
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次
第1 別居中の妻に遺族厚生年金の支払いが認められた事例
第3 事実上の内縁関係と法律婚が併存する場合(重婚的内縁関係)
第4 新潟で離婚、遺族年金についてのお悩みは弁護士齋藤裕にご相談ください
第1 別居中の妻に遺族厚生年金の支払いが認められた事例
厚生年金法59条1項は、「遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。」と規定しています。
ですから、遺族厚生年金を受け取るためには、単に、亡くなった方の配偶者であるだけではなく、亡くなった方「によって生計を維持した」という要件が必要となります。
そこで、夫婦が別居し、婚姻費用の支払いもない場合、どのように解するかが問題となります。
別居9ケ月の妻からの遺族厚生年金の請求を認めるべきとした裁判例
この点、福岡高裁平成29年6月20日判決は、以下のとおり述べて、別居9ケ月の場合に、以下の事情において、死亡当時婚姻費用の支払いもなかった妻からの遺族厚生年金の申請を認めるべきとしました。
・「(妻は)長期間にわたり、観念的にではなく、現実に夫によってほぼ全面的に生計を維持されてきたことが明らかである」
・「妻は、夫が、一方的に家を出て行ったために、同人との別居を余儀なくされて経済的な窮状に陥り、同人が死亡するまでの9か月間では、これを立て直し、同人からの給付以外の収入によって安定的に生計を維持できるようにする間も与えられなかったといえ、別居期間中、当事者間の合意又は審判等により具体化していなかったとはいえ、本来、夫が妻に対して婚姻費用分担義務を負う関係にあったことは明らかである」
・「夫の所為は、悪意の遺棄ともいうべきものであり、夫死亡まで9か月の別居期間中に婚姻関係が破綻したと認めることはできない」
このように、夫と妻が同居中には妻が夫の収入に依存していたこと、夫死亡時には夫婦は別居し婚姻費用も支払われていなかったものの別居期間も短く、かつ、婚姻費用が支払われるべき関係にあったことをとらえ、現実には夫死亡時に夫からお金をもらっていなかった妻に対する遺族厚生年金の支払いがなされるべきだとしました。
DV等の事情があったことから妻からの遺族年金の請求を認めるべきとした裁判例
東京地裁令和1年12月19日判決は、別居約13年の妻について、以下の事情のもとにおいて妻からの遺族厚生年金の請求を認めました。
・暴力というやむをえない理由での別居であり、その継続にもやむをえない事情があった
・妻は夫婦で蓄財した財産を別居時に持ち出し、それを生活費に使っていたし、夫も黙認していた
・双方から離婚に向けた動きがなかった
いずれの裁判例も、妻において遺族年金を受け取るべき高度の必要性があることに着目した裁判例であり、妥当性があると考えます。
2 事実婚の妻に対する遺族厚生年金支給が認められた事例
遺族厚生年金は、実態として事実上の夫婦関係があると言える場合にも支給されます。
この点、東京地裁令和2年8月11日判決は、
・当事者間には妊娠をきっかけに婚姻の合意と届出の予定があったこと
・男性が女性宅に私物を持ち込んでいたこと
・男性と女性が住宅での家事を分担していたこと
・男性が女性から、職場まで送迎されていたこと
・男性が女性を同居者として新たに広い住居を賃借したこと
から、「(女性)は,(男性)が死亡した当時,(男性)と事実上婚姻関係と同様の事情にあったものと認められる。」として、さらに生計維持要件も肯定し、遺族厚生年金の支給を認めました。
事実婚の場合でも裁判所が支給を認めるケースは多いので、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。
3 事実上の内縁関係と法律婚が併存する場合(重婚的内縁関係)
事実上の内縁関係と法律婚が併存する場合、つまり重婚的内縁関係の場合には、2の要件を満たすだけではなく、法律婚が形骸化していることが事実婚配偶者において遺族厚生年金を請求しうるための必要条件となります。
この点、福岡地裁令和4年3月16日判決は、
・亡夫と法律婚上の妻が、亡夫の不貞に起因する別居開始以降,亡夫が死亡するまで,約33年間もの長期にわたり別居状態を継続しており,亡夫と法律婚上の妻の別居状態の解消可能性は乏しかったこと
・亡夫と法律婚上の妻は,別居後30年以上にわたり,婚姻関係を維持ないし修復するための努力を行っておらず,亡夫が死亡する直前には,亡夫と法律婚上の妻には,離婚条件次第では正式に離婚する明確な意思があったこと
・亡夫と法律婚上の妻はそれぞれ独自に稼働して得た収入により生活していたこと
・亡夫と法律婚上の妻との音信又は訪問等は,確定申告や税金等に関する事務的なものにとどまり,実質的な夫婦としてのつながりを基礎付けるようなものではなく,亡夫及びその親族と法律婚上の妻との関係も疎遠であったこと
・亡夫は,事実婚上の妻との間で安定的かつ固定的な事実上の夫婦としての共同生活を構築していたこと
などを総合考慮し,亡夫と法律婚上の妻との法律上の婚姻関係は,その実体を失って形骸化し,その状態が固定化して近い将来解消される見込みがない状態に至っていたといえ,事実上の離婚状態にあったと認めるのが相当であるとしました。
その上で、事実婚上の妻による遺族厚生年金の請求を認めました。
ここでも、別居経過、別居期間、別居後のやりとり(経済面も含む)が形骸化判断の上で考慮されます。
大阪地裁平成26年1月26日判決も、法律上の妻との婚姻関係は法律上の妻が相談もしないで家を出て以降12年6月別居が継続し、婚姻関係が形骸化していたとして、事実婚上の妻への遺族厚生年金の支給が適法だとしました。参照:事実婚上の妻への遺族厚生年金の支給を適法とした判決
4 新潟で離婚、遺族年金についてのお悩みは弁護士齋藤裕にご相談ください
もご参照ください。
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