執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 離婚時年金分割について
2 離婚時年金分割の効果
1 離婚時年金分割について
離婚時には年金分割をすることができます。
この年金分割は、厚生年金や共済年金の報酬比例部分について、保険料納付を分けることができるものです
2 離婚時年金分割の効果
対象となるのは結婚から離婚までの期間のものです。
例えば、離婚時において、夫が3000万保険料納付をしてきて、妻が1000万保険料納付をしてきた場合、50パーセントの年金分割では、3000万+1000万=4000万円、4000万円×0・5=2000万円を妻が保険料納付をしてきたものと扱われます。
つまり、妻側の年金額は相応に増えることになりますし、夫側の年金は減ることになります。
3 離婚時年金分割の手続き
年金分割をしたい場合、まずは情報通知書という書類を受ける必要があります。
これは年金事務所や共済組合に請求して受け取ります。
その上で、協議などの手続を経て年金分割を行うことになります。
協議の上、合意ができれば、その合意に基づき年金事務所で手続を行うことになります。
合意ができない場合、家庭裁判所の調停や審判で定めることもできます。
4 年金分割の割合
現実には、裁判所はほぼ50パーセントの年金分割しか認めません。
ただし、例えば財産分与で妻側がかなり譲歩してもらうような場合、50パーセント以下の割合での年金分割の合意をすることもあります。
夫婦の別居期間についても50パーセントでの年金分割がされるのが通例です。
大阪高裁令和1年8月21日決定は、婚姻期間44年中同居が9年程度というケースでも、「夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条),このことは,夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく,老後のための所得保障についても,夫婦の一方又は双方の収入によって,同等に形成されるべきものである。この点に,一件記録によっても,抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて,抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことなどを併せ考慮すれば,別居期間が上記のとおり長期間に及んでいることをしん酌しても,上記特別の事情があるということはできない。」、「そうすると,対象期間中の保険料納付に対する抗告人と相手方の寄与の程度は,同等とみるべきであるから,本件按分割合を0.5と定めることとする。」としています。
また、千葉家裁令和4年4月22日決定は、一方当事者が、同居開始後、他方当事者の同意もなく、一方当事者の海外出張中に大量の荷物を自宅に持ち込む等しており、その言動が当初から夫婦が協力して生活をするというものではなく、他方当事者が、物が散乱した自宅内での生活を余儀なくされ、精神的に著しい苦痛、ストレス状態に長期間置かれ、一方的な負担を強いられるものであったとし、保険料納付に対する寄与を同等とみることが著しく不当である特段の事情があるとし、50:50の年金分割を認めませんでした。
しかし、抗告審である東京高裁令和4年10月20日決定は、「対象期間における保険料納付に対する寄与の程度は、特段の事情がない限り、互いに同等とみるのが離婚時年金分割制度の趣旨に合致する」としつつ、当事者らが同居をし、ある時期までは夫婦間に深刻な不和があったとは言えないこと、少額であるものの家計にお金を入れていたこと等を踏まえ、夫婦の期よの程度を同等とみるべきでないとする特段の事情まではなく、0・5での年金分割をすべきとしました。
広島高裁平成22年6月24日判決は、特別の貢献が存在しないことを理由に0・5以外での年金分割を認めませんでした。参照:0・5以外での年金分割を否定した判決
以上より、長期間の別居があるか、その責任はどちらにあるか、家計の負担があるか、夫婦関係の不和の程度、財産形成への特別の寄与を考慮しつつ、極限的な場合にのみ0・5以外の割合での分割がなされるということになりそうです。
例えば、特別の寄与については、別居中も含め0・5での年金分割が命じられている実務を踏まえると、財産分与において5:5以外の財産分与を正当化する程度の寄与では認められず、かなり顕著な寄与が求められると言えるでしょう。
5 年金分割をしない合意の効力
離婚協議や調停において、財産分与などについて取り決め、年金分割について取り決めなかった場合に、「当事者間に債権債務はない」との清算条項が入っていたとしても、別途年金分割のの手続を行うことができるとされています。
ですから、年金分割をしないという条件をつけて財産分与で譲歩をするような場合には注意が必要です。
なお、静岡家裁浜松支部平成20年6月16日決定は、「離婚当事者は,協議により按分割合について合意することができるのであるから,協議により分割をしないと合意することができるところ,本件においては,申立人と相手方との間には,離婚協議書による離婚時年金分割制度を利用しない旨の合意がある。このような合意は,それが公序良俗に反するなどの特別の事情がない限り,有効であると解される。上記認定したとおり,当該離婚協議書は,申立人と相手方が話し合った上で,申立人が数日の熟慮期間をおいて下書きをしたことに基づいて作成されたものであり,そして,その作成時には,申立人と相手方との間に何らのトラブルもなかったのであるから,この合意を無効とする事情は存しないといわざるを得ない。」として、年金分割をしないと明記した場合に年金分割をしないとの効果を認めています。
この事案では、「平成19年×月より支給される共済年金は,全額Bが受け取るものとする。年金分割制度によるAの取り分は,これを全て放棄する。」との合意がなされています。
しかし、裁判例の蓄積も乏しく、このような取り決めをした場合に必ず合意どおりの法的効果が認められるとは限りません。
6 3号被保険者と年金分割
平成20年4月1日以降の第3号被保険者(会社員や公務員などの2号被保険者に扶養される配偶者)期間については、一方当事者からの請求により年金分割をすることができる仕組みもあります。
しかし、常に3号被保険者だった方以外は、3号被保険者ではなかった時期の年金分割は合意などでしなければならないので、一括して合意などで分割する方が簡便かと思います。
7 年金分割の請求をなしうる時期
離婚後、2年たつと年金分割の請求はできなくなります。
離婚をしたら速やかに年金分割の手続をした方がよいでしょう。
厚生年金法施行規則の条文は以下のとおりです。参照:厚生年金法施行規則
第七十八条の二 第一号改定者(被保険者又は被保険者であつた者であつて、第七十八条の六第一項第一号及び第二項第一号の規定により標準報酬が改定されるものをいう。以下同じ。)又は第二号改定者(第一号改定者の配偶者であつた者であつて、同条第一項第二号及び第二項第二号の規定により標準報酬が改定され、又は決定されるものをいう。以下同じ。)は、離婚等(離婚(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者について、当該事情が解消した場合を除く。)、婚姻の取消しその他厚生労働省令で定める事由をいう。以下この章において同じ。)をした場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、実施機関に対し、当該離婚等について対象期間(婚姻期間その他の厚生労働省令で定める期間をいう。以下同じ。)に係る被保険者期間の標準報酬(第一号改定者及び第二号改定者(以下これらの者を「当事者」という。)の標準報酬をいう。以下この章において同じ。)の改定又は決定を請求することができる。ただし、当該離婚等をしたときから二年を経過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当するときは、この限りでない。
しかし、厚生年金法施行規則は、以下のとおりの規定をおいており、2年経過前に調停などの申立てがあった場合、調停など成立から1ケ月以内に年金分割の請求ができるとしています。
条文は以下のとおりです。
8 厚生年金等以外の年金
厚生年金や旧共済年金以外の年金については年金分割の制度は適用されません。
しかし、財産分与の制度の中で分与される場合もあります。
9 新潟で離婚のお悩みは弁護士齋藤裕へ
もご参照ください。
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