執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
1 夫婦間で同居を強制できるか
夫婦は法律上は同居義務を負っています。
よって、一方が家を出て行った場合には、同居義務を根拠に同居を求める審判を申し立てることが考えられます。
少数ながら同居を認める審判例もあります。
しかし、裁判所は、概して同居審判には慎重なようにみえます。
なお、同居義務自体は裁判で争うことができるとされます。参照:同居義務について裁判で争えるとした判例
同居審判を破棄した福岡高裁決定
例えば、福岡高裁平成29年7月14日決定は、家裁が条件付で同居を命ずる審判を言い渡したのに対し、それを覆し、同居を命じないこととしました。
同決定は以下のとおり述べます。
「本件において,もともと抗告人が相手方との別居を開始したのは,相手方の両親との不和に原因があったものと思われるが,その後,相手方との話合いが繰り返される中で,その内容が,相手方実家での同居,別の場所での同居,離婚といった経緯をたどるうち,上記離婚訴訟の判決に至るまでの間に,抗告人の相手方に対する不信感,嫌悪感が強まっていき,前記のとおり,現時点で,抗告人は,適応障害の症状を呈しており,そのストレッサーとされるのが相手方であることは明らかである。」
「また,相手方が作成している書面の内容からは,相手方において,面会交流のあり方を含めた長女との交流について強いこだわりを有していること,それが,長女を監護している抗告人との同居を求める大きな動機になっている様子はうかがわれるものの,抗告人自身の体調などに対する労りといった心情などはうかがわれず,相手方が,抗告人から嫌悪されていることを自覚している様子がうかがわれる。」
裁判所は、以上の状況を踏まえ、同居により相互に個人の尊厳を害する状態に至る可能性が高いとして同居を命じないこととしました。
同居決定を破棄した大阪高裁決定
大阪高裁平成21年8月13日決定も、以下のとおり、同居により互いの人格を傷つける結果になる可能性が高いとして、同居を命じた原決定を取り消し、同居を命じませんでした。
「相手方は,いったん抗告人がCと別れることにした後も,抗告人に対して不倫を責め立て,これが原因で激しい口論となることもあったことなどから,抗告人は,相手方とのこれ以上の婚姻生活の継続は不可能であると考えるようになった。また,相手方は,自分が納得できないことがあると,激情して取り乱すなど,衝動的な行動をとったり,抗告人が勤務する小学校に行って,抗告人が不倫をして帰宅しないなどと話したりしたことがあり,抗告人は今後もこのようなことが繰り返されるのではないかと考えている。そして,このような抗告人の考えは,同居を命じる原審判がされた後も変わらず,抗告理由では,相手方と同居することは抗告人にとって精神的に耐えがたいものであって,夫婦関係の修復は不可能であると断言している。また,当事者双方から円満同居に向けた具体的な提案がされたことを窺わせる資料もない。」
「そうすると,抗告人が審判(決定)に基づいて任意に同居を再開することはほとんど期待できず(同居審判の性質上,履行の強制は許されない。),仮に,同居を再開してみたところで,夫婦共同生活の前提となる夫婦間の愛情と信頼関係の回復を期待することも困難であり,かえって,これによって,互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる。したがって,現時点において,抗告人に対し,同居を命じることは相当ではない。」
夫婦が別居する場合には、同居を続けると多少なりとも相手の尊厳を害する状態となるような場合が多いでしょうから(だから別居をすることが多い)、福岡高裁決定の判断を踏まえると、同居が命じられる場合は多くはなさそうです。
また、審判が確定したところで、強制執行はできないと考えられますので、実効性はありません。
そうであれば、別居を解消する手段としては、円満調停で夫婦関係を再構築するというのが遠回りのようでいて、現実的な手段のように思います。
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