償金として認めました。
まず、同判決は、事故の影響で廃業をしたとの認定をします。
廃業については、加害者側において事故前から事業が経済的に破綻していたとの主張がありましたが、裁判所は赤字ではなかったとして事故と廃業の因果関係を認めました。
その上で、以下のとおり、開業資金の約5割について賠償を認めました。
「被控訴人が開業時に支出した前記費用は,主に内外装工事費や取り外して搬出することが困難な諸設備の設置工事費用であること,賃貸借契約の内容からして,被控訴人が有益費償還請求権等を行使して前記投下資本の回収を図るのは困難と解されることのほか,開業時から廃業までの期間経過による内外装及び諸設備の劣化,陳腐化等の諸事情に照らすと,被控訴人が開業時に支出した前記費用564万6200円の約5割に相当する280万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。」
廃業をした場合でも労働能力がある範囲内においてどこかで稼動できたという言い分は可能です。
しかし、それでも自営をしていた事業に従事できなくなれば投資資金がムダにはなりますので、廃業の場合に投下資金の一定割合の賠償を認めるのは合理的と考えられます。
4 代替労働力と休業損害
交通事故で休業し、収入が減った場合、その分が休業損害として賠償の対象となることはよくあることです。
それとは別に、営業を継続するため、代替労働力を雇い入れることもあります。
そのような場合、代替労働力の雇い入れの費用などが休業損害として賠償の対象となることもあります。
代替労働力の費用を休業損害として認めたさいたま地裁越谷支部判決
さいたま地裁越谷支部平成28年5月26日判決は、以下のとおり述べて、被害者の休業に伴う代替労働力の費用について賠償の対象としています。
「原告は,水道設備業を1人で営む事業所得者であり,水道管等の取付け,水道設備等の漏水のチェック,修理,取替えなどを主な業務としている。」
「原告の収入金額は,平成22年は1315万5722円,本件各事故が発生した平成23年は1227万2635円であり,若干減少したものの,平成24年は1324万5261円,平成25年は1359万4888円と,本件各事故前の額を上回っている。一方,原告は,本件各事故による傷害によって,業務に支障が生じたことから,本件各事故後に代替労働力を使用しており,その費用は,平成23年から症状固定日である平成24年6月1日までで174万5400円であった。」
「平成23年及び平成24年において,収入金額がほぼ維持されたのは,原告が,本件各事故後,それまでに使用しなかった代替労働力を使用したためであって,その費用は,平成23年から症状固定日である平成24年6月1日までで174万5400円であったところ,これは本件各事故による損害といえる。」
このように、同判決は、代替労働力の費用のみ休業損害として認めています。
代診費用について休業損害として認めた裁判例
また、東京地裁平成25年7月16日判決も、以下のとおり述べて、代診の費用を損害として認めています。
「原告は,D医師に対し,平成20年6月4日から同年10月16日まで,本件クリニックにおける診療業務の一部の担当を依頼し,その代診費用として合計90万円を支払ったと認められる。」
「原告は,本件事故の翌日から本件クリニックにおける診療業務に従事しているが,原告が本件事故により負った傷害の内容及び程度に照らすと,ネックカラーが外れた平成20年8月18日まではもちろん,その後の一定期間においても,原告にとって,痛み等を抱えつつ,本件クリニックを受診する種々の患者に個々に対応し,診察や検査を行うという業務に従事し続けることは,相当の困難と労苦を伴ったであろうことは,容易に推認することができる。」
「そうすると,平成20年6月から同年10月中旬までという本件事故から約4か月半の期間において,週1回程度(ほぼ木曜日),原告が自ら従事すべき診療業務の一部の代替を1回当たり5万円で他の医師に依頼し,本件クリニックの診療体制を維持することによりその収入の確保を図るということは,損害の拡大を防ぐという観点からも,なお相当性を有するものということができ,収入を確保するために余計に要した経費として,後記(9)の休業損害とは別に本件事故によって生じた損害であるということができる。」
「したがって,D医師に対する代診費用90万円の支払は,本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。」
なお、代替労働力を導入しても、収入減がある場合、代替労働力の費用と減収分が休業損害として認められます。
5名分の代替労働力の人件費を休業損害として認めた裁判例
代替労働については、必ずしも被害者と同じ人数分しか休業損害が認められないわけではありません。
被害者が仕事においてはたしている役割が大きい場合、複数人数の代替労働を入れる必要があったとして、複数人数分の人件費が休業損害として認められる可能性があります。
横浜地裁令和7年4月25日判決は、「原告Aは、海の家を経営しているところ、上記⑴の受傷及び捜査機関の取調べへの対応のため2か月間海の家での業務を休業しなければならなかったと認められる。そして、店の全体について目配りのできる経営者である原告Aの代替としてアルバイト従業員で対応するためには同時間帯に複数人を雇用する必要があり、原告Aの主張する日時において、5名を原告Aが休業していた間の補充として雇用する必要があったと認められるため、原告Aに生じた休業損害は37万5375円と認められる。」として、同時間帯に複数人を雇用する場合の人件費を休業損害として認めています。参照:代替労働力と休業損害についての裁判例
5 赤字の自営業者と休業損害
赤字の個人事業主が交通事故に遭い、赤字が拡大する場合がありえます。
そのような場合の休業損害の計算方法は必ずしも統一されていません。
横浜地裁平成26年12月26日判決は、以下のとおり述べ、所得の減少額のうち、7割を休業損害の基礎としています。
「本件事故前の所得金額については,原告は平成19年度に事業を開始したばかりであるから,同年度の所得金額と翌年(本件事故の前年)である平成20年度の所得金額の平均値を採用すべきところ,原告が事業を開始した平成19年度以降,休業期間(平成21年3月25日ないし平成22年4月9日)を含めた平成23年度(記録上窺える会計年度)までの所得は大幅な赤字傾向にあることは上記のとおりであるから,休業期間中の所得の減少は,専ら本件傷害による就労制限によるものではなく,原告の事業の経済効率の悪さ,社会・経済状況の変動及び同業者との競合等による受注減少という可能性も否定できない上,本件傷害が漸次回復することからすれば,原告の休業損害については,休業期間中の所得減少額のうち,7割の限度で本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。」
その他、賃金センサスを参考に算定する事例もあります。
また、休業損害を認定せず、慰謝料算定の上で考慮すべきとする裁判例もあります。
4 家事従事者、無職者の休業損害
会社役員の休業損害
会社役員については、報酬のうち、労務提供の対価部分を基準として休業損害の計算をすることになります。
対価部分については、現場仕事を実際にしているかどうか、報酬額がどの程度かなどにより決まってきます。
家事従事者、主婦・主夫の休業損害
家事従事者の休業損害の計算方法
