交通事故での後遺障害等級認定の手続きと逸失利益  初回相談料無料

交通事故

 

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 交通事故における後遺障害等級の重要性

2 交通事故における後遺障害認定の手続き

3 後遺障害等級認定・不認定についての異議申し立て

4     交通事故と後遺障害認定の基準

 5 交通事故による後遺障害が残った場合の逸失利益

6 逸失利益の計算における基礎収入

7 失業者と逸失利益

8 退職金と逸失利益

9 逸失利益が認められる場合、認められない場合

10 いつまでの収入について逸失利益が認められるか

11 逸失利益と定期金賠償

12 後遺障害が残った後に死亡した場合

1 交通事故における後遺障害等級の重要性

交通事故において後遺障害等級が認定されるか、されないとして何級に認定されるかは極めて重要な問題です。

一番軽い14級の後遺障害であっても、110万円の慰謝料、労働能力が5パーセント失われたことを前提とする逸失利益を請求できる可能性が出てきます。

これが1級となると、慰謝料2800万円、労働能力100パーセント喪失前提で逸失利益の請求ができる可能性が出てくることになります。

そこで、その後遺障害等級の認定手続きについて解説します。

2 交通事故における後遺障害認定手続き

被害者請求における後遺障害認定手続き

被害者請求(交通事故被害者が直接自賠責の請求を行う場合)の流れは以下のとおりです。

ⅰ 被害者が自賠責の保険会社から書式を取り寄せ、自賠責保険会社に被害者請求をします。

ⅱ 自賠責保険会社が損保料率機構に対して損害調査依頼をします。

ⅲ 損保料率機構による障害等級の認定がなされます。

ⅳ 自賠責保険会社から認定等級の通知と支払いがなされます。

一括請求の場合の後遺障害認定手続き

被害者がもっぱら加害者側の任意保険会社と交渉し、任意保険会社が自賠責の手続きを行う場合、つまり一括請求の場合の手続きは以下のとおりです。

ⅰ 任意保険会社から損保料率機構に対して事前認定申請をします(被害者に損害賠償金を支払った後で任意保険会社が自賠責保険からの回収ができるかどうか確認するため)。

ⅱ 後遺障害等級認定結果の回答が任意保険会社に来ます。

ⅲ ⅱの結果を踏まえ、任意保険会社は被害者と交渉をします。

結論が見えているようなケースでは一括請求で問題ないと思われますが、結論がどうなるか微妙なケースでは被害者請求の場合の方が任意保険会社を排除できるので望ましいです。

3 後遺障害等級認定・不認定についての異議申し立て

被害者請求の場合でも、一括払いの場合でも、後遺障害等級に納得のいかない被害者は、異議申し立てを行うことになります。

被害者請求の場合には自賠責保険会社に、一括払いの場合は任意保険会社に異議申立書、それを裏付ける資料を提出することになります。

異議申し立ての結果に不服がある場合、自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理手続きの申請をする(弁護士、医師などで構成される紛争処理委員会が検討をします。これは異議申し立て前にしてもよいものです)、損害賠償訴訟を起こしそこで後遺障害等級を主張していくなどの方法があります。

4 交通事故と後遺障害等級認定の基準

目次

第1 肩・腕の後遺障害等級認定(交通事故)

第2 手指の後遺障害等級(交通事故)

第3 足の後遺障害等級(交通事故)

第4 足指の後遺障害(交通事故)

第5 脊柱の後遺障害(交通事故)

第6 腹部臓器の後遺障害認定基準

第7 醜状障害の後遺障害認定基準

第8 神経系統の後遺障害認定基準

第1 肩・腕の後遺障害等級認定(交通事故)

目次

肩・腕の後遺障害等級認定の基準

肩・腕の後遺障害認定等級基準に使われる用語の意味

肩・腕の可動域制限についての測定方法

肩・腕の後遺障害等級認定の基準

肩・腕に障害が残った場合の後遺障害認定は以下のとおりとなります。

両上肢をひじ関節以上で失ったもの⇒1級

両上肢を手関節以上で失ったもの⇒2級

1上肢をひじ関節以上で失ったもの⇒4級

1上肢を手関節以上で失ったもの⇒5級

両上肢の用を全廃したもの⇒1級

1上肢の用を全廃したもの⇒5級

1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの⇒6級

1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの⇒8級

1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの⇒10級

1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの⇒12級

1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの⇒7級

1上肢に偽関節を残すもの⇒8級

長管骨に変形を残すもの⇒12級

肩・腕の後遺障害認定等級基準に使われる用語の意味

上肢の用を廃したとは、肩・ひじ・手の3大関節のすべてが強直し、かつ、手指全部の用を廃したことです。

関節の用を廃したとは、関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺あるいはそれに近いもの、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が健側の2分の1以下に制限されるもののいずれかに該当するものです。

関節の機能に著しい障害を残すものとは、関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されるか、人工関節・人工骨頭を挿入したものです。

