執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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以下、医師の離婚についてご説明します。
1 医師の離婚、財産分与の特殊性
離婚の際には実質的夫婦共有財産を分与することになりますが(財産分与)、この大枠は職業には関わらないことです。
しかし、医師の離婚の場合、ⅰ 医療法人の出資分が財産分与の対象となるかどうか、ⅱ 財産分与割合が通常のとおり5:5となるかどうかについて、やや特殊な考慮が必要となります。
以下、この2点について解説します。
2 医療法人の出資分・MS法人の株式の財産分与
残余財産の分配が可能な医療法人の出資持分の財産分与
平成19年の医療法改正前には、持分の定めのある医療法人がありました。
この持分の定めのある医療法人については、出資額に応じた払い戻しが可能であり、そのため出資分について財産分与が可能でした。
大阪高裁平成26年3月13日判決は、以下のとおり、医療法人への出資がある場合、出資持分を財産分与の対象とするとしています。
「本件医療法人が所有する財産は,婚姻共同財産であった法人化前の本件診療所に係る財産に由来し,これを活用することによってその後増加したものと評価すべきである。そうすると,控訴人名義の出資持分2900口のほか,形式上控訴人の母が保有する出資持分50口及び被控訴人名義の出資持分50口の合計3000口が財産分与の対象財産になるものとしてその評価額を算定(する)」
同判決は、また、出資持分の評価については、「純資産価額を考慮して評価せざるを得ない」としています。
さらに、同判決は、医療法人が解散する、つまり出資持分が現金化することが当面想定できないことから、医療法人の純資産評価額の7割を基準に分与をすべきとしています。
このように、医療法人への出資がある場合、純資産評価額を基準に出資持分が財産分与の対象となることがありうるものの、近いうちの解散が見込まれない場合には純資産評価額の一定割合のみが分与の対象になるということです。
なお、最高裁平成22年4月8日判決も、医療法人の出資持分が財産分与の対象となることを認めています。参照:医療法人の出資持分の財産分与についての判例hanrei-pdf-80092.pdf
医療法人の持ち分を財産分与する場合の出資持分等の調査の仕方
医療法人の出資持分の評価は貸借対照表で確認可能です。
純資産の額は登記事項ですので、登記事項全部証明書や履歴事項全部証明書により確認することがありえます。
出資持分については、自治体が保有する医療法人設立認可申請書添付の出資申込書から確認できるので、同書類の入手をすることになります。
残余財産の分配が不可能な医療法人の出資持分の財産分与
平成19年医療法改正後に設立された医療法人については、残余財産の分配が不可能です。
そのため、持分の財産分与はありません(森公任「弁護士のための財産分与実務のポイント」162頁)。
MS法人の株式の財産分与
医療法人とは別にMS法人(メディカル・サービス法人)を設立した場合、その株式が財産分与の対象となることがありえます。
結婚後にMS法人を設立した場合、結婚前からの資産だけでMS法人を設立したことが明白な場合を除き、MS法人株式は財産分与の対象となります。
結婚後、MS法人が増資したような場合、増資部分について財産分与の対象となる可能性があります。
結婚前にMS法人を設立した場合、株式も財産分与の対象とならないのが原則です。
ただし、無報酬で経営に寄与していた場合、法人格が形骸化しているような場合には、財産分与の対象となることがありえます。
3 財産分与割合
通常、財産分与の割合は、5:5です。
しかし、医師の財産分与の場合、医師の稼働能力の分与割合が大きくなるケースが多くあります。
上記大阪高裁判決は、「控訴人が医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや,医師の資格を有し,婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して,控訴人の寄与割合を6割,被控訴人の寄与割合を4割とすることは合理性を有する」として、6対4での財産分与としています。
ただし、勤務医と会社役員との離婚について5:5とした裁判例(東京地裁平成17年1月12日判決)もあります。
この財産分与割合は、形成された財産が一般的な財産額よりかなり大きいかどうか、医師としての収入の多寡、他方配偶者の収入の多寡や財産形成への貢献度等によって違ってくるものであり、一概には言えません。
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