有毒ガスを吸引した労災でどのような場合に損害賠償請求できるのか?

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 一酸化炭素中毒の労災と損害賠償

一酸化炭素中毒は死亡を含む重大な結果を招くものであり、使用者としては一酸化炭素中毒を招かないよう、安全対策に万全を期す必要があります。

一酸化炭素中毒防止のための行政のガイドライン

労働基準局長の通達である「建設業における一酸化炭素中毒予防のためのガイドライン」は、以下のとおり、一酸化炭素中毒防止のために使用者が講ずべき措置について記載しています。参照:一酸化炭素中毒予防のガイドライン

例えば、作業管理については、以下のように規定されています。

ⅰ 自然換気が不十分なところにおいては、内燃機関を有する機械及び練炭コンロ等を使用してはならな い。

ⅱ ただし、作業の性質上、やむを得ず使用する場合において、一酸化炭素中毒の予防のため、換気に 加え、 呼吸用保護具が労働者の人数分以上あることを確認すること、一酸化炭素中毒を予防するための換気を行うこと、労働者が作業を行っている間、継続的に、一酸化炭素の気中濃度を測定すること、 労働者に適切な呼吸用保護具を必要に応じ使用させること等の措置をとること。

使用者がこのような義務を怠り、一酸化炭素中毒が発生した場合、損害賠償義務を負う可能性があります。

一酸化炭素中毒の労災の裁判例

労働者の一酸化炭素中毒について使用者側の安全配慮義務違反を認めた裁判例としては、名古屋地裁昭和56年3月9日判決などがあります。

同判決は、「本件寄宿舎に設備された浴室にはガス湯沸器が設置されているから、入浴のためガスを燃焼させるには新鮮な空気を必要とし、自動的給気装置、若しくはこれに代る人為的給気管理を必要とすることは当然である。すると被告は、入居者の安全のため、本件浴室に、ガス湯沸器を点火する際、格別の動作を必要としないで自動的に空気が供給されるいわゆる給気口を設置する義務、若しくはこれに代る設備又は管理をする義務を負っていたといわねばならない。」として、自然換気がなされないところでガス燃焼をさせる場合には給気口を設置すべき義務があるのに、これを怠ったとして、被告に安全配慮義務違反を認めています。

2 タンク内での毒ガス発生と労災

タンク内で作業している労働者が毒ガスで死傷するという事故はそれなりの頻度で発生する労災事故です。

例えば、温泉タンクの清掃作業中に労働者が硫化水素により死亡した事故について、長崎地裁平成28年12月20日判決は以下のとおり述べます。

「温泉タンク内から硫黄臭ないし腐卵様臭がすること,すなわち硫化水素が発生していることは周知の事実といえ,実際に,本件旅館の設備である温泉タンク内においても,清掃作業時には100ないし数百ppmという高濃度の硫化水素が発生していたのであるから,そして,硫化水素は毒作用を有するもので生命の危険も生じるものであるから,使用者である被告や,その安全管理者であるCには,従業員,とりわけ温泉タンクの維持管理業務に従事する営繕課の従業員に対し,日頃から,硫化水素の特性(有毒性や危険性)を正しく認識理解できるような安全衛生教育を行い,作業時の手順や安全上の注意を明確に定めたり指示したりしておく義務や,温泉タンク付近の見えやすい場所に関係者以外立入禁止の表示を設置すると共に,硫化水素の有毒性・危険性等について十分な知識を有している関係従業員以外の者は立ち入ってはならない趣旨であることを正しく認識理解させ,これを周知徹底しておく義務があったというべきである。また,平成25年6月11日に本件タンク内の清掃作業を行うに際しても,硫化水素の有毒性・危険性や本件タンク内に入ることの危険性を正しく認識理解させた上,その作業手順や注意事項を具体的に指示すると共に,本件タンク内に入るのは禁止であることを明確に指示しておく義務があったというべきである。」

このように、毒ガス発生の危険性を認識しうる状況において、事業者としては、労働者にその危険性を認識させ、作業手順や注意事項、タンク内に入ることは禁止であることを具体的に指示する義務があるとしています。

硫化水素に限らず、毒ガスが発生する現場では、同様の義務が認められるといえるでしょう。

なお、同事案では、事業者には義務違反があったとされ、死亡についての損害賠償責任もみとめられています。

他方、労働者も、硫化水素発生の危険性を認識することができた、そうはいっても労働者は業務としてタンクに入った、事業主は一回も安全対策の教育をしていなかったという事情もあるとして、1割の過失相殺がなされているところです。

