執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。
離婚前に夫婦が別居するような場合、一方が他方に婚姻費用と呼ばれる生活費を請求できることがあります。
この生活費は、夫婦である以上、基本的には生ずるものです(参照:例外的に夫婦間で婚姻費用が発生しない場合)。
以下、婚姻費用請求について注意すべき点を述べます。
目次
1 婚姻費用の算定方法
1 婚姻費用の算定方法
婚姻費用算定表
婚姻費用は裁判所の作成した養育費・婚姻費用算定表に基づき算定されるのが基本です。参照:養育費・婚姻費用算定表
裁判所の算定表は双方の収入、子どもの人数や年齢に応じて算定することになっています。
算定表は給与所得者と自営業者で別のものとなっています。参照:自営業者の婚姻費用
高額収入の場合、学費など特別な費用がかかる場合、住宅ローンの支払いがからむ場合、関係者が多い場合等はこの算定表では対応できませんので、別途所定の算式で計算する必要があります。
高額所得者の婚姻費用については以下のページをご参照ください。参照:高額所得者の婚姻費用
収入がない、あるいは極端に低い場合でも、稼働能力がある場合には一定の収入があるとされる可能性があります。参照:潜在的稼働能力についての記事
日本弁護士連合会も同様の算定表を作っていますが、参考にされることはほぼありません。
婚姻費用算定における収入とは何か?
給料や自営業者の所得が収入にあたることは間違いないですが、家賃や配当、投資の儲けなどが収入に該当するかどうかは問題です。
財産を取り崩したりしても、それはただちに収入とはなりません。
しかし、財産から定期的に収入が生じたり(賃料、配当)、財産を定期的に取り崩して生活をしているような場合、それらは収入とみなされる可能性があります。
福岡高裁令和5年2月6日決定は、暗号資産を売却してえた代金について、財産の形態を変更しただけだとして、収入とはしませんでした。
賃料や配当と婚姻費用については、以下の記事を参照してください。参照:賃料や配当と婚姻費用
公的給付については、年金を別として、婚姻費用算定の上で収入とされないことが多いです。
年金、児童手当などの公的給付と婚姻費用算定については、以下の記事を参照してください。参照:年金等と婚姻費用
幼保無償化と婚姻費用については、以下の記事を参照してください。参照:幼保無償化等と婚姻費用
特別の経費と婚姻費用
特別の経費を要する場合、その経費を双方の基礎収入で按分して負担することがありえます。
私立高校の学費と婚姻費用については、以下の記事を参照してください。参照:私立高校学費と婚姻費用
奨学金と婚姻費用については、以下の記事を参照してください。参照:奨学金と婚姻費用
連れ去りと婚姻費用
連れ去りがあった場合と婚姻費用については、以下の記事を参照してください。参照:連れ去りと婚姻費用
2 婚姻費用請求の手続
交渉により婚姻費用を取り決めることは可能です。
一旦書面などで明確に婚姻費用を取り決めた以上、それに従い婚姻費用を支払う義務が発生します。
交渉で取り決めることができない場合、婚姻費用を請求する調停を家庭裁判所に申し立てることになります。
この家庭裁判所は相手方居住地の家庭裁判所です。
調停で話し合いがまとまらない場合には調停は不調となり、審判手続きに移行します。
審判手続きでは、裁判官が双方の主張を踏まえ婚姻費用を定めることになります。
なお、婚姻費用は、調停申立てなどの請求行為があった月分以降の分が認められることが多いです。
内容証明郵便により請求した後について支払義務を認める裁判例もあります(宇都宮家裁令和2年11月30日決定等)。
3 婚姻費用と住宅ローンの処理
よく問題になるのが住宅ローンです。
住宅ローンを払っている配偶者がその家を出て、別途アパートを借りるような場合、その配偶者は住居費を二重払いすることになります。
そのような場合、標準的な住居費の範囲内で婚姻費用が減額されることがありえます。
しかし、二重払いの事情がない場合、住宅ローンの支払いは婚姻費用には影響しません。
これは住宅ローンは資産形成に資するものであること、住宅ローンより婚姻費用の支払いが優先することが理由とされます。
なお、その他の借金についても基本的には婚姻費用額には影響しません。
