執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 子の引き渡しを求める手段
2 人身保護請求手続き(「拘束」の要件)
3 人身保護請求手続き(「権限なしにされていることが顕著」との要件)
4 人身保護請求手続き(確定審判等があっても請求が認められない場合)
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1 子の引き渡しを求める手段
子の引き渡しの審判等が確定した場合でも、相手方が任意に子どもを引き渡さない場合、執行をする必要があります。
通常は間接強制⇒直接強制を行いますが、それでもダメであれば人身保護請求手続きを行うことになります。
2 人身保護請求手続き(「拘束」の要件)
人身保護請求では、刑罰の裏付けをもって子の引き渡しを求めることができ、極めて強力な手段ということができます。
人身保護請求が認められるためには「拘束」という要件が必要ですが、最高裁昭和61年7月18日判決は、
「幼児に意思能力がある場合であつても、当該幼児が自由意思に基づいて監護者のもとにとどまつているとはいえない特段の事情のあるときには、右監護者の当該幼児に対する監護は、なお前記拘束に当たるものと解するのが相当である(人身保護規則五条参照)。そして、監護権を有しない者の監護養育のもとにある子が、一応意思能力を有すると認められる状況に達し、かつ、その監護に服することを受容するとともに、監護権を有する者の監護に服することに反対の意思を表示しているとしても、右監護養育が子の意思能力の全くない当時から引き続きされてきたものであり、その間、監護権を有しない者が、監護権を有する者に子を引き渡すことを拒絶するとともに、子において監護権を有する者に対する嫌悪と畏怖の念を抱かざるをえないように教え込んできた結果、子が前記のような意思を形成するに至つたといえるような場合には、当該子が自由意思に基づいて監護権を有しない者のもとにとどまつているとはいえない特段の事情があるものというべきである。」としています。参照:人身保護法についての判例
これは、
ⅰ おおむね10歳以上の子については意思能力があるため、監護者のもとにいるのは自由意思によると考えられ、「拘束」がないため、原則人身保護請求は認められない、
ⅱ ただし、物心つく前から監護権を持つ者に対する悪口を言われ続けてきたような特殊な状況では例外的に「拘束」があるとされる可能性がある
ということになります。
3 人身保護請求手続き(「権限なしにされていることが顕著」との要件)
人身保護請求については、「権限なしにされていることが顕著」という要件も必要です。
最高裁平成6年4月26日判決は、この点、
ⅰ 拘束者に対し,家事審判規則52条の2又は53条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され,その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合がこれに当たると考えられるが,
ⅱ更には,また,幼児にとって,請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに,拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり,満足な義務教育を受けることができないなど,拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たるというべきである。
としています。参照:人身保護請求の権限なしでされていることが顕著という要件についての判例
ⅰがあるため、子の引き渡しを命ずる確定審判がある場合には拘束された子について人身保護請求が原則認められると言えます。
ⅱについては児童虐待と評価すべきような例外的場合のみ拘束された子について人身保護請求が認められると考えられます。
4 人身保護請求手続き(確定審判等があっても請求が認められない場合)
なお、確定審判等があっても人身保護請求が認められないことがありえます。
大阪地裁平成19年2月21日判決は、親権者から非監護権者に対する人身保護請求ですが、15歳から8歳までの4人の子どもが請求者との暮らしにについて否定的な発言をしている等の状況において、「今後多感な時期を迎える被拘束者桜を請求者の監護の下に置くことは,拘束者の監護の下に置くことに比べて被拘束者らの幸福の観点から著しく不当であるといわざるをえない。」等として、請求を認めませんでした。
このように、審判が確定していたり、単独親権者とされている場合であっても、判断能力のある年齢の子どもが引き渡しに拒絶的である等の事情があれば人身保護請求が認められないこともあることには留意が必要です。
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