関節の機能に障害を残すものとは、関節の可動域が健側の3/4以下に制限されるものです。

偽関節を残し、著しい運動障害を残すものとは、骨幹部等の一定部位に癒合不全を残し、かつ、常に硬性補装具を必要とするものです。

偽関節を残すとは、一定部位に癒合不全を残すものです。

長管骨に変形を残すとは、上腕骨あるいはとう骨・尺骨に変形を残し外部から見える程度のもの(15度以上屈曲して不正癒合したもの)、上腕骨、とう骨・尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの、とう骨又は尺骨の骨幹部などに癒合不全を残すもので硬性補装具を必要としないもの、上腕骨・とう骨・尺骨の骨端部のほどんとを欠損したもの、上腕骨の直径が3分の2以下に減少したもの、とう骨もしくは尺骨の直径が2分の1以下に減少したもの、上腕骨が50度以上外旋又は内旋癒合しているものです。

このように、後遺障害に該当するかどうかについてはきちんと要件が定められています。後遺障害の等級に納得がいかない場合には、自賠責に対する異議申立てや訴訟の中で争うこともできます。

肩・腕の可動域制限についての測定方法

可動域は健側(後遺障害がない側)と患側(後遺障害がある側)を比較して測定します。

外的な力で動かせる他動運動について測定をします。

原則として参考運動ではなく、主要運動について可動域制限を測定します。

主要運動は、

肩関節は、屈曲、外転・内転

ひじ関節は、屈曲・伸展

手関節は、屈曲・伸展

前腕は、回内・回外

です。

可動域制限は、原則として器質的なものである必要があります。

第2 手指の後遺障害等級(交通事故)

目次

手指の後遺障害等級の基準

手指の後遺障害等級に使われる言葉の意味

手指の可動域制限の測定方法

示指を失ったものと扱われる場合

手話がしにくくなった場合と後遺障害

手指の後遺障害等級の基準

手指に障害が残った場合、以下のとおり後遺障害等級が認定されることになります。

両手の手指を全部失ったもの                             3級

両手の手指の全部の用を廃したもの                          4級

1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの                 6級

1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの     7級

1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの               7級

1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの     8級

1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの 8級

1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの                  9級

1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの 9級

1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの                10級

1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの                  11級

1手のこ指を失ったもの                               12級

1手のこ指の用を廃したもの                             13級

1手のおや指の指骨の一部を失ったもの                        13級

1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの                   14級

1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの      14級

手指の後遺障害等級の基準に使われる言葉の意味

以上の基準の用語の意味は以下のとおりです。

手指を失ったもの

-母指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節異常を失ったもの

指骨の一部を失ったもの

-1指骨の一部を失っている(遊離骨片の状態を含む)ことがエックス線写真等により確認できるもの

手指の用を廃したもの

-手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(母指におっては指節関節)に著しい運動障害を残すもの

遠位指節間関節を屈伸することができないもの

-遠位指節間関節が硬直するか、屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって自動で屈伸ができないか、それに近い状態にあるもの

手指の可動域制限の測定方法

手指の可動域制限は、健側(後遺障害がない側)と患側(後遺障害がある側)を比較して行います。

可動域制限は器質的なものである必要があります。

示指を失ったものとして扱われる場合

右示指の中手骨と基節骨の一部を欠損したため、残った中手骨と基節骨を接合した結果、約5cmの短縮を生じ、中手指節関節は存在しない、近位指節間関節・遠指節間関節は完全硬直している、右示指は完全に知覚鈍麻しているという場合には、示指を失ったものとして扱うとされています(参考通達・昭和51年9月10日 基収第1297号の2 労働省労働基準局長より都道府県労働基準局長あて)。これに類した状態にある場合も指を失ったものとされる可能性はあります。

実際にはどの基準に該当するのか微妙なケースもありうるでしょうし、等級に応じた逸失利益の賠償が必ず得られるとも限りません。

手話がしにくくなった場合と後遺障害

手話は指を使って行いますので、指等の後遺障害のために手話がしにくくなった場合、後遺障害が認められることがあります。

名古屋地裁平成21年11月25日判決は、手指や腕の後遺障害のために手話が通じにくくなったという事例で、12級相当の後遺障害が残ったと認定しています。参照:手話が困難になったことについて後遺障害を認めた裁判例

TFCC損傷と後遺障害

TFCC(三角線維軟骨複合体)とは、軟骨と靭帯が一緒になった組織であり、手首の安定性と可動性に寄与しています。

このTFCC損傷によって後遺障害が認められることがあります。

TFCC損傷について可動域制限の後遺障害を認めた裁判例

東京地裁令和6年6月24日判決は、TFCC損傷の後遺障害について、「概ね掌屈は50度前後、背屈は40度から50度程度であり、令和元年5月22日には、他動運動で掌屈56度、背屈42度(合計98度)であったのであるから、原告の右手関節の可動域は一貫して制限されている」等として、可動域制限があるとし、12級の後遺障害を認めました。

TFCC損傷について、痛みのために12級の後遺障害を認めた裁判例

また、福岡地裁令和4年12月26日判決は、「右手でドアノブを回す動作や手をつく動作等をすると痛みが生じていたこと、原告X1は、令和2年3月頃まで治療により右手の痛みは軽減する傾向にあったが、それ以降、大きな変化はなく、現在まで、右手関節を内側に回す動きや右手を甲側に曲げる動き等をすると痛みが残り、市販の湿布薬を貼る等しているものの、日常生活や勤務先での納品・搬出・導入作業等に支障が生じる状態が続いていること」から、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級の後遺障害を認定しています。

