執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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婚姻関係破綻に責任がある者からの離婚請求は、婚姻関係が破綻しているとしても認められません。
離婚が認められるためには、おおむね10年程度の別居期間が必要となります(事情によって、伸びたり、縮んだりします)。
以下、有責配偶者からの離婚請求がどのような場合に認められるか?解説します。
目次
1 暴力をふるった配偶者からの離婚請求を認めた事例
1 暴力をふるった配偶者からの離婚請求を認めた事例
有責配偶者からの離婚請求は原則認められないことになります。
暴力をふるった配偶者が有責配偶者となりうることは言うまでもありません。
しかし、他の事由同様、程度問題という側面もあります。
例えば、福岡家庭裁判所行橋支部平成30年6月19日判決は、以下のとおり述べて、暴力をふるった側の配偶者からの離婚請求を認めました。
まず、判決は、暴力について以下のとおり認定します。
「原告が,被告を話合いの席につかせようとして,肩を押さえ込むなどしたことが2,3回あり,そのうちの1回では,被告が暴れてその肩が外れるなどし,被告が通院したことが認められる」
その上で、別居期間が9年程度になっているとして、当事者間の婚姻関係が完全に破綻したものと認定しています。
さらに、以下のとおり述べ、暴力が不和の中で偶発的に生じたものでしかないとして、有責配偶者からの離婚請求に該当しないとしています。
「なお,被告が,答弁書において,原告から長年にわたり暴力を受けていた旨などを主張していることから,原告が有責配偶者に該当して,その離婚請求が信義則上許されないか否かも検討するが,被告はこの点に係る証拠を何ら提出しない。
そうすると,暴力に関しても,前記認定事実のとおり,原告の認める限度で認められるに過ぎず,その暴力も被告との不和の中で偶発的に発生したものといえるから,原告による離婚請求を否定しなければならないほど非難されるべきものとは認められない。その余の主張も同様である。」
不貞も同様ですが、程度によっては暴力があっても有責配偶者からの離婚請求とはされないということもあるということです。
ですから、暴力をした側が提訴した離婚訴訟においては、暴力の有無のみならず、その程度についてもきちんと争う必要があるということになります。
2 不貞・不倫とDVの加害者からの離婚請求を認めた事例
最高裁平成15年11月12日判決は、不貞配偶者からの離婚請求について、別居期間が2年4月、同居期間が6年7月、7歳の子ども、相手方配偶者は病気で就労困難という場合について、離婚は認められないとしました。参照:有責配偶者からの離婚請求を認めなかった判決
東京地裁平成16年3月1日判決は、以下のとおり述べ、離婚を請求する側に暴力があったと認めつつ、有責配偶者とはせず、離婚請求を認めました。
同判決の認定する暴力は以下のとおりです。
「原告は,平成11年7月13日朝,被告が原告の父に原告が会社経理上の不正行為をしていることを告げたことに立腹し,本件家屋において,被告と口論となり,興奮して被告の手や足を蹴り,被告に右示指,右足首打撲,右前腕及び右肩挫傷による全治10日間の怪我を負わせた。」
当該夫婦は平成11年6月に別居を開始しており、暴力は別居後ということになります。
また、同判決は、別居時ごろから原告が不貞をしていたことを認定しています。
このように一定の強度のある暴力や不貞がされたことが認定されています。
しかし、同判決は、以下のとおり判断し、有責配偶者からの離婚請求とはしませんでした。
「原告とAとの関係が,被告との間の婚姻関係の破綻を深める要因の一つになったことは否定できないものの,認定可能な二人の交際の時期は,前記のとおり,別居した後である平成11年以降であるから,上記関係が,原告と被告との間の夫婦関係を破綻させる大きな要因になったとは認められない。」
「また,原告が被告に対し平成11年7月13日に暴力を振るったことは前記認定のとおりであるが,その時期や状況などを考慮すると,この事実をもって直ちに原告を有責配偶者とみることは困難である。」
