執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会所属、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 年金収入と婚姻費用
2 年金収入をもとに婚姻費用を算定するときに0・8を除する計算方法
1 年金収入と婚姻費用
婚姻費用は夫婦双方の収入などにより算定されます。参照:婚姻費用算定表
婚姻費用算定の前提となる収入は通常は賃金や自営業者の所得ですが、年金についても賃金と同様に扱うべきかどうか、扱うべきとして賃金と同じと扱うかどうかが問題となります。
2 年金収入をもとに婚姻費用を算定するときに0・8を除する計算方法
この点、大阪高裁平成30年7月12日決定は、年金収入を婚姻費用算定の上で考慮すべきとしたうえで、0・8で除した上で婚姻費用を算定しています。
同決定は、以下のとおり述べます。
「相手方は、配当金以外に、平成27年と平成28年に、公的年金として各年約128万円を受け取っていたから、平成29年以降も同程度の公的年金を受給しているとみることができる。年金収入は、職業費を必要としておらず、職業費の割合は、給与収入(総収入)の2割程度であるから、上記年金収入を給与収入に換算した額は、上記年金額を0・8で除した160万円となる(128万円÷0・8)」
このように、年金収入については、取得に当たって職業費が不要であり、ほぼそのまま生活費に回すことができるとして、年金額に0・8を除する、つまり同じ額の受給であっても職業費分だけ年金の方が高い収入があるとみなされるような計算で婚姻費用を算定しました。
さいたま家庭裁判所熊谷支部令和3年10月21日決定は、「障害者年金は,前記認定事実記載のとおり子らのための相当額の加算もあり,受給する申立人及び子らの生活保障の一部といえるから,申立人の収入と評価するのが相当である。ただし,障害者年金は職業費を要しない収入であり,標準算定方式の前提となった統計数値により,全収入における職業費の平均値である15%で割り戻すのが相当である。そうすると,申立人の年収は,上記障害者年金130万5200円を給与収入と擬制すれば153万5529円(130万5200円÷0.85)(1円未満切捨て。以下同様)となる。」として、0・85で除するとしています。抗告審である東京高裁令和4年2月4日決定もさいたま家裁熊谷支部決定を維持しました。
必ずしもこのような計算方法による裁判例だけではありませんが、年金収入について0・8~0・85で除すという計算方法が広がっているように思われます。
3 自営業者の場合の年金収入からの婚姻費用算定
なお、自営業者の場合には、自営業者の収入算定にあたり、すでに職業費が控除されているため、年金収入を職業収入に換算するにあたり、0・8を除するなどの方法は不要と考えられます。
この点、東京高裁令和4年3月17日決定は、年金を受給している自営業者の婚姻費用算定について、「事業収入は、既に職業費に相当する費用を控除済みのものであるから、年金収入を事業収入に換算するに当たっても、上記(2)のような修正計算は必要ない」として、職業費を控除するなどの処理は必要ではないとしています。
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