家事従事者については、賃金センサスという統計を基準として休業損害が算定されることになります。
例えば、大津地裁令和7年1月17日判決は、77歳の専業主婦について、基礎収入は日額8116円(平成30年賃金センサス女性学歴計70歳~の平均賃金296万2200円÷365日)をもとに、家事労働ができなかった日について休業損害を認定しています。参照:主婦の休業損害を認定した裁判例
高齢主婦・主夫の休業損害
高齢主婦・主夫については、その年齢層の賃金センサスをもとに休業損害を計算することが多いです。
例えば、,京都地裁令和3年11月9日判決は、67歳主婦の休業損害について、賃金センサスのうち、学歴計・女性65歳から69歳平均賃金を基準に算定をしています。参照:高齢の主婦についての休業損害を認定した裁判例
兼業主婦・主夫の休業損害
パートなどに従事している主婦については、パート収入と賃金センサスの数値と大きい方を基準に休業損害の計算がされることになります。
函館地裁令和6年5月8日判決は、「兼業主婦の基礎収入を算定にするに当たっては、就労による収
入と前記平均賃金の高い方を採用するのが相当」として、高い方の賃金センサスの数値を前提に休業損害の算定をしています。参照:兼業主婦の休業損害を認定した裁判例
一部しか家事ができなかった場合の休業損害
主婦・主夫については、家事労働の対価がないので、一部しか家事ができなかった場合の評価が困難ではあります。
裁判所は、ある程度家事ができたと思われる状況では、賃金センサス上の平均収入の一定割合が失われたという形で休業損害を認めます。
例えば、,東京地裁令和4年1月27日判決は、「負傷の程度が腕の骨折であることを踏まえても,すべての通院日に家事労働が全くできない状態であったのかという点については疑問を差し挟む余地が
ある」として、通院日における労働能力喪失率は通院日全体を通じて70%とするのが相当である。」としています。参照:割合的な休業損害の認定をした裁判例
無職者の休業損害
無職であった人でも、事故がなかった場合の就労の可能性があったようなときには休業損害が認められることがありえます。
休職活動中であったかどうかが重要な要素となります。
5 会社役員と休業損害
交通事故で会社勤めの人がケガをし、やむをえず欠勤した場合、基本的には減収分が休業損害として賠償の対象となります。
しかし、会社役員が受け取っている役員報酬については、その一部が労務の対価ではなく、実質的には配当などの意味を持つことがあります。
そのため、必ずしも役員報酬全額について休業損害が認められるわけではありません。
収入の一部についてのみ休業損害を認めた事例
労務対価部分を80%とした裁判例
例えば、大阪高裁平成30年11月22日判決は、「控訴人会社は本件事故当時,正規従業員3名,アルバイト従業員2名を雇用していたことが認められ,小規模ではあるものの会社組織を採用している以上,役員報酬には労務提供の対価とは評価できない部分が存するといえる。そして,控訴人会社の業務内容,想定される従業員の給料額などを考慮すると労務対価部分は80%とするのが相当である。」として、労務対価部分を80%と認定しています。なお、会社は建築請負業であり、被害者は営業や現場作業に従事していました。
賃金センサスを用いて労務対価部分を計算した裁判例
労務対価部分の割合を認定する証拠がない場合、賃金センサスを用いて算定することもあります。
例えば、横浜地裁平成30年3月9日判決は、「給与収入の中には,労務提供の対価に相当する部分と利益配当の実質を持つ部分とがあることが想定されるところ,これらを明確に区別して把握し得る証拠資料がないことからすると,上記給与収入額に基づいて原告の休業損害額を算定することは相当とはいえない。そこで,原告については,労務提供の対価に相当する収入として,少なくとも,本件事故当時の原告の年齢(36歳)に対応した賃金センサス男性学歴計35~39歳の年収額である533万5000円程度の収入があったものと認め,同金額に基づいて休業損害額を算定することとする。」としているところです。
収入の全部について休業損害を認めた事例
しかし、1人会社であること、役員が業務を全部やっていたなどの事情があれば、役員報酬全額分について休業損害として認められることもあります。
役員報酬とほぼ同額をもとに休業損害を算定した裁判例
例えば、東京地裁平成28年11月17日判決は、以下のとおり述べ、役員報酬360万円のところ、ほぼそれに匹敵する345万9400円を休業損害の対象として考慮すべきとしました。
「原告は,Eから役員報酬として360万円(月額30万円)の支払を受けていたのであり,その基礎収入は同額とすべきである旨の主張をする。」
「しかしながら,Eは,原告らの自宅を本店所在地とする一人会社であり,代表取締役であるAが,印刷機器の販売等を行っていたこと,これに対し,原告は,家事労働に従事しつつ,その経理事務等を手伝っていたにすぎないこと,② 監査役であるGは,本件事故当時,Eの経理事務等を手伝い,月額8万円の支払を受けていたことが認められ,かかる事実に照らすと,原告の役員報酬のうち労務提供の対価に相当する部分(原告の基礎収入)は345万9400円(平成22年賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金)とするのが相当である。」
1人会社について賃金センサスをもとに休業損害を認定した裁判例
ここでは、1人会社であることなどを踏まえ、賃金センサスを基準として休業損害額が定められています。
千葉地裁平成6年2月22日判決は、以下のとおり述べ、役員において肉体労働に従事することが多かったことなどから、役員報酬全額を休業損害の基礎となるものとしました。
「反訴原告X1が建物解体工事・建材卸業等を主たる営業目的とする反訴原告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがなく、乙第一五、第一六号証、第一八、第一九号証及び反訴原告X1本人尋問の結果によれば、反訴原告会社は、平成二年二月二六日の臨時社員総会で、同年一月以降の反訴原告X1の役員報酬を月額金一〇〇万円とすることを議決し、反訴原告X1は、役員報酬として、同年一月から同年五月までに合計金五〇〇万円の支給を受けたが、本件事故後、職務を遂行することができなかったため、同年六月から同年一一月までの六か月分合計金六〇〇万円の支給を受けなかったこと、反訴原告会社は反訴原告X1の個人会社であり、同反訴原告の職務内容も、受注の際の見積りのほか、ダンプ・重機の運転及び土砂・廃材等の積み降ろし等の肉体労働が多く、右役員報酬はその全額が労務提供の対価と見るべきであり、税務上も給与所得として取り扱われていることが認められる。そうすると、本件事故と相当因果関係のある反訴原告X1の休業損害は、同年六月から同年八月までの三か月分の右役員報酬合計金三〇〇万円であると認めるべきである。」
従業員16人の会社で報酬全額を労務提供の対価として認めた裁判例
福井地裁平成27年4月13日判決は、従業員16名の会社でもう1人とともに基幹業務を担い、売り上げの3分の2について受注していた代表取締役について、報酬額全額が労務提供の対価だとしました。参照:役員報酬全額を労務提供の対価とした判決
このように、会社役員の交通事故については、会社や勤務の実態などにより休業損害額がかわってくることがあります。
それらの適切な主張立証が重要となります。
交通事故で会社が被った損害について賠償請求できるか?