TFCC損傷について、痛みのために14級の後遺障害を認めた裁判例

ただし、TFCC損傷後の痛みについては、他覚所見がないとして、14級の認定しかされないこともあります。

名古屋地裁令和4年9月14日判決は、以下のとおり述べ、後遺障害等級を14級にとどめました。

「TFCC損傷については尺骨短縮術、抜釘術を終えており、TFCC損傷と症状固定後に残存した神経症状の関係は明らかでないこと、神経症状を裏付ける画像所見等の他覚的所見は認められないことに照らすと、原告の後遺障害が医学的に証明されているものとは認められない。
 そうすると、本件事故後原告の右手関節に残存した神経症状は、局部に神経症状を残すものとして、第14級9号に留まるものと解される。」

第3 足の後遺障害等級(交通事故)

1 足の後遺障害等級(交通事故)

目次

足の後遺障害等級の基準

足の後遺障害等級の基準に使われる言葉の意味

可動域の測定方法

下肢の可動域制限が生じた理由

足の後遺障害等級の基準

足(下肢)に後遺障害が残った場合、以下のとおり後遺障害認定されます。

その等級に応じて慰謝料や逸失利益の賠償がなされうることになります。

1級 両下肢を膝関節以上で失ったもの

1級 両下肢の用を全廃したもの

2級 両下肢を足関節異常で失ったもの

4級 1下肢を膝関節以上で失ったもの

4級 両足をリスフラン関節以上で失ったもの

5級 1下肢を足関節以上で失ったもの

5級 1下肢の用を全廃したもの

6級 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの

7級 1足をリスフラン関節以上で失ったもの

7級 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

8級 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの、偽関節を残すもの、5メートル以上短縮したもの

10級 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

10級 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

12級 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

12級 長管骨に変形を残すもの

13級 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの

足の後遺障害等級の基準に使われる言葉の意味

上記の基準における用語の意味は以下のとおりです。

○下肢の用を全廃したもの

=3大関節(股関節、ひざ関節及び足関節)のすべてが強直したもの

○関節の用を廃したもの

=ⅰ、ⅱ、ⅲのいずれか

ⅰ 関節が強直したもの、

ⅱ 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの、

ⅲ 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域確度の2分の1以下に制限されているもの

○関節の機能に著しい障害を残すもの

=ⅰ、ⅱのいずれか

ⅰ 関節の可動域が健側の可動域確度の2分の1以下に制限されているもの

ⅱ 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節

○関節の機能に障害を残すもの

=関節の可動域が健側の可動域確度の4分の3以下に制限されているもの

○偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの

=ⅰからⅲのいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするもの

ⅰ 大腿骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの

ⅱ 脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの

ⅲ 脛骨の骨幹部等にゆごう不全を残すもの

○偽関節を残すもの

=ⅰからⅲのいずれか

ⅰ 大腿骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの

ⅱ 脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの

ⅲ 脛骨の骨幹部等にゆごう不全を残すもの

これらのうちどの等級に認定されるかは損害額に大きく関わってきます。

可動域の測定方法

下肢の後遺障害について、可動域の測定は主要運動で行うのが原則

関節の可動域の測定については、障害のない側(健側)の可動域角度とある側の可動域角度を比較するのが原則です。

測定は、原則として、日常の動作にとって最も重要なものである主要運動についてなされます。

参考運動で制限があっても、原則として可動域制限とはされません。

東京地裁平成17年6月30日判決は、「同号(腕関節の機能に著しい障害を残すもの)に該当するというためには,患側の可動域制限が,主要運動である屈曲(掌屈)・伸展(背屈)運動について健側の2分の1以下に制限されている必要があるところ,原告主張の可動域制限は,参考運動の制限にすぎない。そうすると,腕関節の機能に著しい障害が残存したとまではいうことはできない。」として、下肢の可動域制限について、参考運動の制限では足りないとしているところです。

ただし、健側の関節にも障害がある場合には、参考可動域角度との比較により評価を行います。

下肢の後遺障害における主要運動とは何か?

主要運動は、股関節の場合、屈曲・伸展、外転・内転です。

ひざ関節の場合、屈曲・伸展です。

足関節の場合、屈曲・伸展です。

股関節の可動域制限の測定方法

他方、

股関節の場合、外旋・内旋は参考運動とされ、それ自体の可動域制限では後遺障害の認定はされないのが原則です。

しかし、原則として主要運動が5度だけ基準を満たさない場合(股関節の場合は10度)には、参考運動を基準に可動域制限が認定されます。

屈曲と伸展における可動域の測定方法

なお、屈曲と伸展のような同一面にある運動については、双方の可動域の数値を足して、制限の程度を測定します。

下肢の可動域制限が生じた理由

可動域制限が認められるためには、下肢の可動域制限が器質的損傷により生じた必要があります。

組織が損傷したことが原因であることが必要ということです。

痛みがあるから可動域制限があるという理由では、通常は可動域制限としての下肢の後遺障害は認定されません。

東京地裁平成16年2月27日判決は、「原告の両膝関節には,自賠責保険の後遺障害認定実務による「器質的損傷」が認められない以上,両膝関節の機能障害は認め難いというべきである。」として、後遺障害としての下肢の可動域制限があるとの認定はできないとしています。