同判決が暴力や不貞の存在を認めつつ、有責配偶者とはしなかったのは、別居後に暴力や不貞があったということが一因と考えられます。
別居時点でただちに婚姻関係が破綻しているとはいえません。
それでも、別居したということは婚姻関係が破綻に向けて大きく動いたということを意味しますから、その後にあった暴力や不貞は婚姻関係が破綻するについて大きな影響力を発揮したとはいえないでしょう。
その他、一定の被害が生じた暴力であるものの1回であったことなどが考慮され、有責配偶者とはされなかったと考えられます。
有責配偶者からの離婚請求であるとの主張をする場合、一定程度悪質な事情があることが求められることに留意する必要があります。
3 別居8年で有責配偶者からの離婚請求を認めた事例
東京家裁は、以下のとおり述べ、有責配偶者からの離婚請求を認めました。
「原告の離婚請求の信義則上の評価を検討するに,夫婦に未成熟子はおらず,婚姻後の同居期間が4年余りであるのに対し別居期間は8年で,現在51歳という双方の年齢や同居期間との対比においても,別居は長期に及んでいる。」
「また,夫婦不仲の原因は原告の不貞であるものの,原告が不貞相手との交際を現在も継続しているなど,本件離婚請求が認められた場合に被告が精神的・社会的に極めて苛酷な状態に置かれるというべき事情は見当たらない。経済的に見ても,原告は,平成25年4月頃以降は調停で定まった月額13万円の婚姻費用を現在まで支払い続けており,被告も婚姻前の仕事に再び就いているから,被告が離婚後に経済的に苛酷な状況に陥るとはいえない。さらに,原告は離婚給付として450万円の金員の提供を申し出ており(弁論の全趣旨),この金額は後記の財産分与により原告が支払うべき金額を大きく上回っており,相応の慰謝料給付を申し出ているも
のと評価することができる。」
「以上の検討によれば,原告の離婚請求を認容することは,著しく社会正義に反するとまではいえず,原告が婚姻破綻に関する有責配偶者であってもこれを棄却することはできない。」
同家裁は、
・同居期間に比べ別居期間が長い
・未成熟子がいない
・不貞を現在まで継続してはいない
・高額な婚姻を払い続けている
・相手方配偶者が結婚前の職に戻っている
・離婚給付450万円の支払申し出がある
という要素を前提に、8年での離婚を認めています。
これらの事情は有責配偶者からの離婚請求が争われる多くの裁判例において考慮されている事情であり、有責配偶者からの離婚請求が問題となる際には適切に立証することが重要です。
4 ギャンブルをした側からの離婚請求が認められるか
婚姻関係を破綻させる主な責任を有する者からの離婚請求は、有責配偶者からの離婚請求として原則的に認められません。
それでは、ギャンブルをした者はここでいう有責配偶者に該当するでしょうか?
この点、東京地裁平成17年5月26日判決は、借金をし、生活が困窮するほどまでギャンブルをした側からの離婚請求について、以下のとおり述べ、離婚請求を認めませんでした。
「原告と被告の婚姻関係が破綻にまで至った原因に関しては、原告が、被告との関係を修復するための努力を全うせず、パチンコや競輪でその憂さを晴らすばかりであり、さらに、パチンコ等のために生活費を費消し、貯蓄を取り崩したばかりか、サラ金から借財までし、月々被告に渡す生活費を減額する等により、経済的に被告を追い詰めたことが指摘されなければならない。また、このように経済的に被告を追い詰めたことが、次兄の疾病と相まって、被告がうつ状態となり、2か月もの間入院するにまで至らせる原因となっていることも明らかである。そして、その後も、原告は、被告に十分な生活費を渡さず、その結果、被告は、破産するまでに至っている。このように考えると、原告と被告の婚姻関係が破綻したことについては、もっぱら原告に責任があるといわざるを得ない。」
よって、ギャンブルをしたことが生活に深刻な影響を与えるような場合については、ギャンブルをした側からの離婚請求が有責配偶者からの離婚請求として認められない可能性があります。
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