従業員がいないか、ごく少数の会社で、役員と会社が経済的に一体をなすような場合、役員が休業し、それにも関わらず会社が役員報酬を支払い続けた場合、役員報酬のうち、労務対価部分については会社が加害者に賠償請求できる可能性があります。
さいたま地裁令和3年5月28日判決は、「被害者が個人事業として営んでいた土木建築業を平成26年6月1日,法人成りしたものであり,被害者が株式を全部保有している。被害者が役員を務める会社は,平成27年11月以降の従業員数が3ないし5名(うち2名は被害者の子)という小規模な同族会社であり,被害者が役員を務める会社の事業に不可欠な重機(ユンボ)の運転免許を有するのは被害者だけであることなどからしても,被害者はその役員を務める会社において他者により代替できない地位にあり,両者は経済的に一体である。」と判断し、会社が被害者が休業しても労務対価部分(8割)も含めて役員報酬を払い続けたとして、会社から加害者に対する役員報酬の8割分の賠償請求を認めました。
第9 交通事故で必要となった学習費と賠償
子どもが交通事故で入院などした場合、退院後に勉強を取り戻すための学習費(塾や家庭教師)がかかる場合があります。
また、入院などにより、塾などに行くことができず、それまで払った授業料などが無駄となることもあります。
そのような場合、学習にかかわる費用について賠償が認められることがあります。
学習の遅れを取り戻すための家庭教師代の賠償を認めた裁判例
例えば、横浜地方裁判所平成26年12月26日判決は、以下のとおり述べて、勉強の遅れを取り戻すための家庭教師代の賠償を認めています。
「原告は,上記認定のとおり,本件事故後,トリマー専門学校の専門課程(2年間)に進学し,毎週月曜日に通学していたが(8割以上の出席が要件),本件事故により十分な技術の習得・訓練ができず,進級及びライセンスの取得が困難となる可能性が生じたため,平成22年6月から9月にかけてトリミングの家庭教師の指導を受け,7万5000円を出捐したことが認められ,これに照らすと,原告が家庭教師を依頼したことには相当な理由があるから,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」
大分地裁平成20年3月31日判決は、「原告Aは,解離性健忘のために,E高校における学習の記憶が失われ,本件事故後,学習塾を利用して,再度学習し直し,これに26万3470円を要した」として、学習塾代の損害賠償を認めました。参照:学習塾代の損害賠償を認めた裁判例
岡山地裁倉敷支部兵営14年6月28日判決は、高次脳機能の被害者について家庭教師代30万5520円の損害賠償を認めています。参照:家庭教師代の賠償を認めた判決
交通事故による留年の場合の学費等の損害賠償を認めた裁判例
交通事故による入院等により留年せざるをえなかった場合、追加で必要となる学費等について損害賠償の対象となる可能性があります。
岡山地裁平成9年5月29日判決は、以下のとおり述べ、事故による入通院のために留年を余儀なくされた場合に、追加でかかる学費及び賃料の損害賠償を認めました。
「原告は本件事故による入通院のため五ヶ月余にわたり大学の講義を受けることができず、単位修得に重大な支障を来し、一年間の留年を余儀なくされたこと、納付すべき一年間の学費は九七万六〇〇〇円であることが認められ、右認定事実によれば、原告は同額の損害を蒙ったものと認めるのが相当である。」
「原告は前項の留年に伴い、一年間余分にアパート住まいを余儀なくされたこと、一年間のアパート賃貸料五五万六八〇〇円であることが認められ、右認定事実によれば、原告は同額の損害を蒙ったものと認めるのが相当である。」
不必要に払うことになった学費の賠償を認めた裁判例
交通事故のため、学校に通うことができなくなった場合に、無駄になった支出済の学費等について損害賠償請求の対象となることがありえます。
東京地裁平成24年11月28日判決は、以下のとおり述べて、無駄になった支払い済の入学金についての損害賠償を認めました。
「亡Aは本件事故前に,△△大学に73万3200円の学費を支払い,うち25万円(入学金相当額)については返還されないことが認められる。この25万円については,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。」
なお、大阪地裁平成30年4月16日判決は、以下のとおり述べて、不必要に支払うことになった学費についての賠償を認めつつ、4月に退院した年度の学費については賠償の対象としては認めませんでした。
「本件事故により被告が余分に負担を余儀なくされた学費費等ということができるのは,平成26年度前期の授業料65万3200円及び同年度後期の休学手数料6万0000円の合計額に相当する71万3200円であり,同額をもって,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。」
このように、退院などした後に留年などをしたとしても、それが交通事故と因果関係にあること(学習能力が衰えたとか、通院にかなり日数を要したなど)について具体的に主張立証しないと、賠償の対象とはなりにくいということになります。
交通事故で遅れた学習を取り戻すための学習費が賠償の対象となることがあります。
第10 交通事故と家屋改造費
目次
1 交通事故と家屋改造費等
1 交通事故と家屋改造費等
目次
後遺障害と家屋改造費
下肢障害で家屋改造費の賠償を認めた事例
家屋改造費が認められる場合、認められない場合についてのまとめ
後遺障害と家屋改造費
交通事故で重い後遺障害が残った被害者については、自宅でそのまま生活することに支障があり改修が必要な場合、バリアフリー化などのための家屋改造費が賠償の対象となりえます。
下肢障害で家屋改造費の賠償を認めた事例
名古屋地裁平成29年12月19日判決は、両下肢に障害を残し,杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難,膀胱機能はやっと自排尿ができる,常に残尿感があり,あるいはおむつが必要な失禁という状態で、5級の後遺障害の被害者について、
・水洗便器12万円,手洗いカウンター(手洗い,タオル掛け等)5万円,トイレの照明器具5000円
・庇(自宅外部のアルミ庇及び玄関横の小庇)(被害者は,自宅の玄関から駐車場まで車椅子ないし杖を用いて移動しているところ,雨が降っている場合,傘を差すことができないため,濡れてしまうことが認められるから,庇を設置する必要性が認められた)
の費用について賠償の対象としました。
このほか手すり等の賠償も認められやすいです。
高次脳機能障害と家屋改造費
高次脳機能障害でも家屋改造費が認められることがあります。
金沢地裁平成29年8月29日判決は、高次脳機能障害で1級に認定された被害者について、
・車いすで生活できるようにするために和室を洋室に改装する工事の費用
・2つ部屋を1つにする工事の費用
・スロープなど設置の外構工事費用
・トイレの改装費用
について賠償を認めています。
神戸地裁令和3年8月27日判決では、3級の高次脳機能障害事案で、見守りカメラ代5万1280円の賠償を認めています。その他、「原告は,本件事故により,高次脳機能障害が残存し,見守りが必要となっていることや,後遺障害のために,単独での屋外歩行が困難な状態で,また,自宅内で,転倒をし,救急搬送されたこともあったことを踏まえると,床の材質,ドアの交換及び手すりの設置費用を内容とする浴室の改造の必要性及びその内容の相当性が認められ,その費用として,50万4528円を要したことが認められる」として、その請求額の賠償を認めています。
遷延性意識障害で家屋改造費を認めた事例