第4 足指の後遺障害(交通事故)

交通事故で足指に後遺障害が残った場合、以下の基準で後遺障害等級が認定されます。

両足指全部欠損                 5級

両足指全部用を廃した              7級

1足の第一の足指を含む2以上の足指を失う    9級

1足の足指の全部の用を廃した          9級

1足の第一の足指又は他の4の足指を失う     10級

1足の第一の足指を含む2以上の足指の用を廃した 11級

1足の第2の足指を失う             12級

1足の第2の足指を含む2の足指を失ったもの   12級

1足の第3の足指以下の3の足指を失ったもの   12級

1足の第1の足指の用を廃したもの        12級

1足の第2~第5の足指の用を廃したもの     12級

1足の第3の脚以下の1又は2の足指を失ったもの 13級

1足の第2の足指の用を廃したもの        13級

1足の第2の足指を含む2の足指の用を廃したもの 13級

1足の第3~第5の足指の用を廃したもの     13級

1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃した 14級

第5 脊柱の後遺障害(交通事故)

脊柱の後遺障害の基準

脊柱に著しい変形を残すものとは?

脊柱に変形を残すものとは?

脊柱に著しい運動障害を残すとは?

脊柱に運動障害を残すとは?

脊柱の後遺障害の逸失利益について

脊柱の後遺障害の基準

交通事故で脊柱に障害が残った場合、以下の基準で後遺障害等級が認定されます。

前提として、頚椎と胸腰椎は異なる機能を担っているため、異なる部位としてそれぞれ等級が認定されます。

脊柱に著しい変形を残すもの   6級   (労働能力喪失率67%・慰謝料1180万円が一応の目安)

脊柱に著しい運動障害を残すもの 6級   (労働能力喪失率67%・慰謝料1180万円が一応の目安)

脊柱に運動障害を残すもの    8級   (労働能力喪失率45%・慰謝料830万円が一応の目安)

脊柱に変形を残すもの      11級  (労働能力喪失率20%・慰謝料420万円が一応の目安)

脊柱に著しい変形を残すものとは?

脊柱に著しい変形を残すものとは、

ⅰ 脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているもの

(前方椎体高が著しく減少とは、減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計の紗が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ以上であるものをいいます)

ⅱ 脊椎圧迫骨折等により一個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生ずると共に、コブ法による側彎度が50度以上となっているもの

(前方椎体高が減少したとは、減少したすべての椎体の後方椎体の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50パーセント以上であるものをいいます)

のいずれかに該当するものを言います。

なお、コブ法とは、エックス線写真により、脊柱のカーブの頭側及び尾側においてそれぞれ水平面からもっとも傾いている脊椎を求め、頭側でもっとも傾いている脊椎の椎体上縁の延長戦と尾側でもっとも傾いているせき椎の椎体の下縁の延長戦が交わる角度である側彎度を測定する方法です(一般財団法人労災サポートセンター「労災補償障害認定必携」236ページ)。

3 脊柱に変形を残すものとは?

脊柱に変形を残すものとは、

ⅰ せき椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの、

ⅱ せき椎固定術が行われたもの、

ⅲ 3個以上のせき椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの、

のいずれかに該当するものです。

4 脊柱に著しい運動障害を残すとは?

脊柱に著しい運動障害を残すとは、

ⅰ 頚椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎圧迫骨折等が存在しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの、

ⅱ 頚椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎固定術が行われたもの、

ⅲ 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの、

のいずれかに該当し、かつ、頸部及び胸腰部が強直したものです。

強直とは、関節が完全に強直し、あるいは主要運動のすべての可動域が10%程度以下に制限されたものです。

5 脊柱に運動障害を残すとは?

脊柱に運動障害がある場合の後遺障害認定基準

脊柱に運動障害を残すものとは、

①ⅰ 頚椎又は胸腰椎のそれぞれにせき椎圧迫骨折等が存在しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの、

ⅱ 頚椎又は胸腰椎のそれぞれにせき椎固定術が行われたもの、

ⅲ 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの、

のいずれかの要件を満たし、かつ、 頚部又は胸腰部の可動域が参考可動域角の2分の1以下に制限されたもの、

又は、②頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたもの

のいずれかに該当するものです。

脊柱の運動障害の測定方法

脊柱の運動制限については、頸部と胸腰部の2つに区分して測定します。

原則として自動運動による可動域を測定します。

脊柱の運動制限については健側というものがないので、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション学会の「関節可動域の測定要領」が定める参考可動域角度と比較して測定することになります。

頸の場合は屈曲・伸展、回旋という主要運動、胸腰部については屈曲・伸展という主要運動について可動域制限を測定します。

ただし、主要運動の可動行制限が基準をわずかに満たさない場合に(頸部は10度、胸腰部は5度)、参考運動が2分の1以下に制限されているのであれば、8級の後遺障害認定がされることになります。

屈曲と伸展、回旋の左右については、それらの数値を合計し、可動域制限を測定することになります。

6 脊柱の後遺障害の逸失利益について

民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準下巻2021所収の「脊柱変形の障害による労働能力の喪失について」(小沼日加利裁判官)は、脊柱変形による逸失利益(労働能力喪失率)に関する裁判例を分析し、

・6級の場合、具体的症状等を踏まえ労働能力喪失率を修正(50~67%)

