執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 子の引き渡しを求める方法と直接強制
子の引き渡しを求める審判等が確定しても自動的に子どもが引き渡されるわけではありません。
子どもを引き渡さない場合にお金を払わせて引き渡しを強制する間接強制、執行官が出向いて直接的に子どもの引き渡しを受ける直接強制、それらがうまくいかない場合の人身保護請求の手続き等があります。
民事執行法第百七十四条は、子の引き渡しの強制執行について、以下のとおり定めます。
1項「子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
一 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法
二 第百七十二条第一項に規定する方法」
二は間接強制のことなので、間接強制と直接強制の2つの手段があることを言っています。
2項は、「前項第一号に掲げる方法による強制執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
一 第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあつては、その期間を経過したとき)。
二 前項第二号に掲げる方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。」としています。
つまり、間接強制ではうまくいかない、あるいはうまくいかなそうな場合、子の危険を防止するため必要性が高い場合でなければ直接強制はできないとされています。
3項は、「執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。ただし、子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。」としています。
直接強制を行うについては、必ず現に子どもをみている親の話を聞かないといけないということです。
このように、法律上は、できるだけ穏便な間接強制で子どもの引き渡しを実現すべき、直接強制は間接強制ではだめなときや必要性が高いときに限られるとされており、直接強制についてはかなり慎重な立場が取られています。
2 直接強制についてのルール
民事執行法175条は、子の引き渡しの直接執行のルールを定めています。
1項は、「執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。
一 その場所に立ち入り、子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。
二 債権者若しくはその代理人と子を面会させ、又は債権者若しくはその代理人と債務者を面会させること。
三 その場所に債権者又はその代理人を立ち入らせること。」
としています。子どもを監護している親の家の鍵をあけたりして立ち入ることができるということです。
2項は、「執行官は、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、前項に規定する場所以外の場所においても、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、当該場所の占有者の同意を得て又は次項の規定による許可を受けて、前項各号に掲げる行為をすることができる。」、3項は、「執行裁判所は、子の住居が第一項に規定する場所以外の場所である場合において、債務者と当該場所の占有者との関係、当該占有者の私生活又は業務に与える影響その他の事情を考慮して相当と認めるときは、債権者の申立てにより、当該占有者の同意に代わる許可をすることができる。」としています。つまり、家以外の場所での執行も可能ですし、その場所の占有者の同意がない場合でも執行できることがあります。
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