福島地裁平成21年3月27日判決は、柔道事故に関するものですが、遷延性意識障害の被害者について、介護のための部屋の増築、スロープの設置等の費用として976万4000円を認めました。
参照:遷延性意識障害被害者について家屋改造費の賠償を認めた判決
家屋改造費の賠償を否定した事例
他方、山口地裁下関支部令和2年9月15日判決は、高次脳機能障害等で併合1級とされた被害者について、家屋改造費を否認しています。
被害者は、「本件事故による後遺障害(運動制限,記憶障害等による空間認識能力の低下)の影響で,入浴後に,本件事故前のように速やかに体の拭き上げを行うことができなくなった。その結果,体温管理のために,浴室にヒーターを入れる必要等が生じ,家屋改造を余儀なくされ,その費用として284万0240円を支出した。」として家屋改造費の賠償を請求しています。
しかし、裁判所は、家屋改造費は,受傷内容や後遣症の内容,程度等を具体的に検討した上で,家屋を改造する必要性が認められる場合には,その相当額が損害として認められる。そこで検討するに,医師の診断書等の医学的所見に基づく原告X1の主張する家屋改造の必要性を認めるに足りる的確な証拠はない。また,原告X1の本件事故による受傷内容や後遺症の内容,程度等を勘案しても,その必要性を認めることはできない。」としています。
家屋改造費が認められる場合、認められない場合についてのまとめ
歩行が困難になったこと、風呂やトイレで介助が必要になったことに基づき行う家屋改造費用については、定型的で、わかりやすいため、比較的認められやすいでしょう。
しかし、それ以外のものについては、医学的な必要性等について丁寧に主張立証をする必要があるでしょう。
また、そもそも被害者が自宅に帰ることが困難な場合には家屋改造費は認められないことになります(東京地裁平成28年8月17日判決)。
2 等級が高くない後遺障害と家屋改造費
1級、2級の後遺障害の場合には家屋改造費が賠償の対象として認められやすいですが、3級以下であっても認められることはありえます。
3級以下の場合、下肢欠損、下肢機能障害、脊髄損傷の後遺障害について家屋改造費が認められやすくなっています。
12級で家屋改造費を認めたものとしては京都地裁平成14年12月12日判決があります。
同判決は以下のとおり判断を示して家屋改造費分の賠償を認めました。
「原告は,本件事故による後遺障害のため,自宅での家事,歩行に困難を来すようになり,家屋内の段差の解消,台所流し台の改造,廊下,浴室,トイレ等への手すりの設置等の改造を行い,その費用として313万1400円を支出したことが認められるところ,後遺障害の内容及び程度並びに症状固定当時の原告の年齢に照らし,上記の家屋改造は相当なものであったと認められるから,上記金額を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。」
京都地裁令和3年8月10日判決も、1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残す12級の後遺障害事例について、「原告は本件事故による受傷により,立つことはできるものの受傷した足に体重を掛けると再度折れる可能性があり,車椅子等が必要な状態となったことが認められ,これに伴う家屋改造の必要性があるといえる。証拠によれば,家屋改造費として36万9943円を相当と認める。」として家屋改造費の賠償を認めています。
3 より高い賃貸物件に引っ越した場合の賃料差額と家屋改造費
賃借物件で暮らしていた被害者については、より高い賃料の住居に引っ越さざるを得なかったとして、賃料の差額分の賠償が認められる場合もあります。
例えば、東京地裁平成7年3月7日判決は、以下のように述べて、賃料差額の賠償を認めています。
原告は、前記の後遺障害が残ったため、従前居住していた家屋に居住することができなくなり、住居を移転したため、一か月あたりの家賃が従前に比較して五万八二三〇円増加したことが認められ、右家賃の差額につき本件事故と相当因果関係を有する損害としては五年分が相当である
4 家屋改造費が特定できない場合
今後住むであろう家屋が特定できないうな場合、家屋改造費の算定は困難です。
そのような場合は家屋改造が必要であることは慰藉料で考慮されることがありえます(東京地裁平成12年5月31日判決など)。
5 家屋改造費と同居者の利益の考慮
いずれの場合についても、同居者も利益を得ているとして、費用の全額が賠償の対象とならない可能性があります。
例えば、東京地裁平成17年3月17日判決は以下のとおり判断を示しています。
浴室、洗面所、廊下等のバリアフリー化や居室の拡充はいずれも原告一郎だけでなく、同居する家族の生活の利便性を向上させるものでもあることも考慮すると、その約七〇%に当たる五一〇万円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
また、大阪地裁令和2年3月31日判決は、以下のとおり、断熱窓について、設置費用が賠償の対象となりうることは認めつつ、同居家族の利益にもなるとして、50%についてのみ賠償の対象としました。
「断熱窓については,証拠によると,これが原告X1の介護の要に供することは認められるが,他方で,これが原告X2及び原告X3ら家族の生活の利便性を高める点は否定することができないので,要した費用である10万円の50%の範囲で認めるのが相当である。」
第11 交通事故と自動車改造費用の損害賠償請求
交通事故で後遺障害が残り、通常の自動車に乗車するのが困難となった場合、自動車改造費の賠償が認められることがありえます。
車いすで乗ることができるようにするための自動車改造費
例えば、交通事故の事例ではありませんが、大阪高裁平成29年12月15日判決は、両下肢機能全廃,両上肢機能障害及び神経因性膀胱直腸障害の後遺障害のある被害者について、以下のとおり述べ、自動車購入費・改造費として12,331,316円の賠償を認めています。
「被害者は、体温調節が出来なくなったため温度を一定にする必要があり、また、自ら排尿や排便を制御することが出来なくなったため、被害者が移動するには車いすのまま乗れる自動車が必要不可欠であった。」とし、自動車改造費として3,740,730円、その耐用年数を7年、症状固定時の平均余命年数60年に対応した8回買い替えの費用の賠償を認めました。
手動運転装置を装着する自動車の改造費
横浜地裁令和2年1月9日判決は完全対麻痺の被害者において足で自動車を運転できないとして、自動車の改造のための部品代、陸送費として28万円、平均余命に基づき81歳までの5年毎の買い替え費用の賠償を認めました。
また、大分地裁平成23年3月30日判決は、第7頚椎節以下完全四肢麻痺等の後遺障害が残った事例について、手動運転装置をつけるしかなくなったとして、自動車改造費56万2000円、将来の自動車改造費として41万7136円の賠償を認めました。同判決は、耐用年数6年として、推定余命まで8回の将来改造費を認めています。参照:手動運転装置費用の賠償を認めた判決
自動車の改造費と買換回数等
自動車の改造費の賠償が認められるとして、その買い替え費用については、5年、6年、7年間隔と、裁判例によって差があります。
大分地裁平成23年3月30日判決は、6年での買い替えを前提の改造費用の損害賠償を認めています。参照:自動車の耐用年数を6年と判断した裁判例
統計などを用いてできるだけ短い期間の耐用年数を認めさせることが重要となります。
おおむね余命までの買い替えを認めているようですが、自ら運転する前提での買い替え費用については余命まで認めてよいかどうか争いが生ずる余地はあるでしょう。