・8級の場合、多くは20%台から45%の労働能力喪失率であり、喪失率は脊柱の機能がどの程度維持されているかによる

・11級の場合、41件の裁判例中16件で20%、23件でそれより低い喪失率ないし逓減、ごく少数は労働能力喪失を否定

としています。

他の後遺障害の場合もそうですが、後遺障害の等級に従った労働能力喪失率・逸失利益が常に認められるわけではありません。

症状や支障も含めて検討することが重要です。

第6 腹部臓器の後遺障害認定基準

腹部臓器の障害の後遺障害認定基準は以下のとおりです。

胸腹部臓器の機能の著しい障害を残し、常に介護を要するもの   1級

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの   2級

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 3級

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 5級

両側の睾丸を失ったもの                    7級

胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 9級

生殖器に著しい障害を残すもの                 9級

胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの 11級

胸腹部臓器の機能に障害を残すもの               13級 

第7 醜状障害の後遺障害認定基準 

醜状障害の後遺障害認定基準の記事をご参照ください。

第8 神経系統の後遺障害認定基準

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの   1級

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの   2級

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 3級

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 5級

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労苦以外の労務に服することができないもの 7級

神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 9級

局部に頑固な神経症状を残すもの  12級

局部に神経症状を残すもの     14級

 

高次脳機能障害の記事

交通事故と適応障害の記事

交通事故とCPPSの記事

交通事故と遷延性意識障害の記事

交通事故と脳挫傷の記事

もご参照ください。

 

5 交通事故による後遺障害が残った場合の逸失利益

交通事故により後遺障害が残った場合、その等級に応じて、労働能力が失われたことによる損害(逸失利益)の賠償請求をすることができる場合があります。

各等級に応じた労働能力喪失率

各等級に対応する労働能力喪失率は以下のとおりです。

1級   100パーセント

2級   100パーセント

3級   100パーセント

4級   92パーセント

5級   79パーセント

6級   67パーセント

7級   56パーセント

8級   45パーセント

9級   35パーセント

10級  27パーセント

11級  20パーセント

12級  14パーセント

13級  9パーセント

14級  5パーセント

逸失利益計算における中間利息控除(ライプニッツ係数)

逸失利益の計算は、基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数という算式でなされます。

このライプニッツ係数について、2020年4月1日より前の事故は年5パーセント、4月1日以降の事故は債権法改正に伴い3パーセントとなります。

これは将来受け取るべきお金を賠償時点で受け取るために、利息分を引く計算をするものです。

労働能力喪失率は以上の目安を前後することもありますし、後遺障害が認められると必ず逸失利益が認められるというものでもありません。

6 逸失利益の計算における基礎収入

実収入を基準とした逸失利益算定

基礎収入は事故前の収入が基本となります。

労働者であれば給料が基準となります。

自営業者であれば所得が基準となります。

家族で個人事業をしている場合には、所得を寄与部分により按分することになります。

会社役員については報酬中、労務対価部分が基礎とされます(会社役員の逸失利益をご参照ください)。

定年後は収入が減るはずとの主張

基礎収入については、実収入により計算される場合でも、定年年齢後については同じ実収入を得られる可能性はなく、基礎収入を減額すべきという主張が出る場合があります。

定年で減収をすることを前提に逸失利益を算定した裁判例

大阪地裁令和7年3月26日判決は、65歳が定年である会社で勤務する64歳の被害者について、現状の収入から減額した額を基準に逸失利益を算定しています。

すなわち、判決は、

ⅰ 被害者の基礎収入は事故当時(61歳)年額約358万円

ⅱ 事故時の賃金センサス産業計・企業規模計・男性・学歴計・60歳~64歳の平均賃金が約442万円であり、前者が後者の約80%であること、

ⅲ 症状固定日当時(64歳)の賃金センサス産業計・企業規模計・男性・学歴計・65~69歳の平均賃金が約384万円、同70歳以上の平均賃金が約349万円であること

を踏まえ、後遺障害逸失利益の算定における基礎収入を年額300万円と認めました。

定年が間近であるため、現時点の収入を基準となしえなかったということでしょう。

そして、基準としては、事故時において賃金センサスより低めの年収であったことから、定年後の年齢にあわせた賃金センサス上の数値より低めの金額をもとに逸失利益を算定しています。

定年後に減収しないことを前提に逸失利益を算定した裁判例

他方、新潟地裁令和4年11月24日判決は、「Dが定年まで水道局に勤務していたとすれば、60歳以降に給与が減額される可能性は高かったと考えられるが、一方で、定年までの間にDの給与額が更に上昇していた可能性もある」として、事故前の年収を前提に逸失利益の算定をしています。参照:定年後に収入が減少するとしつつ、事故時年収での逸失利益計算をした裁判例

定年で収入減があるはずとの主張が出てきた場合には、定年までの収入増の可能性を主張することが有効な方法となります。

賃金センサスによる逸失利益算定

30歳未満の人と賃金センサスによる逸失利益算定

30歳未満の人については全年齢平均の賃金センサス(統計)の数値を基礎とするのが原則です。

大阪地裁平成22年4月19日判決は、29歳の被害者の年収が360万円であるのに、賃金センサスをもとに490万円を基礎収入としました。参照:29歳の被害者について賃金センサスで逸失利益を計算した判決

