別居中の妻、事実婚上の妻に対する遺族厚生年金支給を認めるべきとした裁判例

さいとうゆたか弁護士

1 別居中の妻に対する遺族厚生年金支給が認められた事例

 

厚生年金法59条1項は、「遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失そうの宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。」と規定しています。

ですから、遺族厚生年金を受け取るためには、単に、亡くなった方の配偶者であるだけではなく、亡くなった方「によって生計を維持した」という要件が必要となります。

そこで、夫婦が別居し、婚姻費用の支払いもない場合、どのように解するかが問題となります。

この点、福岡高裁平成29年6月20日判決は、以下のとおり述べて、別居9ケ月の場合に、以下の事情において、死亡当時婚姻費用の支払いもなかった妻からの遺族厚生年金の申請を認めるべきとしました。

・「(妻は)長期間にわたり、観念的にではなく、現実に夫によってほぼ全面的に生計を維持されてきたことが明らかである」

・「妻は、夫が、一方的に家を出て行ったために、同人との別居を余儀なくされて経済的な窮状に陥り、同人が死亡するまでの9か月間では、これを立て直し、同人からの給付以外の収入によって安定的に生計を維持できるようにする間も与えられなかったといえ、別居期間中、当事者間の合意又は審判等により具体化していなかったとはいえ、本来、夫が妻に対して婚姻費用分担義務を負う関係にあったことは明らかである」

・「夫の所為は、悪意の遺棄ともいうべきものであり、夫死亡まで9か月の別居期間中に婚姻関係が破綻したと認めることはできない」

このように、夫と妻が同居中には妻が夫の収入に依存していたこと、夫死亡時には夫婦は別居し婚姻費用も支払われていなかったものの別居期間も短く、かつ、婚姻費用が支払われるべき関係にあったことをとらえ、現実には夫死亡時に夫からお金をもらっていなかった妻に対する遺族厚生年金の支払いがなされるべきだとしました。

東京地裁令和1年12月19日判決は、別居約13年の妻について、以下の事情のもとにおいて妻からの遺族厚生年金の請求を認めました。

・暴力というやむをえない理由での別居であり、その継続にもやむをえない事情があった

・妻は夫婦で蓄財した財産を別居時に持ち出し、それを生活費に使っていたし、夫も黙認していた

・双方から離婚に向けた動きがなかった

 

いずれの裁判例も、妻において遺族年金を受け取るべき高度の必要性があることに着目した裁判例であり、妥当性があると考えます。

2 事実婚の妻に対する遺族厚生年金支給が認められた事例

遺族厚生年金は、実態として事実上の夫婦関係があると言える場合にも支給されます。

この点、東京地裁令和2年8月11日判決は、

・当事者間には妊娠をきっかけに婚姻の合意と届出の予定があったこと

・男性が女性宅に私物を持ち込んでいたこと

・男性と女性が住宅での家事を分担していたこと

・男性が女性から、職場まで送迎されていたこと

・男性が女性を同居者として新たに広い住居を賃借したこと

から、「(女性)は,(男性)が死亡した当時,(男性)と事実上婚姻関係と同様の事情にあったものと認められる。」として、さらに生計維持要件も肯定し、遺族厚生年金の支給を認めました。

事実婚の場合、裁判までしないと遺族厚生年金の支給は認められにくいとは思われますが、裁判所が支給を認めるケースは多いので、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。

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