自動車の購入費用丸々の損害賠償を認めた裁判例
上記のとおり、後遺障害が残った場合、自動車の改造費用の損害賠償が認められることはありますが、自動車の購入費用丸々について損害賠償が認められることはまれです。
しかし、もともと自動車に乗っていなかったような被害者が、後遺障害のために自動車を利用せざるを得なくなったような場合、自動車購入費用丸々が損害賠償の対象となることがありえます。
東京地裁平成21年10月2日判決では、原告の方で、自動車購入費用丸々の損害賠償を求め、被告は、後遺障害があってもなくても、いずれにせよ自動車を購入していたはずとして、反論をしていました。
それに対し、判決は、「被告らは,原告X1の年齢や事故前の収入,家族構成等に照らせば,仮に本件事故が発生しなかったとしても近い将来自動車を購入したであろう蓋然性が極めて高いから,車両を購入するための費用自体は本件事故との相当因果関係を欠いていると主張する。しかしながら,原告X1は,これまで自動車を購入したことがあったわけではないし,自動車を購入する計画があったわけでもないことからすると,同原告が本件事故による被害を受けたか否かにかかわらず近い将来自動車を購入したであろう蓋然性が高いということはできないから,被告らの上記主張は採用できない。」として被告の主張を排斥しました。
また、当該後遺障害に対応するには、車両の改造では賄うことができないという場合も、車両の購入費用丸々について損害賠償が認められる可能性があります。
原告Bをリハビリのため,平日は毎日J病院に連れて行かなければならないが,その便宜のためには,障害者用車両が不可欠であること,この車両1台購入には316万7000円が必要であること,8年毎に新車に買い換えなければならないことが認められ
このように、自動車を購入する見込みがなかった被害者については、自動車購入費用丸々の損害賠償が認められる可能性があることになります。
なお、同判決では、被害者が購入した自動車の駐車場代も損害賠償の対象とされています。
丸々自動車の購入費用について損害賠償が認められるケースでは、駐車場代、その他自動車の維持に必要な費用が損害賠償の対象となる可能性があるということになるでしょう。
通常仕様自動車と福祉車両との差額の損害賠償を認めた裁判例
事故前から通常仕様自動車を使っていた被害者が、後遺障害のために福祉車両を購入しなくてはならなくなった場合、通常仕様自動車と福祉車両との費用の差額が損害賠償の対象となりえます。
さらに福祉車両に改造が必要な場合には、改造費も損害賠償の対象となりえます。
名古屋地裁令和2年11月20日判決は、以下のとおり述べて、通常仕様自動車と福祉車両の価格の差額、さらに改造費を損害賠償の対象として認めました。
「本件事故によって負った後遺障害により,原告X1の移動には車椅子を用いなければならず,施設からの外出には車椅子仕様の福祉車両を必要とすることになるから,通常仕様車の車両本体価格である183万4000円(トヨタ・シエンタ,5人乗り)と車椅子仕様車の車両本体価格231万7000円の差額48万3000円並びに車椅子用電動ウインチ及びヘッドサポートクッション取付費用合計30万6460円について,本件事故と相当因果関係のある損害と認める」
第12 交通事故と過失相殺
交通事故の被害者となった場合、発生した損害について賠償を受けることができるのが原則です。
しかし、被害者にも過失があるとされた場合、過失相殺がなされ、損害額のうち一部しか賠償してもらえないことになります。
例えば、損害額100万円で過失割合10パーセントの場合、100万円×0・9=90万円が賠償されることになります。
損害額100万円で、うち50万円が治療費であり、保険会社から医療機関に直接払われている場合、90万円-50万円が被害者の手元にくるお金となります。
自賠責の場合は基本的には過失相殺は関係ありません(過失が7割以上の場合は支払金額が減らされます)。
ですから、過失割合によっては、自賠責の金額の方が高くなる場合もありますので注意が必要です。
どのように過失割合が判断されるか
過失割合判断で考慮される事項
このように賠償額算定の上で重要な過失割合は「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」によって判断されることがほとんどです。
自動車対歩行者、バイク対歩行者、自転車対歩行者であれば、歩行者の過失割合がかなり小さくなります。
自動車対自転車、バイク対自転車であれば、自転車の過失割合がかなり小さくなります。
自動車対バイクであれば、バイクの過失割合が小さくなります。
その上で、自動車対歩行者、バイク対歩行者、自転車対歩行者の事故で、幹線道路(歩車道の区別があって、車道が片側2車線以上、車道幅員が14メートル以上で車両の交通量が多く高速で走行しているような国道・県道)で発生した場合、夜間で歩行者の発見が困難である場合、歩行者の直前直後横断・急な飛び出し・ふらふら歩き、横断禁止の規制等がある場合等については、歩行者の過失割合が多めに修正されます。
逆に、歩車道の区別のない道路で発生した場合(1メートル以上の路側帯がある場合は歩車道の区別ありとされます)、歩行者が児童(13歳未満の者)・高齢者(65歳以上の者)・障害者であるとき、住宅街・商店街などで発生した場合、集団横断の場合、わき見運転や携帯電話で通話しながらの運転であるなど自動車側に重過失や著しい過失がある場合等については、歩行者の過失割合が小さめに修正されます。
高齢者が被害者の事故と過失割合
高齢者について過失相殺されるのは、高齢者が判断能力・行動能力において衰えがみられ、保護すべき度合いが高いからだと考えられます。
この点、さいたま地裁令和2年11月24日判決は、65歳の高齢者が被害者であった事案において、「原告は本件事故当時65歳であったが就労しており,夜間自転車での移動も行っており,特に保護を要するような判断能力や行動能力の低下があったと認めることはできないので,原告の高齢を理由に過失割合を加減することは相当ではない。」として、年齢だけで過失相殺において考慮されるかどうかは決められないとの判断を示しています。
判決の事案は、横断歩道から離れたところで道路を渡ったというものです。このような事案については、高齢者であっても横断をしないことで事故回避をすることが十分可能と考えられます。高齢者であるからといって過失割合を調整すべき実質的理由がないような場合には、65歳以上であっても過失割合において考慮されないという判断が今後もなされる可能性はあるでしょう。ⅰ
第13 交通事故と刑事事件

交通事故について、加害者が刑事処罰されることがあります。
被害者として参加等をし、意見を述べたり、質問をしたりすることができることもあります。
被害者参加についての記事をご参照ください。
第14 交通事故と保険(交通事故で払われる保険、損益相殺)

交通事故の被害者は任意保険、自賠責保険から支払いを受けることができることがあります。
人身傷害保険については、損害賠償請求との準備次第で損をする場合もあるので、注意が必要です。
人身傷害保険についての記事もご覧ください。
交通事故被害者が予め保険に入っていて、交通事故により保険金が出た場合、その保険金を損害賠償額から控除すべきかどうか(損益相殺すべきかどうか)も問題となります。
生命保険金については、以下のとおり、最高裁昭和39年9月25日判決が、生命保険金を損害額から控除すべきではないとしています。参照:生命保険金の損益相殺について判断した判例