ただし、実収入と賃金センサスとの乖離が大きいなどの場合には賃金センサスでの計算がされないこともあります。

具体的には、被害者の実収入が賃金センサスより低い場合、「被害者の職種、就労形態、専門技術や資格の有無、稼働先の規模や安定性、就労態度、転職の可能性等を考慮して、被害者が将来、収入を大きく増加させることを期待できるかどうか」、「(低収入となっていた原因である)健康状態、家庭の状況、趣味やボランティア活動等の優先、就労意欲の不足」等が将来的に継続するかどうかにより、賃金センサスで計算がなされるか否かが決定されるとされています(松本美緒裁判官「若年労働者の逸失利益算定における基礎収入」)。

20歳前半より後半の方が賃金センサスでの計算が認められにくいともされます(松本美緒裁判官「若年労働者の逸失利益算定における基礎収入」)。

被害者の実収入が賃金センサスより高い場合でも、医師のように資格を持っている場合、公務員や大企業の従業員のように昇給制度が明確にされているような場合を除き、通常は賃金センサスが基準となるとされます(松本美緒裁判官「若年労働者の逸失利益算定における基礎収入」)。

30歳以上の人と賃金センサスによる逸失利益算定

30歳以上の人でも、実収入と賃金センサスとに乖離がない場合、賃金センサスにより計算されることがあります。乖離があっても、賃金センサスの一定割合に相当する金額で計算することもあります(賃金センサスの80パーセントなど)。

家事従事者(主婦、主夫)の逸失利益

家事従事者(主婦、主夫)の逸失利計算にあたっての基礎収入については、以下の記事をご参照ください。参照:家事従事者(主婦、主夫)の逸失利益はどのように計算するのか? – さいとうゆたか法律事務所

収入を裏付ける資料がない場合の逸失利益算定にあたっての賃金センサス利用

収入を証する客観的な資料がない場合に賃金センサスにより計算されることもあります。このような計算がなされる前提としては、相当程度の収入を得ていたことが前提とされます。

逸失利益算定にあたりどの賃金センサスを使うか?

賃金センサスの利用にあたっては、男女別、学歴別の賃金センサスを用いるのが原則です。高校生は高卒、大学生は大卒で計算するのが原則です。

高校生でも、進学意欲や成績などから大卒で計算すべき場合があります。

年少女子については、男女計の賃金センサス(統計)の数値を基礎とする傾向があります。年少女子の逸失利益の記事をご参照ください。

なお、男児については、男性の賃金センサスが使用されます。

死亡の逸失利益の場合、男女別の賃金センサスで計算をしても、生活費控除率で調整がされるので、結果としてあまり男女で差は出ません。

しかし、後遺障害の逸失利益の場合、生活費控除率での調整がされないので、賃金センサスの男女差がそのまま損害額の格差につながります。

ですから、後遺障害の逸失利益については、特に女性の賃金センサスを使うことに慎重であるべきでしょう。

通常より高い収入を得られる職業の人の逸失利益算定に使われる賃金センサス

医師、医学生等、一般の人より高収入となることが想定される場合、賃金センサスの中でも職業別平均賃金をもとに算定されることがあります。

ただし、たとえば、金融業勤務であっても、学歴や実際の年収を踏まえ、金融業の平均賃金では計算されないことがあるなど、常に職種別平均賃金で計算されるわけではありません。

居住地域と賃金センサスの逸失利益算定での利用

特定の都道府県に永住することが明確な場合などには都道府県別平均賃金で計算する場合もありえます。

事業者所得者の逸失利益

事業所得者の逸失利益計算は、所得を基礎収入として算定することになります。

休業損害については、固定経費も基礎収入にカウントすることがありますが、逸失利益についてはカウントしない例が多いとされます。

それは、休業損害は症状固定までの比較的短期間にかかるものですが、逸失利益は5年以上の期間にわたり発生するものであり、そうであれば被害者において固定経費を発生させない措置をとるべきだという理由によるものと考えられます。

例えば、神戸地裁令和5年3月9日判決は、「逸失利益を算定するに当たっては、休業中にもかかわらず経費として支払わなければならない固定経費についても損害として計上する必要がある休業損害の場合と異なり、固定経費を所得に加算して算出した金額を基礎収入として見ることは相当でない。」として、逸失利益の基礎収入算定にあたり、固定経費を考慮すべきではないとしています。

しかし、固定経費の縮減に一定の時間がかかり、それが症状固定後になってしまうということも考えられます。

具体的ケースによっては、部分的であれ、逸失利益の基礎収入算定にあたっても、固定経費を考慮すべきと考えます。

逸失利益の基礎収入算定にあたって固定経費を考慮すべきとした裁判例としては、名古屋地裁令和5年7月19日判決などがあります。

7   失業者と逸失利益

失業をしている被害者については、事故時において労働能力と労働意欲があった場合、失業以前の収入か、賃金センサス登載の平均賃金を基準とした逸失利益が認められることになります。

失業者について賃金センサスによる平均賃金の7割を基準とした逸失利益を認めた裁判例

京都地裁平成29年10月24日判決は、以下のとおり述べて、永続的に就労の蓋然性がないと言えない以上逸失利益は認められるとして、失業中の被害者について、賃金センサスによる平均賃金の7割を基準とする逸失利益を認めました。