3 有毒ガスの吸引と病気との因果関係

有毒ガスを吸い、その後、何らかの症状が現れたとしても、有毒ガス吸引と病気との因果関係が争われることもあります。

因果関係が認められないと、病気による損害について賠償請求できないことになります。

旭川地裁令和6年3月1日判決は、有毒ガス吸引(二酸化窒素)と病気との因果関係が争われた事案について、有毒ガス吸引と病気との因果関係を認めています。

同判決は、

・事故後数週間後から咳症状が出ていたこと

・閉塞性細気管支炎という、有毒ガス吸引によりり患する病気として診断されたこと(参照:閉塞性細気管支炎についてのサイト

・閉塞性細気管支炎については、経過がゆっくりであること

から、有毒ガス吸引と症状との間の因果関係を認めました。

このように、有毒ガス吸引の場合、病気と有毒ガス吸引との間に因果関係が認められるかどうかは、吸引後の症状の経過がその病気の経過として合理的かどうか、有毒ガス吸引により生じうる病気かどうか等の点を考慮して判断されることになります。

4 化学物質過敏症と労災

有機溶剤中毒であったとの認定

東京地裁平成30年7月2日判決は、化学物質を取り扱う検査業務に従事していた労働者が有機溶剤中毒、ひいては化学物質過敏症にり患したという事案について、以下のとおり述べ、有機溶剤中毒であったとの認定をしました。

まず、判決は、以下のとおり述べて、労働者が業務中に化学物質に曝露されていたことで有機溶剤中毒にり患したと認定しました。

「原告は,本件検査分析業務に従事する過程で,長期間にわたって,相当多量のクロロホルムやノルマルヘキサン等の有機溶剤に曝露されていたことが認められる。」
「原告は本件検査分析業務を行っていた平成5年9月から平成13年6月の間,頭痛,微熱,嘔吐,咳などの症状があったこと,同月15日には被告の産業医に体調不良を申し出て,職場の異動を希望していること,その後も体調不良を訴えて就労場所が複数回変更されたことが認められるところ,前記原告の症状のうち本件検査分析業務を行っていた際の症状は,有機溶剤中毒の症状に合致し,本件検査分析業務を外れた後については,化学物質過敏症の症状に合致している。」
「原告は,複数の医師から,有機溶剤中毒及び化学物質過敏症に罹患したと診断されているところ,これらの診断は,赤外線瞳孔検査機による自律神経機能検査,眼球追従運動検査,眼球電位図による眼球運動評価,電子瞳孔計による瞳礼対光反応評価等,厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班が提示した診断基準の検査所見に対応する検査方法を用いている」
「これらの本件検査分析業務の内容,原告の症状発症の経過,医師による診断内容を総合すると,原告は,本件工場内の研究本棟において,本件検査分析業務に従事する過程で,大量の化学物質の曝露を受けたことにより,有機溶剤中毒に罹患し,その後,化学物質過敏症を発症したと認めるのが相当である。」

このように、化学物質に長期間曝露されていたこと、症状の経過、医師の診断などが化学物質過敏症の認定において考慮されます。

有機溶剤中毒の安全配慮義務違反

局所排気装置等設置義務違反等を認めた裁判例

上記東京地裁判決は、その上で、以下のとおり、使用者には、局所排気装置等設置義務、保護具支給義務、作業環境測定義務があったのに果たさなかったとして、安全配慮義務違反を認めました。

「被告には,雇用契約上の安全配慮義務の内容としての局所排気装置等設置義務,保護具支給義務及び作業環境測定義務の各違反が認められる。そして,各義務の法令上の基準は,作業従事者の健康被害を防止するために設定されたものであるから,被告の上記各義務違反がなければ,症状発現につながるような原告の有機溶剤及び有害化学物質への曝露を回避することができたと推認することができ,かかる推認を妨げる事情は,本件全証拠によっても認められないことからすると,被告の安全配慮義務違反と原告が化学物質過敏症に罹患したこととの間には,相当因果関係があると認められる。」

化学物質曝露による労災においては、共通して局所排気装置等設置義務,保護具支給義務及び作業環境測定義務が果たされているかどうかがポイントとなります。

被災労働者の症状から予見可能性を認めた裁判例

高松地裁令和5年3月24日判決も、有機溶剤中毒としての化学物質過敏症について、安全配慮義務を認めています。

同判決は、当該職場における有機溶剤の使用は微量で、一般的に予見可能性が認められるわけではないとしています。

その上で、被災労働者において、症状を訴えていたことから、予見可能性を認め、それにも関わらず使用者において配置転換等をしなかったとして安全配慮義務違反を認めています。

このように、特に危険とは思われない職場でも、被災労働者が症状を訴えている場合には、予見可能性が認められ、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

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