「生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきものであるから、たまたま本件事故のように不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人たる被上告人両名に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額から控除すべきいわれはないと解するのが相当である。」
それに対し、所得補償保険については、損害額から控除すべきというのが判例の立場です。
最高裁平成1年1月19日判決は、以下のとおり述べ、所得補償保険について損益相殺を認めました。参照:所得補償保険と損益相殺についての判例
「本件所得補償保険は、被保険者の傷害又は疾
病そのものではなく、被保険者の傷害又は疾病のために発生した就業不能という保険事故により被つた実際の損害を保険証券記載の金額を限度として填補することを目的とした損害保険の一種というべきであり、被保険者が第三者の不法行為によつて傷害を被り就業不能となつた場合において、所得補償保険金を支払つた保険者は、商法六六二条一項の規定により、その支払つた保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する休業損害の賠償請求権を取得する結果、被保険者は保険者から支払を受けた保険金の限度で右損害賠償請求権を喪失するものと解するのが相当である。」
このように、代位関係が発生することを理由に損益相殺を認めています。
近年の最高裁は、代位関係発生の有無を損益相殺がされるかどうかについての重要な判断要素としていると考えられます。
第15 交通事故と健康保険、福祉等諸制度

交通事故でも使える健康保険
交通事故で傷害を負い治療を受ける場合、健康保険を使わないで、自由診療で治療を受けることが多いです。
そのためもあってか、交通事故の場合、健康保険を使うことができないと思っている方も多いですが、使うことは可能です。
ただし、健康保険を使う場合には、保険者に対し、第三者行為による傷病届をしていただく必要があります。参照:協会けんぽにおける第三者行為による傷病届書式
その際、「交通事故、自損事故、第三者(他人)等の行為による傷病(事故)届」、「負傷原因報告書」、「事故発生状況報告書」、「損害賠償金納付確約書・念書」、「同意書」などの書類を出してもらうことになります。
これを受け、保険者は、加害者に対して治療費分の請求を行うことになるのです。
交通事故で健康保険を使うメリット
健康保険を使う場合、被害者側のメリットもありえます。
それは、健康保険の方が診療の点数、つまり治療費が低いということです。
結局保険会社が治療費を払ってくれるので同じではないかと思われる方もいるかもしれません。
確かに、加害者が人身無制限の任意保険に加入し、被害者の過失がゼロの場合にはあまり健康保険を使うメリットはないかもしれません。
しかし、被害者の過失がいくらかある場合、治療費が安い方が被害者の手取り金額が大きくなります。
例えば、慰謝料200万円、被害者の過失割合2割として、自由診療で治療費100万円と保険診療で治療費50万円の場合を考えてみましょう。
治療費100万円のとき、被害者は200万円+100万円=300万円の8割である240万円を受給します。
うち100万円は医療機関に支払われるので、手取りは140万円です。
他方、治療費50万円のとき、被害者は200万円+50万円=250万円の8割である200万円を受給します。
うち50万円は医療機関に支払われるので、手取りは150万円です。
被害者に過失がある案件では健康保険を利用した方が被害者に有利ということです。
その他、自由診療の場合、点数が高すぎると裁判所に治療費を削られ、結局その分が被害者負担ともなりうるという問題もあります。
交通事故で健康保険を使うと医療機関がいい顔をしない(点数が低いので)ということもありえますが、交通事故で受診される場合には健康保険を利用することも積極的にご検討ください。
第16 交通事故と福祉制度
目次
1 交通事故と重度心身障害者医療費助成制度
1 交通事故と重度心身障害者医療費助成制度
交通事故に遭い、重度の心身障害が残った場合、医療費の助成を受けることができる場合があります。
これを重度心身障害者医療費助成制度といいます。参照:新潟県の重度心身障害者医療費助成制度サイト
この制度の内容は自治体によって違います。
以下、新潟市の制度についてご説明します。
新潟市では、身体障害者手帳1から3級、療育手帳A,精神障害者保健福祉手帳1級の方は、医療費助成を受けることができます。
その場合の自己負担額は以下のとおりです。
・外来 月4回まで1日530円、5回目以降0円
・入院 1日1200円
・薬局 0円
・訪問看護 1日250円
・治療用装具 0円
これは保健診療についてのみ適用される制度であり、自由診療では適用されません。
申請時には、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳、健康保険証、印鑑、本人確認ができるものなどが必要となります。
この制度については自治体により違いがありますので、申請時には各自治体に予めお問い合わせいただけるとよいと思います。
同制度を利用したために、医療費がかからなかった分については損害賠償請求の対象とはなりません。
しかし、将来の医療費を請求する場合については、将来においても同制度が存続しているか、しているとして要件か支給額などが同一かどうかは定かではないため、同制度の利用を考慮しない損害賠償額の算定がなされます。
例えば、札幌地方裁判所平成28年3月30日判決は、以下のとおり、過去の医療費については同制度による助成額を控除した額を損害額としつつ、将来の医療費については同制度による助成額を控除しない扱いとしています。
「原告X1は,平成28年1月まで,国民健康保険法に基づく保険給付及び江別市重度心身障害者医療費助成条例に基づく助成を受け,入院に伴う医療費を支払っていないが,その後は,同様の保険給付等の存続が確実であるということはできないから,損害から控除すべき保険給付等は,当初の3年のものであるというべきである。」
このような扱いは、将来制度がどうなるか判然としないということを理由として福祉的給付全般について共通になされているものです。
交通事故で重い障害を負った場合については、重度心身障害者医療費助成制度の利用も含めてご検討されるとよいと思います。
そのために健康保険を使った方がよい場合も多いでしょう。
2 NASVAの介護料支払い
1 NASVAの介護料支払(交通事故)
NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)は交通事故被害者のために様々な活動をしています。
今回は、NASVAによる介護料の支払いについて御紹介します。
2 NASVAの介護料支給の要件
NASVAの介護料は、以下の方に支給されます。
Ⅰ 最重度
脳損傷がある場合
自力移動が不可能
自力摂食が不可能
失禁状態にある
意味のある発語が不可能
目をあけ、手を握れという簡単な命令にはかろうじて応ずることはあるものの、それ以上の意思疎通が不可能
脊髄損傷がある場合
自力移動不可能
自力摂食不可能
失禁状態
人工介添呼吸が必要
Ⅱ 常時要介護
後遺障害等級別表第一1級1号、2号
Ⅲ 随時要介護
後遺障害等級別表第一2級1号、2号
3 NASVAの介護料支給額
4 NASVAの介護料の手続
5 損害賠償金との関係
基本的には介護料は損害賠償額から引かれないという扱いでよろしいかと思われます。
例えば、名古屋地裁平成23年2月18日判決は以下のとおり述べています。
「独立行政法人自動車事故対策機構の介護料は,交通事故被害者に対する支援という社会福祉的な施策の一環として捉えられるべきものであり,損害の填補としての性質を有しないというべきであり,損害からの控除をすることは認められない。」
