扶養的財産分与が認められるのはどのような場合か?(離婚)

離婚問題

執筆:新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 扶養的財産分与とは?

2 扶養的財産分与の例

3 扶養的財産分与としての使用借権の設定

4 事情変更があると扶養的財産分与はどうなるか?

5 新潟で財産分与、離婚のご相談は弁護士齋藤裕へ

1 扶養的財産分与とは?

多くの財産分与は、夫婦の共有財産を清算するという意味の清算的財産分与です。

ですから、例えば、夫が先祖伝来の財産をたくさんもっているものの、結婚後形成された夫婦共有財産がない場合、清算的財産分与がなされず、財産分与ゼロというのが原則です。

しかし、それでは妻が酷な立場に置かれる可能性があります。

そこで、離婚後の配偶者の生活を維持させるという趣旨の清算的財産分与が認められることがあります。

このような清算的財産分与は夫婦共有財産がなくても認められることになります。

民法第768条3項は、財産分与は、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮して額が決められるとしています。

清算的財産分与は、「その他一切の事情」に該当する事情があるとしてなされる財産分与です。

2 扶養的財産分与の例

1ケ月3万円・5年間の扶養的財産分与を認めた裁判例

東京地裁平成17年2月22日判決は、5年間について月3万円の扶養的財産分与を認めました。

夫は794万9682円の給与所得を得ている一方,妻は同年に給与所得76万2275円のほか月額2,3万円ないし7万円程度のアルバイト収入を得ているにすぎないという状況がありました。

また、妻は、小学生の子どもを養育しています。

それを前提に、裁判所は、

・妻が,現時点で子どもの監護養育を尽くしつつ十分な生活費を賄うに足りる収入を得ることには限界があり,前記のように収入は寡少であって,母親らの生活費援助に依存せざるを得ない状況にあること

・妻は,未だ32歳であり,健康状態にも格別支障はなく,今後,より高収入の昼間勤務に就く可能性もあながち否定し得ないこと

・他方で,夫には,同年の収入状況に鑑み,前記養育費を支払ってもなお一定程度の経済的余裕が存するものと認められること

を踏まえ、妻の就業条件等の向上が見込まれるに足りる期間と解される5年間,1か月3万円の割合による扶養的財産分与を支払うべきものとしました。

なお、同判決は、婚姻破綻の主要な原因が妻の行動に存したこととしつつ,この点は慰謝料額の算定に当たり考慮すれば足り,扶養的財産分与を消極に解すべき事由とみるのは相当ではないとしています。

しかし、婚姻費用についてさえ、有責性のある配偶者からの請求が認められないことと一貫性があるのが、疑問なしとしません。

一時金200万円の扶養的財産分与を認めた裁判例

東京地裁平成16年10月1日判決は、一時金200万円の扶養的財産分与を認めました。

判決は、

・夫は、離婚後も自営のクリーニング店から収入を得る方法があること,

・その経営も苦しいとはいえ,年間1200万円を超える売上げがあるとして確定申告をしていること,

・妻は,原告との婚姻から平成14年までの約28年間,夫及び夫の両親の家業であるクリーニング店を手伝いながら,家事,子育てに従事していたこと,

・妻は現在月10万円前後のパート収入しかなく,妻の娘2人もまだ若年であることからすると,妻には離婚から安定収入を得るまでの相当期間の扶養の趣旨として財産分与をする必要がある。

・しかし,夫も住宅ローン以外にも友人の保証債務等多額の借金を抱え,分割弁済をするなど、その経済的基盤が強固なものとは言い難いこと,

・原告は,住宅ローン,税金,娘の入学金及び授業料とは別に,平成5年ころから平成11年ころまで月45万円を,平成11年以降は,月29万円をそれぞれ支給するなど,婚姻費用としては十分な額を支給していたこと

等を踏まえ、200万円の扶養的財産分与を認めました。

扶養的財産分与を認めなかった裁判例

東京地裁平成16年1月19日判決は、扶養的財産分与を認めませんでした。

同判決は、

・妻は40歳前であり,年齢的に若いと言い難いとしても,年齢的に就労が通常およそ期待できないともいえないこと,

・網膜剥離の既往歴があるほかは健康で,自活のための能力及び意欲も高いこと,

・現在資格取得のための通学中であるが,実家で生活しており,その援助も受けられる状態であること,

・短期契約であるが別居後の就労の実績もあること,

・夫は相当額の収入があるが負債もあり,めぼしい蓄えも認めることができないこと,

・離婚後も子の養育費用を全額負担することになり,子の成長に伴い負担も増加することが予想されるが,収入については当然に増加が期待されるものではないこと

などを踏まえ、離婚後の生活費についての扶養的財産分与を別途認めるべき必要があるとまではいえないとしました。

以上から明らかなとおり、

ⅰ 清算的財産分与がなく、財産分与を請求する者について就労による収入が期待できず、請求される者についてそれなりの収入が認められる場合に扶養的財産分与が認められることがありうる。

ⅱ 一生分の扶養的財産分与を認めるということはあまりなく、数年間にわたる月々払い、あるいは一時金という形で支払いがなされる(裁判例の紹介はしませんでしたが、扶養的財産分与として住居への居住権を認めることもあります)

ということになります。

よく認められるものではありませんが、清算的財産分与がなく、一方当事者が離婚後困窮するような場合には是非とも扶養的財産分与については検討すべきということになるでしょう。

3 扶養的財産分与としての使用借権の設定

扶養的財産分与として、一方の所有不動産に他方を無償で住まわせる権利(使用借権)を設定することもあります。

例えば、名古屋高裁平成18年5月31日決定は、

・妻の家計収支が住居費の負担がないことによって保たれている状況にあること

・妻と子が居住できる住居(ある程度の広さが必要であり,そうとすれば賃料負担も少なくない。)を別途賃借するとすれば,たちまち収支の均衡が崩れて経済的に苦境に立たされるものと推認されること

・妻が夫からの離婚要求をやむなく受け入れたのは,その要求が極めて強く,また文書において一定の経済的給付を示されたからこそであると推認されること

・妻は,本件マンションの購入費用を含めて合計1000万円に近い持参金を婚姻費用として提供しており,これらは,夫婦共有財産としては残存しておらず,具体的な清算の対象とはならないものの,これを考慮するのが相当であること

を踏まえ、二女が高校を,長男が小学校を卒業する時期までマンションについて妻が無償で使用できる使用借権を設定すべきとしています。

4 事情変更があると扶養的財産分与はどうなるか?

扶養的財産分与は、養育費などと同様、ある程度の期間にわたり、定期的に支払われるものです。

そのため、期間経過とともに、義務者の収入が下がったり、権利者の収入があがったりして、扶養的財産分与を継続させることが妥当でなくなる可能性があります。

この点、東京高裁平成30年8月31日決定は、「扶養的財産分与が定期金として合意された場合は,民法880条を類推し事情変更による取消しや変更を認める余地もあるが,一時金や分割金として合意された場合は,履行後の事情変更による取消しや変更を認めることは著しく法的安定性を欠くと考えられ,許されないといわざるを得ない。」として、定期金として定められた扶養的財産分与について事情変更による変更等がありうるとしているところです。

5 新潟で財産分与、離婚のご相談は弁護士齋藤裕へ

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