「後遺障害による逸失利益は,長期の将来にわたる収入の減少に対するてん補であるから,本件事故当時無職であることなどの事情があっても,永続的に就労の蓋然性がないといえない以上は,逸失利益は肯定しうるものと解される。そこで,の本件事故以前の職歴・稼働実績に照らし,男子・高卒・全年齢平均賃金458万8900円(平成23年の賃金センサス)の7割に相当する収入が得られる蓋然性があるものと認めるとともに,本件事故による後遺障害の内容・程度(級)を勘案すれば,本件事故と相当因果関係のある逸失利益は,労働能力喪失率45%(併合8級),喪失期間を32年(症状固定時35歳)として算定するのが相当である。」

失業者について、休職前の収入を前提とした逸失利益を認定した裁判例

また、札幌地裁平成29年3月10日判決は、原告が事故前においてうつ病に罹患し、休職していたものの、事故時には安定しつつあり、事故後には障害者枠で雇用されていたという事案について、「原告が賃金センサスの平均賃金程度の収入を得られた蓋然性が高いとは認められないことから,原告の休職前の収入額308万7000円を基礎収入とすべきである。」として、休職前の収入を基礎とした逸失利益を認めました。

賃金センサスの平均賃金をもとに逸失利益を認定した裁判例

福岡地裁平成18年9月28日判決は、介護士になるための専門学校への進学が決まっていた被害者について、賃金センサス男性学歴計全年齢平均555万4600円を基礎とした逸失利益を認めました。

失業者の逸失利益の計算方法についてのまとめ

このように、就労の蓋然性がないと言えない程度であっても逸失利益が認められる余地はありますが、事故前後の状況から就労意欲等が高く、就労の蓋然性が高い方が、失職前収入あるいは平均収入の100%を前提とした逸失利益が認められやすいと言えるでしょう。

ですから、失業していた被害者の逸失利益を請求するについては、就労能力や意欲の立証が肝要です。

8 退職金と逸失利益

交通事故により早期退職を余儀なくされ、その結果定年で退職した場合より退職金が減った場合には、退職金について逸失利益の請求をなしうる可能性があります。

退職金について逸失利益の損害賠償を認めた裁判例

松山地裁令和3年6月4日判決は、20歳の警察官が交通事故で死亡したという事案で、定年時まで勤務した蓋然性が高いとし、定年時における平均収入をもとに、中間利息控除をした上で、退職金についての逸失利益の賠償を認めました。

退職金について逸失利益の損害賠償を認めなかった裁判例

ただし、高知地裁令和2年2月4日判決は、25歳の警察官が交通事故で死亡したという事案で、被害者が若年で、定年時まで長期間があることを理由に、退職金についての逸失利益の賠償を否定しました。

松山地裁判決では、当該職場での就労継続割合等のデータを踏まえ、定年時まで勤務した蓋然性が高いとしています。

よって、若年の被害者が退職金の逸失利益の賠償請求をする場合には、定年時まで勤務した蓋然性について丁寧に立証する必要がありそうです。

9 逸失利益が認められる場合、認められない場合

後遺障害が認定されれば自動的に逸失利益が認められるわけではありません。

後遺障害が認定され、かつ、減収があれば逸失利益が認められやすいです。

減収がなくとも逸失利益の賠償が認められる場合

減収がなくとも、被害者がかなり努力をして収入を維持しているような場合にも逸失利益が認められる余地があります。

減収がなくとも逸失利益の賠償が認められる基準についての判例

最高裁昭和56年12月22日判決は、「後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。」として、減収がない場合には逸失利益の損害賠償が認められないのが原則だとしました。

その上で、

ⅰ 事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減
少を来たしているものと認められる場合

ⅱ 労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合

などについては、減収がなくとも逸失利益の損害賠償は認められうるとしています。参照:減収がない場合の逸失利益について判断した判例

減収がない場合でも逸失利益が認められるとした裁判例

減収がなくとも、被害者の努力があったとして逸失利益をみとめた裁判例として、大阪地裁令和7年3月24日判決があります。参照:減収がないのに逸失利益を認めた裁判例

同判決は、

ⅰ 復職後、原告は、パソコンでの入力作業、伝票や入荷状況のチェック作業、メールでの交渉や手配などの業務に従事しており、最初は遂行が遅かった作業も徐々に効率等が上が
っていったこと、

ⅱ 他方で、後遺障害によって、元々の利き手だった右手や利き足であった右足を動かすことができなくなり、上記各作業ですら負担があったり、片手しか動かずメモなどがとれないため電話対応が困難になるなどの制限があること

ⅲ 業務を遂行するに当たり、周囲のサポートや配慮を受けていること、

ⅳ 棚卸しなど従前行っていた作業ができないなどの制限があること

を踏まえ、「被告における原告の業務には大きな制約が生じており、原告が特別の努力をしていることに加えて、周囲の配慮があるからこそ、3級に相当する右半身の麻痺という重度の後遺障害が存在す
るにもかかわらず収入の減少を免れることができているのであって、本人の特別の努力や周囲の配慮なく就労や収入を維持することは困難であると考えられるから、復職後に給与が支払われていることをもって、後遺障害逸失利益が発生していないということはでき」ないとしました。