3 身体障害者手帳
1 交通事故と身体障害者手帳
交通事故により身体障害が生じた場合、身体障害者手帳の交付を受けることができる可能性があります。
この身体障害者手帳を受ける人は、障害の程度に応じ、1級から7級までの級別に分けられ、級により受けられるサービスが異なります。
例えば、上肢について言うと、両上肢の機能を全廃した場合、あるいは両上肢を手関節異常で欠く場合には1級に認定されます。
また、1上肢の機能の軽度の障害、一上肢の肩関節・肘関節又は手関節のうちいずれか一関節の機能の軽度の障害、一上肢の手指の機能の軽度の障害、ひとさし指を含めて一上肢の二指の機能の著しい障害、一上肢のなか指・薬指・及び小指を欠くもの、一上肢のなか指・薬指及び小指の機能を全廃したものに該当すると7級に認定されます。
2 手帳を所持している交通事故被害者が受けることのできるサービス
身体障害者手帳をもっている人は、障害者総合支援法に定める福祉サービスなどを受けることができます。
障害者総合支援法が定める福祉サービスには、居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、短期入所(ショートステイ)、療養介護、生活介護、施設入所支援(障害者支援施設での夜間ケアなど)、自立訓練(機能訓練・生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援(A型=雇用型、B型)、就労定着支援、自立生活援助、共同生活援助(グループホーム)、移動支援などがあります。
3 身体障害者手帳と損害賠償金との関係
交通事故による損害賠償金から障害者総合支援法にもとづく福祉サービスにより受給などした分を引くかどうかについては、裁判例において引かなくてもよいとの判断がなされているところです。
例えば、名古屋地裁平成29年10月17日判決は、以下のとおり、過去分・将来分含めて引かなくて良いとの判断を示しています。
「このように,Aに必要な介護費用は,現状,その大部分が公的給付によって賄われているが,障害者総合支援法に基づく公的給付は,障害者の福祉の増進を図ることを目的とするもので(同法1条参照),損害の補填を目的とするものではない。同法には,給付を行った市町村等による代位の規定も設けられていない。かえって,介護保険給付が障害者総合支援法に基づく給付に優先するとされ(同法7条),かつ,介護保険給付については,第三者から損害賠償を受けたときは,市町村は,その価額の限度において,保険給付を行う責を免れるとされている(介護保険法21条2項)。そうすると,将来にわたって,Aに対して現在と同水準の公的給付が維持されるという蓋然性までは認め難く,困難な将来予測の場面で,現状の公的給付を所与の前提として将来介護費を算定することは,相当ではない。したがって,同法に基づく公的給付は,既給付及び将来給付の分も含めて,損益相殺的調整を図るべきものではないと解するのが相当である。」
ですから、障害者総合支援法による支給分については考慮しないで損害賠償請求するという取扱いでよろしいかと思われます。
4 療育手帳
1 交通事故と療育手帳制度について
交通事故で精神機能などに障害が生じた場合、療育手帳の交付を受け、様々なメリットを受けることができることがあります。
この制度については自治体毎に違いがありますが、以下、新潟県療育手帳制度についてご説明します。
2 療育手帳制度の対象者
対象者は以下のとおりとされています。
障害程度A(重度)
1 知能指数がおおむね35以下で、日常生活において常時介助または監護を必要とする人
2 肢体不自由、盲、ろうあなどの障害(身体障害者手帳1級、2級または3級に該当するもの)を有し、知能指数がおおむね50以下であって、日常生活において常時介助または監護を必要とする人
障害程度B(その他)
A(重度)に該当しない人
3 療育手帳制度の手続
市福祉事務所、町村役場の福祉担当課に申請していただきます。
児童相談所または知的障害者更生相談所の面接判定を受けることになります。
4 療育手帳所持のメリット
療育手帳を持っていると、以下の手続において措置を受けやすくなるとされています。
・特別児童扶養手当
受給資格の認定の際、Aの表示があり、直近の判定などから2年以内の手帳の提示がある場合、必要な診断書の提出を省略して差し支えないとされています。
・心身障害者扶養共済
手帳所持者の障害証明は、市町村長がしてさしつかえないとされています。
・国税・地方税の諸控除・減免税
手帳を提示することにより、Aの表示のある手帳所持者は所得税、住民税とも特別障害者控除が適用されます。
Bの表示のある手帳所持者は障害者控除が適用されます。
その他、自動車税、軽自動車税又は自動車取得税の減免税に関し、県福祉事務所長または市社会福祉事務所長が証明を行う場合、Aの記載がある手帳によって障害認定をして差し支えないとされています。
・公営住宅の優先入居
手帳所持者について、県福祉事務所長又は市町村長が資格を証明してさしつかえないとされています。
・NHK受信料の免除
手帳所持者について、市町村長が資格を証明して差し支えないとされています。
・重度心身障害者医療助成事業
市町村長は手帳にAの記載があるかどうかにより障害の確認を行ないます。
・旅客鉄道株式会社等の旅客運賃割引
5 精神保健福祉手帳
1 交通事故と精神障害者保健福祉手帳
交通事故により精神機能に障害が生じることがままあります。
脳が損傷することにより記憶などが障害されることもあれば、うつ病になることもあります。
そのようなとき、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けると、様々なサービスを受けることができるようになりますので、取得をご検討いただけるとよいと思います。
2 障害等級
精神障害者保健福祉手帳においては3段階の障害等級に分類されます。
1級 精神障害であって日常生活の用を弁することを不可能ならしめる程度のもの
器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、そのうち一つ以上が高度のものが該当します。
2級 精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、そのうち一つ以上が中等度のものが該当します。
3級 精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活もしくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの
器質性精神障害によるものにあっては、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害のいずれかがあり、いずれも軽度のものが該当します。
3 精神障害者保健福祉手帳所持により受けられるサービス
精神障害者保健福祉手帳を持っていることで、障害等級に応じて様々なサービスを受けることができます。
サービスは自治体によって違いますが、例えば長岡市では以下のサービスが受けられるようになります。
・自立支援医療(精神通院)の手続簡素化
・精神障害者医療費助成の手続簡素化
・重度障害者医療費助成制度の適用
・生活保護法の障害者加算
・タクシー利用券の交付・自動車燃料税の助成
・後期高齢者医療制度への早期加入
・国民健康保険料の減免
・税制上の優遇措置
・公共料金等の割引
・施設入館料及び使用料の免除・軽減
・日常生活用具(頭部保護帽)の給付
第17 症状固定とは?
1 症状固定とは?