4 婚姻費用と夫婦共有財産の持ち出し
一方配偶者が他方配偶者の預貯金を持ち出したような場合、他方配偶者がその預貯金を生活費にあてるべきであり、婚姻費用の支払いは認められないという主張をすることがあります。
しかし、裁判所は、そのような場合でも、持ち出し預貯金を度外視して婚姻費用を決める傾向にあります。
これは持ち出し預貯金の問題は財産分与の問題として処理すれば足りるという考えからです。
共有財産を持ち出された場合には婚姻費用支払い義務はないとの裁判例
この点、札幌高裁平成16年5月31日決定は、「相手方が共有財産である預金を持ち出し,これを払い戻して生活費に充てることができる状態にあり,抗告人もこれを容認しているにもかかわらず,さらに抗告人に婚姻費用の分担を命じることは,抗告人に酷な結果を招くものといわざるを得ず,上記預金から住宅ローンの支払に充てられる部分を除いた額の少なくとも2分の1は抗告人が相手方に婚姻費用として既に支払い,将来その支払に充てるものとして取り扱うのが当事者の衡平に適うものと解する。」として、共有財産の持ち出しがある場合に婚姻費用の支払いは不要としています。
共有財産を持ち出された場合でも婚姻費用支払い義務はあるとの裁判例
しかし、仙台高裁平成16年2月25日決定は、「婚姻費用分担に先立ち共有財産の清算をすべきである旨主張するが,夫婦間の共有財産の清算は,両者が離婚に至った際に財産分与の形でされるべきものであり,その清算ができなければ,婚姻費用分担ができないという関係にはなく,かえって,相手方が共有財産を当座の生活費のために費消することを前提に婚姻費用分担金を定めることは,後の財産分与の際の法律関係をいたずらに複雑化しかねず,相当でない」として、夫婦共有財産があっても婚姻費用支払義務はなくならないとしています。このような立場が趨勢と思われます。
5 婚姻費用の変更
収入の増減、子どもの進学などの事情変更があった場合、婚姻費用変更の請求ができます。
具体的には、家裁への調停⇒審判によって行うことになります。
6 外国人配偶者に支払うべき婚姻費用額
現在、婚姻費用は、裁判所の作成した婚姻費用算定表により計算されるのが一般です。
しかし、例えば、配偶者の一方が外国で居住する外国人であるような場合、物価水準との関係で婚姻費用算定表をそのまま使うことができるかどうか問題となります。
これは、婚姻費用算定表が、家族1人あたりの生活費を積算するなどして算定されるものであることから生ずる問題です。
この点、東京高裁平成30年4月19日決定は、日本に住む日本人夫が、中国に住む中国人妻に支払うべき婚姻費用額について判断を示しています。
まず、同決定は、以下のように述べます。
「婚姻費用が現在の権利者世帯の生活を保持するためのものであることに照らせば、権利者世帯が現実に必要としている費用を算定するのが本来であり、権利者が他国に居住し、その物価水準がわが国のそれと比較して格段に異なる場合には、婚姻費用の算定にあたり、そのような彼我の相違を反映させるのが相当である」
つまり、婚姻費用を請求する側が外国にいる場合、その国の物価水準を考慮すべきということです。
次に、具体的な算定方法については、以下のとおり述べます。
「いわゆる標準算定方式の考え方に基づき、抗告人、相手方及び長女が同居しているものと仮定し、双方の基礎収入の合計額を世帯収入とみなし、その世帯収入を相手方及び長女の生活費の指数と抗告人の生活費指数とで按分し、相手方及び長女に割り当てられる婚姻費用から、相手方の基礎収入を控除して、抗告人が相手方に支払うべき婚姻費用の額を定めることとする」
「なお、前記の説示に基づき、抗告人の生活費指数を100、相手方の生活費指数を70(100×0・7)、長女の生活費指数を38・5(55×0・7)とする」
つまり、中国での生活費支出が日本での7割程度であることを前提に計算するとされています。
なお、裁判所に提出された資料からは、中国の物価水準は日本の半分ないしそれ以下とうかがわれます。
しかし、裁判所は、それらの資料の正確性を検証することが困難であるとして、中国での物価は日本の70パーセントという数字を導き出しており、生活費指数もそれにしたがって7割としたものです。
婚姻費用を請求する側が住んでいる国の物価水準を考慮しないと、婚姻費用を払う側よりも高い生活水準を享受できることにもなりかねないので、物価による調整は必要と思われます。