後遺障害等級より低い労働能力喪失率しか認めない裁判例

逸失利益が認められるとしても、収入減少の程度などによっては等級に比較して少額の逸失利益しか認められないこともあります。

併合により高い等級となった場合には、その等級通りの逸失利益とはならないこともあります。参照:併合等級通りの逸失利益を認めなかった判決

後遺障害等級より高い労働能力喪失率が認められる場合

他方、収入減少の程度や職業などによっては、等級に比較して高額の逸失利益が認められることもあります。

10 いつまでの収入について逸失利益が認められるか

労働能力喪失期間は通常は67歳までとなります。

高齢被害者の労働能力喪失期間

67歳を超える被害者については、67歳を超え、その被害者の平均余命の半分等の基準で労働能力喪失を認めるのが一般的です。

大津地裁令和7年1月17日判決は、「障害固定時78歳であることが認められ、その平均余命は約13年であるから、原告らが主張する労働能力喪失期間5年間」は相当だと判断をしています。参照:67歳を超える年齢までの後遺障害を認めた裁判例

高齢になっても継続することが多い業種については67歳以降まで労働能力喪失が認められることがあります。

頸椎捻挫、精神疾患の労働能力喪失期間

頸椎捻挫と労働能力喪失期間

なお、頚椎捻挫(むち打ち)については、12級で10年、14級で5年程度に労働能力喪失期間が限定される傾向があります。

頸椎捻挫以外の12級、14級ケース、精神疾患でも労働能力が同様に制限される場合があります。

この点、「近時の裁判例における、むち打ち症ではない局部の神経症状(14級、12級)に関する労働能力喪失期間の認定傾向」(東京弁護士会西部俊宏弁護士、交通事故相談ニュースNO46所収)は、むちうち以外の12級、14級事例について、

・症状固定後相当期間が経過しているのに症状が改善しない場合には労働能力喪失期間は制限されにくい

・脳・脊髄損傷ケースでは労働能力喪失期間は制限されにくい

・12級については、運動・機能障害がある場合について労働能力喪失期間は制限されにくい

・高齢者(50代、60代以上)は労働能力喪失期間は制限されにくい

としており、参考になります。

12級の場合の労働能力喪失期間

14級の場合の労働能力喪失期間

精神疾患と労働能力喪失期間

精神疾患の場合については、東京地裁令和4年2月22日判決が、遷延したうつ病について、

ⅰ 難治性鬱病相の持続期間につき、平均5年長期にわたるもので11年から13年という報告がされていること

ⅱ 原告は、現在、薬物療法による鬱病の治療のみを行っており、ほかの薬物の投与や、反復経頭蓋磁気刺激法及び電気けいれん療法といった薬物療法以外の治療法を行うことによって、今後鬱病を完治する可能性があること

から、「原告の労働能力喪失期間は10年とするのが相当」としています。参照:精神疾患について労働能力喪失期間を短く認定した裁判例

後遺障害のある被害者が死亡した場合の逸失利益

後遺障害のある被害者が死亡したときの逸失利益もご参照ください。

11  逸失利益と定期金賠償

後遺障害の逸失利益については、一括での支払いではなく、将来にわたり定期的に賠償金を払い続ける定期金賠償もありうるとされています(最高裁令和2年7月9日判決)。

参考:逸失利益の定期金賠償を認めた裁判例

12 後遺障害が残った後に死亡した場合

後遺障害が残り、後遺障害とは関係がない理由で被害者が死亡した場合、死亡しなかったのと同じように逸失利益が計算されます。

後遺障害認定後の死亡と逸失利益についての判例

最高裁平成8年4月25日判決は、以下のとおり述べ、このことを明らかにしています。参照:後遺障害が残った被害者が死亡した場合の逸失利益についての判例

「交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。」

症状固定前の死亡と逸失利益についての裁判例

症状固定に至る前に被害者が死亡した場合でも、将来後遺障害等級が認定されることが想定されるような場合には、その想定される後遺障害等級を前提として逸失利益が算定されます。

他方、後遺障害が残るかどうか等が不明な時点で死亡した場合、逸失利益の請求は困難です。

横浜地裁平成27年7月15日判決は、以下のとおり述べ、腰椎捻挫の傷害を負った被害者が医療過誤で死亡した場合について、どのような後遺障害が残るのか予想できないとして逸失利益を認めませんでした。

「被害者が症状固定前に後発の事故により死亡した場合,先行事故による後遺障害の症状固定を前提とする損害の発生を認めることができるかであるが,先行事故による傷害の治療中はそれによる後遺障害の有無,程度は不明であるし(殊に他覚的所見を伴わない「神経症状」については,死亡しなければ治療の継続により先行事故に基づく後遺障害が残存しなくなる可能性も否定できない。),死亡時を症状固定時期とみなすことも著しい擬制を前提とすることになり相当とはいえない。」
「そうすると,Aは,被告に対し,死亡時までの治療費,通院交通費,入通院慰謝料,休業損害等については請求できるが,本件事故による上記傷害の症状固定を前提とする逸失利益及び後遺障害慰謝料の請求はできないというほかない。」

13 新潟で交通事故は弁護士齋藤裕にご相談を

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