症状固定とは、それ以上治療をしても症状の改善が見込まれない状態を言います。
交通事故や労災において、
ⅰ 原則として症状固定時までしか治療費が支払われない
ⅱ 症状固定時点の症状をもとに後遺障害の判断がされる
ⅲ 症状固定時点が時効の起算点とされる
等、症状固定は重要な意味を持ちます。
2 症状固定の具体的判断
この症状固定については裁判で争われる事例が多くあります。
例えば、大阪地裁令和4年4月13日判決は、医師において平成27年7月(治療から約7年後)に、以降は治療効果がないと判断していたという事案において、被害者は以降も別の医療機関で別の治療法での治療を受けていたところ、平成27年7月以降の治療について「(被害者の症状について)適応があってその必要性及び相当性を認めることができ、実際に十分な治療効果が得られたのであれば、同年7月以降も治療効果が見込まれたものとして、その時点では症状固定に至っていなかったと評価できる余地がある。」としました。
その上で、
・当該治療法について、ある病院において適応の有無が検討された結果、治療効果が期待しにくく、むしろ、副作用を発症する危険性があることから、実施が見送られたものであること
・被害者の自覚症状が著しいものではなかったこと
等を踏まえ、平成27年7月を症状固定日としています。
症状固定日については、
・治療を担当した医師の意見
・治療内容(単なる痛みを緩和するものに過ぎないかどうか)
・発症からの期間(発症から長期間経過していれば症状固定と認められやすい)
・治療により症状が実際に改善したか
・当該治療方法が臨床において受容されていたかどうか
・被害者の苦痛等が激しく、治療の必要性が高かったか
・事故態様
等を踏まえ判断されることになります。
なお、労災保険における症状固定も、損害賠償における損害賠償と、概念的には同じものですが、労災保険の方が症状固定を先延ばしにしてくれる(主治医が症状固定としない限り症状固定とはしない)傾向があります。
ですから、労災交通事故のような場合、労災保険の申請は必ずすべきです。
第18 交通事故の事故態様の悪質さ、事故後の悪質さで慰謝料は高くなるのか?
事故の悪質さ、事故後の対応の悪質さが理由で慰謝料が高くなることもあります。
事故態様の悪質さを理由に慰謝料を増やした裁判例
交通事故で被害者が死亡した場合、赤本では死亡慰謝料は2000から2800万円とされます。
しかし、これはあくまでも目安であり、それを超える場合(下回る場合)もあります。
例えば、秋田地裁平成22年7月16日判決は、以下のような事情が認められる事例において、死亡慰謝料3400万円を認めています。
同判決では、
ア 被告Y1及びその運転態様
(ア) 被告Y1は,衝突事故を起こした場合,極めて重大な結果を発生させ得る10トンの貨物自動車の職業運転手であり,通常の自動車運転手に比べても高度な注意義務が要求されていたこと
(イ) 被告Y1は,はみ出し禁止区間である上に,降雪の影響により路面状態の悪い片側1車線の道路のトンネル入口付近で追越しをして本件事故を起こしているが,そもそもこのような状況で追越しを行うこと自体が危険極まりなく到底許されないものであること
(ウ) 被告Y1は,本件事故前に,先行車両への過剰な接近と左右への進路変更の繰り返しという,先行車両に対して威圧を与える,いわゆる「あおり運転」をし,その「あおり運転」の果てに(イ)のような無謀な追越しに及んで本件事故を起こしているのであって,自動車を安全に走行させるという基本的な意識が欠如していたといわざるを得ないこと
(エ) 本件事故現場付近は,見通しも良く,対向車線を進行してくる対向車を発見することは容易であったにもかかわらず,被告Y1は,対向車線の安全をほとんど確認することなく進行を続けた上,本件事故現場でも安全確認せず,いきなり追越しを行ったため,本件事故を発生させたものであること
が考慮され、かなり高額の慰謝料となっています。
つまり、加害者の運転の悪質性が重視されていることが分かります。
京都地裁平成29年10月31日判決も、無免許運転者による居眠り運転という悪質性・救護措置なしとの点から慰謝料を高額としています。参照:無免許運転者による居眠り運転について高額慰謝料を認めた判決
ひき逃げ、無免許運転、酒酔い運転、信号無視、極端なスピート違反、携帯のながら運転、センターオーバーがあったような場合、慰謝料額が増額される可能性があると言えるでしょう。
事故後の加害者の態度が慰謝料を高くするか?
事故後の加害者の態度が悪質な場合も慰謝料額が増額される可能性があります。
東京地裁平成16年2月25日判決は、以下の事情があることを理由として、事故後における加害者の悪質性を考慮し、計3100万円というかなり高額な死亡慰謝料を認定しています(なお、事故態様自体も、酒酔い、反対車線に進入、20キロメートル以上速度違反等、かなり悪質です)。
・加害者は救急車等が到着するまで約20分間,加害車両内に閉じこもり,救急車到着後,車外に出て,携帯電話をかけたり,小便をしたり,煙草を吸ったりするだけで,被害者に対する救助活動を一切しなかった。
・加害者は,通夜,葬儀,四十九日,一周忌のいずれの機会にも,遺族である原告らを慰謝するに十分な対応を採っていない。
・加害者は,捜査段階において,自らの罪を免れるため,被害者がセンターラインを先にオーバーしてきたなどと不自然な供述を繰り返すなど,反省の態度がみじんも認められない。
その他、罪証隠滅なども慰謝料増額事由となるでしょう。
加害者の悪質性によりどのくらい慰謝料額が増額されるか?
加害者の悪質性によりどの程度慰謝料額が増額となるでしょうか?
この点、髙取真理子裁判官「慰謝料増額事由」(赤本2005年版)は、通常の慰謝料の2~4割増し程度に収まるというのが目安だとします。
裁判例の実勢に合致していると思われます。
ただし、悪質さの度合いに応じて、この目安を超えることもありうるところです。
19 自動車の名義貸しと損害賠償責任
自動車損害賠償保障法第三条は以下のとおり定めています。
「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」参照:自動車損害賠償保障法
つまり、自動車を運転していなくても、自己のために自動車を運行の用に供し、その自動車の運行によって人が死んだり、傷害を負ったりした場合、損害賠償責任を負うことになります。
自動車運転者が任意保険に入っていなかった場合、この規定が適用されると被害者保護にとって大きな意味を持つことになります。
そこで、どのような場合にこの運行供用者とされるのかが問題となります。
この点、最高裁平成30年12月17日判決は、以下のとおり述べ、当該事案において運行供用者に該当するとの判断を示しています。
「被上告人は、Aからの名義貸与の依頼を承諾して、本件自動車の名義上の所有者兼使用者となり、Aは、上記の承諾の下で所有していた本件自動車を運転して、本件事故を起こしたものである。」
「Aは、当時、生活保護を受けており、自己の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え、本件自動車を購入する際に、弟である被上告人に名義貸与を依頼したというのであり、被上告人のAに対する名義貸与は、事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし、自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。」
「また、被上告人がAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない」
「そうすると、上記のとおり被上告人とAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても、被上告人は、Aによる本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったというべきである」
「したがって、被上告人は、本件自動車の運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である」
このように、生活保護受給のために自動車所有ができない兄弟からの依頼を受けて名義貸しをした場合に、運行供用者として自動車損害賠償保障法により責任を負うものとしました。
判断に当たっては、名義貸しをしなければ運転者が自動車を運転をすることはできなかった、名義貸しを拒否することも可能だったという点が考慮されており、生活保護が関わらない名義貸しの事案においても参考になるものと思われます。
第20 新潟県で交通事故のお悩みは弁護士齋藤裕へ
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