婚姻費用を請求する側が外国人かどうか問わず、このような調整がなされる可能性があることに常に留意する必要があるでしょう。
7 離婚後の婚姻費用支払い義務についての最高裁判例
最高裁令和2年1月23日決定は、離婚後も婚姻費用支払義務は残るとの判断を示しました。
ここで判断されているのは、離婚前に請求した、離婚までの婚姻費用です。
裁判所は以下のとおり判断しました。
「民法760条に基づく婚姻費用分担請求権は、夫婦の協議のほか、家事事件手続法別表第二の2の項所定の婚姻費用の分担に関する処分についての家庭裁判所の審判により、その具体的な分担額が形成決定されるものである。・・・またあ、同条は、『夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する』と規定しており、婚姻費用の分担は、当事者が婚姻関係にあることを前提とするものであるから、婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合には、離婚時以後の分の費用につきその分担を同条により求める余地がないことは明らかである。しかし、上記の場合に、婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず、家庭裁判所は、過去にさかのぼって婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当である。このことは、当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても、異なるものではない。したがって、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない。」
このように、家庭裁判所が過去の婚姻費用の分担額を決定することができることなどを根拠に、離婚前に請求された離婚時までの婚姻費用支払義務について、離婚によって消滅するものではないとしました。参照:離婚後の婚姻費用請求についての最高裁決定
婚姻費用は当事者の合意がない場合、裁判所が決定して初めて支払い義務が発生します。ですから、裁判所の決定前に離婚となった場合、婚姻費用支払義務は発生しなくなるという考えも形式的には理解できます。
しかし、未払いの婚姻費用がある場合、離婚後にその清算も含めて財産分与をなしうること、そして離婚前に婚姻費用の請求がなされている場合には財産分与より婚姻費用分担請求の中で解決するのが端的であることからすると、今回の判例の結論は首肯しうるところです。
8 婚姻費用と弁護士費用
当事務所の弁護士費用は以下のとおりです(消費税別)。
着手金をお支払いいただければ、期日毎にお支払いいただく費用はありません(遠隔地は別途出廷日当が発生する場合があります)
・初回相談料 無料
・離婚交渉 着手金5万円 報酬10万円(財産分与などで経済的利益があるときは、その10パーセントと10万円の大きい方)
・離婚調停 着手金20万円(交渉から引き続き受任した場合の着手金は15万円)
報酬20万円(財産分与などで経済的利益があるときは、その10パーセントと20万円の大きい方)
・離婚訴訟 着手金20万円(調停から引き続き受任した場合の着手金は15万円)
報酬20万円(財産分与などで経済的利益があるときは、その10パーセントと20万円の大きい方)
・婚姻費用調停 着手金20万円(離婚調停と一緒の場合は5万円)
報酬20万円(離婚調停と一緒の場合は5万円)
例 相手方が離婚も婚姻も拒否している場合
交渉の着手時に5万円をいただきます。
話し合いで解決しなければ離婚調停となりますが、その際着手金15万円+5万円=20万円をいただきます。
そこで婚姻費用も、離婚も解決すると、報酬20万円+5万円=25万円を報酬としていただきます。
9 新潟で婚姻費用のご相談は弁護士齋藤裕へ
もご参照ください。
新潟で婚姻費用、離婚でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。
弁護士費用はこちらの記事をご参照ください。
さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。